スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう 作:嵐山田
光を放つ鍵の元で、泣き疲れた二人とともにさらに一晩を過ごし、目を覚ました翌日。
なおも変わらず光を放ち続ける鍵に従って、俺たちは通って来た道を引き返していた。
「……」
しかし、何故だろうか?
こうして脱出の糸口が掴め、今も一歩ずつ元の世界へ近づいていると言うのに俺たちを取り巻く空気はとても明るい物とは言えなかった。
なんだかんだいつもは楽しそうにしていたスウォメルも、無口ながらに耳や尻尾なんかで感情を表してくれていたウルルも、今日は視線が下に落ちている。
足取りも重く、かと言ってゆっくりとしているわけでもない。
まるで、感情と行動を完全に切り分けて動いているかのような、今の二人はそんな風に感じられた。
「ここは……梟と戦ったところか」
長い一本道を抜け、戻ったひとつ前の部屋。
その部屋に足を踏み入れ、高い天井を見上げながら俺は独り言ちた。
「……ここは、怖かった」
すると、ここまで無口を貫いていたウルルがぼそりと反応した。
「そうね……あの分断は正直堪えたわね」
ウルルの呟きにスウォメルも同意を示す。
そんな二人の視線は部屋のある一か所に固定されている様だった。
「……ここで、トージ、倒れた」
「ええ。怖かったわね」
どうやらその視線の先で俺は気を失っていたらしい。
恥ずかしながら、スリルハイで俺はどこで倒れたかとかは覚えていないのだが、看病をしてくれた二人にはちゃんとお礼を伝えておこう。
お礼なんて、何度言ったっていいからな。
「そういえば、あの時は本当にありがとな。二人も寝ちゃうくらいだから、俺、相当な時間気を失ってたんだろ?」
脱出何て言う明確な一つの終わりが近いからだろうか?
なんだか妙に言葉が湿っぽい。
「「――っ」」
そのせいだろうか?
二人が息をのみ、言葉を詰まらせるような表情をした。
「そう、ね。本当に無事でよかったわ」
「……ん」
だが、二人はこちらを向いてぎこちなく笑い、そう返してくれる。
その後で、なぜか二人は自分の手首の辺りを見つめていた。
◇◇◇
梟と戦ったあのモンスターハウスを出て、鍵の示す光を辿り、再び長い道を足早に進んで来れば、階段のある二層の一番初めに訪れた部屋に戻って来た。
ここはあれだな。
『断裂の一刀』って言うスキルを新たに習得した部屋だったよな。
敵が二体、それも前後に挟まれる形でしか使うことのないスキルだが、嬉しかったなぁ……。
俺のスリルを最大化するための行動が何らかの成果として現れるなんて、まるで嗜好を肯定してもらえたかのような気がして思わず笑ってしまったんだっけ。
「……階段」
俺がそんな思い出に浸っていれば、数歩先でウルルとスウォメルが階段を見上げている。
……そうだ。
階段。
俺たちがこの下層に来ることになったのはあの時、徘徊型、無貌の死神から逃げるための最終手段だった。
体力は限界。
どこがどんなふうに繋がっているのかさえ分からないこの奈落で逃げ続けるより、下階に降りることでターゲティングを消せないかと考えた苦肉の策だった。
だが、あの体験のおかげで俺は自分の底に眠る感情を理解することが出来た。
死を意識することで、ギリギリを生きることで生の実感を味わう。
生きているという確かな実感が欲しかったのだと。
それを理解で来てからは、もっと、より純粋な気持ちでスリルを楽しめるようになった。
もう、死んでもいいとは思わない。
もちろん、前から常に思っていたとかそう言うわけではないが、今は生きて、よりたくさんのスリルを味わいたいと思っている。
だけど、今はそれ以上に――
俺は数歩先にいる二人のことを見つめる。
――彼女たちに、幸せに生きて欲しいと思う。
二人の温かさに触れて、過去を追体験して、俺の中には確かにそんな感情が生まれていた。
「……行こう」
二人の背中を軽くたたき、一足先に階段へ足を掛ける。
光は無情にもあの徘徊型の回る一階を指している。
つまり、またあの無貌の死神と接敵するリスクがあるという訳だ。
だが、もう恐れない。
今の俺には使命が、二人を外まで送り届けるという自身に誓った決意がある。
「トウジ……」
「……ん」
二人の足音が俺に続く。
光はまだまだ先へ伸びている。
◇◇◇
長い長い、今まで歩いてきたどの道よりも長く感じるその階段を上りきれば、もはやなつかしさすら感じるあの部屋へやって来た。
無論、無貌の死神と鉢合わせはしないようにしっかりと警戒し、ウルルの優れた嗅覚でも万全を確認した後で外へ出た。
この部屋は俺の異世界奈落生活の始まりの部屋だ。
「戻って、来たわね」
未だにこの部屋を仄暗い程度に照らす松明は一体何で出来ているのだろうか?
