〜執務室〜
指揮官「……おん?」ガチャ
翌日、午前の書類仕事をして、昼休憩を終えて執務室に戻ってくると、何やら見ないKANSENとベルファストが話し合っていた。……いや待て。あの十字は…。
指揮官「なーに話してるんですかねぇ…。」
ベル「…ご主人様。」
?????????「あら?貴方が指揮官?噂通り若いのね。」
指揮官「いかにも。指揮官のアオイ・ベネットです。よろしく。」
プリンツ・オイゲン「第三帝国の奇跡、アドミラル・ヒッパー級三番艦――プリンツ・オイゲンよ。」
プリンツ・オイゲン…流石に知ってる。幸運艦、数々の作戦に従事しながらも最後まで生き残った歴戦の船だ。問題は…。
オイゲン「ふーん…知ってたみたいね。そんなに警戒しなくても食べたりはしないわよ。」
指揮官「……いやそれはそうなんでしょうけど。」
オイゲン「意外と臆病なのかしら?」フフッ
怪しい…何だこの人。苦手なんだよなぁこういう…蠱惑的というか、こちらをからかってくるような人。こんな有名人があっちから訪ねてくるなんて大抵は碌でもない事だ。
オイゲン「ま、ちょうど良かったわ。これから秘書官としてやって行くから、よろしくね。」
指揮官「………よろしくお願いします。」
ベル「ご主人様!?」
うーんこれたぶん…。
ベル「オイゲン様、少し失礼します。」グイッ
指揮官「おっ…?」
オイゲン「…どうぞ?」
ベルが俺の腕を引っ張って廊下に出る。
〜廊下〜
指揮官「なになに…何だよ急に。」
ベル「ご主人様!何故受け入れたのです!?鉄血のKANSEN達は…。」
指揮官「……あ〜うん。」
ベルには話しておくべきか…。
指揮官「実は…。」
〜説明中〜
指揮官「と、言う事で。」
ベル「な…。……はい、分かりました。それで…この所忙しそうに…。」シュン
ベルに今回の件を説明した。…ベルが悲しそうに目を伏せる。
指揮官「言っとくけど。」
これだけは言っておかなくては。
指揮官「別にベルを信用してない訳じゃない。巻き込むと…その、厄介な事になるからだ。」
ベル「……はい。分かっております。しかし、それなら尚更…。」
指揮官「尚更?」
ベル「その…、オイゲン様を受け入れる意味と言いますか…。」
指揮官「…あぁ。そう言うことね。それは簡単。」
そんなの決まっている。ここで拒むと…。
指揮官「ここで拒むと要らん疑いをかけられるからね。」
ベル「疑い…?」
指揮官「そもそもこのタイミングで秘書官として派遣されるなんて十中八九監視役だ。ビスマルクさんからのね。」
たぶん、俺が妙な動きしたり黙って手を引こうとしたりしたら殺せとか言われてる筈だ。じゃなきゃ態々信用出来ない男の元に大切な部下を送ったりはしないだろ。Z23を使わなかったのは元々頼んだのが彼女だと言うこともあるが、一番は実力に不安があるから。俺の周りに誰が居るかなんて目撃情報で丸わかりなのだから、シリアスやベルが居るのに駆逐艦一人だけ向かわせるなんて事は無い。そこでオイゲンさんだ。
指揮官「何かよく知らんけど、どうせ強いんでしょあの人?」
ベル「はい。初代様の時も初期からいらっしゃいました。私も何度も出撃でご一緒させていただいて、助けられた事もあります。」
指揮官「なら確定だね。監視役だ。少なくともケッコン艦のベルと肩を並べられる程強くて、俺と関わった事も無いから情に流される事も無いであろう人物。」
ベル「なるほど…オイゲン様はビスマルク様の側近でもありますからね。情報の伝達にも支障は無いでしょう。」
こっちが疑われるような動きすれば即ドカンだ。おっかねぇな。
指揮官「ま、やましい事は無いからね。困らんよ別に。」
ベル「承知しました。戻りましょう。」
その後は何事も無く執務を終えた。オイゲンさんは…ビスマルクさんの側近と言うだけあってめちゃくちゃデキる女だった。
〜夕食後 談話室〜
指揮官「……あの。」
オイゲン「?」
指揮官「?じゃないですよ。何もプライベートまで…。」
