スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう 作:嵐山田
ウルル三人分はあるんじゃないかと思われる獣人の男に呼び出され、ウルルはその小さい手足を懸命に動かしてついて行く。
一見すれば、微笑ましい光景かもしれないが、獣人の男の目を見ればそんな温かいものではないことなど一目瞭然だった。
獣人の男の牙は口から飛び出すほどに長く、先日ウルルが言っていた話から考えれば、上位の存在であろうことが想像できた。
そうしてウルルが連れてこられた先はボロボロの荷台の上だった。
おそらく狩った獲物などを載せて持ち帰るためだけに使われる、車輪も歪な形の荷台にウルルは投げ込まれるようにして載せられる。
そして……
「付けておけ」
そこにいたウルルと同じくらいの年代から、明らかに年上そうだが、牙だけは短い獣人に向けて鈴付きの首輪のような物が投げ渡される。
投げ渡した獣人の顔は何故か靄がかっており、牙以外を確認することは出来なかった。
だが、そんなことを気にする素振りもなく、ウルルたちはその首輪を特に抵抗なく取り付けた。
すると周りにいた牙の長い獣人たちは荷台から徐々に距離を取って行き、荷台を引く一人だけが残され、荷台が動き出した。
映像が切り替わる。
「ウルルちゃん、今日も頑張ろうね!」
「……ん、頑張る」
次の映像は引かれている荷台上のシーンだった。
ウルルたちの首に付けられた鈴が舗装されていない道と歪な車輪による衝撃で揺らされ、不定のリズムで音を奏でている。
そこではウルルより少しだけ牙の長い少女がはにかんだ笑顔でウルルに話しかけている。
ウルルは相変わらずの無表情だが、その少女には少しだけ柔らかな雰囲気で応対しているように感じられた。
すると……ガンっ! と、ここ一番の大きな揺れが荷台を揺らす。
その瞬間、荷台を引いていた獣人は引く手を止めて、一目散に荷台を捨て去る。
……なんだ?
一体何が……?
俺が咄嗟のことに状況が飲み込めずにいれば、映像の中ではウルルたちがいそいそと荷台を降りていた。
「じゃあ、ウルルちゃん。私たちはあっちに走ろう」
「……ん」
そして二人は短い脚をバタつかせるようにして、足場の悪い森の中を走り出した。
他の鈴付きの獣人たちもウルルたちとは別方向に走り出す。
するとすぐに、『グルルルル』と言う、低い唸り声が聞こえて来た。
……まさか、ウルルの言っていた囮役ってこのことなのか?
その唸り声を聞いた途端、俺はそのあまりに非効率的で非人道的な想像をしてしまった。
信じたくない、だが、恐らく、この思考が正解なのだろう。
ウルルの言っていた囮役、あれは文字通りの囮役なのだ。
攻撃を引き寄せたり、注意を逸らす囮ではなく、狩り対象のエサになるという意味の囮。
明らかにウルルたちの命については考えられていない、消耗品としての扱い。
……クソが!
懸命に走るウルルたちの元へ、イノシシのように反り返った牙を持った獣? が突っ込んでくる。
あんなものの突進を喰らってしまえば、ウルルやもう一人の少女ではひとたまりもないだろう。
だが、周囲に潜んでいるのであろう牙の長い獣人たちが介入してくる気配はまるでなかった。
「ウルルちゃん! そこの木で一回二手に分かれよう!」
「……ん、わかった」
背後から刻一刻と迫るイノシシのような何かをチラチラと確認しながら、少女が作戦を立案し、ウルルもそれに乗る。
そして二人が二手に分かれた瞬間だった。
ウルルの身体が突然光を放つ。
まるでレベルアップの瞬間のような輝きを放つその光はウルルの身体を薄い紫色に包んだ。
イノシシのような獣はその光を嫌ってか、それとも光で一瞬目が眩んだのか、纏わりついた何かを振り払うように突進の体勢のまま首を振るい……そのせいか、目の前の木に気が付かず勢いそのまま木に向かって頭突きを放ち、その場に倒れ込んだのだった。
再び映像が変わった。
映像はこれまでの森の中ではなく、恐らくどこかの部屋の中。
その隅にウルルと少女が隣り合って座っていた。
「森の神の恵みと恩寵に感謝を」
そんな部屋の中心に座す、ひと際牙の長い獣人が先ほどウルルたちが狩ったであろうイノシシのような獣と、そして部屋の壁の高い位置に掲げられた長い牙の飾りのような物に祈りを捧げている。
「ウルルちゃん、さっきのすごかったね」
そんな獣人たちの傍らで、今日の功労者であろう二人は小さくなって祈りを捧げるフリをしながら小さな声で話していた。
「……ウルル、よくわからない」
「でも、長牙様たちの力を借りなくても獲物を狩れたんだよ!」
「……ん。でも、サララの作戦のおかげ」
「ふふっ、ウルルちゃん、優しいね。明日も頑張ろ!」
「……ん」
微笑ましい光景だった。
だが、俺はこの後の展開をウルルから聞いてしまっているため、何とも居たたまれない感情に
……想像通り、ここでまた映像が変わった。
次の映像はウルルとサララと呼ばれた少女が二人掛かりであのイノシシのような獣と戦っているシーンだった。
前回と違うのは、ただ逃げるだけだった二人に武器のような物が持たされていることである。
「ウルルちゃん! お願い!」
「……ん!」
ウルルが魔法を発動する。
すると、ウルルの身体と共に、イノシシ、そしてサララの身体を薄紫の光が包み込んだ。