魔法だろうか?
「あんまりゆっくりしているとまたアイツと出くわすかもしれない。先を急ごうぜ」
取り留めのないことを考えながらも、俺は未だ煌々と光を放つ鍵の先を見つめた。
その光は俺が初めてスウォメルと出会ったあの大きな部屋の方へと続いていた。
「……っトージ」
光の指す方へ歩み出そうとすると、今日になってからは初めて、ウルルの方から俺へ接触を図って来た。
「? どうしたウルル?」
「……まだ、一緒、だ、よね?」
ウルルの声は震えている。
一緒……か。
そう言えば、この奈落を脱出したら、俺はどうなるのだろう?
今一度、『帰還の鍵』のフレーバーテキストを読んでみる。
――――――
『帰還の鍵』
完全な状態となった帰還の鍵。
鍵の指し示す方向へ向かえば、帰還が叶う。
――――――
帰還が叶う……これは現実世界にも帰還する、と言う意味なのだろうか?
それは……少し、いや、すごく嫌だな。
この世界の出来事は全てが刺激的で楽しい。
もちろんこの世界にもどうしようもない人間はいて、その被害を今も受けている人はたくさんいるのだろう。
だが、スウォメルとウルル、この二人は、誰も信じられない、信じたくなくなっていた俺の心を溶かし、守りたいなんて感情を抱かせてくれている。
もし、叶うなら……俺は……。
だから、俺はそんな希望を込めて、ウルルの質問にこう答えた。
「ああ、一緒だよ。きっと、これからもな」
「トウジっ!」
「トージ!」
二人が俺の両側の腕へと飛びついてくる。
何故だろうか、すごくドキドキする状況だろうに、今日までの積み重ねのおかげか不思議とこの距離間がいつもの距離感に感じられて落ち着く。
「さ、行こう。あの徘徊型に出会う前に脱出するんだ」
「……ええ、そうね!」
「……ん!」
こうして俺たちは出会いの場でもある奈落の一層を進み始めた。
◇◇◇
「私たち、一体どのくらいの期間ここにいたのかしら?」
道ながら、いつもの調子でスウォメルが呟いた。
「そう言えば、そうだよな……朝も夜もないせいで全く分からないな」
「……でも、すごく、長い、気がする」
「そうだな。濃い時間だったのは間違いない」
「それはそうね。間違いなく人生で最も濃い時間だったわ」
顔を見合わせて笑い合う。
ああ、楽しいな。
まさか俺に、スリル以外でこんなに満たされる日が来ようとは……。
話しながらだと、足取りも軽くなり、意外と早くスウォメルと出会ったあの広い部屋までやって来た。
「この部屋はほんとにたくさんの道が繋がってたよな」
「そうだったわね。でもあの時、トウジの来た道を引き返して良かったわ。そのおかげでウルルに出会えたんだもの」
「そうだな」
「……ふふっ、ウルルも、二人に会えて、よかった」
鍵の指す光はたくさんある道の内の一つ。
一層でもまだ俺たちが行ったことのない道の方へ続いていた。
一層に来てから思っていたことだが、歩を進めるたびに少しづつ鍵の光が強くなっている気がする。
これはそろそろ本格的にゴールが近いのかもしれない。
「さて、この先はまだ行ったことのない部屋だ。どんな部屋が待っているか分からない。注意しながら進もう」
「ええ」
「……ん」
