スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう   作:嵐山田

12 / 26
12.過去、ウルル

 一休みして、目が覚める。

 今日も今日とて奈落の中は深い闇に覆われているが、ずいぶん長くこの環境で過ごして来たおかげか、既に暗いと思わなくなってきた自分がいる。

 人間の適応能力は凄まじいものだ。

 

「さて、今日も探索としようか」

 

 いつも通り俺より先に起きている二人に声を掛ける。

 

「……ん。この部屋は覚えた。いつでも、戻れる」

 

「流石ね。私にもそんな特技があれば良かったのに……」

 

 どんなゲームでもそうだと思うが、階段の位置と言うものはかなり重要だ。

 基本的なダンジョン探索系のゲームは階層やエリアを変えればエンカウント歩数をリセット出来たり、敵からのターゲティングを切ることが出来る。

 つまりは避難所がわりになる訳である。

 ゲームでは移動が一瞬で起こってしまうため、避難所として扱うことは難しいが、この世界でならあの場所はセーフティーゾーンと同義だ(多分)。

 

 まだ、あの徘徊型(俺の中ではもっぱら無貌の死神と呼んでいるアイツ)しか検証対象がいないため、はっきりとしたことは言えないが……おそらくその認識でいいだろう。

 壁も関係ないあいつが追って来れなかったんだからな。

 

「そう言えば、ウルルは牙狼族よね? 牙狼族はみんなそう言うことが出来るの?」

 

 いつも通り長い道を歩いていれば、スウォメルがウルルにそんな質問をした。

 

「……ん。牙狼族は鼻が良い。でも、ウルルは特別」

 

 スウォメルにしては結構踏み込むな……なんて思っていれば、ウルルはウルルで自信ありげに胸を張る。

 

「そうなの?」

 

「……ん。ウルルの嗅覚、一番。……でも」

 

 だが、またすぐにスンとした表情に戻ったかと思えば、今度は肩を落とした。

 

「……ウルル、牙、小さい。だから、弱い」

 

 そして、控えめにイィっと口を開いて、チャーミングな八重歯を見せてくれる。

 ウルルの八重歯は俺からしてみれば、その体格と相まって大変に可愛いのだが、本人は気に入らないようですぐに見せるのを辞めてしまった。

 

「八重歯……と言うか、牙が小さいと弱いのか?」

 

「……ん。牙は牙狼族の誇り。長い方が偉くて強い」

 

 ……ああ、なるほど。

 権威的な話なのか。

 俺はてっきり牙の長さが強さの指標になっているのかと思って聞いて見たのだが、どうやらそう言う訳ではないらしい。

 

「そう、だったの。……ごめんなさい、無遠慮に聞いてしまって」

 

 と、俺が納得していれば、意外と卑屈やさんなスウォメルが、話したくないことを話させてしまったといつもの思い込みを発動して、肩を落としながら謝罪する。

 

「……んん。いい。ウルルが弱いの、本当」

 

 だが、ウルルとしては話すこと自体はもう過去のことだと割り切っているのか、あっさりとした反応だった。

 だから俺は、少し斬り込んでみることにした。

 

「そう言えば、ウルルはどうして奈落に来ることに? ああ、もちろん、話したくなければ話さなくてもいいんだけど」

 

 スウォメルの過去の話は聞いたが、ウルルの話は聞いていない。

 ここまで結構な日数を共に過ごしてきたが、独特で口数の少ないウルルはあまり自分から話さない。

 質問すれば返って来るが、基本的にいつもは俺とスウォメルの話を横でちょこんと聞いている感じだった。

 

「……ん。大丈夫。……ウルルがここに来たのは、逃げてたから」

 

 ぽつりぽつりとウルルが語りだす。

 

「……ウルル、弱い。だから、村では下。狩りでも、囮役。でも、ウルル、魔法使えた」

 

 静かな奈落の道に抑揚の少ない声が少しだけ反響している。

 

「……最初はみんな、期待した。魔法は英雄の証。牙よりも、大事なこともある」

 

 昔を懐かしむように虚空を見つめる目線は少し寂しげだった。

 

「……でも、ウルルの魔法、呪いだった。……友達の、牙、折れた」

 

 なるほど。

 それで呪いなのか。

 

「……ウルル、探した。呪いを解く方法、牙治す方法……でも、なかった」

 

 感情の薄いウルルの言葉からもかなりのショックが伝わってくる。

 

「……それで、村、追い出された。友達の親、ウルルを殺そうとしてた」

 

「……」

「……」

 

 思わず、俺とスウォメルは唇を噛む。

 ウルルの友達の両親の気持ちも分かるが、事情を知っているだけにやるせない気持ちになる。

 

「……それで、逃げた。でも、逃げながら、探してた。呪いと、牙の治し方。でも、人の街は知らないことだらけ。……ウルル、盗人だと思われた」

 

 そう言えば、徘徊型のことも呪いを調べる過程で知ったって言ってたな。

 でも、あんなオカルト染みた存在を真面目に研究した書物なんて、そうそうお目にかかれる物じゃないのだろう。

 何せ、魔法学校とやらを優秀な成績で卒業しているスウォメルが知らなかったのだ。

 おそらく、禁書庫みたいなところに入ってしまったのだろう。

 

「……いっぱい、人が追いかけて来た。それで、暗い穴に隠れたら、落ちた」

 

「そうか……」

「ウルルも大変だったのね」

 

 ウルルの言葉では、細やかな事情までは分からない。

 だが、何となく、纏っている雰囲気から、周囲に恵まれなかっただろうことは察することが出来た。

 事情を聴いて媚びてくる奴らも、事情も聴かずに断定して迫害する奴らも根底では似通っている。

 

 やはり、どこにでもそう言う人間がいるということなのだろう。

 ……やっぱり、奈落から出たくないよ俺。

 

「……ん。でも、落ちて良かった」

 

 だが、ウルルは今日一番感情の籠った声でそう言う。

 

「……トージに会えた。スウォメルも良い人。だから、良い」

 

 くっ! なんて、可愛い奴なんだウルル!

