スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう   作:嵐山田

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2.勘違い

 急に現れて、私を庇い、奈落の番人を一太刀で沈め、そして今は私の膝の上で気を失っているこの男はいったい何者なのだろう?

 

 私、スウォメルはあまりの衝撃に先ほどの光景が頭に灼き付いて離れなくなってしまっていた。

 

 奈落の番人。

 深淵奈落と呼ばれるこの大穴のその先を守っている巨大で均一な岩で形成されたゴーレム。

 この深淵奈落の奥地には、人知の及ばない秘術や秘宝など望むもの全てが眠っていると言われている。

 そのため、かつては多くの人たちが一攫千金または大願成就のためにこの奈落へと足を踏み入れた。

 だが、奈落より戻った者は確かに望みの物を手に入れることは出来ても、その精神を著しく損耗し、結局日常生活すらままならなくなることが多かったそうだ。

 

 そんな噂が広がってからはこの奈落と言う場所は一種の流刑地のようになってしまった。

 この奈落の入口は世界中の至るところにあるため、そんな特殊性も災いしたのだろう。

 今やこの奈落を訪れるのは私のように裏切られ、捨てられたような者や罪を犯した者が大半を占めるだろう。

 

 しかし――

 この人の目は私やそんな人たちのように腐ってはいなかった。

 

 私を庇ってくれたあの瞬間、この人はまるで私を安心させるかのように笑顔を向けてくれていた。

 それに、到底体力が残っているとは思えない動きのまま、私に背を向けてあの奈落の番人に立ち向かって……あろうことか、私には手も足も出なかったあの番人を一刀にて斬り伏せて見せた。

 

「あなたは……何者なの?」

 

 一先ず、回復魔法をかけ出来る限りの治療は施したが、あの様子では当分目を覚まさなくてもおかしくない。

 だが、全てを失い、絶望しかけていた私を身を挺して守ってくれたこの人を置いてここを立ち去ろうという考えは私にはなかった。

 

 ◇◇◇

 

「……」

 

 体の中に燃えるような何かを感じる。

 その何かは燃えるように熱くなった後で俺の一部になって行くように身体へ浸透してきていた。

 

「あ、起きた?」

 

 誰かが真上から俺の顔を覗き込んでいる。

 

「ん……? 誰だ?」

 

 見覚えはないし、暗いのではっきりとは分からないが、覗き込まれたことで彼女の身体の一部が激しく主張をしてくるので、女性であることに間違いはなさそうだ。

 

「私はスウォメルって言うの。さっきは助けてくれてありがとう」

 

 すると彼女、スウォメルと名乗った女性は俺の顔を覗き込んだ姿勢のままで自己紹介とお礼をしてくる。

 

「……あ、ああ。さっきの大槌の」

 

 そしてここまで言われてようやく俺は状況を思い出した。

 この女性は俺が割り込んだゴーレムの最初の戦闘相手だった人か。

 まさか、倒れた俺が起きるまでこうしてついていてくれるなんて、俺じゃなきゃ勘違いしてもおかしくないぜ。

 

「そうよ。本当に助かったわ」

 

「いや、お礼を言われるようなことじゃない」

 

 実際、おかげさまで俺は最高のスリルを味わうことが出来たわけだしな。

 

「そう……あなたはそう言う人なのね」

 

 すると、なにやら勝手に納得した様子のス、スウォメル? さん。

 まあ、過剰にお礼を言われても面倒なのでラッキーと思っておく。

 

 尚も豊かな果実の感覚を頭に覚えながら俺たちは視線を交わし続ける。

 ……この人はもしかしなくても現地人だよな?

 ならば、この辺りの情報を持っているかもしれない。

 少し聞いてみるか。

 

「なあ、少し聞いていいか?」

 

 無言のまま見つめ合うのは、何と言うか、この体勢的にもまずいものがありそうだったので俺は話を切り出した。

 

「ええ、良いけど」

 

「じゃあ、えっと……ここがどこか分かるか?」

 

「ええ、もちろん。ここは奈落……って、え? あなた、そんなことも分かってなかったの?」

 

 信じられないと言う顔をするスウォメルさん。

 いやだって、俺転移者なので……とは、混乱を招きそうなので言わないでおく。

 

「ああ、色々あってな」

 

「……そう。あなたも、なのね」

 

 と言うことで、それっぽい含みを持たせて言ってみれば、またも何やら勝手に納得した様子のスウォメルさん。

 ……まあ、良いか。

 

「じゃあ、改めて説明するけど……」

 

 スウォメルさんの話によれば、ここは深淵奈落と言う世界中に空いたひたすらに暗い穴の底らしい。

 まともな脱出方法も確立されていない、一種の流刑地のような場所のようだ。

 

「ふむふむ、なるほど」

 

 俺はスウォメルさんの膝枕から立ち上がり、上を向いて目を凝らす。

 だが、どこまで行ってもその視界は闇に閉ざされており、入口があるようには見えなかった。

 

「……ってことはスウォメルさん、ここに落とされたってこと?」

 

「ええ……そうね。きっと理由も……あなたと同じようなものだと思うわ」

 

 ……んん? こちとら目覚めたときからここですが?

