スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう   作:嵐山田

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22.三本の鍵

 気味の悪い声は奈落特有のものか……?

 いや、違う。

 この声は自分たちのものだ、と俺たちが気付いたのは宝箱を開けてからしばらくしてからだった。

 

 それぞれが指に嵌めた指輪を眺めて、一人、笑い声をあげているというあんまりな状況は、俺たちが自分自身を客観視したことで終わりを迎えた。

 

「……きょ、今日はここでもうひと眠りしましょうか」

「………………ん」

 

 スウォメルが妙な空気をどうにかしようと、全力で話を変えようとする。

 恥ずかしそうなウルルもそれに賛同した。

 

「あ、ああ。そうだな」

 

 俺も特に異論はなかったため、同意を示すとスウォメルは気まずい空気から逃げ出すように入念に足元を調べ始めた。

 おそらくもう一度あの魔法陣が発動しないかを確認しているのだろう。

 ウルルは一人で笑っていたことが余程恥ずかしかったのかしゃがみ込んで、耳まで畳んで顔を伏せている。

 うん、とてもかわいい。

 とてもとてもかわいい。

 

 ……おっと、恥ずかしがっている少女をジロジロ見つめるのは失礼か。

 

 しかし、このままここで一泊するとなると、手持無沙汰だな……。

 ここまで入手したアイテムの確認でもしておくか。

 

 日本でゲーマーをやっていた時代、もちろんスリルのある戦闘も好きだったが、それはつい最近の話。もっと昔の子供の頃なんかは、ゲームを進めなくとも、手に入れたアイテムを眺めているだけで楽しかったものだ。

 

 最初に取り出したのは梟討伐の際に大いに役立ってくれた『剣の萌芽』だ。

 

 ――――――

『剣の萌芽』

 使用者と共に成長していく剣の芽。

 この剣で相手にとどめを刺すと少しずつ剣が成長し、後には唯一無二の剣となる。

 ・成長武器

 ・生命力を消費し、遠隔斬撃を放つ

 ・生命吸奪

 ――――――

 

 ん?

 生命吸奪? なんだそのスキル?

 ……あ、そう言えば、梟を倒して気を失った後、刃が伸びてたよな。

 その時に新しくスキルを習得していたのだろうか。

 名前的にドレイン系のスキルかな?

 だとすれば、かなり当たりのスキルだろう。

 これで生命力を消費して放つ「散花『命』」を好きに打つことが出来る。

 

 それに現状『剣の萌芽』をメイン武器として使う予定はない。

 なにせ、刃が完全ではなく、ボロボロなのだ。

 だから、俺のスリルを過回復で阻害することもないだろうし、状況によって使い分けることが可能なわけだ。

 本当に俺に都合よく成長してくれている。

 

 次に見るのは骸骨剣士センパイとの戦闘で手に入れた指輪『剣鬼の未練(祝)』だ。

 

 ――――――

 『剣鬼の未練(祝)』

 剣に狂い、剣にその生を捧げた剣鬼が唯一付けていた未練の宿る装備品の指輪。

 しかし、その未練は断ち切られた。かに思えたが……。

 ・精神攻撃への抵抗を高める。

 ――――――

 

 ……んん?

 気のせいだろうか?

 一度目を逸らし、擦ってからもう一度コンソール画面を確認する。

 だが、間違いない。

 なんか、フレーバーテキストが増えている。

 何だよ、「かに思えたが……」って。

 

 でも、もしかしたらこのフレーバーテキストのおかげであの時無貌の死神との間に割って入ってくれたのかもしれないと思うと、馬鹿に出来ない。

 

 と言うか、フレーバーテキストが増えることってあるんだな。

 流石は神ゲー、イベントに応じてアイテムも変化するってか。

 

 なんだか楽しくなってきた。

 次は……そう言えば、『狂剣士の執念』のフレーバーって見たことなかったかもしれない。

 手に入れたのがコンソール画面が出るようになる前だったからな。

 

 そう思って次は俺の愛刀である『狂剣士の執念』を見てみることにした。

 

 ――――――

『狂剣士の執念』

 かつて、剣に狂い剣にその生を捧げた剣鬼と呼ばれた狂剣士が使っていた業物。

 この世に斬れないものはないと、剣一本で最奥を目指し、道半ばで力尽きた執念が宿っている。

 ――――――

 

 ほうほう。

 どうやら俺の推測通り『狂剣士の執念』は元々骸骨剣士センパイの剣だったみたいだな。

『剣鬼の未練(祝)』と書き出しが同じだ。

 特別なスキルこそないが、ここまでずっと使って来ても刃こぼれ一つしない頑丈さや奈落の番人のような岩の塊なんかにもスッと刃を通す鋭さは俺の腕を加味しても相当なものだろう。

 

 そして、次はこれだ!

 普通に数分間、俺をにやけさせたある種呪いのアイテムとも呼べよう逸品『命がけの狂気』。

 

 ――――――

『命がけの狂気』

 戦いに全てを賭け、命を捧げるものが付けていた指輪。

 付けた者は皆、生涯の敵と決死の戦いに臨むことになる。

 ・食いしばり

 ・逃走不可

 ――――――

 

 食いしばりは俺の認識が間違っていなければ、HP1でどんな攻撃も耐えると言った感じのスキルだろう。それだけでも、テンションが上がるくらいには興奮する最強装備の一角。

 だと言うのに……! この装備には何と! 「逃走不可」なんて言うスリル爆発剤までついているのだ!

