スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう   作:嵐山田

24 / 26
24.歪んだ愛の報酬を Side:スウォメル&ウルル

 彼は――笑っていた。

 あの日と同じように。

 

 帰還の扉へと押し込まれた二人はトウジの最後の顔が頭にこびりついて離れなかった。

 いや、むしろ、今の彼女たちはトウジのことしか考えられていないのかもしれない。

 

「トウジ? ねぇっ! トウジっ!! お願い、お願いだから返事をしてぇぇぇ!!」

「いやっ、いやっ、いやぁぁぁぁぁぁ!!! トージ、トージ、なんで! どうして! ウルルと、一緒って!」

 

 まるで水の中にでもいるかのように透き通っているのに、何も見通せない不思議な空間。

 だがきっと、彼女たちはそんなことすら気にも留めていないだろう。

 

「トウジどうしてトウジどうしてトウジどうして……!」

「トージトージトージトージトージトージトージトージ!」

 

 既に彼女たちの目は色を宿していないのだから。

 いや、ある意味宿しているとは言えるのかもしれない。

 二人の瞳の中にあるのは……黒。

 塗りつぶされたかのような漆黒が映すのは一人の青年だけ。

 

「私たち……捨て、られたの?」

 

 信じられない、信じたくないという思い。

 だが、言葉にせずにはいられなかったのかスウォメルは膝を付き、崩れ落ちたまま、隣りで同じようにしているウルルに問いかけた。

 

「……違う。トージは、そんなこと……」

 

 必死で首を振るい否定しようとするウルル。

 だが、その仕草はまとわりつく最悪の思考を振り払うようでもあった。

 

 後ろを振り返っても、二人が入って来たはずの白い靄のような物は見えない。

 だから、二人はその場でどんどん落ちていく思考の沼にハマっているしかないのだ。

 

「トウジ……」

「……トージ」

 

 もはや二人の間には会話もなくなった。

 それぞれがそれぞれの中で、すがるようにトウジとの思い出を必死に紡ぎあげ、到底受け入れがたい現実を何とか塗りつぶす。

 そんな思考が彼女たちの瞳からは伺えた。

 

 その時だった。

 

 ポン!

 

 と、場違いな軽妙ささえ感じる音が響き、二人の眼前に見覚えのある表示がなされる。

 

 ――――――

 深淵奈落脱出者諸君。

 ここは報酬の間。

 諸君は何でも望むものを手に入れることができる。

 だが、あまりに過ぎたものを望めば、その代償は高くつく。

 さぁ、望みを、報酬を叫ぶのだ!

 ――――――

 

 表示されたのは退路も進路も断たれたあの部屋で、トウジを助けるために『剣の萌芽』に触れた時にも見た謎の文章。

 だが、あの時はこの文章の指示に従った結果トウジが目を覚ましたことを覚えている。

 

 一瞬、動揺を見せていた二人だったが、揃ってその時のことを思いだしたのか、力なくふらふらと、だが、確かに立ち上がり並んで前を向いた。

 

 そして――

 

「私はトウジと一生一緒にいられる権利が欲しい。そのためならどんな代償だって、払ってやるわ!」

 

「……私は、トージともう離れたくない。ウルルの視界には、トージがずっといなきゃいや。だから、それが、叶うなら、どんな代償も、怖くない!」

 

 水の中、いや、トウジが見たのなら宇宙と形容するかもしれないその空間に二人の本心が吐露される。

 

「「だって、私、もう、トウジ(トージ)無しじゃ、生きられないもの」」

 

 依存と妄信。

 二人の想いが叫ばれたその時。

 

 ――――――

 諸君の望み、しかと聞き入れたり。

 さぁ、その手を掲げよ。

 ――――――

 

 表示が切り替わり、手を掲げよと求めてくる。

 

 そんな表示に二人は――迷わずにトウジから貰った『空白の指輪』を嵌めた左手を掲げた。

 

 それが意識してか、それとも無意識だったかは二人にだって分からない。

 だが、トウジとのつながりを求める二人だ。

 指輪を嵌めた左手を掲げるのは自然なことだったのかもしれない。

 

 スウォメルの首下で『依存の首飾り』が、ウルルの耳元で『妄信の耳飾り』がそれぞれ光を放つ。

 その光は二人の腕を絡みつくように伝っていき、やがて、左手薬指へ嵌められた『空白の指輪』にまでたどり着いた。

 

「――っ!」

「……っ!」

 

 二人の左手に焼き付けられるような鋭い痛みが走り、思わず顔を歪める。

 

 だが、次の瞬間には、そんな痛みは彼方へと消え去り、残ったのは禍々しく光るも、(つや)やかさを感じる指輪。

 黒々と重々しい雰囲気となった『空白の指輪』はスウォメルのものとウルルのもので形状が異なっていた。

 

 ――――――

『空白の指輪』が

『依存の指輪』(呪)へと変化しました。

 特殊能力を獲得。

 ・依存の呪い

 ――――――

 

 ――――――

『空白の指輪』が

『妄信の指輪』(呪)へと変化しました。

 特殊能力を獲得。

 ・妄信の呪い

 ――――――

 

 スウォメルの指輪はまるで三匹の蛇が絡みつき、捻じれ絡まったかのようなものに。

 ウルルの指輪は黒い羽の片翼だけの飾りが付けられたものに。

 