……なるほど、あれがウルルの魔法なのか。
戦いの中では戦闘の方ばかりに注意が行っていて気が付かなかったが、恐らく俺の周りにも敵の周りにもあんな風に薄紫の光が包んでいたのだろう。
つまり、今はイノシシ、サララ両者ともに防御力が低下した状態。
「よーし! 行くよっ!」
サララは魔法の発動を確認すると、軽妙なフットワークを攻撃的な物へと変更し、薄くも確かなダメージを蓄積できているであろう攻撃を叩き込んでいく。
一発、二発……その連撃は止まらず、そして――
「これで、終わりっ!」
手に持った双剣のような二本のナイフをイノシシの脳天へと突き立てる。
誰が見ても分かる、致命の一撃だった。
「やった! ウルルちゃん! 今日も狩れたね!」
だが、だからこそ、油断すべきではなかった。
彼女は幼い、まだ戦闘の経験も大してないのだろう。
そして、何より、底抜けに優しいのだろう。
だから、相手の死を確認するより先にウルルの方へ笑顔を向けてしまったのだ。
「……サララっ!」
ウルルの顔が歪む。
その声にサララは咄嗟に振り返るも、時すでに遅し。
そこには、決死の攻撃に牙を振るイノシシの顔があった。
受け身が間に合うはずもなく、その攻撃はサララを掠める。
おそらく、それだけならば、まだ何とかなっただろう。
しかし、神は笑顔で最悪を突きつける。
イノシシの決死の攻撃が掠めたのは少しだけせり出たサララの牙だった。
おそらく、あの牙はそう簡単に折れるものではないのだろう。
だからこそ、牙狼族では誇りと権威の象徴であり、祀るほどの物となっているのだろう。
だが、今のサララにはウルルの防御デバフが入っている。
「――キャッ!」
短い悲鳴とそれを超えて耳に届くバキっ! と言った絶望の音。
サララの短い牙の先が儚く宙を舞う。
すると、そこへ……
「おい、牙が折れたぞ!」
「なんだと……牙猪の攻撃程度では我々の牙が折れるはずがない」
「だから私は言ったのだ、あの力は呪いだと!」
付近で二人の借りを見守っていたであろう牙の長い獣人たちがわらわらと集まって来て騒ぎ出す。
「……サララ!」
ウルルはサララの元へ駆け寄った。
必死の形相で、目元には大粒の涙を携えている。
だが……
「近寄るな! クソッ! だからこんな親なし、牙なしのガキなんかと付き合うなと言ったのに!」
「誰か! あの呪い使いを捕えて! ウチのサララを、こんな目に合わせた一族の裏切り者を!」
「……ウルル、ちゃん……」
おそらく、サララの両親だろう。
駆け寄るウルルを払い除け、心無い言葉をこれでもかとウルルに投げかける。
……黙れっ! 怒鳴ろうとしても、声は届かない。
クソっ、ウルル……。
吹き飛ばされた先でも、自分の痛みよりサララを気にして心配そうな視線を向けるウルルに心が痛む。
そして、また、映像が切り替わった。
それは街の中だった。
先ほどより、少し背が高くなり、俺の知っている顔に近づいたウルルが夜の街を必死に駆けていた。
「あっちへ行ったぞ!」
「追え! 醜い獣人が資料館の資料を持ち逃げした!」
そんな声が聞こえてくるが、ウルルは手ぶらでその恰好からも、とてもじゃないが何か資料を隠せるとは思えない。
「……ウルル、盗ってないのに」
呟く顔には大きな疲れが見て取れる。
だが、ウルルは懸命に走り続けた。
そして、走り抜けた先は森の中。
しかし、獣人たちが暮らしていた森とは植生が違うようで、ウルルがかなりの距離を逃げて来たであろうことが想像できた。
映像はウルルの顔を大きく映し出す。
その顔にはもはや色は宿っていなかった。
見えるのは疲れ、失望、悲哀、そんなマイナスな感情ばかり。
「……どこかで、休み、たい」
ウルルが呟くと、まるでそれに応えるように視線の先に闇が出現した。
間違いなくあれが、奈落への入口。
「……洞穴? あそこで、ちょっと、休む」
よろよろと半分転んだようになりながら、ウルルは奈落への穴へ身体を転がり込ませ――。
そこで映像が暗転した。
◇◇◇
……スウォメルに引き続き、ウルルの過去も壮絶だったな。
二人とも、何も悪いことはしていない。
ただ、周りに恵まれなかっただけだ。
そんな二人を俺は心のどこかで未だ信用しきれずにいた。
俺にも嫌な過去がある。
だが、二人と比べてしまえばなんてことない。
あんなことで人間不信になっていただなんて、二人に知られたら、笑われちまうな……。
決めた。
スウォメルもウルルも出来る限り、俺が守ろう。
俺がこの世界でどういう扱いになっているのかは分からない。
だが、せめて、奈落を脱出するところまでは、何があっても二人を守ろう。
あんな苦労をして来た二人だ。
きっと奈落を出た先には明るい未来が待っているはず。
俺はそんな明るい未来へ彼女たちを連れて行けるように、まずは奈落を踏破しなくちゃな。
二人の過去の記憶を見せられて、俺の中にはそんな使命感が生まれていた。
二人の過去を見せられる回でした!
トウジは決意を新たに二人を守ることを誓いました!
……さて、では、スウォメルとウルルの二人は何を見ているのでしょうか?
高評価、お気に入り登録等していただけると執筆の励みになりますのでよろしくお願いします!
カクヨム版も応援よろしくお願いします!!
https://kakuyomu.jp/works/2912051596293040635