この小説を読んでいただいた皆さん、お気に入り登録や感想を下さった方々、ありがとうございます!! そして、遅れに遅れて申し訳ありませんorz
実は書こうにも書けない状況だったもので、遅れてしまいました。ちょっと長くなるので飛ばしてもらっても結構です。ただのグチしか書いていません。
前作を書いてから始まった艦これの春のイベントに私も春アニメを見ながら参戦しました。しかし、春アニメに気を取られていたせいで完走できずに終わってしまい、資源の備蓄と艦隊全体の練度の強化に努めていました。そして、夏イベントも夏アニメにうつつを抜かしていたせいで完走できずに終わってしまうというアクシデントに見舞われてしまいました。それで気持ちを切り替えて秋アニメの選定をしつつ次のイベントに備えようかなと思っていた矢先のことです。なんと、会社で社長から直々お呼び出し。なんかしたっけ? ちゃんと仕事してたよね? アニメはちゃんと家で見てたよね? 特に問題起こしてないよね? と不安を抱きつつ社長室に行くと、高そうなソファーにふんぞり返る社長が一言。「ちょっと出向してきて」
ファッ!?
続く
「ファッ○ン、○ット!」
唐突な開幕罵倒に読者の皆様は困惑することと思うが、彼女は怒っていた。
ここは、鎮守府にほど近い歓楽街のど真ん中。すっかり日が落ちたこの町は夜の賑わいを見せていた。
そんな中を巫女のような服にスカート履きという出で立ちの女性が一人、肩をいからせながら通りを歩いていた。
「まったく! あの屋台BARはとんでもない変態デース! 人がtalkしている内容をimmoralにしか捉えられないなんてnonsenseデース!!」
どうやら質の悪い屋台飲み屋に当たって機嫌を損ねたらしい。そのまま、勢いで自分の住まいに帰ろうとしていたのだが、ふと足を止める。
「But、せっかく鎮守府からgo outしたのに、このままgo homeはもったいないネー」
ここで言ってしまうと、彼女はこの町にある鎮守府所属の艦娘だった。鎮守府施設内にも様々な店舗が充実しており、なかなか外に出る機会など無い。ただ、同じ店だと次第にマンネリ化してくるので外に出た際には、なるべく有効に使って珍しいものを見たいと思うのが人の心だ。
そこで、彼女は周囲を見渡し、何か興味が湧きそうなものを探す。
「What?」
そして彼女は、表通りから一つ入ったところにある屋台を見つけた。
「……グ・チ・リ・屋? なんデース? あれは?」
薄暗い通りにぼんやりと映し出されるのは、「ぐちり屋」と書かれた提灯と暖簾だった。見る限り移動式屋台のようだが、何を扱っているのかが分からない。先ほどの屋台の件もあり、彼女はしばし逡巡するが
「チョット覗くだけデース」
好奇心が勝った彼女はそう言うと、屋台へと近づき暖簾を掻き分けた。
「Hey! マスター!」
「ヘイいらっしゃい! 外人さんかい? 珍しいねェ」
女性が暖簾を掻き分けると、カウンター下で作業をしていた店のオヤジが顔を上げた。オヤジは年季の入った顔に笑みを浮かべ女性を迎える。
しかし、彼女は警戒するようにオヤジにビシッと指を突きつける。
「マスター、一つ質問デース! あなたはジェントルマンですカー?」
「えっ?」
女性の突然の質問にオヤジは当惑する。誰であれ、いきなり紳士かどうかと質問されれば戸惑うのも当然だ。
彼女は腰に手を当てて、見るからに不機嫌そうに説明する。
「実は私、ジャパニーズソウルフードのオデンを食べに来たのデース。But、さっき似たような屋台BARに入ったら、そこのマスターが下ネタばかり振ってきましター。まったく! ダンディな顔して頭の中そればっかりデース! 口を挟んで悪いと思ってるなら一生シャラップしてほしいネー!!」
「ああ、なるほどねェ。そりゃあ、とんでもない所に当たりやしたねェ。」
事情を聴いてオヤジも納得したらしく安心させるように笑う。
