スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう   作:嵐山田

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1.狂剣士

「……トージ?」

「トウジ? 分かってるわよね?」

 

 魅力的で特徴的な美少女たちに囲まれるという、全男子が一度は夢に見る状況。

 だが、彼女たちの目は何故か据わっており、その中に色を宿しているようには見えない。

 ……おかしい。俺は普通にこの世界を楽しんでいただけなのに!

 なんでこうなったんだ!!!

 

 ◇◇◇

 

 代り映えのしない日々。

 両親に加えて、祖父祖母までが相次いで他界し、気の休まる間もないままに莫大な遺産と家を全て手に入れた俺は通っていた大学を辞め、一生遊んで暮らせる金に物を言わせて自堕落な生活を送っていた。

 

 はじめは数少ない人とのつながりである大学に、僅かな癒しを求めていた。

 だが、教授までもがどこからか遺産の話を聞きつけてきたらしく、研究費が云々かんぬんと顔を合わせるたびに言ってくるようになった。

 友人も、口を開けば金金金。

 金の怖さを思い知らされた。

 

 ありがたいことに、相続関係の後処理までは多くの人が力を貸してくれたのできっちりとお礼を言って、関係を切らせていただいた。

 

 そうして軽く人間不信になった俺は、こうして引きこもりを極め、お馬さんのかけっこがない日には、受験戦争時からやりたくても積んでいたゲームを消化していると言う訳だ。

 

「うーん、これもそこそこってとこだな……」

 

 今、プレイをし終えたゲームは世間では超良作、神作とまで謳われたゲームだったんだが、深く刺さると言うほどではなかった。

 

「ま、つまらなかった訳でも無いけど……」

 

 誰が聞いている訳でもない。

 ただの独り言。

 呟きながら俺は次のゲームソフトを開封した。

 

「これは……確か自由度が売りのハクスラゲーだったか?」

 

 武器やアイテムの強化やら合成、職業等で戦い方は千差万別。オンラインにもソロにも対応した遊び方ができるとかで、確か数年前から世界的に大流行していたはずだ。

 

 しかし、流行っていたのはオンラインの方。

 残念ながら一人でコツコツ遊ぶ方が好きな俺は、当時の友人に誘われても断って積みゲーにしていた訳だが……。

 

 目を¥マークに変えてしまった元友人の顔を思い返しながら、ソフトを起動する。

 壮大なPVにお洒落なBGM、魅力的なキャラクターたちが次々に流れていく。

 

「さて、世間様の評価はどれ程かな?」

 

 なんて野次馬根性丸出しで、俺はゲームを開始した。

 

 お決まりの「トージ」と言うPC名を付け、次の画面へ。

 キャラクタークリエイトにはさして拘る方ではない。

 パッと見て、そこそこ気に入った外見をすぐに選ぶ。

 だが、あんまりモブ顔でも面白くないので、髪の色だけは赤に変更しておいた。

 そうして完成したキャラクターは主人公タイプの勇者や戦士と言うよりはシーフや盗賊なんかが似合いそうな見た目をしている。

 実際に見たら、髪が赤いせいで目立って仕方ないだろうが、そこはゲームなので良しとしよう。

 

 続いて、職業選択画面に移る。

 ご丁寧に初心者向けとされているのはやはり耐久のある戦士戦士(ファイター)など重装備が可能な職業や身軽に動けて癖のない軽剣士軽剣士(フェンサー)など。

 だが、俺は時間だけは有り余っている暇人だ。

 どうせならハードな職業の方が楽しめる。

 そう思って職業一覧を辿っていけば……狂剣士と言う職業が目に止まった。

 

 狂剣士

 剣に狂い、剣だけにその命を捧げるものだけが就けるとされる職業。剣と一部アクセサリー以外は基本的に装備不能だが、その一撃の威力は随一だ。

 

「へぇ……」

 

 説明テキストの末尾にはマルチプレイ推奨と書かれており、どうやら多人数前提でプレイする際の一芸特化キャラらしい。

 これは少し惹かれるな。

 

 感覚的に厳しくなりそうな匂いを感じ取った俺は、職業を狂剣士に決定した。

 

 そして、おそらく最後の設定画面。

 そこで求められるのは難易度設定だった。

 

 イージーからノーマル、ハード、そして赤文字で明らさまに難しさを強調されるルナティックモードの4つが表示されている。

 

「これは一択だろ」

 

 段々とこのゲームを楽しみ始めようと集中してきていた俺は悩む時間すら惜しいと、迷わずに赤文字のルナティックモードを選択した。

 開始後の難易度変更は出来ませんが、本当にルナティックモードで始めますか? と言うありがたい忠告もボタン連打で突破し、早く早くと画面へ向き直る。

 

