スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう   作:嵐山田

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14.謀略型《闇潜の梟》

 俺の放った斬撃の青白い光が今まで見えていなかったその存在を照らす。

 一枚一枚がしっかりとした羽に覆われた大きな翼をたたみ込み、首を180度回転させて猛禽類特有の鋭く赤い眼光がこちらを睨みつけた。

 

 その存在の正体は人間と同程度の大きさを持つ巨大な梟。

 見えない足場に大きな爪をかけていた梟は俺の攻撃を受けて、そこから落下してくる。

 

「お前がこの部屋のギミックなんだろ?」

 

 落下……いや、落ちていたのは最初の数秒だけで空中で器用に体勢を立て直し、大きな翼をはためかせて頭上を旋回し始める。

 

 しかし、どうやらまたあの見えないほどの高さまで戻るつもりはないらしい。

 こちらの様子を窺いながら、ジャンプでギリギリ届かない辺りをグルグルと旋回し続けている。

 

「チッ……あくまで高みの見物を決め込むってか?」

 

 俺はチラチラと頭上を確認しながら、残りの魔物を一先ず蹴散らしていく。

 もちろん、『狂剣士の執念』ではなく、情けない刃が生えた『剣の萌芽』で、だ。

 

 そうしてしばらく、雑魚を狩っていれば、段々と魔物の数が減って来た。

 ついさっきまでは倒しても倒しても次々に湧き出て、キリがないという状態だったが、どうやら召喚魔法? を行使するにはあの梟は停止している必要があるらしい。

 

 ……あいつは間違いなく『剣の萌芽』の「散華『命』」を意識している。

 さきほどは落下中に態勢を立て直したとは言え、かなりのダメージが入っているはずだ。

 

 と、すれば……。

 最後のゴブリンを殴り飛ばし、頭上をしっかりと確認する。

 もう一発は、流石に堪えるんじゃねぇのか?

 

 壁を使って飛び上がれば、ギリギリ届きそうなところまで降下してきているが、そんな高度なことをする必要はない。

 今の俺には遠距離攻撃がある。

 それに、一度目の反動は中々の物だった。

 おそらくHPの4分の1は消費したはずだ。

 つまり、後二回使えば、俺は瀕死状態になることが出来る!

 

 行くぜ!

 

「散華『命』!」

 

 対して広くない部屋を旋回している以上、狙いは定めやすい。

 この距離ならば、外す心配はない。

 俺は先ほどより威力が出るようにさらに勢いよく『剣の萌芽』を振り抜く。

 ギュン! と言う子気味いい音と共に巨大な梟を目掛けて青白く光る斬撃が飛んでいく。

 

 そして――「カハッ!」

 

 今度は熱が抜けていくのではなく、まるで何かに奪われるような感覚が心臓の辺りを巡り、同時に無防備な腹部に打撃でも食らったかのような鈍痛が駆けた。

 

 視界がブレて歪み、捉えている梟が二体、いや、三体にも分身したかのような錯覚を覚える。

 

 と、俺が反動ダメージに苦しんでいれば、梟の方も耳を塞ぎたくなるようなけたたましいうめき声を上げ、今度こそ落下してきた。

 

「……よ、し!」

 

 詰め寄ろうとする足が一瞬フラつくも、その浮遊感さえ俺にとっては気持ちがいい。

 相手を追い詰めながら、自身も身体の追い込んでいく。

 自己完結型スリル戦闘。

 

 さぁ、ここからが本当の戦闘開始だ!

 

 ◇◇◇

 

 一方その頃、見えない壁に阻まれ、トウジの戦いを傍観するしかない二人は……。

 

「……トー、ジ?」

 

 突然、刃のない剣を取り出し、それを振り回し、挙句の果てには何やら奇妙な光を放つ斬撃を繰り出す姿を見せられて驚いていた……訳ではない。

 彼女たちからしてみれば、そもそも回避と攻撃しか脳にないトウジの戦い方はすでに慣れたものだ。

 特に、ウルルは自身の魔法の力を知っているからこそ、それを利用して戦っているトウジの異常性をよく理解していた。

 

 だから、今、彼女が言葉を失っているのは別の理由だ。

 その理由とはもちろん……。

 

「トウ、ジ……? 今、何をされたの?」

 

 急に顔色を悪くし、唾を吐いたトウジの様子を見たからだった。

 

「……なんで? 今、トージ、何も……え? いやぁ、トージ! トージ!!!」

「あり得ないわ!? 視認不能の攻撃? いや、私には見えなくてもトウジに見えない攻撃があるはずがないわ……なに、なんなの!? どういうこと!?」

 

 スウォメルが必死に宥めたおかげで少しずつ平静を取り戻していたウルルは、再び最悪を想像し涙を流し始め……。

 先ほどまではトウジの強さを信じ、足手まといになってしまう自分がいなければトウジが負けるはずないと自分を騙していたスウォメルも、トウジがダメージを負っている事実に乱心していた。

 

「「……いや、死なないで」」

 

 奇しくも二人の声は一致し、同じようにトウジへ向けて手を伸ばす。

 しかし、無情にも二人のいる道とトウジのいる部屋は変わらず目に見えない壁に阻まれているのだった。

 

