スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう 作:嵐山田
咄嗟に全員で周囲を警戒する。
だがやはり、危険を感じさせる何かは見当たらない。
先日の梟の例から、当然上空を見上げてみたが……暗くて全てが見えた訳ではないが、あの梟のように
と、すればこの部屋は何なのか?
考えられるとすれば……実は床に番号が振ってあって順番通りに進まないと進めない的な今度こそ部屋ギミック展開だろうか?
いや、マス目どころか無限に選択肢があるこの部屋でそれは流石に考えにくいか。
だが、ここがゲームが元になっている以上、クリアできないギミックと言うはずはないだろう。
他に何か……あるだろうか?
なんて、俺が一人で思考を巡らせていれば……
「ここ、部屋全体に魔方陣が敷かれているのかもしれないわ。……ごめんなさい、魔法知識と回復魔法だけが私の存在意義なのに」
一人その場にしゃがみ込んで地面をジッと見つめていたスウォメルがボヤいた。
「……スウォメルの、せいじゃない。ウルルも、気付けなかった。また、トージの足を引っ張った」
すると、そんな鬱々とした空気が伝染するようにウルルが耳を下げながら呟く。
「いや、二人とも謝る必要はない。もしかしたら、部屋に入ることとか、一定時間の経過が魔法の発動条件かもしれないだろ? それに、危険を察知できなかったんだから二人が悪いなら俺も悪い。今はこの部屋を出る方法を考えよう」
「……そうね。ここでこうしていても埒が明かないわ。ごめんなさい、ありがとうトウジ」
「……うん。トージの言う通り。ウルルも、考える」
しかし、この状況で鬱々しているわけにはいかないと自分たちでも思っていたのだろう。
二人は俺の言葉にすぐに切り替えてくれた。
「それで、スウォメル。悪いんだが、魔方陣って何なんだ?」
流れをそのまま、部屋の話へとシフトさせる。
まずは気になった魔方陣についてを質問してみた。
「えっと、魔方陣って言うのはいわゆる設置型魔法なんて言う風にも呼ばれたりする魔法のことね。さっきトウジが言ったように何か条件を満たすと効果が発動する物が多いわ」
まあ、効果と言うか魔方陣そのものについては概ね想像通りだったな。
「……この部屋、その、魔方陣、あるの?」
「ええ、すごく精度が高くて、じっくり観察してようやく先端を見つけられるくらい高度な魔方陣が敷かれているわ……こんな魔方陣、魔法学校の古い蔵書でも見たことないわ」
俺に続けてウルルが聞けば、スウォメルはもう一度地面へと視線を落としながら、感嘆とも思えるような声で言った。
「それに……魔方陣で発動できる魔法は基本的に一つと決まっているはずなのよ。なのに、この部屋は少なくとも私たちの感覚を惑わせるような魔法と幻覚、もしくは認識を阻害するような魔法が掛けられているわ。こんなの……信じられない」
改めて地面をなぞりながらそう口にするスウォメル。
「魔方陣を解除する方法はあるのか?」
「……そうね。ないとは言えないわ。だけど……このレベルの魔方陣には解除されることも想定して、反撃の魔法なんかが仕込まれていてもおかしくないわ」
根本的な質問にスウォメルは控えめに答える。
どうやら、解除方法の算段は付いているらしい。
ただ、それにはどうやら
もちろん、二人のことを危険に晒したくないという感情は変わっていない。
だが、それ以上に俺はその反撃の魔法とやらに興味を持ってしまっていた。
おかしい。
俺は分別のあるスリル好きだったはずなのに。
魔法陣を解除するのがスウォメルと言う部分が大きいのだろうか?
おそらく俺より魔法に詳しいスウォメルなら、自分より危険が少ないのかもしれないと深層心理では認識しているのだ。
「でも、現状対応策はそれくらいしかないだろ? なら……」
俺は先走りそうになる言葉を何とか止めてウルルの方を見る。
「……うん。ウルルも、スウォメルに、任せる」
すると、俺の期待通りウルルも魔方陣の解除に賛同してくれた。
「二人とも……! 分かったわ。でも、こんな高度な魔方陣は本当に初めてだから、何が起こるか分からないのも本当よ。トウジ……もしもの時はウルルをお願いね」
スウォメルは意を決したように立ち上がり、あの大槌を取り出して構えながら優し気な笑みを向けてくる。
「……何言ってんだスウォメル。スウォメルのことだって俺が何とかするさ」
だが、俺はその笑みに頷きは返さない。
だって――
「はうぅん!」
「……クヒッ」
スウォメルがビクンと身体を震わせ、嬌声を上げる。
その隣で俺は、漏れ出る笑みを必死に抑えた。
――そんなスリルを最前線で体験できるかもしれない機会を逃すわけにはいかないだろうっ!?
