スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう 作:嵐山田
あれからしばらくして、なぜか泣きながら目を覚ました二人を何とかなだめて、探索を再開したのだが……。
「な、なぁ、二人とも……その、歩きづらくない?」
スウォメルは全力で俺の右腕を抱きしめて、その豊満な果実がこれでもかと変形している。
ウルルについては俺の左足にしがみつき、まるで引き摺られるようにして歩いている。
「歩きづらくてもいいわ。決めたの、私はもうあなたから離れないって」
「……ウルルも、トージ、ずっと一緒」
……この会話も、そっくりそのままではないがもう数度目だ。
だが、俺が何を言ってもこうして、もう離れないの一点張りなのだった。
一体、彼女たちに何があったのだろう?
もしかしてあの梟、恐怖を与える系のスキルを二人に使っていたりしたのだろうか?
まあ、戦ってみた感じ、あいつ自身はそこまで強くなさそうだったし、そう言う盤外戦術で戦ってくるタイプだったのかもな。
雑魚処理せずに戦ったら、もっとスリルあったかな?
……っと、いけないいけない。
また思考がスリルに寄って行ってた。
俺はスリル好きだが、分別のあるスリル好きだ。
自慰行為を覚えた猿のように常に盛っている訳ではない。
今はこの二人を何とかする方法を考えよう。
「ねぇ、トウジ? やっぱり次の部屋からは私も戦いに加わるわ。足手まといにはならないようにするし、すぐに回復魔法かけられる位置に居たいから」
「……ウルルも、トージ助けたい」
なんてことを考えていれば、二人は俺にそんな提案をしてくる。
……これは非常に良くない流れだ。
正直なことを話せば、……え? スリル? 何言ってるの??? なんて反応になることは間違いないだろうし、かと言ってそれ以外に今の提案を断るような文句を俺は持ち合わせていない。
だが、もう一つの事実として、二人が戦えるのかが分からないというのもあった。
結局スウォメルの戦闘姿だって、初めて会ったあの時くらいにしか見ていないし、ウルルに関してはとてもじゃないが戦えるようには見えない。
分別のあるスリル好きとして、自分の命が掛かってスリルが高まるのはどんとこいだが、自分のために仲間に命を賭けてもらうのは俺の趣味ではない。
徘徊型から逃げている時には、仲間の命を背負っている感覚で昂っていたが、あれだって最悪の場合は俺が一人であいつを引き留め、二人を逃がそうと言う算段があったからこそだ。
やはり……なんとかして、断らねば。
右腕と左足にかかる温かいながらも何だか妙な湿り気を感じる重さに意識を改め、思考する。
この場を収める最適解は……。
………………
………………
………………
ちょうど三人が並んで歩ける程度の広さしかない狭い道にカツカツと足音が響く。
奈落を取り巻く空気はシンとした冷たいものだが、俺の周りはなんだかジットリとした重さがあった。
だが、そんな環境の中で、俺は――
「二人の気持ちは嬉しい。だけど、やっぱりその提案には乗れない。二人が俺のことを思ってくれているように、俺も二人のことを思っているんだ」
七割の本心を三割の本心で包み隠すことにした。
この言葉に嘘は含まれないからブラフでもない。
ただ、全てを話さないだけだ。
「はぅん」
「……ふ」
スウォメルとウルルから驚いたような、少し嬉しいところを不意に突かれたとでも言うような返事が漏れるのを聞きながら、俺は続ける。
「残念ながら俺は敵の攻撃を引き寄せたり、受け止めたりすることが得意なタイプじゃない。一対一で正面切った戦い以外では、並以下の剣士に成り下がってしまう。そんな中で二人のことを守れるとは到底思えない。もちろん、二人だって自衛の手段くらいは持っているのかもしれないけど……やっぱり不安だからさ――」
右腕と左足に感じる圧が強くなる。
感情の赴くままに強く抱きしめてくれているらしい。
「だから、二人には俺を見ていて欲しいんだ。もちろん、魔法のバックアップは助かってるし今後もしてもらいたいけど。それだけで本当に充分なんだ。いつもありがとうスウォメル、ウルル。俺は二人の存在そのものに助けられてるよ」
「「……」」
最後まで言い切れば、再び足音だけが耳に響く静寂が訪れる。
やがて、俺にしがみついていた二人はその手を、身体を離した。
……何か、間違えただろうか?
と、失敗が不意に思考を過る。
だが……
「分かったわ。トウジがそこまで私たちのことを考えていてくれるのなら」
「……ん。トージ、信じる」
先日、徘徊型、あの無貌の死神から逃げ切った後、そうしてくれたようにまた二人が俺の手を取ってそう言った。
「二人ともありが――」
どうやら上手くいったようだ。
と、そんな成功に身をまかせ、二人の顔を見ながらお礼を口にしようとして、固まる。
なぜか、二人の目が据わっている気がする。
……これは奈落の暗闇のせいだろうか?
両側から、正に深淵を覗くような視線を向けられて、言葉が止まった。
「――とう」
だが、何とか持ち直して最後まで言い切り、一先ず二人の目は見ないことにして、俺は少しだけ歩む足を速めた。
気のせいだろうか?
