スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう 作:嵐山田
俺が天を、ひたすらに暗い天を仰げば、なぜか二人が優しく手を握ってくれた。
もしかして涙の跡とか見えちゃった感じか?
だとしたら、悪いことをしてしまった。
「よし! 気を取り直して、探索再開と行きますか!」
何となくしっとりとしてしまった空気を変えようとテンション高めに言いながら立ち上がってみる。
「……ええ、そうね! 行きましょう」
「……ん。行こう」
すると、二人もそんな俺の気持ちを察してか、空気を読んで乗ってくれた。
もしかしたら一緒にピンチを経験したことで、お互いに理解が深まったりしたのかもしれない。
見下ろす先はまた、果てしない闇。
だが、不思議と恐怖もスリルも感じない。
俺たちはこうして、二層目、もしくは地下二階を目指して歩き始めた。
二人がいるなら……もしかしたら……スリル何て、もう……。
◇◇◇
「――イヒッ」
……なんて、馬鹿なことを考えている人もいたそうですね(他人事)。
食べ物の好みが子どもの頃から変わらないように、一度拗らせた性癖が二度と正道を行くことがないように、俺の細胞に刻まれたスリルの快感はそう簡単に消えるものではなく――
俺は二層に来ていきなり出くわした、二体の奈落の番人に対して、いつも通りスリルを感じていた。
単体では正直飽きて来ていた番人も、二体で、しかも協調して攻撃してくるとなれば話は別だった。
ウルルのデバフによって、ただでさえ低い初期防具の防御力はもう紙同然だろう。
そんな状況下での紙一重の攻防。
これ以上に滾るものはない!
快感に浸りながら俺は踊るように剣を振るう。
一層の番人は一太刀で斬り伏せられたものが大半だったが、二層の番人たちは同じ力加減では妙に刃の通りが悪い。
材質が変わったのだろうか?
そう考えて少し視線を広げてみると、部屋の感じも少し違うような気がする。
均一で欠けも傷もないところは変わらないが、なんとなく滑らかさがあるような気がする。
鉱物としての粘りが強くなったのかな?
なんて、戦闘中にそんなことを考えていれば当然、俺には隙が生まれるわけで……!
それまでノソノソと重苦しい動きで一撃の重さに重点を置いていた番人たちが、急に機敏な動きを見せる。
そして俺を挟み込むように直線状に移動した番人たちはお互いに攻撃が当たることも厭わない迷いのなさで俺を潰しにかかってくる。
上か横に飛べば、俺なら簡単に避けられる展開。
だが、それでは面白くない。
こんなにスリルに満ちた構図も中々ないだろう。
避けないならば、俺に取れる選択肢は一つだけ。
やられる前にやる。
対象は前後から俺を挟み込むようにこちらへ向かう番人二体。
狂剣士の剣で、俺の使える技の中に回転斬りのような技は今のところない。
となると、こいつらを一刀で斬り伏せるには……あれをやるしかない。
フィクションでしか見たことがない曲芸染みた剣術。
でも、今の俺ならばあの模倣が出来る、はずだ。
心を沈め、落ち着くことを第一に考える。
剣術風に言えば、明鏡止水を意識する。
一瞬のタイミングのズレは致命的。
確実にあわせなくてはならない。
ジリジリと肌を焼く緊迫感が俺の感覚をより鋭敏なものにしていく。
「――今だっ! 背水の一太刀」
俺は逆手に持った剣で背後から迫る番人を串刺しにすると、即座にその手を反転させ、刺さった剣を大振りにする形で正面から迫って来た番人をも切り伏せる。
位置とタイミング、そして力加減を完璧に合わせないと実現不可能なフィクション剣技。
だが、それもこの世界で、そして骸骨剣士センパイから剣技を受け継いでいる俺ならば、可能な芸当だった。
イメージとしてはウルルを倒したときに使った穿岩貫と俺の十八番になりつつある背水の一太刀を掛け合わせ、一つにまとめた感じ。
俺のスリルを求める戦い方と背水の一太刀の相性がおそらく最高に合っているんだよな。
お節介コンソールは何をどう弄っても、アイテムの説明以外を見せてくれることはない。
ステータスの確認や使用可能スキルなんかを見れるようにしておいてくれれば、あの全解説フレーバーテキストはいらなかったんだが……世の中はそこまでうまくいかないものである。
だが、おそらく背水の一太刀はピンチの時ほど威力が上がる系のスキル。
穿岩貫は斬撃よりさらに一点に特化した一撃だ。
発動タイミングを意識すれば、今のような180度の直線状にいる相手も一度に切れてしまう訳である。
「……ふぅ」
フィクション剣技が成功した喜びで解説染みたことをしてしまったが、まあ、口に出さなかっただけ良しとしよう。
さてさて、ドロップは……と、俺が周囲を確認しようとすると――
ポン!
とでも言うかのようなポップ音と共にお節介コンソールが開かれ、
そして『「新スキル:断列の一刀」を発現しました。』と言う一文が表示される。
……ほう?
ネーミングとしてはそのまま列を断つ斬撃と言う訳だが……俺の思い付き剣技に勝手に名前が付くのはもしかしなくても、俺が習得していなかった既存のスキルだったという訳か?