 ◇◇◇

 

 「散華『命』」が命中し、梟の羽は切り裂かれ宙を舞う。

 しかし、ただでやられる魔物とは違い、梟は果敢に俺へと向かってきた。

 翼を振りかぶって、激しく叩きつける。

 

 意外と地上でもフットワークを軽く動いており、そこには驚かされたが、どうやら戦闘は本文ではないらしい。

 そんな大振りな攻撃が当たるはずはない。

 特段早いという訳でもなく、躱すのに何ら問題はなかった。

 若干ブレる視界でも、問題なく攻撃を見切り、『狂剣士の執念』で一太刀浴びせる。

 

 再び羽が舞い、梟が呻いた。

 

 だが、その声も一度聞いてしまえば何度も気を取られるほどの物ではない。

 怯まず、攻撃を続けていく。

 

『穿岩貫』

 

 赤く鋭い眼光目掛けて剣を突き立てれば、呻き声ではなく間違いなく悲鳴を上げた。

 

 しかし、俺の耳には届かない。

 既に俺の脳はスリルに呑まれ、次の梟の攻撃に集中していた。

 

 片目を穿たれ、自慢の翼は羽の大半を失い、見るも無残な姿へと早変わり。

 だが、油断はしない。

 至上のスリルは慢心の上には成り立たない。

 

 万全の準備をし、迎え撃とうとした際、それを超えられてこそ至上のスリルが味わえるという物。

 

「イヒッ」

 

 さぁ、梟!

 見せてくれよ!

 お前のあがきを、死に物狂いで生きようとする姿を。

 そして俺に至上のスリルを味あわせてくれ!!

 

 すると、そんな俺の期待に応えるかのように梟がまだ見たことのないモーションをした。

 まるで竜巻でも起こすかのように、必死に翼をはためかせたかと思えば、既に大半の羽を失った翼で梟は勢いよく空へと飛びあがる。

 

 釣られて視線を上げれば、梟はおそらく今飛べる最大高度まで一気に上昇し、鋭利な鍵爪をこちらへ伸ばして急降下を仕掛けてくる。

 

 間違いなく、一世一代の決死の攻撃。

 確かに速さはあるが、一直線にほぼ落下しているため避けるのは容易い。

 だが、それではつまらない。

 

 この梟はモンスターハウスと言うステージギミックから始まり、こうして決死の攻撃まで見せてくれるというサービス精神旺盛な魔物だ。

 ならば、正面から迎え撃ってこそ、狂剣士、スリルを愛するものだろう。

 

 いつも俺ならば、この状況での選択肢は一つ。

 相手の攻撃を引き付けるだけ引き付けてカウンターを放つ『背水の一太刀』を狙うだろう。

 だが、せっかくの機会だ。

 

 生きるか死ぬかの勝負と行こう。

 

 俺は右手の『狂剣士の執念』を投げ捨て、左手から『剣の萌芽』を持ち替える。

 

 猶予はもう1秒もないだろう。

 しかし、極限まで集中している俺にはそれでも十分すぎるほどだった。

 

 やはり、利き手に持った方が剣は良く馴染む。

 

 さぁ、最後の一撃と行こう。

『剣の萌芽』に光が集まって行く。

 

「散華『命』」

 

『剣の萌芽』にはリーチがない。

 だからこそ、寸前まで迫った梟が居ても、問題なく振るうことが出来る。

 眼前では、青白い斬撃とか弱い防具の俺なんて簡単に引き裂いてしまいそうな鍵爪が一瞬拮抗する。が、しかし――勝負とは時に切ないものである。

 

 利き手の全力で放たれた「散華『命』」には、トウジも意識しないところで『背水の一太刀』の威力上昇バフが掛かっていた。

 つまり、ここ一番の威力を発揮した「散華『命』」は、その一瞬以外、まるで抵抗などないかのように目の前の梟を切り裂いていく。

 

 ――「ガァハッ!」

 

 納刀の構えを取ったところで、三回目の「散華『命』」による反動ダメージが俺を襲う。

 視界の歪み、ブレどころではない。世界そのものが揺れているようで、頭がガンガンと痛む。

 思わず、膝を付き、「グハァッ」内臓を抉られるような痛みと共に息を吐きだせば、その咳には少量ではない血が混ざっていた。

 

 しかし、俺の全身を満たす感覚は……

 

「あぁ、最っ高だぁ……」

 

 これまでにない、スリルと達成感。

 見上げる視界には、ぼやけて滲んでいるが、先ほどまで対峙していた梟が塵になって行く様が映っている。

 そして、最後に、赤く鋭かったあの瞳が塵へと変わるとき、俺はそこに光る何かを見て手を伸ばした。

 

 だが、どうやら体力がここまでのようだ。

 

 頭の中が白に染まって行く。

 耳の中はピンチを告げる耳障りな警告音が響き、全身から熱が無くなってしまったかのように寒さも感じて来た。

 

 ああ、くそ……もっとこの感覚に浸っていたいのに。

 

 いくらスリルを愛していても、人の身である事実を変えることはできない。

 性癖がバグっていても、危機感は正常に働いているトウジの脳が意識をシャットアウトし、トウジは光る何かに手を伸ばしたまま、その場に倒れ伏した。

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