スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう 作:嵐山田
目が覚める。
そこは眠りに落ちる前の何もなかった部屋。
浮かび上がってきていた怪しげな魔方陣も、すっかり鳴りを潜め、今度こそ見たままの部屋になっているだろう。
今のが夢だったのかと言われれば、おそらく違うだろう。
間違いなく今の映像は彼女たちの記憶だった――
そこまで考えて、咄嗟に周囲を見回す。
おそらく転移のトラップではないだろうが、俺が何ともなかったと言って二人がそうである証拠にはならない。
二人のことを守り抜こうと誓ったばかりなのに――と、最悪が脳裏をよぎるも、そんな最悪の想像はどうやら杞憂だったようだ。
ぐるりと辺りを見回した少し先に横たわっている二人の姿を見つけた。
「……良かった。状態異常関係に関しては、耐性を付ける物が欲しいところだな」
立ち上がっても、身体に違和感を覚えたり、妙な痛みが走ったりすることもない。
本当に何が目的の部屋だったのだろうか?
二人の元へ移動しながら、考えるのはこの部屋の目的。
全員が眠らされた上で、現状身体に異常は見られない。
二人もしっかり眠ってはいるが、顔色が悪かったり、妙に手足が冷たかったりなど、嫌な想像を掻き立てられるようなこともなく、あくまでただ眠っているだけだ。
だが、だからこそ不思議に思う。
ここまでの部屋は少なからず、命の危険があった。
奈落の番人自体はそこまで強くなかったが、スウォメルやウルルがもし一人だったのならば、倒すことはほぼ不可能だっただろう。
それに徘徊型やひとつ前の部屋で出くわした梟なんかは番人とは比べられない力を持っていた。
『剣の萌芽』のおかげで梟は案外大したことなく倒せたが、そうでなければ、攻撃方法がなくジリ貧だったのは俺だった。
それに対して、この部屋は?
確かに、二人の過去を見せられて、スウォメルの記憶に出て来た豪華男やウルルの部族の者たちには心底腹が立った。
だが、俺はそれで何か直接害を被ったわけではない。
「……全く意図が見えないな」
何となく迷いの森とかそう言うモチーフの部屋っぽかったし、こちらの思考を惑わせるのが目的の部屋だったりするのだろうか?
それならそれでいいのだが、何か重要なスリルを見落としているような気がして、何とも釈然としない気分だった。
◇◇◇
俺が目覚めてから、しばらくすると――
「ん、んぅ……」
「……ぅ」
寝苦しそうな姿勢は直し、申し訳程度に膝を貸していた二人が小さく声を漏らす。
「お、二人とも起きたか?」
いつかのスウォメルのように、俺は上から二人の顔を見下ろすように声を掛けた。
「と、トウジ……」
「……トージ」
俺的にはにこやかに声を掛けたつもりだったのだが、何か失敗してしまっただろうか?
なぜか二人は俺と視線を合わせようとせず、行き場を失った視線が、奈落の暗闇を右往左往する。
「あ、もしかして、膝嫌だったか? それなら、すぐにどくから……」
やらかしや失敗として現時点で思いつくことと言えば、この状況位だろうと、俺が慌てて二人から離れようとすれば……。
「ま、待って!」
「行かないで!」
今度は悲壮感すら漂う表情で必死にグッと俺にしがみついてくる二人。
「え、あ、おう。いいならいいんだけど……」
「あ、ち、違うの……」
「……う、ん」
……気まずい空気が立ち込める。
一体なんだ?
昨日と言うか、ここで眠るまでは二人の方から積極的にくっついてきたりと、身体を寄せてくるなんて日常だったのに。
まさか、二人には魔方陣による何らかの影響があったのか?
しかし、それがどんなものか、一体俺が聞いていいことなのか、今の二人の態度からは読み取れない。
そのまま、俺たちの間を無言の時間が流れていく。
………………
………………
………………!
しばらくの時間が流れたその時、不意に部屋の中心が微かに光った。
咄嗟に『狂剣士の執念』を掴み立ち上がり、今度こそと警戒するも束の間――。
すぐにその微かな光は立ち消えて、その光の中からは見覚えのある箱が顔を出した。
「……宝箱?」
俺が呟けば、
「そう、みたいね」
「……ん」
二人も同意を示し、宝箱の方を注視する。
俺たちは頷き合い、ゆっくりと宝箱に向けて歩を進める。
一歩、また一歩とまるで綱渡りでもするかの要領で歩けば、今度は全く進んでいないなんて事態に陥ることはなく、着実に宝箱との距離は近づいていた。
そして、遂に手を伸ばせば届く距離までやってくる。
「……とりあえず、小突いてみるか?」
俺が『狂剣士の執念』に手を掛けながら二人に確認する。
正直、ニヤつきそうになる口元を抑えるので必死で、今にも手を伸ばしてしまいそうだった。
だが、二人はそれに首を振った。
「……いつも、トージに、任せきり」
「そうよ。あなたばかりに危険なことをさせられないわ」
二人の意思は強く固そうで、譲らないと主張している。
急にどうしたんだろうか?
やっぱり戦いを俺に任せていることを気にしているとかか?