 おそらくスウォメルも同じことを思ったのだろう。

 俺たちは無言で両側からウルルを抱きしめた。

 

 ◇◇◇

 

「ねぇ、トウジ。今後も私たちは戦いに加わらない方針で行くの?」

 

 長い道すがら、ウルルを思う存分に可愛がって満足した俺にスウォメルが聞いてきた。

 

「まあ、その予定だな。特に二層の番人はウルルの魔法があっても一刀で斬り伏せるのはなかなか難しいし……」

 

 なにより、スリルが分散してしまう。

 ターゲティングを逸らして各個撃破させてくれるだけでも相当に楽になってしまうからな。

 できれば、今後もソロで戦わせて欲しい。

 

「……ん。ウルルの魔法でスウォメルが倒れたら、回復できない」

 

 そんな俺の思惑も知らずにウルルが援護射撃をしてくれる。

 

「そう、よね……ごめんなさい。少しでも役に立たなくちゃと思って」

 

「大丈夫だ。攻撃は俺、妨害がウルル、回復がスウォメル。いいパーティじゃないか俺たち」

 

「……ん。役割、大事」

 

「二人とも……ありがとう。ふふっ、ほんとウルルの言う通り奈落に落ちて良かったのかもしれないわ」

 

 スウォメルははにかみながら、頭上を見上げる。

 部屋をつなぐこの長い道はトンネル状なため、天井はすぐそこだ。

 だが、確かに彼女の目には地上が映っているのだろう。

 

 ……と、そう言えば、ここは奈落の二層目な訳だが、明らかに階段で下って来た高さ以上の高さが部屋にはある。

 これはどういう仕組みなのだろうか?

 そもそも、なぜあの部屋に突然階段が出現したのか。

 やはりここは謎が多いな。

 

「なあ、スウォメル。そう言えば奈落に階段があるって話は聞いたことがあったか?」

 

 とりあえず、俺たちの中では最も奈落に詳しいスウォメルに聞いてみる。

 

「いえ、聞いたことがないわ。でも、たくさんの部屋をさまよい歩いたという人もいれば、すぐに出ることが出来たという人がいたという記録はあったはず。だから、階段があってもおかしくはない……と思うわ。もちろん、突然出来ていなければ、の話だけれど」

 

 すると、一変して真面目な顔になってそう教えてくれた。

 やはり、あの突然出現した階段にはスウォメルも引っかかっているよな。

 もう少し進んで行けば、この奈落にまつわる謎なんかも解けて行ったりするのだろうか?

 

「……次の部屋、見えて来た」

 

 ウルルが呟く。

 確かに光源があっても足元が見えない空間が目の前に見えて来た。

 また、二体の番人がいるのだろうか?

 それとも別の敵だろうか?

 

「クヒッ」

 

 口元を手で覆いながら、漏れ出る笑みを抑える。

 

「二人とも、いつも通り、俺が先行して様子を見る。二人は道の出口辺りで待機と支援を頼むぞ」

 

「ええ、分かったわ」

「……ん」

 

 二人の了承を得てから、俺は走り出す。

 さて、今回はどんな相手が出てくるのやら……?

 

 そうして、部屋に飛び出したのだが、なぜだろうか?

 嫌な(スリルの)気配は感じるのに、敵の気配がまるでない。

 

「外れの部屋か?」

 

 部屋の中をきょろきょろと見回しながら、そう呟いた時だった。

 

 ガッ! と、まるで柵でも閉まったかのような音が部屋の俺の入って来た方と、その直線状に見える出口の方から聞こえた。

 

「トウジ!」

「……トージ!」

 

 その音はどうやら二人にも聞こえていたようで、慌ててこちらに駆け寄ってくる足音が聞こえる。

 俺もそちらを振り向くが、俺の目からは特に何かが変わった様子は見えない。

 

「トウジ? 大丈夫?」

 

「ああ、特に何も――っ!」

 

 スウォメルに返事をしながら、一度道の方へ戻ろうとすると、バチっ! とまるで電気柵でも触ってしまったかのような音がして、なぜか部屋から道の方へ戻ることが出来ない。

 

「え?」

 

 突然のことに呆然とする俺に向けて、スウォメルとウルルも手を伸ばす。

 だが――バチッ! と言う音に阻まれ、俺たちはお互いの姿は見えているのに物理的な接触が出来なくなってしまっていた。

 

「……トージ? これ、なに?」

 

 ウルルがいきなり泣きそうな声で聞いてくるが、申し訳ないことに俺も分からない。

 

「ウルル、トウジのせいじゃないわ。……これは、魔法よ。どうやら、トウジのいる部屋と私たちのいる道を阻む壁みたいなものが展開されてしまったみたいね」

 

「なるほど、罠部屋だったわけか……」

 

 脱出不可のトラップ。

 こう言う部屋のお約束、と言えば……!

 

 スリルセンサーが大音量で脳内に警報を鳴らす。

 瞬間に俺は『狂剣士の執念』を抜刀し、振り抜いた。

 

 すると、そこにはどこから現れたのか、初めて見るモンスターの群れが出現していた。

 そう!

 どうやら俺は入ってしまったらしい。

 ここはモンスターハウスだ!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。