 何ならこっちが本体と言っても過言ではないかもしれない。

 

 もちろん、安定したプレイを求めるならば、デバフスキルに違いはない。

 だが、ことスリルを求める俺からしてみれば、これ以上ないくらいに嬉しいスキルだった。

 

 はぁ……ありがとうスウォメル。

 こんなに良い指輪をくれるなんて……あ、まあ、選んだのは俺なんだけどさ。

 

 ………………。

 

 ……ふぅ、危ない危ない。

 また、この指輪に興奮して気持ち悪い笑い声をあげてしまう所だった。

 さて、確認作業に戻ろうか。

 

 そして、最後に――俺は三本になった『帰還の鍵』を取り出した。

 

 紅、蒼、翠。

 三色の鍵はこうして並べてみると柄の部分などは全く同じ形状をしているが、ブレードの部分がそれぞれ少しずつ異なっている。

 

「……重ねたら合体したり……は流石にない、か?」

 

 呟きながら、何の気なしに鍵を重ねてみる。

 すると――

 

 急に三つの鍵が白い光を放ちながら、その場に浮かび上がった。

 

「うおっ!」

 

 思わず、驚き飛び下がる。

 すると鍵たちは空中で激しく回転を始めた。

 

「……トージ!?」

「何かあったの!?」

 

 急に大声を上げた俺と、その眼前で高速回転する鍵たちを前にウルルとスウォメルも尻上がりに大きな声を上げた。

 

「トウジ、それは一体……?」

 

 魔方陣の確認など等に終わっていたのだろう。

 素早く立ち上がったスウォメルがこちらに駆け寄り、眼前で回転している鍵たちを指さして聞いてくる。

 

「『帰還の鍵』だよ。三つを重ねてみたら、急に光って回り始めたんだ……」

 

「重ねたら……こんな現象聞いたことがないわ」

 

「……段々、ゆっくりに、なってる?」

 

 俺がスウォメルに状況説明をしている間も回転する鍵をジッと見つめていたウルルが耳をピンと立て、回転音を聞きながら呟いた。

 言われて見てみれば、確かに徐々にゆっくりになって言っているような……。

 

 俺も目を凝らして回る鍵を見つめていると、段々と姿が捉えられるようになってきた。

 すると、そこにはもう、紅も蒼も翠も存在していないのが見えてくる。

 そして、遂に回転が止まり、カランと音を立てて一本の鍵が地面へと落ちる。

 

「……これ、一本よね? 三本じゃないわよね?」

 

 スウォメルが当然のことを聞いてくる。

 だが、そう言いたくなる気持ちも分かる。

 一本になった『帰還の鍵』はまるで奈落の闇に溶けてしまいそうなほどの漆黒に染まっており、鍵自体が放っている光がなければ、ここでは簡単に見失ってしまえそうだった。

 

「……ん、一本だけ」

 

 スンスンと鼻を鳴らし、匂いをかぎ分けたウルルが素直にスウォメルの問いに答えた。

 

「鍵がまとまったというか……合体したってことで良いのか?」

 

 俺たちは鍵を囲う用に立ちながら、顔を見合わせ合う。

 

「そうね……信じられないけれど、奈落ならあり得る、のかもしれないわ」

「……ん。他に鍵の匂いない」

 

 スウォメルは半信半疑と言った感じだが、ウルルは確信しているようだ。

 まさか、思い付きの行動がこんなことになるなんて……。

 でも、合体したということは完全な鍵になった可能性だって考えられる。

 

「よし、拾うぞ」

 

 俺が声を掛ければ、二人は深く頷いた。

 漂うのは不安と期待の入り混じった空気。

 特に、奈落からの脱出を目指しているスウォメルからはより一層強い感情が見えた。

 

 意を決して手を伸ばす。

 そして、俺がその鍵を手に持つと……!

 

 スッと鍵から溢れている光が一筋になり、俺たちが通って来た道の方を指した。

 

 ――――――

『帰還の鍵』

 完全な状態となった帰還の鍵。

 鍵の指し示す方向へ向かえば、帰還が叶う。

 ――――――

 

 そんな光の指している横でいつも通りお節介コンソールが表示された。

 だが、今回ばかりはお節介と言う訳にはいかない。

 スウォメルやウルルにとってはこれ以上ない吉報になる情報だった。

 

「スウォメル、ウルル。この鍵の示す方向へ行けば、奈落から帰れるらしいぞ!」

 

「本当!?」

「……戻れる、の?」

 

 スウォメルの表情からは喜びが溢れ、ウルルは信じられないという表情をしている。

 

「これで、奈落での冒険も終わるんだな」

 

 そう考えると感慨深い物があるな、なんて思いながら呟いた。

 スウォメルの「そうねぇ」やウルルの「……ん」なんて返事を期待しながら。

 

 だが、いくら待っても返事が返って来ることはない。

 

 おかしいと思って二人の方を振り返ってみれば……。

 

「……い、いやぁ」

「……っ。でも、ウルル、これ以上私たちは――」

 

 なぜか涙を流している二人の姿があった。

 もしかして、感極まるほどに嬉しかったのだろうか?

 

 まあ、それはそうか。

 こんな暗い場所、普通ならさっさとおさらばしたいもんな。

 

 二人でしゃがみ込み泣き出した二人の背中に手を添える。

 それから俺は二人が泣き止むまで、背中をさすり続けたのだった。




『剣の萌芽』のスキル生命吸奪が15話の生命譲渡と異なっている理由は視点による差です。スウォメルとウルルに見えたコンソールには生命譲渡と映っており、トウジには生命吸奪と映っています。
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