スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう 作:嵐山田
そこは図書館のような場所だった。
視界の先ではどこかで見覚えのある少女が制服姿で必死に机に向かっている。
その姿勢を見るだけで、彼女が真面目な学生であろうことは容易に想像が出来た。
身体を動かすことは叶わない。
そうして俺はまるで映画でも見せられているかのように、動き出す目の前の光景を見ることしかできなかった。
視点が切り替わり、少女の顔が映る。
その顔はもう見間違えようがない、スウォメルの顔だった。
……そう言えばスウォメルは魔法学校に通っていたと言っていたな。
これはもしかしてスウォメルの記憶だろうか?
画面を見せられるような視点でスウォメルを見ながら考えていれば、スウォメルの元へ白く靄がかった何かがやって来て手紙を渡した。
スウォメルはその存在に疑問を抱く素振りすら見せず、その手紙を受け取ると、恐らく差出人が書かれているだろう箇所を見て、身体を固くした。
大きく、深呼吸を一つ。
そして意を決したスウォメルは手紙の封に手を掛け、一気に開く。
そして内容を一読すると……
「やった!」
と、小さな声を上げ、ガッツポーズをして見せる。
その姿を見れば、俺はおのずとこれがスウォメルの過去の記憶であろうことを察することが出来た。これはきっといつかに聞いた彼女の最悪の始まりである魔王討伐パーティへの召集シーンなのだろう。
映像が切り替わる。
今度はパーティメンバーとの顔合わせのシーンだろうか?
やけに豪華そうな武器、防具を身に纏った一人の男と、タイプの違う六人の美少女の面々の中にスウォメルの姿もあった。
……比重が偏り過ぎてるだろ。
と言うか、男以外皆同じ制服を着てるけど、もしかして全員魔法学校の生徒なのか?
すると、一人一人順番にその豪華男の前にでて、自己紹介をしていく。
まあ、恐らくあの男が勇者ポジなのだろう。
だとして、このアンバランスなパーティはセンスがないの一言に尽きる。
もしかしたら、物理攻撃で殴るタイプの魔法使いがいるのかもしれないが、前衛1に対して後衛6は頭がおかしいとしか言いようがない。
自己紹介をしていく少女たちは皆やる気に満ちた表情をしているが、それゆえか目の前の男の下卑た視線に気がついていないようだ。
「スウォメルと言います。得意魔法は回復魔法で、その他の魔法知識にも自信があります!」
スウォメルもそんな例に漏れず、やる気満々な表情で自己紹介をしていた。
……再び、映像が切り替わる。
「今日はお前な? 夜、俺の部屋に来るように」
「へっ! お前も好きだな」
「フッ、良いだろう? 世間知らずのお嬢様たちを好きに出来るんだ」
「俺は乗り気な姉ちゃんとかの方が好みだけどよ」
「では、今度は格闘家の国とやらに寄ってみるか? 勇者の名があれば、皆喜んで力を貸すはずだ」
「お! マジかよ! ケッケッケ、流石は最強の勇者様、懐が広いぜ!」
先ほどの豪華男ともう一人、人相の悪い男がそんな会話をしていた。
豪華男はともかく、人相の悪い方は中々強者に見える。
「……はい」
そして自己紹介をしていた六人のうち一人が死んだ顔で返事をしている。
よく見れば、スウォメル以外は皆死んだ顔をしていた。
……なるほど、な。
それだけ見れば、何となく事情は察することが出来た。
クズどもめ。
やはり人間は簡単に落ちるところまで落ちることが出来るらしい。
ただ、それ以上に俺はスウォメルだけがこの中で死んだ顔をしていないことを不思議に思っていた。
「……ねえ、スウォメル。あなたはいいわよね。昨日あいつが言っていたわ、あなたは最高の肉体だから最後に取っておくって」
「……え?」
スウォメルは何の話だとでも言う風に首をかしげる。
「あの、私、このパーティには前衛が足りないと思うの! だから、これ! 今日買って来たから、旅に出たら、私前線で戦うね! あと、皆の服の洗濯もしておいたわ!」
そしてスウォメルは笑顔で死んだ顔の五人に服を返していく。
そんな光景を見せられて俺は……まさか、と息を呑んだ。
そして、どうやらそれはスウォメルに話しかけた少女も同じだったようだ。
この時、この時点ではスウォメルはこのパーティで何が起きているかを理解していなかったんだ。
すると、スウォメルの周りに死んだ顔の五人が集まる。
「……え、皆? どうしたの?」
