艦これ -ぐちり屋シリーズ-   作:mangan

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「続きが見たいとか、特に需要もないのに何で書いたの?」
「ポッとネタが思いついたからだよ! 言わせんな恥ずかしい!!」



第弐夜

 ここは日本のとある港町。海の底からやって来る深海棲艦と呼ばれる異形の怪物と戦う拠点『鎮守府』のある町。今は夜の帳が下り暗闇が町を包むが、活気に満ちるこの町から灯が消えることはない。

 そんな光を避けるように、その屋台はどこからともなくやって来る。年季の入った木組みの屋台をギシギシと言わせながら、これまた年季の入ったオヤジが屋台を引いてくる。

そしていつもの。飲食店が立ち並ぶ大通りから一つ入った薄暗い裏通りで足を止める。

 オヤジは慣れた手つきで屋台を固定し、コンロに火を入れる。箸や皿などの小物類を取り出し、椅子をカウンターの前に置く。作業を終えた頃には、鍋の中身がグラグラと音を立てている。

 

「酒良し。おでん良し」

 

 オヤジは一通り確認してから提灯に火を灯すと「ぐちり屋」という文字が通りを温かく照らし出す。こうなればもう鍋の蓋を取って開店だ。

 そして今日も客が

 

「おじさん! おっそーいー!」

 

 暖簾をくぐるのである。

 

「相変わらず早いねェ~。韋駄天ちゃん」

 

 鍋の蓋を仕舞いながらオヤジがニヤリと笑う。跳ねるような声とともにやって来た韋駄天ちゃんと呼ばれた少女は金髪をなびかせ、走り幅跳びのように椅子にドカッと座りこむ。その際、少女の短すぎるスカートの中身がオヤジにも見えたが、慣れたもので動揺することはない。

 

「おじさん! 冷酒とタマゴとガンモ!」

 

 少女も全く気にした様子もなく、頭のウサ耳のようなリボンを揺らしながら注文をする。

 オヤジもヘイ! と返事をしてすぐにコップを出し酒を注ぐ。

 

「最近ご無沙汰だったねェ。元気してた?」

「もっちろん! 私には誰も追いつけないんだから!」

「ああそういえば、お嬢ちゃんが主人公の公式漫画が出てたねェ。おめでとう」

「それ去年の話だよ! おじさん! おっそーいー!」

「ヘヘ、来てくれなきゃ話が振れやせんぜ」

 

 オヤジはおでんを渡しながら、少女となにげない言葉を交わす。その様子は久しぶりの再会を喜ぶ友のようだ。

 

「だってー。グチが無くちゃここ来ちゃいけないんでしょ?」

「そんなことたァないさ。来たくなったらいつでも来てくだせェ」

「ホントー!?」

 

 いつでも来いと笑うオヤジに少女は、プレゼントをもらった子供のように目を輝かせる。

 

「まぁ今日はグチがあるから来たんでしょ?」

「まあねー」

「それじゃあ、わかっていると思うけど。読者の皆さんのためにも一応ここのルールを説明しておきやす」

「おじさん! メターいー!」

 

 オヤジはニヤリと笑うと、どこからかプラカードのようなものをサッと取り出した。

 そこに書かれているのは簡素な注意書きのようなものだった。

 

『・好きなだけグチってください。

 ・一人で来て下さい。

 ・知り合いに会っても、知らぬフリをしてください。

 ・ここで聞いたことは、他言しないでください。』

 

「まぁいつも通りここで聞いた話は他言しないこと。スグに忘れること。ってところですかね?」

 

 店のルールの説明をし終え、オヤジは看板をしまう。

 

「さあお待たせしやした。韋駄天ちゃんも腹ん中全部ブチまけて、スッキリしていってくだせェ」

「おじさん! おっそーいー! 待ちくたびれちゃったよ。それじゃあね――」

 

 韋駄天ちゃんが正しくグチを言おうとしたその時、新たな客がやって来た。

 

「オヤジ~。じゃまするでェ~」

「あらまッ! RJちゃんじゃないですかィ!? 昨日の今日でまだ言い足りないんで?」

「あーもう尽きんわ。無尽蔵やわホンマ」

 

 苛立たしげに頭を掻きながら暖簾をくぐったのは、RJと呼ばれる関西弁の少女だった。どうやら昨日もグチりに来たが、今日もまた言いたいことが出来たらしい。

 一方、出鼻をくじかれた韋駄天ちゃんはムッとした顔でRJちゃんを見やる。

 