 ま、まあ、良い。

 余計な混乱はいらない。

 

「でも、この高さから落とされたら普通は死ぬよね」

 

「そうね。一時期はそんな処刑法もあったそうよ。だけど昨今では、身体強化の魔法の普及のおかげで耐えられる人も増えてるし、残酷すぎるって声もあったらしいから採用されてはいないようだけど」

 

「なるほど」

 

 魔法ね。そう言えば、魔法使い系の職業も結構あったもんな。

 俺も使ってみたいな。

 ……いや、職業的に使えなそうか。

 だって俺、狂剣士だもんな。

 

「そういえば、まだあなたの名前を聞いてなかったわね。よければこれも何かの縁だし、教えてくれる?」

 

「あ、そう言えば、まだ名乗ってなかったな。俺はトウジだ」

 

「トウジ……あまり聞かない響きね」

 

 俺が名乗れば、何度か反芻するように空へ名前を呟くスウォメルさん。

 だが――

 

「ああ、大丈夫よ。出身の話とかは……思い出したくないこともあるでしょうし。私も……そうだから」

 

 やっぱり一人で納得して完結してくれた。

 ……よくわからないけど、きっとその思い込みのせいで落とされてしまったのではないでしょうかスウォメルさん。

 

 まあ、でもここまで話した限りでは、思い込みの激しいところ以外は良い人そうだ。

 もちろん、今のところは、だが。

 人間は何をきっかけに豹変してもおかしくないからな。

 

「……それで、スウォメルさんは――」

 

「私のことはスウォメルでいいわ。それで、一つ提案なんだけど、こんなところだし、ここから一緒に行動しない?」

 

 言いかけた俺の言葉に被せるようにそう言って、スウォメルさんはおそらく手をこちらへ差し出して来た。

 

「ああ、分かった。よろしく頼むよスウォメル」

 

 俺はその手を何とか掴む。

 戦闘中はゴーレムが薄っすらと光を発していたおかげで辺りが見えていたが、今は目を凝らしてようやく自分の手が見える程度だ。

 

「こちらこそ、よろしくねトウジ!」

 

 だが、そう言って俺の手をギュッと握ったスウォメルの笑顔は確かにこの目に映っていた。

 

 ◇◇◇

 

 スウォメルと握手をしてから寝かせたままだった『狂剣士の執念』を拾って腰に下げてみると、若干だが視界がクリアになった。

 もしかすると狂剣士の何らかのパッシブ効果で武器装備中のバフ効果があるのかもしれない。

 

 そうして若干クリアになった視界で、今いる部屋を見渡してみれば、いくつか横に続く穴が開いていた。

 

「私の記憶が正しければ、だけど、トウジはあっちから来たわよね?」

 

 スウォメルが数ある横穴のうちのひとつを指差す。

 

「悪いが気を失ったせいでもう分からない。だけど、俺の来た穴を辿ればおそらく俺が投げ捨てた松明が残ってるはずだ」

 

 だが、聞かれても、ここまで何も考えずにまっすぐ走ってきてしまった俺にはそんなことが分かる訳もない。

 暗いし、気を失ってたっぽいし。

 

「松明? 意外と準備が良かったのね? その……悪く言うつもりではないのだけど、あなたの恰好はとても戦闘が出来るようには見えないから」

 

 ……言われて自分の身体を見下ろすが、別にスウォメルと大して着ている物に差があるとは思えない。そりゃ確かに材質やらなにやらは初期防具なので大したものではないだろうが……。

 

 ハッ!

 スウォメルの言葉にひとつの考察に辿り着く。

 もしかしたら現地人は防御力と言う概念がなくともそれっぽい何かを感覚的に理解しているのかもしれない。

 確かにRPGの防具とかで明らかにそんな防御力ないだろってアイテムが強かったりするもんな。

 数値が見えないけどアイテムにランク付けをしたりしているなら、そんな感覚が備わっていてもおかしくはない。

 

「いや、松明は部屋の壁にかかってたんだよな。俺の落ちた部屋はこんなに広くなかったし」

 

 とりあえず防具のことには触れず、松明の話に戻す。

 感覚のズレで何かに違和感を持たれても面倒だからな。

 こちらの情報はなるべく少なくいかせてもらおう。

 悪い気がしないでもないが、悲しいかな、俺はそう簡単に人を信頼できる質ではないのでね。

 

「そう……奈落にはそんな場所もあったのね。私の知っている限りではどの場所にもさっきの番人が居て、と言う話しか聞いたことがなかったけれど。やっぱり噂は当てにならないわね」

 

「ああ、そうだな」

 

 とりあえず、相槌は打っておく。

 

「……じゃあ、とりあえずはトウジが来た方の部屋に行ってみましょうか」

 

「わかった」

 

 こうして、俺の異世界生活は思い込みとお胸の主張が激しいスウォメルと共に始まるのだった。

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