 すると突然、それまで流れていたお洒落な感じのBGMが停止した。

 

「……ん? なんだ? 演出k………………っ!」

 

 エラーでも吐いたのかと手元のコントローラーのホームボタンを押そうと目線を一瞬逸らした瞬間だった。

 背後から鈍器で殴られたかのような感覚に襲われ、視界が白に染まっていく。

 

「な、んだ……これ……」

 

 感じたことの無い不快感と薄れ行く意識の中で、だが確かに俺は、後ろには誰も居ないことだけは確認していた。

 

 ◇◇◇

 

 気が付けばそこは数本の松明だけが灯る石室のような空間だった。

 

「……夢か? これ?」

 

 先ほどまで感じていた不快感こそなくなったが、今度は視界がおかしくなったのだろうか?

 固い台座のような物の上で目を覚ました俺は我が家とは思えない辺りの光景に恐怖を通り越して、現実を疑うようになっていた。

 

 一先ず台座から降りてみるも、しっかりと地に足が着く感覚はあり、とてもじゃないが夢だとは思えない。

 

 ……とりあえずは明かりだ。

 壁に立てられた松明だけでは足元が暗くて覚束ない。

 

 松明を手に取った俺は固い感覚のあった足元を照らす。

 すると、俺の足にぶつかっていた固い感覚の正体がやけに装飾の派手な箱だったことが分かった。

 

「宝箱……的な?」

 

 予想以上に大きな見た目のその箱は男の子ならば開けずにはいられないような、これでもかと興味を引いてくる外観をしていて――。

 俺は無意識のうちにその箱を開けていた。

 

 幸か不幸かその箱には鍵はかかっておらず、案外あっさりと中を見せてくれる。

 そして中に入っていたのは一振りの剣だった。

 

 派手な装飾などはないが、どこか視線を惹きつけるような赤紫の刀身がこれ以上ないほどに男心をくすぐり、俺は迷わず手を伸ばす。

 

 そして剣の柄に触れた途端、脳内に閃光が走ったかのような衝撃が駆け巡り、まるで俺はこの剣と常にともに生きて来たかのような感覚を覚えた。

 

「狂剣士の執念」

 

 不意に口を吐いたその言葉がこの剣の銘であることを理解するのにも時間はかからなかった。

 そして同時に気が付く。

 

「狂剣士……まさかここはあのゲームの中の世界なのか!?」

 

 思い起こされるのは先ほど、キャラクタークリエイトを終えてプレイを始めようとしていたハクスラゲー。

 確認の意も込めて剣肌に映る自分の顔を見てみれば、作った顔は詳細には覚えていないが、確かに目立つ赤色の髪が揺れていた。

 

 間違いない。

 どうやらここは俺が始めようとしていたゲームの世界らしい。

 こんなことってあるのかよ、と、言いたいところだが……

 

「いいねぇ。クソつまらん現実より良くできた夢の方がマシだ」

 

 思わず口元に笑みがこぼれる。

 待っていたとか、妄想していたとか、そう言う訳ではない。

 もし、ここが本当にゲームの世界で、それも俺がプレイヤーではなくプレイヤーキャラクターになっているのだとしたら、そんなスリル最高じゃねぇか!

 

 身内が死に、人を疑い、引き篭もった俺だが、その内心にはずっと刺激を欲する俺がいた。

 だって、失うものがもう何もなかったから。

 だから不人気馬の人気順が変わるくらいに大金を賭けて遊んだりもしていた。

 でも、現実で味わえるスリルなんて程度が知れているという冷めた俺がいたのも間違いない。

 だが、ここはまごうことなき異世界で、きっと魔物なんかと生死を掛けたやり取りをするのが当たり前の世界。

 

 何の気なく見た自分の手のひらが震えている。

 もちろん、恐怖故ではない。

 

「さいっこうに興奮してきたぁ!」

 

 震えるほどの興奮に身をまかせ、雄叫びをあげるかのように叫べば予想以上に広いらしい石室に俺の声が反響した。

 

「さて、俺のスリルはどこだ?」

 

 出口を探しに松明を再び持って歩きはじめる。

 さぁ、俺を満たす刺激よ。早く来てくれ!

 

 ◇◇◇

 

 なんて意気揚々と歩き始めたはいいが、魔物どころかただ暗い一本道が続くだけでスリルもクソもあったものじゃない。

 

「こういうのってなんかイベントが起きるものじゃないのか?」

 

 照らされた足元に転がっていた石の欠片のような物を蹴っ飛ばしながら、文句を垂れてみる。

 

 ……ん? 石?