「オゥッ!?」

「ゲッ!」

 

 韋駄天ちゃんとRJちゃんは同時に身を硬くした。

 韋駄天ちゃんの目の前には小柄な少女が居た。サンバイザーのような帽子を被り、赤い狩衣のような上着にスカートという出で立ちで、高下駄のような厚底靴を履いている。顔にはどこか子供らしいさが残っており、ツインテールの髪型やほっそりした体型も手伝い幼さを感じさせた。

 

「ほらほら、韋駄天ちゃんもそんな顔しないでRJちゃんに席を開けてやってくだせェ。さて、今日は何にしやすか?」

「え、……えーと……熱燗と、あとはオヤジに任せるわ」

 

 RJちゃんが固まっている内に親父はさっさと話を進め、韋駄天ちゃんの隣に座るよう促す。RJちゃんはぎこちなく腰を下ろす。

 

「お、おじゃまします……ウ、ウチRJ言うねん……よろしく……」

「オ、オゥッ……! 韋駄天です……」

 

 ギクシャクしながらも互いに自己紹介するRJちゃんと韋駄天ちゃん。韋駄天ちゃんは冷酒で喉を潤しつつ、気まずい雰囲気を何とか払拭しようとした。

 

「あの……私、艦娘なんだけど……RJも艦娘だよね? 見た感じ?」

「オオ、せやで――」

「駆逐艦?」

「どこ見て判断した!? 立派な軽空母や!」

 

 RJちゃんが口角泡を飛ばして韋駄天ちゃんに迫る。他に弄りようがないんだもんと韋駄天ちゃんは唇をとがらす。

 

「韋駄天ちゃん。勘弁してやってくだせェよ」

 

 そう言うのは店のオヤジだった。オヤジはRJちゃんに酒とおでんを渡しながら韋駄天ちゃんに説明する。

 

「RJちゃんは公式、非公式に関わらず胸の事で散々っぱらネタにされてるんでさァ。」

「あー。アンソロ本とか渋とかニコニコでも話題に事欠かないよね」

「ええ、もうひどいモンでさァ。タグでも遊ばれる始末で、RJいじめだってその典型ですよ。いじめと分かっているならやめてくれっての」

「まったくや!」

 

 オヤジと韋駄天ちゃんがRJちゃんの苦労話をしている横で、RJちゃんもお猪口をカウンターに叩き付けながら管を巻く。

 

「他にも『せやけどそれはただの夢や』とか、あれリリ〇ので出てくるセリフやろ。艦これ関係あらへんやん! 関西弁なだけやん! むしろ似てるの黒潮の方やろ!!」

「オ、オウ……!」

 

 オヤジおかわり! と酒を催促するRJちゃんは顔を真っ赤にし半泣きになっていた。相当ピッチが速かったようで、もはや目の焦点が合っていない。韋駄天ちゃんはRJちゃんの気迫に圧倒され、聞き役に回るしかなかった。

 そんな中でもオヤジは笑顔を忘れない。

 

「まぁ、こういう感じでRJちゃんは胸ネタいじりのおかげでやさぐれちまってるんでさァ」

「せやせや、全部二次創作のせいや」

 

 RJちゃんはお猪口に酒を注ぎながら大体な~と続ける。

 

「史実じゃ魔改造して格納庫かさ増ししてデカなってるやん。それで何でデカパイにならへんのや」

「オゥ? 豊胸手術ってことでいいの?」

「ホレ、一航戦のガチな方が『格納庫』発言してるやん。つまりそういうことやろ? はぁ~。改二で搭載機数増えたから期待しとったのにな~。誰や『改造した艦はでかいぞう』なんてぬかしよったやつは? それこそ、せやけどそれはただの夢やって言うてやりたいわ」

 

 そんなお寒いギャグにもすがりつくほどRJちゃんは追い詰められていたのか。そう韋駄天ちゃんが認識を改めると、RJちゃんを何となく励ましたくなってきた。普段なら絶対そんなことはしないが、酒の勢いもあったのだろう。ちなみに韋駄天ちゃんの胸は平坦であった。

 

「あれじゃない? フルフラットっていうフレーズのせいじゃない?」

「ちとちよコンビはどうなるねん? あいつら改二になったらデカなってるで」

「ホ、ホラ…元々給油艦とか潜水母艦で給油タンク持ってるから……」

「タンクやったらあのぱんぱかぱー子よりデカいタンク持っとるわ! どないなってんねん!!」

「あっだめだこれ。面倒くさいパターンだこれ」

 