「大丈夫でさァ。初めて来た人にそんな話題振りゃしやせんよ。それに、今の嬢ちゃんにとってウチはちょうどいい店でさァ」
「……Why?」
女性は自分にちょうどいい店と言うオヤジの言葉に首を傾げる。
「ウチはぐちり屋っていってねェ。コイツに書いてあるルールを守ってもらえりゃ、何のしがらみにもとらわれずグチを吐ける場なんでさァ」
オヤジはそう言うと、どこからかプラカードのようなものをサッと取り出した。
そこに書かれているのはお馴染みの注意書きのようなものだった。
『・好きなだけグチってください。
・一人で来て下さい。
・知り合いに会っても、知らぬフリをしてください。
・ここで聞いたことは、他言しないでください。』
「だから嬢ちゃんもここで一つグチを吐いて、スッキリしていってくだせェ」
「Wow! Berry interestingなお店デース! ここにしマース!」
女性が警戒を解いて椅子に座ったところでオヤジは看板をしまい、ようやく向かい合うことが出来た。
「さて、お嬢ちゃん。なんにしやす?」
「フーム、確かsisterが言っていた鉄板メニューは……アツカン、ダイコン、タマゴ、ツミレ、and……」
女性は次々と注文していき最後に
「コニャック下さーイ」
「えっ!?」
酒のダブル注文にオヤジも箸を止めて聞き返す。
「じょ、嬢ちゃん。熱燗頼んだのにそっちも飲むの?」
「Oh! Sorry! こんにゃくデース。間違えましター! HAHAHA!」
「ああ、こんにゃくね。よかったよかった」
外人特有の日本語違いであると一安心したオヤジは女性に酒とおでんを出す。
「ヘイお待ち! じゃあ嬢ちゃん。さっきの飲み屋のグチでも、他のグチでも好きなだけ吐き出してくだせェ」
「Ouch! それならmore heavyなのありましター……」
酒とつまみが揃ったところでオヤジがグチを促す。すると、酒を一口飲んだ女性はさっきとは一変し、頭に手をやり意気消沈した様子でカウンターにもたれる。
「実は、私がburning loveしてた人が、他の子と結婚してしまったのデース」
「あら、そうなんですか?」
「ワタシ、あの人のことfast contactした時からloveしてましター。それから毎日、burning loveを伝えてきたつもりだったネー。でもこの前、ヤマトナデシコみたいな子と結婚しましター。Ohhhh……料理屋まで開いてstomach catchした彼女の戦略的勝利デース……」
「……あっ……そ、そりゃあ気の毒にねェ……」
女性のグチはよくある失恋物だった。恋していた男が他の女と結ばれてしまったのだ。ただ、話を聞いたオヤジは何か心当たりがあるらしく、いつものニヤケ顔が若干ひきつる。
しかし、女性はガバッと身を起こし、決意を新たにするようにこぶしを握り込む。
「でも私、諦めまセーン! イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばないデース! 既成事実さえ作ればall OKネー!」
「倫理的には十分アウトですけどねェ」
女性は片手で卑猥なハンドサインをしつつ、危険な発言をする。オヤジも本気で止めるつもりがあるのか分からないが、笑いながら注意を促す。
彼女がおでんに舌鼓を打ちつつ盛り上がっていると、新たな客が暖簾を揺らした。
「やあ、オヤジさん。賑わってるな」
「おや、師匠さんじゃないですかィ。なーに夜はまだまだこれからでさァ」
「がんばってるな。そんなオヤジさんに特別な瑞雲をやろう」
「い、いえ。遠慮しておきやす……そんな、もったいねェですよ……」
「……」
女性は新たに来た「師匠」と呼ばれる客の声に一瞬フリーズする。聞き覚えのある声と「瑞雲」という単語に嫌な予感を感じつつ顔を向けると、そこにはおかっぱの女性が立っていた。