 

 もう一度、足元を照らしてみるがここはまるでブロックを積み上げて作られたかのような滑らかな石でその全体が構成されており、石や朽ちた壁の欠片はおろか、その全面に傷の一つも見えない。

 

 じゃあ、さっき俺が蹴とばした石は一体どこから?

 

 俺の中のスリルセンサーがアンテナを一つ立てる。

 何か、匂うな。

 

 地面を這うようにして耳を当ててみる。

 すると微かにだが、この先で何かの物音が聞こえる……ような気がした。

 

「これは……行ってみるしかねぇよなぁ!」

 

 よくわからない昂りに身をまかせ、邪魔な松明を投げ捨てると俺は暗闇の中を駆けだした。

 身体が自分の物とは思えないほどに軽い。

 まるで矢のような速さで飛ぶように一本道を駆け抜けていけば徐々に足元に転がっている何かの欠片が増えていく。

 

 そしてついに……行き当たったのは壁――のように見える何かが俺に背を向けて、まるで道を守る番人のように立ちはだかり、その先で大槌を持った人らしき何かと激しい戦闘を繰り広げているところだった。

 

 ガァンと鈍い音が響き、俺の方へ全身が岩で作られたゴーレムの身体が砕けて飛んでくる。

 

「くっ――! こいつ、堅すぎる!」

 

 ゴーレムの身体の端を砕いて見せたその声の主は、渾身の一撃を受けきられてしまったからか、驚きと反動で回避行動が間に合わなそうな状況になっていた。

 

「――っ!」

 

 俺の視界に恐怖に怯えた大槌の主の顔が映る。

 そんな表情を見て、俺は――クハッ!

 声を抑えられないほどに笑みを浮かべてしまっていた。

 

「! 誰っ!」

 

 ゴーレムの腕が彼女に振り下ろされるその寸前に俺は自分の身体をその間へ滑り込ませる。

 背後に『狂剣士の執念』を回し、気持ち程度の防御をするが、すぐに全身へ凄まじい衝撃と高いところから落ちたかのような呼吸が止まるほどの痛みが走り抜ける。

 

「えっ……!?」

 

 状況的に庇った形になった彼女と目が合う。

 その瞳は困惑に塗られていた。

 

「がはっ……」

 

 俺は何とか庇った彼女を抱えながら、吹き飛ばされる。

 背中にはあり得ない程の痛み、赤く染まり、ぼやける視界。

 だが、まだ立てなくなるほどではない。

 

「ふぅ……俺が、相手、してやるよ。岩野郎!」

 

 感覚のなくなった左手から右手へ剣を持ち換えて、庇った彼女を背後にする形でゴーレムと向かい合う。

 ああ! なんて最高のシチュエーション!

 まさかいきなりこんなスリルを味わえるなんて!

 

「あ、あなたは一体――」

 

 背後では彼女が何かを言っているが、今は気にしている場合ではない。

 俺は今、このいかにも強そうなゴーレムと命を賭けたやり取りをしているのだ。

 

 剣を構えてファイティングポーズを取ってみれば、標的を俺に変えたゴーレムの拳が再び迫ってくる。

 

 3メートル……まだだ。

 2メートル……まだいける。

 1メートル……まだまだぁっ!

 

 迫りくる拳が俺の鼻先寸前を捉えようとする――そんな間一髪のところで拳を躱し、身体に任せて剣を振るう。

 

「背水の一太刀」

 

 無意識に口から出たその言葉の意味を俺はすぐに理解する。

 腕に伝わってくるのはあまりにも滑らかな斬り心地。

 そして――目の前でゴーレムの身体がズレた。

 

 すると、おそらく顔であったであろう部分の目からは光が消え、身体が砂のように崩れていく。

 

「ははっ! さいっこう!」

 

 これ以上ないほどの高揚感。

 あまりの昂りに俺の剣も鋭さを増してしまっている。

 

「嘘……でしょ? 奈落の番人をあんな、簡単に?」

 

 何やら背後からは信じられないとでも言うような声が聞こえてきたが、それに反応する前にアドレナリンを超えて俺の身体へ激しい痛みが戻って来た。

 

「クハっ……!」

 

「……え? ちょっと!? 大丈夫?」

 

 頭上には何やら声が聞こえている。

 だが、そんなことは気にしていられない。

 

 異世界、最高だわ。

 今の俺はそんな感動に全身を包まれていた。




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