とっくに執務は終わってるんですけど。完全にオフの時間なんですけど。
オイゲン「良いじゃない。減るもんじゃないし。」
指揮官「……はぁ。」
ため息をついて再び本に目を落とす。ここ談話室には図書館程ではないものの本が置いてある。重桜の有名作家が書いた小説から、ロイヤルの哲学者が書いた難しい哲学書まで。俺は哲学とか分からないので小説だ。
オイゲン「でも意外ね。貴方みたいな若い男の子、普通ゲームじゃないの?読んでも紙の本じゃなくて、電子書籍でしょ。」
指揮官「そうですか?俺の通ってたHigh Schoolも紙派が居ましたよ。電子派の方が若干少ないんじゃないかな…。」ペラッ
オイゲン「へぇ…。」
この時代、KANSENの影響で電子機器が急速に発達した弊害で紙と電子が混在している。単純に民間では万人に電子機器が渡っている訳では無いのだ。それでも田舎の方にもパソコン持ってる人がちらほら居るかな〜…?ぐらいだが。
オイゲン「………似てるわね。」
指揮官「………はい?」
オイゲン「初代に。集中してる顔とかそっくりよ。」
……まあ、仕方ない。
指揮官「そうですかね…最近はよく言われます。」
オイゲン「無理もないわ…私達鉄血でも未だに引き摺る娘はいる。駆逐艦達とか特にね。」
指揮官「…Z23も?」
オイゲン「えぇ。忘れられないみたいね。」
指揮官「……はぁ。」
やーっぱりなぁ…。
オイゲン「プレッシャーなの?」
指揮官「ですねぇ…やっぱり嫌でも意識しちゃいますよ。」
オイゲン「そうよね…あまり気にしない事ね。」
指揮官「努力します。」
ほんとなぁ…ツラいな。俺なんかとは世界の違う話だよ。英雄なんて。向いてないんだよ…指揮官なんて。
オイゲン「……。」ジーッ
指揮官「…。」ペラッ
…それはそれとして凝視するのはやめてくんないかな。気を紛らわす為、再び読書に集中する。
〜5分後〜
指揮官「………。」ペラッ
オイゲン「…。」ジーッ
飽きないなこの人…。何なんだ?いくら監視役でもちょっと…。
指揮官「……おっ!?」ズシッ
オイゲン「…!」クスクス
オイゲンさんが笑う。頭が重い…何か後ろから載せられてるな。誰だ?振り返る。
指揮官「……信濃さん?」
信濃「……つーん。」
信濃さんが居た。…へ?まってこの俺の頭の上に載ってるのって信濃さんのおっ……やめよう考えちゃダメだ。
信濃「汝…最近妾との交流が少ないのではないか…?」
指揮官「………えっ。そうですか?」
信濃「……!」メラメラ
えっなになに怖いんだけど。いきなり何か目に見えて怒りだしたんだけど。何故…。
信濃「前回会ったのは天城達が秘書官として着任する時…以来全く相見える事無く3週間と3日…妾にも堪忍袋の緒という物がある故…。」メラメラ
指揮官「あ〜…ごめんなさい…?」
信濃「……今晩は汝の部屋で同衾す。」メラメラ
指揮官「………は!?」
お前今なんつった。とんでもない爆弾が投下された気がする。
信濃「近頃は昼寝にも来ぬ…探しても会えぬか執務中…妾も我慢の限界故…今から発散す…!」メラメラ
指揮官「えっちょ…!?た、助け…!」
オイゲンさんに助けを求めようと右隣を見る。が…。
指揮官「…逃げたなアイツ。」
椅子は空っぽだった。あーあゲームオーバーだ(ヤケクソ)。
信濃「妾を目の前にして他の娘の事を思案するとは…余程恋しかったとみえる…!」メラメラ
指揮官「あっちょ…ヤメローっ!?」
大和型のパワーって凄いね…抱きかかえられて自室まであっという間だった。
〜自室〜
指揮官「………おっ。」
信濃「……。」
自室に着く。玄関の中で、ようやく降ろされる。靴を脱いで上がった。
指揮官「……信濃さん?」
信濃「…今行く。」スッ
信濃さんが入ってくる…そういえば信濃さんは初めてか。というか…。
指揮官「……こっちへ。」
信濃「嗚呼…。」フラッ
何やら覚束ない足取りで信濃さんがベッドに向かう。……マジで何なんだ?