師匠さんは巫女服をベースにした服を着ていた。ただ、席から見上げる彼女と違い袖や裾の丈が短く機能的にまとめられている。そのため、肘の部分から黒インナーが覗いており、袴もミニスカートのように短くなっている。静かな物腰からはどっしりと構えた大人の女性の落ち着きを感じさせた。
師匠さんはカウンターに座る女性の存在に気付く。
「あ、君……おっと、ここでは知らぬフリだったな」
「Oops、そうでしター。危なかったデース」
師匠さんは危うく女性に話しかけそうになるが、押し留まり椅子に腰を下ろす。それに合わせて彼女も知らないふりをする。
「オヤジさん瑞雲を」
「いやいや、あるわけないでショー」
師匠さんが瑞雲を注文すると女性は何をやってるんだと手を振った。師匠さんの何かにつけて瑞雲押しをする悪い癖が出たのだと思ったのだ。彼女のそういった訳の分からないところが女性は苦手であったりもした。
しかし、オヤジはニヤリと笑うとカウンター下から酒瓶を取り出した。
「へい! 栄光瑞雲」
「ファッ!?」
オヤジが瑞雲と銘打たれた酒瓶を取り出すのを見て、女性は驚きの声を上げる。まさか本当にあるとは思ってもみなかったのだ。
師匠さんが満足そうな顔をしながら注がれた酒を呑む。それを眺める彼女の口から疑問が漏れる。
「ここではアダナで呼び合うものデースか?」
「ああ、そうだ。君はなんと呼べばいい?」
「デースと呼んで下サーイ! ヨロシクネー」
「ああ、こちらこそ」
女性――改め、デースちゃんは師匠さんに自己紹介をする。屋台飲み屋ではこのような出会いも醍醐味の一つであると彼女の妹の一人が言っていたことを思い出す。
会話が生まれたところでデースちゃんが師匠さんに話しかける。このような店にいるのだ。話題は一つしかない。
「By the way、師匠=サンはどんなグチを言いに来たネー?」
「ん? そうだな……」
師匠さんはコップを置き、真っ直ぐ前を向いたままつぶやく。
「いい加減1-5は飽きた」
「あー、今月の勲章デースね。改造設計図と交換だからネー。稼ぎ頭デース」
彼女達が話しているのは、鎮守府近海の通称1-5と呼ばれる海域のことだ。そこは敵の潜水艦が大量にたむろしている海域なのだ。潜水艦はシーレーン防衛上、最も警戒すべき相手であり、これを積極的に掃討すると大本営から褒賞として勲章がもらえるのだ。そして、この勲章をチョコボールの銀くちばしのごとく一定数集めると、艦娘の改造設計図と交換できるという謎システムが採られている。
「うむ、二回攻撃要員として必要だし、瑞雲がフル活躍するのも魅力的だ。ただ、相手が潜水艦ばかりで飽きが来た。せめて変化が欲しい」
「Ah、なるほどネー」
「毎日、味噌ラーメンだと飽きるのと同じだ。たまには醤油味が食べたくなる」
「なんでわざわざヌードルで例えたデース?」
自分の状態をラーメンで例えた師匠さんにデースちゃんはジト目でつっこむ。そんなことをしなくても言わんとしていることは分かっているつもりだ。
「まあ、全部瑞雲がやってくれるから私は楽なんだがな」
「Hey! それ結局グチじゃないデース!」
「まあ、そうなるな」
師匠さんの掴みどころのない話に、デースちゃんは突っ込む気力も萎え閉口する。前言撤回、やっぱり何を考えているか分からない。
デースちゃんが黙っていると、今度は師匠さんが話を向けてきた。
「君のグチはアレか? 艦これが三年目に突入していて、未だにカタコト日本語キャラはどうなのかといったところか?」
「そんな外タレみたいなグチじゃありまセーン。恋の悩みデース」
的外れなグチの予想にデースちゃんがツッコミを入れると、皆まで言うな、と師匠さんは笑い懐から瑞雲を取り出す。
「君もようやく瑞雲の魅力に気付いたようだな。うれしいぞ」
「なにぬかしてるデース!? あなたと一緒にしないでくだサーイ!」
「そう照れるな。恋をすることは恥ずかしい事じゃないぞ」
「○ァッキンだまらっしゃーイ!」
ドヤ顔で瑞雲を薦めてくる師匠さんにデースちゃんのツッコミが響き渡る。
そんなよくわからない雰囲気に屋台が包まれていると、また新たな客が暖簾をくぐる。