俺としてはスリルを最大化するために戦いは任せてもらえて、むしろ二人に感謝しているくらいなんだが……。
「全然、気にしなくていいんだぞ? 俺は頼って貰えた方が嬉しいし」
もちろん、スリルを味わえるしな。
と言う続きは内に秘めて伝える、が。
「……」
「……」
なぜか、二人は俺の言葉に俯き、またも悲壮感を漂わせ始めた。
「……ごめんなさいトウジ。もう、あなたばかりに無理はさせないから」
「……ん、ウルルも、頑張るから」
「……え?」
なぜか泣きそうな顔でそんなことを言いだす二人に俺が呆然としていれば、その間にスウォメルが先ほど魔方陣を解除する際にも使った大槌を取り出し、その柄の方で宝箱を小突いた。
「……ぁっ」
ああぁ……と、何とか、漏れそうになった声を我慢する。
仕方ない。
もしかしたらスウォメルもスリルを味わいたくなったのかもしれないしな。
いつもは譲ってもらってばかりだったし、この宝箱くらい二人に譲るとするか……。
「……うん、大丈夫そうね。開けてみましょう」
それからも入念に、万が一がないように宝箱のあちこちを小突きまくったスウォメルがそう言ってこちらを振り返る。
「……トージ?」
俺はそんな姿を歯を食いしばりながら見つめていた。
二人がいる手前、一度は小突いてみようなんて提案をしたが、俺は道中の宝箱は明らかなトラップだろうと全部開けて歩くタイプのゲーマーだ。
本当なら、少し剣先で小突いたらすぐに箱を開けて、実はミミックでした~な展開を期待していた。
だが、スウォメルにあそこまで入念に確認されてしまっては高まりかけたスリルセンサーも平常運転に戻る。
「いや、何でもない。じゃあ、開けてみようか」
ほぼ確実に……いや、もう絶対にミミックではない宝箱を開けると言うのは、やはり気分が上がらない。
「……ん」
しかし、そんな俺の真意など知るはずもなく、張り切ったウルルが宝箱へ手を伸ばした。
カチャリと、軽い金属音を立てて宝箱が開かれる。
まあ、想像通りミミックの類ではなかったようだ。
スウォメルとウルルが並んで宝箱の中を覗き込んだ。
そして、二人はそれぞれ中身へと手を伸ばし、何かを取り出してこちらを振り返った。
「……ん、トージ。鍵、出た」
ウルルの手には今まで見て来た二つの鍵と同じ形状の鍵が握られていた。
それを迷わず俺の方へ渡してくる。
「お、これで三本目だな」
俺が鍵を受け取れば――
――――――
『帰還の鍵』
深淵奈落より脱出するために必要な翠の鍵。
この鍵が何で出来ているかは誰にも分からない。
・所持者の精神攻撃への抵抗を高める。
――――――
いつも通り、お節介コンソールがフレーバーテキストを表示してくれた。
だが、色の表示以外は他二本と全く違いがなく、俺はさっさとそれを亜空間収納へしまいこんだ。
「ありがとな、ウルル」
「……ん」
俺はスリルを味わうことは出来なかったが、二人が俺のために身体を張ってくれたのだ。
残念だったとはいえ、何かしてもらえると言うのは嬉しいことに違いはない。
俺がお礼を言えば、ウルルはようやく少しホッとしたような顔をして、俺の手に頭を寄せて来た。
俺はその行動に応えるようにウルルの頭を撫でた。
「もう一つは指輪ね……三人分と言うのが少し気になったけど、見た感じ問題はなさそうじゃない?」
続けてスウォメルがそう言いながら三つの指輪を俺に渡してくる。
俺はウルルを撫でる手を止めて、それを受け取ると――
――――――
『空白の指輪』
先の可能性は無限大である。
――――――
その内二つは全く同じ表記が為されていた。
空白の指輪。
若干、いや……妙に興味を惹かれるフレーバーテキストをしているが、恐らくこれは見た目用の装備とか、そう言う類だろう。
もしかしたら、スキルを付与するなんてアイテムや職業があったりするのかもしれないが、残念ながら今の俺はそれを確かめる術を持っていない。
それより、俺が気になったのはもう一つの方だ。
見た目は空白の指輪と変わらない、スタイリッシュな細腕の指輪。
だが、お節介コンソールの表示は違った。
――――――
『命がけの狂気』
戦いに全てを賭け、命を捧げるものが付けていた指輪。
付けた者は皆、生涯の敵と決死の戦いに臨むことになる。
・食いしばり
・逃走不可
――――――
とんでもない物が混ざってんじゃねぇか!!!
「……フヒッ」
思わず、笑みがこぼれてしまう。
「トウジ?」
そんな俺を不思議に思ってか、スウォメルがこちらを覗き込んできた。
「……ンンッ、いや、二人とも指を出してくれ。どうやらこれは問題なさそうだから、二人が嵌めてくれ」
俺は思わず漏れ出たスリル笑いを押し込めるように二人にそう提案する。
「えっ!?」
「……いい、の?」
すると、二人はどうしてか意外そうな顔をしてこちらを見た。
……俺が宝箱から出た人数分の報酬を独占すると思われていたのだろうか?
確かに、ここまでのドロップなんかは、二人にそれぞれプレゼントしたアクセサリー以外俺が持っているけれど、そこまでがめつい男ではないんだが……。
少し不服に想いながらも、二人の指へ宝箱から手に入れたばかりの『空白の指輪』を嵌める。
なぜか二人とも左手の薬指を出してきていたが、ここは日本ではないのだ。
関係ないだろう。
そして、二人に指輪を嵌めた後で俺はもう一度、残った指輪、『命がけの狂気』を眺める。
「……フヒヒっ」
その効果を何度も読みなおし、抑えきれずに笑みをこぼした。
だが、今度は二人のどちらにも突っ込まれることはなかった。
「ウフッ、ウフフ」
「……フフッ」
何故なら、突っ込みに回る二人もそれぞれの指輪を嬉しそうに眺め、少しだけ気味の悪い笑みをこぼしていたから。