 先ほどの気持ちはどこへやら、一瞬にして韋駄天ちゃんは無関心モードに切り替えた。代わりに相変わらずニヤニヤ笑って頷いているオヤジに話しかけることにした。

 

「おじさん、よくこんな面倒くさいの相手にできるね」

「過程はどうあれグチは吐き出させちまえばいいんでさァ。それにさっきの流れ、RJちゃんが初めて来た日にもうやりやした」

「私がはけ口にされただけじゃん!」

 

 韋駄天ちゃんが突っ込むとオヤジはまあまあと酒瓶を差し出す。しぶしぶ酒を注がれる韋駄天ちゃんは「あ~早く帰ってくんないかな~」と本気で思い始めた。隣で騒がれ続けられては、いつまでたってもグチが吐けない。

 グチりがほぼRJちゃんの独壇場になり韋駄天ちゃんが貧乏ゆすりをしているところに、新たな客が暖簾をゆらす。

 

「добрый вечер(こんばんは)」

「おや? 別府ちゃんじゃないですかィ。今日はいつもの?」

「いや、もう一つの方を頂こう」

 

 また客が増えたかと韋駄天ちゃんが振り向くと、そこには白い少女が居た。まず目に付くのはその髪だった。上質なシルクを思わせるなめらかな銀髪が背中まで流れていた。白い帽子とセーラー服を着ていたため碧い瞳がよく映える。小柄な体格が子供であることを教えてくれるが、落ち着いた物腰から大人びた印象を受けた。

 別府ちゃんは客のメンツを見て、その無表情の顔に若干の驚きの色を混ぜたが何も言わずにRJちゃんの右側に座った。店のルールに従ったのであろう。

 

「これを頼むってことたァ。何かいいことでもあったのかい?」

「まあね。姉がやっとニンジンを食べられるようになったんだ」

「おお、そうかい! そいつはめでたい」

 

 オヤジが取り出したのは「響 12年」であった。それを底の広いグラスに四分の一ほど入れて渡した。

 韋駄天ちゃんはオヤジがグラスを取り出したところに『別府専用』と書かれているのを目ざとく見つけた。ビップ待遇ならぬ別府待遇かと思ったのは内緒だ。

 別府ちゃんはグラスを傾けつつ、カウンターに突っ伏して「まな板どころか洗濯板て」と呻くRJちゃんを見つめる。

 

「今日も賑わっているね。どんな話題だったんだい?」

「いやね。こちらのRJちゃんが二次創作でひどい扱いを受けているっていう話をしてたんですよ」

「なるほど。確かに二次創作には困ったものもある……」

「せやろ! キミもあれやろ? フリーダムとか言われて困ってるんやろ?」

「いや。そっちの方はわりとどうでもいいんだ」

 

 RJちゃんは自分に同意してくれる人を見つけすかさずくらいつく。しかし、別府ちゃんはそれを受け流し、手にしたグラスを眺めながらつぶやく。

 

 

 

「〇ショーはないと思う」

「「「…………」」」

 

 

 

 屋台の空気が一瞬でシベリアになった。隣にいるRJちゃんと韋駄天ちゃんはもちろんのこと、終始にやけ顔だったオヤジですらマジかよッ!? という顔をした。別府ちゃんがそのようなネタをブチこんでくるとは、三人とも想定外の事態だったのだ。

 

「……ん? わからないのかい? 私がアニメで不自然な程バンバン言ってたハラショーとはr――」

「すいまっせんしたァァァ!!」

 

 話を理解されていないと勘違いした別府ちゃんが説明を始めようとすると、RJちゃんは一瞬で椅子から飛び降り、華麗に土下座を決めた。

 

「……どうしたんだい?」

「いやなんちゅうか、レベルがちゃいました! メッチャどうでもええことで悩んでて、ホントすいませんしたァァ!!」

 

 別府ちゃんは地面に頭を擦り付けるRJちゃんを怪訝そうな表情で見ていたが、ふと韋駄天ちゃんを見る。

 

「そういえば、君も艦これ初期の頃から薄い本のおか――」

「別府ちゃん、それ以上はいけねェ」

 

 ここは全年齢版だとオヤジは別府ちゃんを制する。投稿2回目にして利用規約違反でサヨナラなどごめんだ。

 韋駄天ちゃんも全力で話題を逸らそうとする。

 