「……邪魔する」
「ああ、初心者ちゃんじゃないですかィ。今日もクールにキメてやすねェ」
「……?」
新たな客にオヤジが対応したので思わずデースちゃんが振り返る。師匠さんの訳の分からない空間から逃れたいという側面もあったりする。
初心者ちゃんは小柄な女の子だった。着ている黒いブレザーのボタンは全て開け放たれ、胸元を緩めたワイシャツと赤ネクタイが露わになっている。茶髪の跳ねたショートカットから覗くキリッとした表情からは、どこか中性的な印象を受けた。
初心者ちゃんは先客の面々を見てギョッとする。
「な、なぜここに!?」
「ああ、初心者ちゃん! ルールルール!」
突然のことに慌てる初心者ちゃんに、オヤジは慣れた手つきで店のルールが書かれたプラカードを掲げる。
『・好きなだけグチってください。
・一人で来て下さい。
・知り合いに会っても、知らぬフリをしてください。
・ここで聞いたことは、他言しないでください。』
初心者ちゃんはしばらくオヤジが指差す三行目を凝視して固まるが、やがて一つ咳払いするとデースちゃんの隣に腰を下ろした。
「……そうだった……失礼した」
「No problemデース」
「気にするな」
初心者ちゃんはオヤジに酒とおでんを注文してから隣のデースちゃんに話しかける。
「ここは……初めてか?」
「Yes! 今日初めてこの店にきましター。面白いお店ネー!」
デースちゃんは質問に答えたあとハッとする。初心者ちゃんの口ぶりやオヤジの様子からすると、この店は初めてではないということは容易にわかる。こんな小さい子がこの店に来ていることにも驚くが、俄然、興味がそそられることがある。
「ルーキーちゃんは、どんなグチを言いに来てるデースか?」
「初心者ちゃんはどうもドMだと勘違いされてるらしいんですよ」
「What?」
酒を飲む初心者ちゃんに代わり、店のオヤジが質問に答えた。ただ、答えが答えだったのでデースちゃんは思わず聞き返してしまった。
「いえね。この娘が大破した時のセリフを勘違いする輩が多くてねェ。一部界隈ではそういうプレイやネタの材料にされちまってるんでさァ。どこぞではクールマゾなんていうあだ名まで付けられて酷ェもんでさァ」
「いや、それは……そうとしか思えないのデース」
デースちゃんはオヤジの説明に首を傾げざるをえなかった。実際、大破時の彼女のセリフは痛みに悦楽を感じているように聞こえるのだ。
「……私達は元々艦だった。言わば機械だ」
隣のデースちゃんに説明するように、初心者ちゃんは飲んでいたコップを置いて語りだした。
「……機械に感覚はない。だから……沈むその時ですら痛覚なんて感じなかった」
目の前のカラシに手を伸ばしながら初心者ちゃんは淡々と語る。
「……だが、今はこうして人間のような肉体を得て、艦の時には無かった様々な感覚に触れられる」
手の感覚を確認するようにカラシチューブをもてあそんだ後、初心者ちゃんは中身を静かに捻り出す。
「……だから、私にとって感覚の一つ一つは、私が生きているという実感をもたらしてくれる大切なモノ。……そのことに、私は感動している」
そう締めくくると初心者ちゃんはデースちゃんに小さく微笑む。鉄の塊だった頃とは違う、今の体に対する喜びを吐露したのだ。
「Hmmm、よくわかりましター」
「なるほど……」
デースちゃんと隣で聞いていた師匠さんも思うところがあるらしく、微笑んで頷く。
「でもルーキーちゃん。
「ん?」
デースちゃんがそれと指差す先には、カラシがこんもりと乗ったがんもどきがあった。初心者ちゃんは話している間中ずっと出し続けていたのだ。
「そんな食べ方聞いたことないデース……」
「何を言う? これが通の食べ方だ」
初心者ちゃんは言うや否や、その黄色い物体を躊躇なく口に運び、目をカッと見開いた。
「フゴオオオォォッ!!」
「ルーキィィィ!!」
「まあ、そうなるな」
