スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう 作:嵐山田
スウォメルの記憶を頼りに俺が来たはずだと言う道を進めば、そこそこな距離を歩いたところでまだ炎が燻っていた松明を見つけることが出来た。
「ここまで意外と距離があったな」
「そうね。でも、目印になる物があって良かったわ。ここって周りがずっと同じだから、気が滅入りそう」
「そうだな」
そして気が滅入った中に俺たちを絶望させるような魔物が現れたりして、凄まじいスリルを味あわせてくれたり……は流石にしないか。
スウォメルの提案に乗る形でここまで来たわけだが、おそらくでも俺が通って来た道だと分かってしまえば、恐る恐る歩いていた時のようなスリルを感じることは出来なかった。
それに今は一人ではない。
心に余裕がありすぎる。
「トウジ。ずっと思っていたのだけど、あなたってすごい実力者よね」
松明を拾い上げたスウォメルがおそらく火の魔法で松明を再び灯しながら俺の方を向いた。
「そんなことはないと思うけどな」
確かに、スウォメルが倒せなかった奈落の番人とやらを倒したのは俺だが、俺はこの世界においては未だ来たての新人。
レベルで言えば、さっきの戦闘で上がっていたとしても精々5もあればいい方だろう。
……ん? いや、ちょっと待て。
ここは流刑地にも使われるような場所だったんだよな?
もちろん、戻る方法が分かっていないから、と言う理由だけでも納得は出来るが……もし、あいつが予想以上に強い相手だったのだとしたら――。
「謙遜しなくていいわ。これでも私はそこそこ高ランクの探索者だったんだから。私の一撃でも体の端しか砕けない番人を一刀両断。そんな芸当、簡単に出来ることじゃないもの」
「……そう、か」
……何だと、最悪だ。
せっかく異世界に来たからスリルを味わえまくると思っていたのに、もしかしてあいつが結構上位クラスだったりするのか?
おいおい、冗談はやめてくれよ難易度ルナティック。
確かに背中に貰った一撃はかなり重かったが、立てなくなるほどじゃなかったし、現にこうして精々レベル5の俺がピンピンしてるわけだから、そこまでじゃないんだろう?
まさかの事態にショックを受け、肩を落とす。
「あ、……ごめんなさい。詮索しないって言ったのに」
すると、何を勘違いしたのか、俺の様子を見たスウォメルが暗い顔になってしまった。
違うんだ、趣味嗜好の話でスウォメルが気にすることは何もないんだ。
だが、頭がおかしい奴だと思われても嫌なので、理由は開示しない。
「いや、スウォメルが気にすることじゃない。世界は広いってだけだ」
「……」
世界には俺のようにスリルを愛する者もいれば、痛みを愛する者もいるし、蔑まれることを好む者もいる。
人の業は深いのだ。
◇◇◇
「……お、若干向こうが明るくないか?」
以降、黙ってしまったスウォメルの横で俺も黙っていたのだが、流石にこの暗い道の中で女の子に暗い顔をさせておくというスリルは俺の好むところではなかったので、努めて明るい声でそう言ってみた。
「……本当ね。あそこがトウジの来た部屋かしら?」
すると、幸いなことに反応はしてくれた。
「多分そうだな。狭い部屋で松明もまだ何本かかかってたし」
……待てよ。
今になって思い返してみれば、あの部屋から続く道は一本しかなかった。
松明が回収できただけ来た意味はあったと思いたいが、これ以上進んでもあまり意味がないかもしれない。
「ねぇ、トウジ?」
そう思って引き返そうか、という提案をしようと横を向くと、それと同時にスウォメルがどこか不安げな声で俺を呼んだ。
「ん? どうかしたか?」
「トウジは……本当にここから出れると思う?」
俯きながらこちらを見るスウォメルの目は不安に揺れている。
そうか、そうだよな。
ここは流刑地にされるような場所。
本来なら、こんな風に誰かと喋りながら探索が出来るような場所ではないんだ。
そう思うと――少し……興奮してくるな。
思わず口角が上がってしまう。
「ああ、大丈夫だ。必ず出られる。いや、一緒に出ようスウォメル」
「――えっ」
俺は不安そうなスウォメルの手を握り、顔には笑みを浮かべたままそう言って見せる。
するとスウォメルは一瞬驚いたような顔をしたかと思えば、みるみるうちに顔を赤くして行き、再び俯いてしまった。
そんな姿を横目に見ながら俺は――
よし! 決まった!