急に詰め寄った五人にスウォメルがたじろぐ。
そんなスウォメルを置いて、他の五人は何かを確認するように頷き合った。
また、映像が変わった。
「スウォメル! 今日の分の洗濯と買い出しは?」
「え、あ、今から……」
「おっそいのよ! ほんととろいわねあんた! 早く行ってきなさい!」
「は、はい!」
今度の映像ではスウォメルがまるでパシリのように扱われていた。
相手は先ほど死んだ顔をしていた五人によって、だ。
そうして、スウォメルが急いで買い出しに出ると、すれ違うようにして豪華男が部屋にやってくる。
「おい! あの女はどこだ!」
「……すみません。どこかへ行ったきり、見当たらず……」
「チッ! こんなことなら、早く手を付けて教え込んでおくべきだったか。いつも余計な口出しばかりしてきやがって、肝心な時には居もせず、全くの役立たずめ」
豪華男は吐き捨てるように文句を言いながら、手近な女の腕を掴み、部屋を出て行く。
「……あの子は、スウォメルはこんなところで腐らせるべきじゃないわ」
四人だけになった部屋で一人がそう呟けば、残りの三人も強く頷く。
まるで、それだけが彼女たちにとっての最後の希望だとでも言うかのように。
そして、映像が切り替わる。
「お前、いい加減にしろよ!」
「……え?」
そこは先ほどまでとは違い、そこそこに深そうな森の中だった。
そこで豪華男とスウォメルが向かい合っている。
「身持ちが固いのは良いが、いい加減ヤらせろって言ってんだよ!」
「え? やらせるって、何をですか? 戦いなら、まだまだ付け焼刃ですが、頑張れます!」
「……はぁ、マジで言ってんの?」
「はい!」
「……ここまで馬鹿だと、話にならないな。いいか? 選ばせてやる、今俺に股を開くかここで死ぬか、選べよ」
「はい? え、股、死ぬ? どういうことですか?」
「……はぁぁぁ、もういいっ!」
「きゃっ!」
スウォメルは豪華男に腕を掴まれ悲鳴を上げる。
離せっ! と、俺が手を伸ばそうとしたところで体は動かず、恐らく動かせても意味がないだろう。
すると、そこへ……
「スウォメル!」
死んだ顔をしていた五人の少女がやって来た。
その表情は今ばかりは死は死でも必死の一言に尽きるそんな表情で、何とかスウォメルを探し出そうと走っていた様が伝わってくる。
「チッ! 俺は一対一じゃないと集中できないんだ! お前がさっさとしないから、余計な奴らが来たじゃないか!」
「いやっ! やめてっ!」
その時だった。
豪華男の手を振りほどこうと暴れたスウォメルの数歩先に急に深く、暗い闇が出現する。
そして、豪華男の手を振りほどいたスウォメルは体勢を崩し……
その闇の中へと吸い込まれるように落ちて行った。
◇◇◇
……チッ、胸糞悪いものを見せられた。
けど……スウォメルと一緒に居た五人の少女たち。
彼女たちは……腐っていなかった。
スウォメルはそのことを知っているのだろうか?
いや、知らなくていいのかもしれない。
思い込みの強いスウォメルのことだ。
自分が守られていたことをしれば、憎悪に加えて責任も感じてしまうかもしれない。
あの状況から逃げ出せた。
きっと彼女にはそれで十分だろう。
あの五人もそれを望んでいるんじゃないだろうか。
……あの五人が自分たちの身体を使ってまで救ったスウォメル。
この先は出来る限り俺が守ろう。
意図せず境遇を知ってしまった身として、それくらいはさせて欲しい。
結果的にそんな気持ちを抱かせるような映像だった。
………………いや、待て。
そう言えばこれは何なんだ?
スウォメルの過去を見せられたであろうことは分かったが、だから何だと言うのだろうか?
……と、考えては見たものの、しかし、考えがまとまる前に視界が暗転し、かと思えば、また新たな映像へと切り替わった。
◇◇◇
今度の映像は森の中から始まった。
だが、先ほどスウォメルが奈落に飲み込まれたであろう場所とは植生が全く違い、背の高い木々に囲まれた森の中にある集落のような場所だった。
「おい、狩りの時間だ。行くぞ」
「……ん」
そして、そんな集落の端。
一人で膝を抱えてつまらなさそうにしていた少女。
今よりも幼いが、彼女のことも間違えるはずがない。
その少女はウルルだった。
……どうやら、今度はウルルの過去を見せられるらしい。
抵抗しようとしても目の前の映像をどうにかすることはできない。
俺は諦めて、さらに映像が進むのを待った。