圧倒的な刺激の暴力に口の中を蹂躙された初心者ちゃんは悶絶し、勢い余って後ろに倒れる。慌ててデースちゃんが抱き上げる。
「オーマイガァァ!! ルーキー! Are you OK!?」
「辛い……だが、悪くない…………」
「ガッデム! もう手遅れデースッ!!」
初心者ちゃんはビクビクと体を痙攣させながら、その顔にはどこか恍惚そうな表情を浮かべる。その様子にデースちゃんは首を振るしかなかった。
そんなデースちゃんにオヤジは身を乗り出しながら笑いかける。
「まあ、人生の喜びは人それぞれって言いやすからねェ」
「コレ喜びじゃなくて悦びデース! いいこと言った感じでまとめないでくだサーイ!!」
適当なまとめ方をするオヤジにデースちゃんが叫ぶ。
すると、一連のやり取りを聞いていた師匠さんがおもむろに口を開いた。
「まあ、初心者ちゃんの言いたいことは分かる」
デースちゃんが目を向けると師匠さんは酒を燻らせ、遠い目をしながら続ける。
「私も瑞雲を積めてうれしい。前は積めなかったからな」
四スロ対空火器ガン積みだった、と懐かしむ口調で師匠さんは微笑む。それに対しデースちゃんもフゥと一息つくと
「Exactly」
フラつく初心者ちゃんを抱えて座りながら同意する。彼女達「艦娘」はその艦の記憶を持っている。その時にやってきたこと、やれなかったこと、全てを記憶している。それを踏まえ、今日をそして明日を生きていくのだ。
オヤジも感慨深げに顎をさすりながら頷く。
「生きてりゃ、新たな可能性の扉なんていくらでも開けるってことですかねェ」
「Yes! ただ、開いちゃいけない扉もありマース」
あなたのことですヨー、とデースちゃんは隣の初心者ちゃんを突っつく。ただ、残念なことに初心者ちゃんは「手元が狂う」と言いからしをひねり出し続けるのであった。
すると、また暖簾を潜る者が現れた。
「邪魔するわよクソオヤジ」
「おや、ぼのちゃんじゃないですかィ? もう来るころだと思いやしたよ」
オヤジはクソオヤジ呼ばわりに気を悪くするでもなく笑いかけたのは、セーラー服姿の少女だった。藤色の髪を右サイドに纏め、髪結いについている鈴の付いた花飾りが少女に彩りを与えている。ただ、その顔は不満そうな不機嫌な表情に歪められていた。
ぼのちゃんは客のメンツを見ると露骨に動揺し、踵を返した。
「なっ…! オ、オヤジ! ちょ、ちょっと急用思い出したから帰るわっ!!」
「ちょいとぼのちゃん! 暖簾潜ったのにそりゃないでしょう」
一杯で良いからとオヤジが席を勧める。ぼのちゃんもマナー的にまずいと判断したのか
「い、言われなくてもわかってるわよ! クソオヤジ!」
オヤジに促され、ぼのちゃんは荒っぽく初心者ちゃんの隣に腰を落ち着ける。ぼのちゃんは酒だけを注文すると、他の客とは目を合わせないようにそっぽを向いて貧乏ゆすりをしていた。それもそのはず、他の客が全力でぼのちゃんの方を凝視していたからだ。入店時にあれだけ面白い反応をしたのだ。それを見逃すほど甘い面子ではないし、それなりに出来上がっている。
「ヘイ、おまち! さァさァ、ぼのちゃんもその様子だとまた失敗したんでしょ。今日初めてきたこちらのデースちゃんに年季の違いを見せてやってくだせェよ」
「いや、あの……今日はそういう気分じゃないから……」
酒を出したオヤジがぼのちゃんにグチを勧めるが、ぼのちゃんは歯切れ悪く冷酒を啜る。
が、獲物を見つけたチーターのごとくデースちゃんが行動に出る。
「Hey! マスター! ぼのちゃんのグチはどういうものデース!?」
「え!? ちょっ……!?」
デースちゃんの質問にぼのちゃんは再び慌てる。そして、オヤジは当然のように口を開こうとする。
「いやぁなに、ぼのちゃんのグチはねェ――」
「ちょっとクソオヤジ! 勝手に話すんじゃ――」
「……召し上がれ」
「ブホオオオオッッ!!」
ぼのちゃんはオヤジの話を止めようとするが、隣にいた初心者ちゃんがぼのちゃんの口に大根を突っ込む。当然カラシは過積載