「そ、そういえば! 別府ちゃんはいつもどんなグチを言ってるの!?」

「ウ、ウチも気になるなー! どんなこと言っとんのやろ!?」

「あ、ああそうだねェ! 別府ちゃんのグチは主に姉のことだねェ。一人前のレディとか言うなら、夜中一人でトイレに行けェ! とか、そんな感じだねェうん……」

 

 韋駄天ちゃんの意図を察し、RJと店のオヤジも全力でその話題に乗る。その様子を別府ちゃんはじっと見た後

 

「……まあ、その姉が今日は頑張ってニンジン嫌いを克服したのさ」

 

 よかった。フリーダムじゃなかった。別府ちゃんが空気を読んで別の話題に移行してくれたことに、全員で安堵した。

 

「ところで、韋駄天ちゃんだったか? 君のグチはなんだい?」

「あ~、えーと……私はね~」

 

 今度は別府ちゃんから韋駄天ちゃん話を振られる。自然と全員の目線が韋駄天ちゃんに集まるが、本人はどうも言いにくそうに頬を掻いている。

 すると

 

「こんばんは」

 

 また新たな客がやって来た。

 

「ああ、ぬいぬいちゃんじゃないですかィ」

「おーう。八神は○ての姉~。キミも来たんか」

「あなたは何を言っているんですか? あとこの店のルールの3行目を思い出してください」

 

 暖簾をくぐった少女は無機質な声でRJちゃんに応え、別府ちゃんの隣に腰掛ける。少女はパリッとした紺のベストとスカートの制服を着こなしており、言動と合わせ規律を重んじる真面目なタイプであることが分かる。そして、この少女の何よりも目を引くのはピンク色の髪から覗く鋭い目である。別府ちゃんと同じ碧眼であるが、決定的な違いは鋭利な刃物を思わせる眼力があることだ。

 新たな客が来たことによって注目がそちらへ行く。それに隠れて韋駄天ちゃんはホッと胸を撫で下ろした。

 グラスを傾ける別府ちゃん越しにRJちゃんはニヤニヤしながらからむ。

 

「で~? ぬいぬいちゃんのグチはなんなん? やっぱ噛み癖か? 噛み癖なんか?」

「そうでもありやせんよ。結構その日によって変わりますねェ。上司のことだったり、恐ろしい先輩のことだったり」

「今日はそのどれでもありませんね……あっ、冷酒を、おでんは適当に」

 

 RJちゃんの質問にオヤジが答える。結構幅広くグチを言っているようで、今日もまた新しいグチを溢しに来たらしい。

 

「……ピンクは淫乱という風潮やめません?」

「……ん?」

 

 ぬいぬいちゃんは冷酒を喉に流し込んでからおもむろにつぶやいた。声のトーンが若干低く、かなり真剣な話らしい。しかし周りの反応はいまいち薄い。

 

「それどっちかっちゅーと、アイテム屋とかスープの材料みたいな名前のアイツとかとちゃう?」

「あるにはあるんです。それにそのアイテム屋絡みで先日こんなことがありました」

 

 先日、消耗品の補充をしようと酒保に行きました。必要なものを手に入れレジに行った時、『鉄兜入荷しました♡』という張り紙を見つけたんです。流石に基地を攻撃されることはないでしょうが、防災用に持っておくのもいいかもしれないと思い、同室の姉妹の分を含めて店員に三つ頼んだんです。そうしたら彼女は何を考えたのか男性用避妊具の箱を三つ取出して『淫ピ万歳ッ!』などと言って満面の笑みで渡してきたんです。注文通りの品を持ってこないのも問題ですが、髪がピンクだからといって同類扱いしないで欲しいです。まったく……彼女もいい大人ですからそっちの趣味があるのかもしれませんが、話を振られるこっちとしてはいい迷惑です。

 

「ハァー」

 

 ぬいぬいちゃんは長々とした説明を終え、酒で喉を潤す。ふと、周りの反応がないことに気が付き視線をやると

 

「……あー」

「……なるほど」

「…フヒッ…フッ……ヒヒッ……ッ!」

「……」

 

 三者三様であった。店のオヤジと別府ちゃんは思案顔、RJちゃんは笑いを噛み殺し、韋駄天ちゃんは何言ってんだコイツは? と言う顔をしていた。どうやら、ぬいぬいちゃんは自身の勘違いについて全く気付いていないらしい。そのため、笑い声をもらすRJちゃんに柳眉を立てる。

