ですわ無双 〜超絶破天荒お嬢様(自称)がいずれ世界を轟かせるまで〜 作:ブナハブ
───それは、とあるダンジョンの上層部で起きた出来事である。
「ブモォォォ!」
傷だらけの牛人、ミノタウルスは自身に向かってきて、そして今しがた返り討ちにした三人の人間に対して、勝利の咆哮を上げた。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
「チ、チクショウッ!」
彼らは冒険者だった。ランクは全員Cで、いつものようにダンジョンの上層で活動をしていた所、ミノタウルスと遭遇した。
ミノタウルスは、本来なら上層よりも下の中層に生息する強力なモンスターだ。彼らが敵う相手ではなく、会ったら即逃亡が普通だ。
「こんな、こんなに強いなんて……!」
しかし彼らは挑んでしまった。理由は、ミノタウルスが全身に負う傷に有る。
ミノタウルスは全身を傷だらけにしている。しかしそれは彼らとの戦闘で負ったものではなく、彼らと出会った時点で存在していた負傷だ。
理由は彼らには分からない。しかしその負傷具合を見て、彼らは思ってしまった。
……今なら戦って倒せるのでは? そんな欲を。
結果は大外れ。手負いの獣ほど手強いとは良く言えたもので、死にものぐるいで大暴れするミノタウルスに、三人はなすすべも無かった。
「ブルルル……!」
「ひっ!」(殺される!)
もはや立つ気力もない。ミノタウルスに睨まれた彼らは恐怖に怯え、誰にともなく助けを乞うしか出来なかった。
「……ぉぉぉ!」
その懇願が届いたのか、はたまたただの偶然か、ミノタウルスの背後……ダンジョンの中層へと繋がる階段から、何者かの声が聞こえた。
「おおおおお!!!」
「こ、今度はなんだ?」
声は徐々に近くなる。その声が酷く喧しかったせいで、冒険者三人は助けが来たという期待よりも先に動揺が出てしまう。
「ブモッ!?」
その声に反応したのは彼らだけじゃない。ミノタウルスもだった。しかしそこに込められた感情は、ただの驚きではなく、恐怖も含んでいた。
「……!」
ミノタウルスは声の聞こえた方を振り返ると、一切の油断をする事なく両腕を前に出して、守りの体勢に入る。
「───見つけましたわー!!!」
直後、声の主は階段の下から颯爽と飛び出て……両腕もろとも粉砕しながら、ミノタウルスの顔面をぶん殴った。
「ブモォー!?」
「「「……え?」」」
盛大に吹っ飛ぶミノタウルス、呆気に取られる冒険者達。
「逃げたかと思えばこんな所まで行くなんて、それでも男なんですの!?」
そしてミノタウルス(男……?)を叱咤するお嬢様。
「けれど残念、お嬢様からは逃げられませんのよ〜!」
「ブ、ブヒァアアア!?」
彼女は半透明のグローブを纏った両の拳をかち合わせると、意気揚々とミノタウルスに殴り掛かった。
「「「……」」」
彼らは思う。助かって良かったとか、ミノタウルスに重傷を負わせたのはこの人だったのかとか、そういうのはひとまず置いといて、
───なんだこの人。
ただただ、ただただ目の前の奇天烈な存在にドン引きだった。
▼▼▼
この世界にダンジョンが生まれて幾十年、世の経済の四割がダンジョンから得られる資源で回るようになるほど、ダンジョンは身近な存在となり、ダンジョンに潜る冒険者の価値は鰻登りである。
そんな冒険者黄金時代、ここ最近新たにダンジョン配信という、ダンジョン内での活動を配信するコンテンツがブームになり始めた。
ダンジョン配信を行う冒険者は、人気を出す為にキャラを作っている者が多い。
アイドル系だったり、王子様系だったり、のじゃロリ系だったり……非現実的なダンジョン内であるからこそ、その個性は受け入れられやすい。
「……」
そんな個性豊かなダンジョン配信者達の配信を視聴して、ある少女は思い至った。
「こういうキャラが許されるなら、私もお嬢様になって良いよね」
そうだ、冒険者になってお嬢様になろう。
……なんで???
───とある日のダンジョンギルドでの事。
その日、ギルドに居た者は密かに騒めいていた。
彼らの視線を集めたのは、一人の少女である。
「えっと、登録が終わりました。これで貴女も晴れて冒険者の一員です」
どうやら彼女は、今日登録を終えたばかりの新人冒険者らしい。そこは良い、そこは良いのだが、
「あら、ありがとうございますわ」
……腰まで伸びた金髪縦ロールに、これからダンジョン攻略するとは思えない優美なドレス。そしてコテコテのですわ口調。
「お嬢様だ」
「お嬢様よね」
「あからさまにお嬢様だ」
お嬢様、そう形容する事しか出来ない、明らかなキャラ付けを彼女は自身に施していた。
「これはもうダンジョンに潜って宜しいのかしら?」
「え、ええ」
「そう、では」
「あ、待って下さい加藤さん!」
冒険者証明書を受け取った彼女はさっさとその場を後にしようとしたが、それを受付嬢は慌てて引き留める。
「なにかしら?」
「ダンジョン配信を始める前には、きちんとダンジョンマナー講座に参加しておいた方が良いですよ!」(この人の格好からして、きっとダンジョン配信者になろうとしてるんだよね?)
でなきゃこんな奇抜な格好をするなんてあり得ない。長年数多の新人冒険者の登録を手続きしてきた彼女はそう考えた。
「? ええ、心得ておきますわ」
ちなみにこのお嬢様、向こう一年はダンジョン配信をせずフツ〜にダンジョン攻略をするのだが、この時はまだ誰も知らない。
「それと貴女、呼ぶ名前が違いましてよ」
「え? けど履歴書では加藤」
「───いいですこと! よーく耳をかっぽじって聞きなされ!」
受付嬢の言葉を遮って、彼女は高らかに宣言する。
「
一言一言を力強く、シュバババッと一々ポーズを決めながら、彼女は告げた。
「プレシャス・ヴィクトリア・ローズマリー・おゴージャス三世、ですわ〜!」
「……あ、そ、そうだったんですね! 大変失礼いたしました!」(信じられないぐらいダサいけど、配信での活動名かな?)
ツッコミ所満載な名乗りだったが、受付嬢は大人の対応でそれをスルーした。
ちなみに彼女にダンジョン配信をする気は(以下略)
「フフン、それでは参りましょうか。
加藤「ローズマリーですわ!」……ローズマリーは、真っ直ぐと前を見据えて歩き始める。その瞳には、自身の輝かしい未来のお嬢様像しか写っていなかった。
「うわやべー」
「トンデモねーのが来たな」
「伝説が始まる予感」
「面白そうだしパーティーに誘ってみる?」
「いや全然いいわ」
「愉快な娘だな、配信したら覗いてみるか」
残念ながら周囲が向けてくる奇異の目には、ちっとも気づいてくれなかった。