「カッフアアアア゛ア゛ア゛ッ!!」
「……これが痛の食べ方だ」
「あ、今認めましたネ。やっぱ痛いのenjoyしてマースね」
「そんなことよりオヤジさん。早く続きを」
「へ、へェ……」
熱さと辛さで地面をのた打ち回るぼのちゃんを置いておき、他の面々はオヤジに続きを促す。
「ぼのちゃんのグチは上司のものでしてねェ。ぼのちゃん、前の上司にあらぬ責任を取らされて、ひどい仕打ちを受けたらしくてねェ。それで、新しくなった今の上司も何をやっているんだか怪しいと疑ってたワケでさァ」
「……? ってた、ということはnowは違うデースか?」
「そうなんですよ。実はねェ――」
「ちょ…ホヤジ。ホレ以上は…ホンろ……」
オヤジがぼのちゃんのグチを話していると、ぼのちゃんがデースちゃんと初心者ちゃんの肩に掴まりながら這い上がる。舌をかばってか若干舌足らずになっていた。
「ホレ、水だぞ」
「……ぐっ、ブフウウウゥゥゴホッゴホゴホ!!」
師匠さんが水と言ってコップを渡して飲ませるが中身は瑞雲(酒)である。この酒は辛口であり刺激物の後では当然堪えるものがある。結果、ぼのちゃんはスプリンクラーのように口の中身を噴霧しながら仰向けに倒れる。
ぼのちゃんが再びカウンター下にダウンしたところでオヤジが続きを始める。
「でねェ、もう今の上司とも結構な付き合いになったしある程度人柄も分かってきたから、少しは距離詰めようかなと思ったらしくてねェ。年明けには部屋の大掃除手伝ったり、夏には水着姿を披露したりしたんですよ。だのに当の上司は全く気付かないニブチンときたもんでさァ。最近ではそのニブチンに秋刀魚取ってこいなんていう指示があったらしくて、ぼのちゃん自腹で釣り用具一式揃えたりして仲良くしたいアピールしてるんですが……ぼのちゃん? その様子だとまたダメだったみたいだねェ」
ぼのちゃんのグチを話し終えたオヤジはカウンターから身を乗り出して声をかける。話しかけられた本人は息をつき、顔を赤くして涙目になっていた。怒涛の刺激物ラッシュのせいか恥ずかしさからかは本人にしか分からないことである。
ただ周りの反応はのろけ話を聞いた時の女子のような反応ではなかった。
「まさかのデレ期到来か?」
「But、普段の言動がネー」
「……キスカ並みの奇跡が起きないと無理だ」
残念ながら当然の結果だと言いたげな雰囲気になる。彼女の普段の言動を知っていれば当然の反応だった。
「別にあいつのこと、嫌ってるわけじゃないのよ……」
そんな中、呟くのはぼのちゃんだった。目元をぬぐい、席につきながら語りだす。その言葉にはいつものような勢いが無い。
「私だって普通に話しかけたいのよ。でもね、あいつの前に立つとどうしても怖くなるのよ。また裏切られるかもしれない。また絶望するかもしれない。そう思うといつもみたいに、口汚く罵って、あいつを傷つけて、距離を置こうとする」
最低よ
吐き捨てるように言うぼのちゃんの顔は俯いていて窺うことはできない。ただ、膝の上でギュッと結ばれた両手が彼女の感情を表していた。
他の面子も事情の重さに、感慨深げに眼をつむるのであった。
「別にいいんじゃねェですかィ?」
唐突に声を発したのは店のオヤジだった。
「他人にしてみりゃそんなことと言うことでも、当の本人にしてみりゃ一事が万事大惨事でさァ。それが過去のトラウマと来りゃあ、そりゃあ守りに入りたくもなりまさァ」
おでん鍋をいじりながらオヤジは語る。
「でもね、ぼのちゃん。そろそろ一人で悩んで足踏みするのも終いにしやせんか?」
オヤジはそう言いながらいつものニカッとした笑みを浮かべる。
「もし、また何かあって、どうしてもやりきれねェってんなら……そん時ァ、ウチに来りゃいいんでさァ」
ぼのちゃんは運が良いと言いながらオヤジは酒瓶を開け、ぼのちゃんのコップになみなみ注ぎ足す。
「ここはぐちり屋。酒の肴に日ごろの憂さを晴らす場所。そういうところなんですよここは」