信濃「……汝。」ドサッ
指揮官「お…?」
ベッドに押し倒される。月光が差し込み、信濃さんの美しい銀髪を輝かせた。……やべぇこんな美女と二人きりか。もうこのシチュがヤバい…。
信濃「汝…三笠様から聞いた…鉄血の二人を、助けに行くのだろう…?」スッ
指揮官「は、はい…。」
信濃さんの白い手が俺の顔を優しく包む…な、何だ…?
信濃「……妾は…恐ろしい。」
指揮官「恐ろしい…?」
な、何が…?
信濃「汝がこのまま…修羅となってしまうのが。」
指揮官「……修羅。」
修羅ねぇ…。心あたりはある…けど。
信濃「このまま汝が覇道を突き進み、修羅となり…妾との出会いも、皆との交流も…。全て忘れて魔の方へと突き進んで、最期には…焼かれて死んでしまうのが。」ギュッ
指揮官「……。」
まあうん…天城達と事を構えた時、俺は…『愉しかった』愉しかったのだ。悲しむでもなく、哀れむでもなく…愉しかった。悪巧みが。人を…心を、夢を…踏み躙るのが。
信濃「妾は…初代とは、あまり会うこと叶わず…。皆よりも後の方に
指揮官「……真に愛する者。」
真に愛する者か…まあ確かに、天城さんも赤城さんも…ベルファストも、かつて確かに居たんだよな。そういう人が。
信濃「次と、その次の指揮官は邪智暴虐の限りを尽し追放され…私は渇望していたのかもしれぬ。愛に。そこに汝が来た。」
指揮官「…俺。」
そこで俺か。
信濃「汝は知り得ないであろう…?妾は、重桜の大木を護る巫女。常に畏まられ、皆とは一定以上の距離を置かれる。その中で…汝の笑顔に、どれだけ妾が救われているか。汝の遠慮の無い優しさに、どれだけ妾が救われているか…。」ギュッ
指揮官「ちょっ…!?」
段々と密着度合いが高くなる。信濃さんのスタイルでやられると…!
信濃「故に…妾は汝をこのまま、修羅の道に行かせたくは無い。行かせはしない…。汝と…
指揮官「……信濃さん。」
今のは聞き捨てならない。
信濃「汝…?」
指揮官「信濃さん。俺は…いえ、人間は。」スッ
永遠には生きられません。
信濃「……今、明石が老いを止める薬を開発している。未だに構想の域を出ないが、完成したらそれを飲めば…。」
指揮官「無理ですね。それを飲んだとしても、永遠には無理です。」
信濃「…何故。」
指揮官「そういう生き物だからです。人間は。」
そういう生き物だ。例え老いを止めても、なるべく健康に生きようとしても、限界はある。死は生命を逃がしてくれない。
指揮官「人間五十年ですよ。諸行無常とも言いますけど。」
信濃「…それでも、妾は汝に生きて欲しい。妾と共に…KANSENと共に、悠久の時を生きて欲しい…。」
指揮官「……付き合いますよ。可能な限り。」
信濃「……汝は…そうやって、いつも…。」
信濃さんが目を伏せる。…いや、酷い事をしている自覚はある。俺は…好意を伝えてくれる相手に対していつも返事を有耶無耶にしているのだから。可能な限り……便利な言葉だな。
信濃「……妾は。それでも汝を愛している…逃さぬ…絶対に。」
指揮官「逃げませんって…。」
信濃「汝の其れは信用出来ぬ…。」ギュッ
信濃さんが背中に手を回してくる。腰を引いて逃げようとするが、びくともしないどころかより強く身体が密着する。
信濃「……今日は寝る。」ギュッ
指揮官「……えっこのまま?」
信濃「今晩は同衾すると言った筈…。」ギュッ
………えっ。何回目だよこのオチ…。