二人の返事を聞きながら、腰に下げた『狂剣士の執念』を確認する。
「よし、行こう!」
そうして俺たちは強くなる光を追って、未踏破区域を目指し歩き出した。
◇◇◇
いつもよりは若干短めに感じられる道を抜けて、見えた先。
その部屋は奥側の壁に巨大な扉が設置された、正しく、な部屋だった。
光もその扉のおそらく鍵穴であろう場所へと続いており、ここがゴール、出口であることを俺たちに伝えてきている。
「……あの扉を通れば、帰れるのね」
まだ、部屋には踏み入らず、しっかりと道側から確認できる限りのチェックを行いながら、スウォメルが言った。
「そうだな、間違いないだろう」
「……匂いとか、音は、大丈夫、だと思う」
耳をそばだてて、鼻をスンスンと鳴らしながら警戒してくれていたウルルがこちらを振り返った。
「私も、魔法陣とかのトラップはどうやら無さそうよ」
すると、スウォメルも立ち上がり、こちらを向く。
「よし、じゃあ行こう」
二人と共に頷き合い、俺たちは同時に帰還の扉が待つその部屋へ足を踏み入れた。
「「「……」」」
一先ず、踏み入れた感覚としてはここまで歩いてきた部屋のどれとも違いはない。
番人やその他の魔物の気配もなく、依然として強い光だけが、煌々と鍵穴の辺りを照らしているだけだった。
一歩、また一歩と扉へ近づいて行く。
距離感がおかしいなんてこともなく、一歩進めば、確実に扉との距離は近づいて行く。
そして――
「じゃあ、鍵を差すぞ」
「ええ、お願い」
「……ん、お願い」
ジャラ、ガチャリ……。
鍵穴に向けて『帰還の鍵』を差し込めば、まるで光に溶けていくように鍵が消えていく。
それと共に、それまで俺たちを見下ろしていた重厚な扉も光りに包まれていき――やがて、そのすべてが消え去り、白く靄がかったような不思議な物が現れた。
「これが、帰還の扉、ってことなのかしら?」
「ああ、そうだろうな」
俺たちは頷き合い、三人一緒に手を伸ばす。
すると、伸ばした右手の中指に嵌めた『命がけの狂気』が一瞬光った。
そして――バチッ!!
二人の手が、靄の中へ吸い込まれていく隣で、なぜか俺だけがその靄に手を弾かれてしまった。
その瞬間、俺の中のスリルセンサーがいつ以来かの最大警報を鳴らし始める。
「え?」
「……え?」
二人が唖然とした表情でこちらを見て来た。
だが、そんな二人に状況を説明している場合じゃない。
「二人とも、幸せになってくれ」
「え? 待って、トウジ! 一体何を!」
「いや、いやぁぁぁトージ! トージ!!!」
困惑や絶望など色々な感情の入り混じった声で叫ぶ二人の背中を、俺は靄の奥へ思いっきり押し込んだ。
そして、即座に『狂剣士の執念』を抜刀し、振り返る。
ジャラ……ジャラ……。
ガラ……ガラ……。
耳障りな鎖の音。
その音はこれでもかと、俺を昂らせる。
まあ、どこかでこうなるかもとは思っていたんだ。
「よぉ。死神さん。今度こそ、決着、つけようか」
不思議と恐怖はない。
使命を、決意を終えたからだろうか。
俺の中に残っているのは、いつもの感情だけだ。
「最後に最高のスリルを味あわせてくれよっ!!!」
亜空間収納から『剣の萌芽』も引き出し、二刀を構え、俺は徘徊型・無貌の死神へと斬りかかった。