左手の中指に嵌まった『剣鬼の未練』と亜空間収納に入れているはずの『帰還の鍵』二本が淡い光を放っていた気がするのは……。
◇◇◇
「次の部屋ね……どうやらまた、番人はいなさそうだけど……」
この奈落と言う危険地帯を三人仲良く手をつないで歩いて来れば、いつも通りぽっかりと穴の開いたような空間が現れる。
スウォメルの言った通り、現時点で確認できる限りでは番人や魔物の姿は見えなかった。
「……でも、さっきみたいなのは、や」
俺が先行して確認する、と言うのを封じるようにウルルが珍しく積極的に声を上げる。
「そうね。戦いはこれまで通りトウジに任せるけれど、私たちも部屋には一緒に入らせてもらうわ」
向けられるのは強い意志の籠った視線。
さすがにこれは断れそうにない。
まあ、部屋の隅にいるだけなら、道に隠れているのとさほど違いはないだろう。
道にも部屋にもどうせ身を隠せるような障害物はないからな。
「分かった。今回は一緒に入ろう」
三人で頷き合って、繋いでいた手を離す。
さすがに危険地帯に踏み込もうと言うのに、危機感のないことはしない。
だが、温もりは離れても、二人の存在をしっかりと隣に感じる。
そして、俺たちは三人揃ってその部屋へ一歩を踏み出した。
「――?」
意を決して踏み入れたその部屋だが、不意に何かが襲ってくることもなければ、先ほどのように退路を断たれてしまうような事態は起きなかった。
「なんだか拍子抜けしちゃうわね」
「……ん。あんまり、ここ、変な感じ、しない」
スウォメルが大きく息を吐きながらぼやけば、ウルルも辺りをきょろきょろとしながらも嫌な顔はしていない。
「まだ、何かが起こるかもしれないけど……一先ず休憩にするか?」
もちろん警戒は続けているが、ここまでもかなりの距離を歩いてきた。
またいつあの徘徊型と遭遇するとも限らない。
休めるときに休んでおくべきだろうと、提案する。
「そうね。念のためぐるっと部屋を一周してから、休みましょうか」
「……ん」
「わかった」
スウォメルの言葉に否はない。
俺たちは再び、三人並んで部屋の壁に沿って歩きはじめる。
「ねえ、トウジ。ここに来てから戦ってきた中で一番強かった魔物って何かしら? あ、もちろんあの徘徊型はなしにしてね」
大きな部屋だ。
ぐるりと一周回って来るのにもそこそこ時間がかかる。
そんな間の暇つぶしも兼ねてか、スウォメルが聞いてきた。
「一番強かった魔物か……」
言われてから、これまでの戦いを振り返る。
無貌の死神の印象が強すぎて忘れていたが、言われてみれば確かにここに来てから俺は相当数の魔物を狩って来た。
だが、一番強かった魔物、相手と言われて一番に思いつくのは――
「やっぱり骸骨剣士センパイかなぁ……」
「……センパイ、って?」
思わず内心で呼んでいた愛称が出てしまいそこにウルルが突っ込んでくる。
「ああ、俺の国では自分の道の先を行く人をセンパイって言う文化があったんだ」
「……そう、なんだ。なんか、不思議な響き」
「あの骸骨剣士ね……確かにあの時のトウジは――すごかったわ」
センパイと言う言葉を何度も繰り返すウルルと、言いかけた言葉を何とか飲み込んで大雑把にまとめたように話すスウォメル。
そんな彼女たちの姿を横目に俺も想い耽る。
ああ……やはり今思い返しても骸骨剣士センパイとの戦いは楽しかった。
魔物との戦いは俺の技VS力押しと言う感覚が強い。
二層の初めに戦った二体の奈落の番人たちはそれなりに戦術立てた動きもして来たが、それだっておそらく実際の戦闘からしてみれば素人に毛が生えた程度の戦略だっただろう。
だが、骸骨剣士センパイとの戦闘は言わば技と技のぶつかり合い。
体格にもおそらくそれほど差はなく、あったのは武器の差と知識の差だ。
俺には骸骨剣士センパイから継承した『狂剣士の執念』とその剣技があった。
だから、センパイの動きを初見でも見切ることが出来たし、最適なカウンターで返り討ちにすることも出来た。
出来ることならまた、骸骨剣士センパイと戦いたいところだけど……。
あの戦闘以外にセンパイのことで思い起こされるのはやはり、二層への逃走時だ。
あの時、一体どうやってセンパイは俺の元へ現れてくれたのだろうか?
スウォメルを道に隠して、センパイと戦った後、センパイは間違いなく、他の魔物と同じように塵となって散って行ったはずだ。
……だが、あの時俺と無貌の死神の間に差し込まれた剣は間違いなくセンパイの物だった。
見間違うはずはない。
本当に、どうやって……。
なんて、考えていた時だった。
「……トージ、なんか、長い。あと、音、変」
不意に俺の服の裾を引いたウルルがそう呟いた。
「え?」
言われて、俺とスウォメルも咄嗟に足を止める。
だが、ウルルの言った通り、なぜか足を止めた音が耳に届かなかった。
そして、すぐ後ろを振り返ると――
「どうしてっ!?」
スウォメルがその事実を確認した瞬間に声を上げた。
だが、俺もウルルもその声に反応することはできない。
振り返ってすぐそこに見えるのは、間違いなく俺たちが入って来たはずの道へと続く横穴。
まだ、この部屋の先を行く道を見つけていないのだから、それに間違いはない。
問題は――
「かなり歩いたはずなのに、入口がまだこんなにすぐ近くってどうなってるの!?」
スウォメルの言葉の通り。
かなりの距離を歩いたはずなのに、ほとんど距離が進んでいないという信じられない事実だった。