だからぼのちゃん
「過去に縛られて、二の足踏んでた自分とはこの一杯でサヨナラでさァ。明日からはスッキリ生きていきやしょう」
「で、でも……」
ぼのちゃんは酒に口をつけず逡巡する。そう言われてはいそうですかで済むような話ではないのだ。それこそ彼女にとっては大惨事なのである。
「心配しなくても、あっしがくたばるまで店畳むつもりはありやせんから。いつでもいつまでも付き合いやすよ」
「それは私もネー!」
ぼのちゃんが声のした方向を見るとデースちゃんがカウンターに身を乗り出しながら笑いかける。
「……いいのか? 恋敵が増えるぞ」
「Why? 私は今日初めて彼女と会いましター。応援しても問題nothing!」
「まあ、そうなるな」
両隣の初心者ちゃんも師匠さんもぼのちゃんに微笑みながら小さく頷いた。
「ほら、もう飲み仲間が出来やしたよ。不安だってんならあっしらが背中押しやすから、もう一人で抱え込まなくたっていいんですよ」
そう言いながらオヤジが笑いかける。それを受けてぼのちゃんは俯いた。気恥ずかしさからか。それとも、目から零れ落ちるものを隠すためか。少なくとも店の面々には、ぼのちゃんの言葉がはっきりと聞こえたのだった。
「ありがとう」
その後の屋台は客と店主による呑めや歌えやの大騒ぎとなり、その喧騒は夜半まで続いたという。
暫く後、酔客四人が千鳥足で夜闇に消えたころ、暖簾をかき分けて客が入る。
「ども、オヤジさん!」
「ヘイ! らっしゃい。やっと暖簾を潜ったねェ文屋ちゃん」
「いやー。気づいてましたかー。流石ですねオヤジさん」
「ヘヘ、褒めても何も出やせんぜ」
気心知ったように軽口をたたきながらオヤジと文屋ちゃんと呼ばれる少女が向かい合う。
「ところで文屋ちゃん、さっきの話は他言無用でお願ェしやすよ。一応ルールなんで」
「ええー? オヤジさーん。私は
文屋ちゃんはそう言いながら笑う。つまり店にいないのだからルールに縛られることはないという理屈だ。
オヤジは渋い顔をするが
「うーん。まあ、そういうことなら良しとしときやしょうか」
「ありがとうございます! 今日は前祝いです!」
その後の店の様子はグチりというより編集者会議のようだったそうな。
『駆逐艦A氏 新たなる旅立ち!
我々艦娘が過去の大戦の記憶を持っていることは、読者諸兄には至極当然のことであろう。そして、その過去に誇りを持っている者がいる一方で、過去に苦しめられている者もいることを存じていよう。一刻も早く過去の呪縛から脱出することを筆者も願うばかりである。
しかし、本日は朗報がある。なんとあの過去にトラウマを持つことで有名なあの駆逐艦娘のA氏(偽名)が、忌まわしい記憶を乗り越えることを決意したのだ。
過去に、無茶な命令による任務失敗、そして有らぬ責任を咎められた彼女は、旧軍の上層部に対し怒りと不信感を抱いた。当然、現在の上官である提督にもそのような態度で接してきた彼女だが、ここのところその態度に軟化の兆しが見えてきた。本誌はその裏にたどり着くことに成功したのだ。
今回、独自に入手した情報によるとA氏は、とある居酒屋で提督に反発する理由をこう漏らした。「また裏切られるのが怖い」。なんと彼女は提督に対し厚い信頼を寄せていることを認めたのだ。しかし、また傷つくことを恐れた彼女は、今一歩踏み出すことが出来ず――』
「いやいや、無いでしょコレは」
あり得ないと青葉が発行している機関誌『青葉通信』片手に手を振るのはこの鎮守府を司る提督であった。
「そりゃね、誇張やちょっとした捏造はスパイスになるけど、やりすぎるとしつこくなっちゃうよ」
「いえいえ、今回はノンフィクションですよ? 涙々の自信作です」
「いやでも普段の言動からさぁ……」
向かいに立ち、なおも笑顔を絶やさない青葉に提督は否定しようとするが、闖入者がドアを蹴り破る音にその声は掻き消された。
「あアアアおオオォォォぶアアアアァァッッ!!!」
ドゴゥ!!
