スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう   作:嵐山田

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20.期せずして知る事実 Side:スウォメル&ウルル

 それは見たことのない光景だった。

 生き物とは思えない角ばった形で一定間隔を空けて走るなにか。

 要塞や城なんかよりも高そうな建物。

 自然がほとんど見られない、初めて見るばかりの光景。

 

「トウジ?」

「……トージ?」

 

 だが、そんな光景より先に彼女たちが気にしたのは一人の青年の存在だった。

 そして、二人はそこでようやく互いの存在に気が付いた。

 

「ウルル……?」

「……スウォメル、?」

 

 お互いを呼び合うもその姿が目に入ることはない。

 それぞれ二人の眼前に映し出されるは、見たこともない想像の域を超えた風景。

 そして、その中心を歩く一人の男の姿だけだ。

 

「これは、幻惑魔法の類、かしら? それより、トウジは……」

 

 スウォメルは確認できる情報で魔法の分析を始める。

 だから、その男には大して注目しなかった。

 だが……

 

「……トージ? トージっ!」

 

 一言目は疑問を孕んでいた。

 だが、二言目に彼女が叫んだ彼の名前は、その声音がどうしようもなく彼の存在を見つけたという声に聞こえた。

 

「ウルルっ!? そっちにトウジがいるのっ!?」

 

 スウォメルの心に最初に湧き上がったのは嫉妬にも似た嫌な感情だった。

 どうして私より先にウルルのところに?

 やっぱり私は必要ないの?

 そんな思いが暗い記憶から吹き出そうとする。

 

 でも、どうやら話はそう単純ではないらしい。

 

「……トージ、届かない、なんでっ。トージ! トージ!!」

 

 次にスウォメルの耳へ飛んできたのは、ウルルの絶叫だった。

 スウォメルはつい先日も彼女の同じような絶叫を聞いていた。

 

 だから、スウォメルはすぐに理解した。

 どうやらトウジはウルルの元にいるわけでもないと。

 

 それを理解して安堵を覚える自身に嫌気を覚えるも、思考が落ち着けば、段々と視界が開け、その中心に立つ男へと視線が引き寄せられていく。

 

「……トウジ、なの?」

 

 見えているのはスウォメルの知る彼ではない。

 強くて、優しくて、自分たちのことをよく見てくれている、そんなトウジの姿ではない。

 ないのに……スウォメルには、そこに立つ男がトウジに思えてならなかった。

 

「……トージ!!! ここ! ウルル、ここにいる!」

 

 ウルルは必死にアピールをする。

 どうにかして見つけてもらえるように、視線だけでも良い。

 ウルルは自身の声が届いている、伝わっているという事実を確認したがっていた。

 

 しかし、そんな彼女も目の前に映る男、トージと同じ匂いを雰囲気を感じる男の様子から、どうやら何かが違うことを理解する。

 

「……もしかして、これは、トウジの記憶?」

 

 違和を覚えていたウルルの耳へそんな声が届く。

 難しいことは分からない。

 だが、血が、感覚が、その推測が正しいのだと理解した。

 

 それはそんな推測を呟いたスウォメルも同じだった。

 理屈は分からない。

 だが、彼女の中を流れる血が、これがトウジの記憶の中なのであろうということにこれでもかと、強い肯定を抱いていた。

 

 不意に映像の中の男が二人を見るように振り返る。

 

「トウジっ!」

「トージっ!」

 

 期せずして二人の声はシンクロし、そして二人はようやく気が付いた。

 

「ウルルも……このおかしな光景を見ているの?」

「……うん。もしかしなくても、スウォメルも同じ?」

 

 確認し合って理解する。

 どうやらお互いはこの見たこともない光景を、中心に立つおそらくトウジであろう男の記憶を体験しているのだと。

 

 ――振り返った男が「なんだ?」と言う顔をして向き直り、歩き出す。

 そこで、画面は切り替わった。

 

 ◇◇◇

 

 男……二人がトウジだと確信しているその青年は人の出入りの激しい大きな建物へと足を踏み入れた。

 

 豪華とは違う。

 だが、どこか趣があって、無駄を感じさせない建物の中を進めば、トウジはそこの一室に入り腰を下ろす。

 すると、席に着いた彼の周りに男女問わず多くの人物が集まって来た。

 

「トウジ、なあ、大丈夫だったか? 身内に色々あったって聞いたぜ?」

「そうそう、大丈夫? 何か私で力になれることがあったら何でも言ってね?」

「そうだぜ。今は辛いと思うけど、きっと乗り越えられるって」

 

 集まって来た者たちは口々にそんなことを言い聞かせている。

 だが……。

 

「……薄い」

「そうね。思惑が見えるわ」

 

 すっかり状況を飲み込んで、状況を理解するにまで至った二人にはその者たちが軽薄で下心を持ってトウジに近づいていることなど明白だった。

 

「……でも、トージ、泣いてる」

「聞く限り、お身内の不幸だもの。きっと張りつめていたんだと思うわ」

 

 冷めていた心も、彼の涙を見れば途端に張り裂けそうになる。

 私が居れば……と、二人の中にはそんな感情が渦巻いていたことだろう。

 

「ありがとう、みんな」

 

 しかし、彼女たちの目に映る彼はおそらく記憶の中の存在。

 ただの鑑賞者である二人の声、感情が届くはずもなく、目元を拭ってトウジはそんな笑顔を向けた。

 

 再び、映像が変わった。

 

「みんな、ほんっとにありがとう! おかげで何とか諸々の手続きに躓くことなく終えられたよ」

 

 再び、あの建物、あの部屋でトウジが先ほどの面々に頭を下げている。

 