 

「なんでしょうか。しr……ぬいぬいに何か落ち度でも?」

 

 ドスを効かせた彼女のセリフは大の大人でもたじろぐものだが、今はRJちゃんの笑いを誘うだけだった。

 

「ヒヒヒ、悩んでるのは分かっブフゥッ!! せやけどそれはただの勘違いやwww」

 

 そのままRJちゃんは鉄兜とは大人の淫語もとい隠語であると笑いながら説明する。話を聞いていくうちにぬいぬいちゃんは段々と赤面していき、最後にはカウンターに突っ伏した。その様子を見るにつけ、RJちゃんも笑いの音量を上げていった。

 

「完璧にぬいぬいの落ち度です。どうしましょう……」

「大丈夫だよ。ヘルメットがないなら鍋を被ればいいのさ」

「ヒヒヒ、いやいや……そこちゃうギャハハハハ!!」

「取りあえず飲んで忘れやしょう」

 

 落ち込むぬいぬいちゃんに別府ちゃんが的外れなアドバイスを飛ばしRJが笑いながら突っ込む。そんな状況を打破するのはやはり酒だとオヤジも笑う。ぬいぬいちゃんは一つ頷き、残りの冷酒を一気にあおるとRJちゃんに話しかける。

 

「それにしてもRJさんって物知りなんですね」

「フフン、せやろ。伊達に場数踏んできたわけとちゃうわ」

「無知な自分が恥ずかしいです。同じ駆逐艦として」

「おいちょっと待てや! どういうことやそれ!?」

 

 ぬいぬいちゃんの聞き捨てならないセリフにRJちゃんは笑いを収めて噛みつく。そして、ぬいぬいちゃんが放った言葉が決定打となった。

 

「え? 今日は駆逐艦の集まりじゃないんですか?」

 

 ここでRJちゃんの状態について説明しよう。彼女はコンプレックスである胸のことを日々いじられており、フラストレーションが溜まっている。そしてグチを吐こうとこの店に来たが、なんやかんやで満足に言えていないうえにいつも通りいじられてしまった。おまけに酒もかなり入っている。するとどうなるだろう。

 

「表出ろやボケコラカスぅぅぅ!! 元一航戦の実力見せたるわァァッ!!」

「おや知らないのですか? 夜戦は駆逐艦の本分だということを。陽炎型の真価をその目に焼き付けてください」

「あっ、ちょっと待ってくだせェよ!」

 

 そう言うや否や二人は静止するオヤジを無視し、荒々しく席を立った。「オウ、先輩にケンカ売るとはいい度胸やないか……」「いえ、ちょっと笑われてイラッと来たので……」とメンチを切りつつ裏通りをさらに進んで去って行った。

 

「やれやれ、このままではあの二人は帰れないな。オヤジさんお代はここに置いておくよ。彼女たちの分もある」

 

 別府ちゃんがお代を置いて席を立ち、二人の後を追って行った。

 オヤジはやれやれとカウンターから代金を回収するとおもむろに口を開ける。

 

「さて、やっと二人っきりになりやしたねェ……途中から空気だった韋駄天ちゃん?」

「……空気じゃないし…………」

 

 カウンターには一人ポツンと残された韋駄天ちゃんがいた。ようやく邪魔者がいなくなったのだが、その表情は暖簾をくぐった時とは大きく異なり、むくれているような悲しそうな表情だった。

 そして、しばらく黙っていたが、やがて彼女はポツリポツリと話し出した。

 

「……会話に混ざれないの」

 

 彼女の口から教会の懺悔のように言葉が零れ落ちる。

 

「少し前に、友達が出来たの。同じ駆逐艦で優等生みたいな子なんだけど。周りに溶け込めない私を気にかけちゃうぐらいお節介な子で。一緒に訓練して、いっぱいお話して」

 

 でもね、と彼女は続ける。

 

「その子が他の子と話してると近づきにくくて。一緒にいても会話に入りづらくて」

 

 さっきの連中とだって話せなかったでしょ、と彼女は自虐気味に笑う。

 

「するとね、私の事もう見てくれてないのかなと思えて……そりゃ! あの子はいっぱい姉妹艦いるし、私程じゃないけど頼りにされる子だから……仕方がないけど……」

 

 ……さみしいんだ。

 

 韋駄天ちゃんはそうつぶやくと、膝を両腕で抱えて縮こまった。なにかから体を、自分自身を守るように。

 話を聞き終えたオヤジは黙って一升瓶を取出し、韋駄天ちゃんのコップに注ぐ。

 