スウォメルには悪いが、魔方陣の解除が終わったら速やかに俺の背後へ回ってもらいたい。
「……」
脇腹の辺りにウルルの視線が突き刺さっている気がするが、まあ、きっと彼女も集中しているのだろう。
「……あ、ありがとうトウジ。ンンッ! じゃ、じゃあ! 行くわよ!」
そう言ってスウォメルが大槌を奈落の暗い天に掲げる。
すると槌の頭に光が集まって行く。
それは久しぶりに見る太陽と勘違いしそうなほどに眩く、強く熱い光を放っている。
……こんな技があるなら、あの時も使えば良かったのでは? と思わなくもないが、かれこれ二十秒以上スウォメルは大槌を掲げたまま停止している。
詠唱時間が長い系なのだろうか?
なんて考えていれば、スウォメルの纏う空気が変わった。
そして――
ドガンッ!
と、大きな音を響かせて、スウォメルの細腕からは信じられない速度で大槌が振り下ろされた。
すると、その衝撃に反応するかのように俺たちの足元が光だし、あっという間に俺とウルルには全く見えていなかった魔方陣がその全貌を現した。
魔方陣は正しくと言った様相を呈しており、俺には全く解読不能の文字列が激しく回転している。
「トウジ! ウルル! 何かあるわ! 気を付けて!」
急ぎ大槌をしまって、こちらに飛び込んでくるスウォメルを受け止め、俺は立ち位置を入れ替えるように前に出て、二人を壁沿いに庇うように立つ。
さぁ! なんでも来やがれ!
「……霧の、感じ」
俺が『狂剣士の執念』を構えれば、後ろでウルルがそう呟いた。
そして、ほどなくすると、まるで白いガスか何かが噴き出して来たかのように部屋中に濃く深い霧が立ち込めていく。
「スウォメル、これが反撃の魔法か?」
「ごめんなさい、そこまでは分からないわ……けど、これが魔方陣を解除しようとしたことに反応していることだけは確かだと思う!」
「そうか、分かった! じゃあ二人はそこからなるべく動かないようにしてくれっ」
それさえわかれば問題ない。
霧の演出のおかげで俺のスリルセンサーはバチバチに立っている。
さぁ、いつだ? いつ来るんだっ!?
……だが、スリルセンサーはビンビンだと言うのに、どうしてだろうか?
やはり何かがくる気配も、こちらに向けられた殺意も全く感じられない。
なんだ?
何がどうなっている?
俺のスリルセンサーは一体何に反応しているんだ?
――トスッ
すると、背後で何かが倒れるような音がした。
「……えっ? ウルル? ウルルっ! どうしたのっ!」
続けて、取り乱したスウォメルの声も聞こえてきて、流石に振り返れば――
そこではまるで猫のように丸くなって眠っているウルルの姿があった。
「……寝てる、のか?」
確認の意を込めて、ウルルの姿を見たままスウォメルに語り掛ける。
だが、返事はない。
そして……パサリ、とスウォメルの服が擦れるような音を立て、ウルルを見たままだった俺の視界に入り込む。
「……トウジ、この霧は、フェイクよ。本命は……」
すぐに服だけでなく、その顔も俺の視界に入り込んできたスウォメルが閉じかけた目を必死に開けて、何かを伝えようとして来る。
しかし、それももう、遅かったようだ。
ガクン、と膝の力が抜けその場に膝を付いてしまう。
俺は自分の身に変化が現れてから、ようやくそれを理解した。
スウォメルが伝えたかったこと、それは……この霧は本命の攻撃手段を隠すためのフェイク、そしてその本命の攻撃手段とは――
重くなってくる瞼に抗うことが出来ない。
クソッ! 状態異常系かよ……道理でスリルセンサーは反応しているのに殺気も気配もないわけだ……。
おそらくこの部屋の、いや、魔方陣の狙いはこちらを睡魔へ誘うこと。
「……チッ。これじゃあ、スリルもクソもねぇじゃねぇか」
最後の力を振り絞って悪態を吐いて見るも、俺より魔法抵抗力なんかは高そうなスウォメルがあっさりと眠らされているんだ。
初期防具で防御性能皆無の俺が抵抗できるはずもなく……。
こうして俺たちは三人仲良く、魔方陣の反撃魔法? によって、無防備なまま抗いようの無い睡魔に落とされて行くのだった。
最後に見た景色は……何やらまた違た色の光を放つ床に敷かれた魔法陣だった。