ドアを蹴破ると同時に、闖入者が顔を真っ赤にしながら手にする主砲を青葉に向けて放つ。
「おっと」
「ブベラッ!!」
ヒョイと上体を傾げ、難なく弾を避ける青葉。その流れ弾は提督に当たり椅子から転げ落ちる。
襲撃された青葉はそのことを気にするでもなく、流れるように窓辺に腰を落ち着ける。
「おやおや、どうしたんですか曙さん? そんなに顔を真っ赤にして? あっ、ひょっとしてあの日ですか? どうぞどうぞ。ナプキンくらいお貸ししますよ?」
「違うわボケエエエェェェェ!!」
闖入者、曙は怒り任せに叫ぶと左手に持った新聞を掲げる。それは先ほど提督が読んでいたものと同じ新聞だった。
「なにトンデモ記事書いてくれてんのよ!? このイエロー記者!!」
「心外ですねェ。私はあk…んんッ、もとい某A氏の背中を押してあげようと思って筆を執った次第で――」
「背中を押すってどこから!? 断崖絶壁からでしょうがッ!!? おかげで朝から朧に激励されて、漣から生温かい目でサムズアップされて、潮がキラキラした目でコッチ見てくる始末よ!! どうしてくれんのこの状況!」
「いやー愛されてますねー」
「ふざけるなアアア!! このクソ重巡がアアアアッッ!!」
曙は怒りの砲撃をニタニタ顔の青葉に放つが、青葉はヒラリと身を翻し高笑いしながら窓から逃げる。曙はすぐさま窓に寄り呪詛の言葉を吐きながら砲撃するが、当たりが無かったのか部屋を出て追おうとする。
が、執務室を出る直前で立ち止まり
「クソ提督ッ!!!」
顔を向けず、机の向こう側に倒れる提督に何か言おうとし、暫し逡巡した後
「――ッ! 忘れろ忘れろ忘れろ忘れろオオオオォォォ!!!」
ア゛ア゛ア゛ア゛という、女の子が決して上げてはならない悲鳴を上げながら、曙は執務室を走り去って行った。
それと入れ替わるようにして手に茶の乗った盆を持った鳳翔が入ってきた。鳳翔は部屋の惨状を見るなりアラアラと言いながら提督に声をかける。
「提督。大丈夫ですか?」
「痛てて……ギャグパートじゃなかったらマジで死んでたぞコレ」
顔面に砲弾の直撃を受けているにも関わらず提督は立ち上がった。そのまま「ちょっと明石のところ行ってくるわ」と言いながら部屋を出ようとすると、鳳翔が話しかける。
「それで? どうなさるんですか?」
「あ? ああ、修繕費が三ケタ万円になる前に止めてくれ。費用はあいつらの給金から天引きな」
「そっちじゃなくて彼女のことですよ?」
「……」
鳳翔の横を通り過ぎようとした提督は立ち止り、頭をボリボリと掻き毟りながら
「別にどうもしねぇさ」
と、ぶっきらぼうに答える。
そのまま、首だけ振り返り鳳翔をまっすぐ見つめる。
「アイツが、曙がどうするかは本人が決めることだ。俺ァただ背中見せてやるだけさ。海を、あいつらを守る提督としてな」
「……顔から煙が上がっていなければ決まっていたんですけどね」
「ヘイヘイ、んじゃ行ってくるわ」
それだけ言うと提督は気だるそうな足取りで部屋を出て行った。鳳翔はそれを見送ると窓から外を眺めて微笑む。
鎮守府には艦娘達の笑い声と曙の怒鳴り声、そして時々砲撃音が響くのであった。
後書きという名のグチの続き
いやいやいやいや何言ってんのこの人? なに「ちょっとコンビニまで焼きそばパン買ってきて」みたいなノリでとんでもないこと言ってんのこの人? いやさ、コンビニまでなら行きますよ。いくらでも行ってやりますよ。焼きそばパンだろうがコロッケパンだろうが買ってきて、そのデカイ腹にいくらでもぶち込んでやりますよ。ただね、出向だけは勘弁してくれないかなー? だって出向だよ。半沢直樹だよ! おっかないイメージしかないんですけど!? おまけに行き先すんげード田舎なんですけど!? という具合に私のチキンハートがこの状況をどうやって切り抜けるか考えていたらまた社長が一言。「来月から行ってもらうことになってるから」……あっ、詰んだなこれ。逃げられねーなこれ。なにこれ? 艦これ。ということで白目をむきながら「ハイ、ガンバリマス」と言って引越しの準備やら心の準備やら撮り溜めたアニメの消化やらしてたら投稿が遅れに遅れたアホが私です。グチり屋書いてる場合じゃねーよ。グチりてーのは俺の方だよチクショオオオオオ!! というような状態だったんです。そんな私をどうか許して下さい。恨むんでしたら私を焼きそばパンのお使いに出さなかった社長を恨んで下さい。
以上、アニメに振り回された愚か者のグチに付き合って下さってありがとうございました。そして、第三話を読んで下さってありがとうございます。ぼのちゃんはかわいい。以上。
リクエストがあったキャラに関しては頑張って書こうと思います。あとお願いですが、リクエストをする時はその子のあだ名とかどういうネタが見たいとかもフワッと書いてくれるとうれしいな(自分で考える手間が省ける)。
それでは皆さん。さよなら
さよなら
さよなら