「そいういや昔こんな言葉がありやしてねェ」

 

 なんだったかな~とオヤジは栓を弄りながら、やがて思い出したように言った。

 

 

 

「人は自分が期待するほど自分を見ちゃくれねェが、がっかりするほど見てねェこたねェ」

 

 

 

 パチンと瓶に栓をして、オヤジは酒瓶を仕舞う。その間も口は休めない。

 

「昔、こんな感じのやたら長い題名の本がありやしてねェ。要するに誰も嬢ちゃんを見てねェこたねェんでさァ」

「……そんなの、神様じゃあるまいし……結局わかんないじゃん」

 

 人の心など他人には分からないと韋駄天ちゃんはコップを見つめる。そこに答えを見出そうとするかのように。

 

「そうですかねェ」

 

 ただちょっと気づきにくいだけでさァ、と言うオヤジの言葉に韋駄天ちゃんは顔を上げる。オヤジはあまり深く考えていない様にニヤリと笑う。

 

「さっきの別府ちゃんとぬいぬいちゃんの二人なんていい例じゃないですかィ。たぶんカウンターの下でトン・ツーをしてやしたよ。嬢ちゃんを一人にしてあげようとね」

「ウソ……?」

 

 韋駄天ちゃんの目が見開かれる。あの二人は全くそのようなそぶりは見せなかった。ただRJちゃんと喧嘩してそれについて行っただけのように見えた。

 

「嘘なもんですかィ。別府ちゃんの右腕が不自然に伸びてから、ぬいぬいちゃんが虚空を見つめ出して、しばらくしたら頷きましたから」

 

 あの二人がそんなことを? 韋駄天ちゃんはオヤジの言うことをにわかには信じられなかった。しかし、そのことがウソであるという反証もないし、結果として自分はこうしてオヤジと二人きりになっている。

 

「そりゃ四六時中気にかけてくれる奴なんていやせんよ。でもね、嬢ちゃんはいろんな人に気にかけられるんでさァ」

「じゃあ……」

 

 あの悟ったような眼をしたロシア娘や、歩く規律のようなターミネーター娘が自分を見ている。ならば友達であるあの子も、と韋駄天ちゃんは希望を抱くが

 

「でも……なんて話しかければいいかわからないよ……」

 

 詰まる所そこなのだ。彼女には次の一手をどう打てば良いのか分からなかった。それを考え付くには、彼女はあまりにも一人でいる時間が長すぎたのだ。

 そんな韋駄天ちゃんに店のオヤジはやれやれといった様子で肩をすくめる。

 

「そんなの簡単でさァ」

 

 そう言うとオヤジはいつものようにニヤリと笑いながら少女にあることを教える。

 それはとてもシンプルなことだった。

 

 

 

 

 

 翌朝、鎮守府敷地内にある駆逐艦娘が住まう寮から少女が飛び出す。青空のもとに飛び出してきた少女はあっという間にトップスピードにもっていくと、司令本庁舎を一直線に目指す。その途中で、頭と腰を押さえながらのろのろ歩く小柄な少女を追い越す。

 

「おっはようー!」

「いたた……? お、おはようさん」

 

 猛スピードで走る少女は返事も聞かずに官舎を目指す。すると入り口付近に「いや、そないな猥談、朝から振られても……」と話す紺の制服を着た三人組を見つける。

 

「おっはようー!」

「?……おはようございます」

 

 あと廊下を走るな、と言うピンク髪の少女の忠告を無視して少女は走り続ける。角を曲がったところで、セーラー服の四人組の少女達を見つける。

 

「おっはようー!」

「……доброе утро(おはよう)」

 

 集団の中にいた銀髪の子の返事を背中に受け、少女は勢いそのままに食堂に飛び込む。

そして、目当ての相手を見つけると一際大きな声で

 

「おっはようー! 朝潮ちゃん!」

「あ、おはよう! 島風ちゃん!」

 

 今日はやたらと元気だねと笑いかける朝潮に、少女――島風も満面の笑みを浮かべる。

 

 

 

「だって! あいさつって大事だもんね!!」

 

 

 

 




どうも~。最近、超吹雪が頭から離れないmanganで~す。
はい、というわけで誰も望まなかった二話目、これにて終わりです。
書いててホント思います。
マジで文才ねーな、と。

それでは皆さん。さよなら
         さよなら
          さよなら
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