「いいよ、俺たちの仲だろ? あ、そう言えば、休んでた間のノートだけどよ。今月金欠だからちょっと色付けて……」

「大丈夫だよ。これからもいつでも頼ってね。また、あのカフェとかで話聞くし……」

「景気づけにパーッとやろうぜ! こことかどうだよ? ちょっといい値段だが、今のお前なら……」

 

 そんなトウジの謝罪を受けた、彼らの口元は気色の悪い笑みに歪んでいる。

 だが、頭を下げているトウジはまだそのことに気がついていないようだった。

 

「……汚い」

「そうね。弱いところにつけ込む、嫌な手段だわ」

 

 スウォメルはグッと拳に力が入ったような気がする。

 ウルルはガリリと歯痒そうに、感情を噛み潰した。

 

 また、映像が切り替わった。

 

 そこは先ほどまでとは違う、一室。

 見慣れない物ばかりが散見されるが、妙に漂う生活感から、恐らくトウジの部屋であったことを察することが出来た。

 

「……ハハッ、俺、何してんだろうな」

 

 信じられない程綺麗な鏡を前に、トウジが自分に問いかけている。

 

「これじゃ、体の言い金づるじゃねぇかよ」

 

 鉛のように重たい頭痛と胃の中をかき回されているかのような気持ち悪さ。

 ぐわんぐわんと視界は歪み、鏡に映る自身が酷く気持ちの悪いもののように見えた。

 

「……もう、止めよう。全部。こんな虚しいだけなら、必要ない」

 

 そんな最悪な状況の中で、トウジは選択した。

 

「そうだよ。金なら腐るほどあるんだ。持て余すほどデカい爺ちゃん家だってある。ああ、そうしよう。金だけの……何かに依存し、搾取される人生なんて、俺はごめんだ」

 

 苦し気な表情から重々しく放たれたその言葉は深く、彼女たちに突き刺さった。

 

「トウジ……」

「トージ……」

 

 彼の痛みがまるで自分のことかのように感じられる。

 

 信じていたものが虚構だったことを知った時の痛みをスウォメルは誰より知っていた。

 縋ったものが、もうどうしようもないものだったときの信じたくなさをウルルは誰よりも知っていた。

 

「「私が……」」

 

 支えよう。

 そう言いかけて、二人は固まった。

 

 不意に振り返ったトウジの目が暗く、こちらを見つめていた。

 

「寄生されるくらいなら、死んだほうがマシだ」

 

「「――っ!」」

 

 息が詰まりそうになるほどの迫力。

 そして、何より……。

 

「……トー、ジ?」

「ち、違うわ! これは、私たちに言ってるんじゃないわよ!」

 

 寄生……二人はその言葉にどうしようもなく思い当たってしまう節があった。

 

 そして、さらに映像が切り替わる。

 

 そこは、先ほどの部屋より、さらに生活感がある……言葉を選ばずに言えば、全く片付け等がされていない部屋。

 暗いその部屋の端の方で、燦々と光を放つ板にトウジが一人で向かっていた。

 

「これは一択だろ」

 

 乾いた声でなにやらそんなことを呟き、手に持った何かを操作する。

 光る板には赤々とした不気味な表示がなされていた。

 その瞬間、トウジの背後に魔法発動時特有の若干の歪みが起きた。

 

「「……え?」」

 

 そんな歪みから、見ているだけでも不安で気分が悪くなりそうな、本能的恐怖を感じさせる腕が伸ばされる。

 そして、次の瞬間だった――

 

「……ん? なんだ? 演出k………………っ!」

 

 その腕、鎖のような何かがジャラジャラと巻き付いた腕がトウジの後頭部に向けて振るわれた。

 

「な、んだ……これ……」

 

 トウジが意識を失っていく様が見て取れる。

 だが、それ以上に、トウジの二人は足元に目が釘付けになっていた。

 

「……あの、魔法、知ってる」

「ええ、有名、だわ……だってあれは……」

 

「「異世界人召喚魔法」」

 

 それはこの世界でどんな種族も、必ずと言っていいほど聞くことになる最もメジャーな魔法。

 おとぎ話として浸透している最大の存在。

 

「……トージ、異世界人?」

「そう、なるわね」

 

 ………………

 ………………

 ………………

 

 二人の間を長い沈黙が包む。

 先ほどの言葉と言い、知ってしまった事実と言い、全てを飲み込むには流石に時間がかかった。

 

「……スウォメル、私たち、トージに、寄生、してる?」

 

 だが、そんな沈黙はウルルの苦し気な言葉に打ち破られた。

 

「……していないとは、言えないかもしれないわ」

 

 そんなウルルの言葉をスウォメルは否定したかった。

 だが、それを阻むように、トウジに任せて今日まで生き延びて来た記憶が次々フラッシュバックしていく。

 

 だが、それ以上に、彼女たちは恐れていることがあった。

 もちろん、トウジに嫌われることなんて考えたくもない。

 だが、もし、推測通りトウジが異世界人なのだとしたら……。

 

 この世界に伝わるおとぎ話、異世界人が登場し、活躍するそのおとぎ話ではお決まりの最後があるのだ。

 それは――

 

「トウジが居なくなっちゃう?」

「……トージと会えなくなっちゃう?」

 

 異世界人の帰還。

 

 様々な活躍を上げ、歴史に名を刻んだ異世界人は皆、おとぎ話の最後には国へ、つまり元の世界へ帰ってしまうのだ。

 

「「そんなの……」」

 

 いやいやいやいやいやいやいやいやぁぁぁぁ!!!!!!

 

 声にならない叫び、自らの内側をこれでもかと引き裂かれるような痛みに二人は見舞われるのだった。




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