スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう   作:嵐山田

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13.モンスターハウス

 咄嗟に振り抜いた剣で切ったのはデカい蝙蝠のような魔物だった。

 ここに来て、番人ではなく、しかも空を跳ぶ魔物との戦闘になるとは……。

 だが、考えてみれば、こんなに暗い場所だ。

 蝙蝠の一匹や二匹いない方がおかしいと言えば、その通りなのかもしれない。

 

「……トージ、いやぁ。離れないで」

「トウジ! ウルルのことは任せて。あなたは戦いに集中して!」

 

 ウルルの泣き声とスウォメルの応援に片手をあげて返事をすると俺は戦いに集中する。

 

 目の前に群がる魔物たちは蝙蝠から、スライムのようなドロドロした相手、いわゆるゴブリンのような典型的な相手など多種多様だ。

 だが、それ以上に――頭上の遥か上空。

 暗すぎて見えないところから、最も不穏で嫌な気配(最高なスリル)を感じる。

 

 ……何にせよ、この数の魔物どもは無視できない。

 上には警戒しつつ、間引いて行こう。

 

 と、意気込んだものの――

 こちらへと一斉に飛び掛かってくる魔物たちを薙ぎ払い、斬り伏せる。

 どいつもこいつも大した感触はなく、言うならば無双ゲーのモブとの戦闘のようでとてもじゃないがこの奈落に出てくるような相手とは思えなかった。

 

「……よえぇな」

 

 ――最初は初めてのステージギミックに心が躍ったが、ラスダンのギミックにスライム大量発生ではしらけるように俺のテンションも段々下がってきていた。

 

 何か、刺激になりそうなことはないだろうか?

 

 ………………

 ………………

 ………………

 

 ……あ!

 そう言えば、あれがあるじゃないか!

 

 俺は目の前の魔物をサクッと片付けると、次の敵が向かってくる隙に亜空間収納から手に入れたばかりの『剣の萌芽』を取り出す。

 

「……コイツの試し切りにはちょうどいいんじゃね?」

 

 ――――――

 『(つるぎ)の萌芽』

 使用者と共に成長していく剣の芽。

 この剣で相手にとどめを刺すと少しずつ剣が成長し、後には唯一無二の剣となる。

 ・成長武器

 ――――――

 

 目の前には『狂剣士の執念』で斬るには弱すぎる相手。

 俺にとってはせっかくのステージギミックが物足りなくてテンションが下がる現状。

 こいつはそんな両方を打破できる最高の武器だ!!!

 

「よしっ! いっちょやってみようじゃねぇか!」

 

 武器を『剣の萌芽』に変えたことで完全にテンションを取り戻した俺は目の前の魔物どもに剣の柄を向け、刃のない剣を全力で振るった。

 

 ◇◇◇

 

「……と、トージ。トージ……いやぁ、おいて、行かないで」

 

「大丈夫よウルル、トウジは戦ってくれているだけ。私たちはいつも通り、出来るときにトウジの補助をしながら、トウジを待てばいい。ここまでだってそうして来たでしょ?」

 

 トウジの戦いを横目に見ながら、私は急に取り乱してしまったウルルを何とか落ち着かせようとしていた。

 

「……で、でも、トージ、届かない。ウルルの魔法届かない。いや、いやぁ」

 

 ウルルの過去を少し聞いただけでは大した推測も立てられないが、恐らくウルルは誰かに見捨てられることをかなり恐れているのだと思う。

 呪いについて必死に調べていたという話だって、きっと、自分の魔法が呪いではないという証拠があればまた元の関係に戻れると思っていたからではないだろうか?

 

 種類は違うが、トラウマを持つ人間として気持ちは分かる。

 

「大丈夫よ。思い出して。トウジはあなたの魔法がなくても強い。もちろんウルルの魔法があった方が強いのでしょうけど、今は信じるときよ」

 

 なんて強がっては見せているけれど、ウルルに言い聞かせるようで、半分は自分自身に言い聞かせている様だった。

 隣でウルルが取り乱したおかげで、逆に平静に戻れた私だが、正直に言えば私にだって不安はあった。

 

 トウジとこのまま離れてしまうかもしれないという不安。

 私だけがこの見えない壁を通り抜けられずに、ウルルとトウジが二人で先へ進んでしまうのではないかと言う醜い不安。

 

 この不安はきっと私のトラウマから来るもの。

 ウルルが村を街を追われたように、私は務めを果たせずに捨てられた。

 そんなトラウマから来る不安。

 

 けど、こんな不安をあの徘徊型から私たちを背負って逃げてくれたトウジに向けるのはあまりにお門違いだ。

 それに……トウジが私を裏切るはずがないもの。

 だから、もう一度強く言い聞かせる。

 

「信じて待ちましょう。私たちのトウジを」

 

 ◇◇◇

 

 リーチと言うか……ほぼ拳と同然のこの武器でも狂剣士のバフは乗るらしく、視界の明るさなんかは変わらなかった。

 最初の数匹は距離感の違いに苦しんだが、恐らく骸骨剣士センパイの記憶を継承している俺は短剣の使用方法も心得があったらしい。

 気が付けば『剣の萌芽』を逆手に持って、グリップだとかガードのように呼ばれる部分を鈍器にして、戦闘を繰り広げていた。

 

 攻撃力は想像の通りかなり低く、どうやっても最初の草むらに登場しそうなこいつらを相手にしても討伐には数発のヒットが必要だが、それが分かってしまえばあとは俺の敵ではない。

 

「ふぅ……この数を裁く経験ってのは中々出来ねぇよな。若干まだスリルは物足りねぇけど、これはこれで悪くねぇ!」

 

 段々と思考にも余裕が出て来た。

 すると、少しずつ、この相手の違和感も見えてくる。

 

 量が多いだけで、攻撃方法に工夫もなければ、攻撃を躱そうともしない。

 明らかに知能を持っていそうなゴブリンのような魔物もいると言うのに、こいつらには自我がないのだろうか?