なるほどなるほど。
「ィヒッ」
思わず笑みがこぼれる。
確かにこれは神ゲーかもしれない。
道理で自由度なんかを売りにするわけだ。
こういう物を見せられると、何がどこまで想定されているのかを試したくなるのが人の性というもの。
どこまで俺のスリルが想定されているのだろうか?
これからもチャンスがあれば積極的に狙っていこう。
「……トージ。お疲れ」
「ああ、ウルルもデバフさんきゅ」
控えめに手を掲げてくるウルルと小さくハイタッチ。
「お疲れ様、トウジ。ドロップは多分これだと思うわ」
「お、ありがとなスウォメル……って、なんだそれ? 剣の柄?」
ウルルとハイタッチした後で、今回のドロップを拾ってきてくれたスウォメルの手渡して来たものを見て目を丸くする。
スウォメルの手に握られていたのは刃の部分が折れた……と言うかそもそもまるまる存在しない剣の柄だった。
柄にしても、飾りっけの一つもない、どこにでもありそうな柄だ。
「……ええ、柄ね。何に使うのかしら?」
スウォメルも拾ったはいいものの扱いに困るだろうという顔をしている。
一先ず、俺もそれを受け取ると……。
――――――
『
使用者と共に成長していく剣の芽。
この剣で相手にとどめを刺すと少しずつ剣が成長し、後には唯一無二の剣となる。
・成長武器
――――――
いつも通りお節介コンソールがフレーバーテキストを見せつけてきてくれたわけだが……ほうほう。これは少し、面白そうな武器が手に入ったな。
「どう? 握った感じは?」
「うん、ちょっと面白そうだ」
「そう? なら、良かったわね」
刃のない剣なんかにどんな価値があるのか? と言う顔をしているスウォメルだが、こちらを否定しないのは流石と言ったところ。
でも、この反応を見るに、やっぱりフレーバーテキストが見えているのは俺だけっぽいな。
……やっぱりいらねぇ転移特典じゃねぇか。
まあ、それはそれとして、問題はそこではない。
この剣、『剣の萌芽』は説明だけ見ればかなり面白そうだ。
実際にこの武器をゲーム上で手に入れたら、俺はまず間違いなくメイン武器にしていただろう。
ただ……残念ながらここはゲーム上ではなく、ゲームの中。
刃のない武器で一体どう戦えばいいのだろうか?
特にミソとなるのが、フレーバーテキストの『この武器で相手にとどめを刺せば』の部分。
これはつまり、ただ手に持っているだけでは成長しないということを意味しているはずだ。
二刀流にして成長を待つにしても、ラストアタックをこの武器で決めなければならないと言うのは、俺の戦闘方法にあっているとは思えない。
だが……だが、それが良い!
今の俺の戦闘スタイルは回避&一撃必殺のスタイル。
躱して、いなして、隙を見つけて最高火力を叩き込むのがこの世界における俺の戦い方であり、恐らく想定されていた狂剣士の戦い方だろう。
だが、この武器ならば、一撃必殺にならない程度にダメージを与えた後でこいつに持ち替えて、さらにギリギリの戦いをするこれ以上ない口実になる。
良い、とても良いスリルだ。
あと一撃で死ぬ、つまり相手も(奈落の番人にそんな思考があるのかは分からないが)切羽詰まった状況での戦闘。
間違いなく、楽しいに決まっている。
……まあ、それもこの武器でダメージが出ることが前提なのですが。
興奮した思考が少しずつ冷めていく。
そこなんだよなぁ……。
ギリギリまで体力を削ったとしても与えるダメージが0では話にならない。
特に、この先も相手があの奈落の番人であると仮定すると、スウォメルの大槌では中々有効打が出ていなかったように、この柄を鈍器のようにして殴ったところでまともなダメージになるとは思えない。
「うーん……」
「……トージ?」
剣の柄を握り、見つめたままうんうん唸っている俺を心配そうな顔でウルルが覗き込んでくる。
「いや、大丈夫だ。この柄、結構面白そうなんだけど、どう扱うかに困ってな。ちょっと考えてたんだ」
「……そう。困ってないなら、良い」
「おう! 悩みはすれど、困ってはいない。普通に武器はあるしな」
腰に下げた『狂剣士の執念』をポンと叩いて見せれば、ウルルは安心したように微笑を浮かべた。
「さて、じゃあ今日のところはここで休むか」
「そうね。でも、あの長い階段の後すぐに戦闘が出来るトウジは流石だったわ」
一先ず『剣の萌芽』は亜空間収納へしまいこんで、俺たちはいつも通り壁際に身を寄せ合う。
言われてみれば、そうだな。
階段が異常に長かったおかげで精神的にも体力的にもある程度回復していたが、まだ無貌の死神に殺されかけてからは一睡もしていない。
それなのに、あんな風に戦えるなんて……狂剣士ってすげぇや。
「スウォメルの回復魔法の影響も大きいと思うぞ。まさか傷だけじゃなくて体力まで回復するなんて」
「フフッ、そう言ってもらえると嬉しいわ。私にはそれしかないもの」
それしか、と言うには過分すぎると思うのだが……まあ、あんまり過度に触れて逆に嫌な記憶を刺激するのは悪い。
「それでも、頼りにしてる」
「……はぅ」
「……むぅ」
最低限の感謝を伝える言葉に留めておいたが、なぜかスウォメルは頬を染め、ウルルの頬は気持ち膨らんでいた。