 ――――――

 諸君の望みは叶えられた。

 あとは運命の赴くままに――

 ――――――

 

 それぞれの指輪を眺める二人の前に妙な余韻を感じさせる表示がなされる。

 そしてその表示が消えると同時に、二人の丁度間の位置に何かが出現した。

 

 二人はそれに同時に手を伸ばし――二人して拾い上げた。

 

「……これは」

「そう言うこと、よね?」

 

 それ以上、言葉を交わさずとも、二人はそれで何をすればいいかを理解した。

 

 次の瞬間、二人の足元に黒い渦のような物が現れる。

 

「……トージは異世界人で、寄生を嫌がる」

「でも、私たちはトウジが居ないと生きていけない」

 

「「なら」」

 

 二人は揃って顔を上げる。

 黒く淀んで据わった瞳。

 そこに映る、唯一の光こそ……。

 

「私たちでトウジを満たしてしまえば良い」

「……トージを私たちのものにしてしまえば良い」

 

 依存と妄信が入り混じる。

 黒と黒が混ざって生み出されたそれは……歪み切った愛だった。

 

「待っててトウジ」

「……今、行く、から」

 

 

 奈落で願いを叶えたものが精神を壊してしまう理由を、トウジがここにいたら気付けたかもしれない。

 奈落とは、未知と希望に溢れる場所ではない。

 奈落とは、仄暗い感情と絶望の混ざった呪いの溜まり場なのだ。

 

 叶うのは望みでも、それを叶える力は呪い。

 

 だが、呪いがすべてのものを不幸にするとは限らない。

 

 世界にはスリルを好む者、呪いの装備を好んで装備する者、窮地に自ら飛び込む者など様々な人種がいるのだから。

 そう、奈落とは人の業の一つの終着点。

 

 しかし、業は終わることがないから業なのである。

 よって、まだ三人の業は続いていくのだ。

 

 ◇◇◇

 ――スウォメル視点――

 

 黒い渦に呑まれながら、思い出すのはやはりあの日私を助けてくれたトウジの笑顔。

 

 奈落の番人に手も足も出ない私を身を挺して庇ってくれて、相当な痛みを感じているはずなのにそんなことを一切感じさせない笑みを浮かべて私を安心させてくれたあの笑顔。

 

 トウジにとっても強敵だったはずの骸骨剣士との戦闘中、身を隠させた私を不安にさせないように時折見せてくれていた笑顔の横顔。

 

 どうしようもなく私の身を焦がし、脳に焼き付いて離れない愛しい笑顔。

 

 そう言えば、最後、彼が私の背中を押した瞬間も笑っていたわね。

 

「幸せになってくれ」なんて、そんな言葉と共に。

 

 きっと、あれは本心だった。

 私たちを捨てたのではなく、彼はきっと知っていたんだ。

 帰還の鍵で自分が異世界へ帰ってしまうことを。

 

 そうだ、そうとしか考えられない。

 だから、彼は私たちに託してくれたんだ。

 自分が異世界に帰らず、私たちと一緒にいる方法を見つけてくることを。

 

 大丈夫。

 任せて、トウジ。

 

 いつもあなたに頼りきりだった分、あなたの望みは私が、私たちが必ず叶えるから。

 

 黒い渦が完全にスウォメルの身を包む。

 最後に飲み込まれたスウォメルの顔はそんな使命感に満ちていた。

 

 ◇◇◇

 ――ウルル視点――

 

 黒い渦に呑まれながら、思い出すのはやはりあの日私を助けてくれたトージの笑顔。

 

 逃げ疲れ、いつかの寝床に似た暗がりに少しの安らぎを求めて倒れ込んだそこは絶望の入り口だった。

 暗い底へ身体が落ちていく感覚。それはきっと私の罪の証なんだと、恐怖は段々、諦観へと変わっていた。

 しかし、暗い中から光が射した。

 暖かくて、優しい光。

 

 いくら私の身体が小さいからと言って、人一人分の体重だ。軽いはずがない。

 なのに彼は、何のためらいもなく私のために跳び上がり、私を抱えたまま岩の巨人……奈落の番人だったっけ? を倒して見せた。

 

 その戦闘中に見せてくれた笑顔を私は生涯忘れることはないだろう。

 深く、深く私の心に刻まれた何よりも愛しい笑顔。

 

 そう言えば、最後、トージが私の背中を押したときも笑っていた。

 

「幸せになってくれ」なんて、そんな言葉と共に。

 

 あれはきっとトージの本心。

 トージは他人のために自分を犠牲にできる人。

 そんなトージが唯一自分を犠牲にできないこと。

 それはきっと……あの世界、異世界に帰ることだったんじゃないだろうか?

 

 だって、トージの記憶で見たトージは少しも笑っていなかった。

 

 あんなに私に笑いかけてくれるトージが笑えない世界。

 そんなところに帰りたいと思うはずがない。

 

 それなら、私が、今度は私たちが、トージの役に立ちたい。

 

 大丈夫。

 任せて、トージ。

 

 トージの望みは私たちが必ず叶えるから。

 

 黒い渦がウルルの身体を完全に飲み込む。

 最後に飲み込まれていったウルルの表情はそんな決意に満ちていた。




勘違いとすれ違いが極まった結果、使命と決意に燃えるヒロインが生まれました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。