 それとも危機感が備わっていない?

 ……いや、違うな。この単調で似通ったかのような動き。

 こいつらはおそらく……。

 

 魔物どもを蹴散らしながら、上を見上げる。

 ジッと動かず、こちらを観察しているような不気味ささえ感じられるあの存在。

 十中八九、あいつが術者でこの魔物たちは召喚と洗脳なんかを受けて、機械的に俺と戦わされているのではないだろうか?

 

 そうなると、ここで雑魚どもと戯れていても一向に状況は変わらない。

 俺としてはこのまま、もう少し強い魔物が召喚されるのを待ちたい気持ちもあるのだが、退路も仲間とも分断されている状況で、一層で出会ったあの無貌の死神なんかが現れたら一巻の終わりだ。

 

 正直なところ、あの死神ともいつかは戦ってみたいと思う俺もいるが……明らかに今ではない。

 

 つまり、今の俺が最優先すべきは……あの見えない違和感を攻撃することだ!

 

『剣の萌芽』でゴブリンのこめかみを打ち抜きながら、作戦を考える。

 

 俺の持っている手札は三枚。

 相手の攻撃を引き付ければ引き付けるほど強力なバフのかかる『背水の一太刀』

 相手を高速の二連撃で斬りつける『閃光二連』

 一点集中で高火力を叩きつける「穿岩貫」

 

 どれも強力な技ではあるが、射程的には到底足りない。

 ジャンプしたところで目に見えないあの位置まではどうやったって届かない。

 

 と、すれば……。

 視界にはまだまだ大量の魔物たちが映る。

 こいつらを上に弾き飛ばして足場にすれば……?

 

 いや、そんなどこぞのRTA走者のようなムーブはぶっつけ本番でうまくいくだろうか?

 ……なんとなくできそうな気もするが、確実性に欠ける――

 

 なんて、うだうだと思考を巡らせている時だった。

 

 ポン!

 

 と、気の抜けるような音と共に俺の視界にコンソール画面が開かれる。

 

 ――――――

『剣の萌芽』が成長しました。

 特殊能力を獲得。

 ・生命力を消費し、遠隔斬撃を放つ。

 ――――――

 

「……へぇ?」

 

 思わず舌なめずりしてしまいそうになる。

 ふと、視線を右手へ持って行けば、そこには情けないほどにではあるが、完全に何もなかった剣の柄から先にちょこんと刃が生えていた。

 

 生命力を消費して遠隔斬撃を放つ……遠隔斬撃とは? と言いたくなるのは置いておくとして、これは最高のスキルだ。

 まずは俺に足りなかった遠距離攻撃の手段が出来たということ。

 もしかしたらこの辺りは、フレーバーテキストの『使用者と共に成長していく――』の辺りで今の俺に必要なものが開花してくれたのかもしれない。

 まあ、だが、それはあくまでおまけ。

 

 メインは『生命力を消費――』ここだろう!!

 

 こちらの世界に来てから明確にダメージを受けたのはスウォメルを番人から庇った一回目と落下してくるウルルを受け止めた落下ダメージの二回のみ。

 あとは基本的に鼻先寸前で躱して来た。

 

 でも、俺の身体は覚えてしまっているのだ。

 あの、体力ゲージが赤くなって脳内では警報音が鳴り響く、これ以上ないまでにヒリついた高揚する戦闘を。

 

 ありがたいことにスウォメルがいれば、魔力の限りは回復をしてもらえる。

 つまり、この能力があれば、いつでも、どんな相手とでも、最高のスリルバトルを楽しめるという訳だ!!!

 

「さぁ、行こうか」

 

『剣の萌芽』を左手に持ち替え、『狂剣士の執念』を抜刀、同時に周りの相手を一掃する。

 経験はない。感覚も今までとは違ってしっくりこないところから、恐らく二刀流は骸骨剣士センパイの習得範囲ではなかったのだろう。

 それでも、今ならいける気がする。

 

 こちらをずっと観察している様子の何かだが、まさか自分が攻撃されるとは思わないだろう。

 そもそも物理的に届く距離ではないのだから。

 その上、俺が魔法使いタイプでないことも分かっているはずだ。

 

 さっきから、俺が警戒を解いた瞬間に何かを仕掛けてこようとする気配をビンビンに感じている。

 だから、俺はそこを突く。

 油断を突いて、先手を貰い、生命力を消費した状態で地上戦へと洒落込もうじゃねぇか!

 

「喰らえ!」

 

 俺は感覚だけを頼りに左手に持った『剣の萌芽』を振るう。

 

「散華『命』」

 

 ――ドクン! と、強く激しく心臓が跳ね、一瞬だけ視界が歪む。

 すると身体から、熱が抜けていくような妙な感覚に見舞われた。

 だが、それと同時に――

 

 青白くどこか幽々としたような、三日月形の斬撃が何かの気配を目掛けて勢いよく飛んでいった。

 

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