と思っていた。
スリルが薄いならば、自らスリルを呼び込めばいいのだ。
今のセリフは俺厳選のありがちな死亡フラグっぽいセリフ。
ここが現実世界ならば死亡フラグ何てものは当てにならないが、ここは異世界。
それに魔法なんかもある世界だ。
死亡フラグが立つセリフがあったっておかしくない。
どんなに馬鹿げていたって、思いついたことはどんどん試していくべきだ。
……なぜかスウォメルの俺の手を掴む力が少しだけ強くなった気がしたが、きっと気のせいだと思う。
俯いたまま若干早足気味に俺の手を引くスウォメルについて歩けば、先程俺が目覚めたであろう部屋のすぐそばまでやって来た。
だが、何かが変だ。
具体的には分からないが、何か嫌な……いや……スリルの予感がする。
「スウォメルちょっとストッ――」
俺が声をかけようとしたちょうどその瞬間、鋭い斬撃が俺たちを強襲した。
「――クヒッ!」
空いた左手で逆手に抜刀し、その斬撃を間一髪で防ぐ。
そうだよなぁ、そうじゃないとなぁ! 難易度ルナティック!!!
今の一撃だけで分かる。
この相手はさっきのゴーレム以上の強敵だ。
「トウジ? 今のは一体?」
「どうやら敵が居るみたいだぜ。斬撃から察するに相手は身軽なタイプだ。スウォメルはここで身を隠していてくれ。俺が相手をしてくる」
口ではこう言っているが内心ではこのスリルを邪魔されたくないだけだ。
まあ、一応身軽な相手にスウォメルの大槌は……あれ? そういやスウォメルの大槌ってどこに行ったんだろう?
降って湧いた疑問。
だが、確実にこちらの首を取りに来た斬撃に、そんな疑問は一瞬で吹き飛ばされる。
「――イヒッ」
ああ! 最高だ!
この肌がヒリつくほどのスリル。
間違いなく命のかかった駆け引き。
飛び込まずには居られない!
「あ、ちょっと! トウジ!」
スウォメルの肩を押して道の端へ座らせると、先ほど俺が目覚めた空間へ一足飛びに躍り出た。
「さぁ、今回の相手は誰なんだ?」
相手は斬撃を飛ばせる。
よって今回は俺が番人のような位置に立ち、その攻撃をスウォメルの方へ流さないように立ち回らなければならない。
なんて……なんて……なんて良いスリルなんだ!
俺が攻撃をいなしそびれれば、スウォメルにまで被害が行ってしまうかもしれない。
つまり俺は不利な戦いを強いられて……クハッ!
想像が広がり、俺の身体は武者震いに悶える。
そして今回の相手を視界に収める。
その相手は……骸骨の剣士だった。
◇◇◇
抜刀の構えでトウジを待ち構えていた骸骨剣士は凄まじい速度で剣を抜き放ち、正確にこちらの首を捉えた一閃を繰り出す。
まるで剣身が伸びたかのように感じるほどのその一撃、だが、あいにくトウジにはすでに見切れていた。
「――!」
焦らず、力まず、最も心地の良いタイミングで剣を振るう。
骸骨剣士の一閃に沿わせるように、その剣筋を僅かに逸らすように。
それはまるでジャストアクションの如く、決して初心の剣士が繰り出せるような剣閃ではない。
「こんなもんじゃ、ないよな?」
だが、トウジはそれに気づかない。
すでに彼の頭の中はスリルで一杯になっているのだから。
そして骸骨剣士も、まるでそんな狂剣士の姿に喜びを見せるように……カラカラと骨を鳴らし、笑っている様だった。
◇◇◇
私を守るために向けられた背中を、研ぎ澄まされたその剣閃を……綺麗だと思った。
出会ったばかりで、お互いのことなんてほとんど知らない。
なのに、ぶつかり合う剣の火花に照らされる彼の横顔から目を離すことができない。
「ねぇ……どうしてそこまでできるの?」
気が付けば、私はそんな言葉を口にしていた。
だって、だってそうだろう。
彼だって、きっと色々な事情があってこんなところに落とされたはずだ。
なのに……なのにトウジは今も、対面している骸骨剣士の攻撃が万が一にも私の方へ逸れて来ないように、ギリギリまで、思わずぎゅっと目を瞑ってしまいたくなるほどにギリギリまで引き付けてくれている。
たまに私の無事を確認するかのように向けられる視線は万一にも私を怯えさせないようにと配慮するが如く、作り笑顔には到底思えない満面の笑みを見せてくれる。
つい数時間前にあの場所で奈落の番人と対峙していた時には、私の頭の中は疑問や後悔、恨みつらみで一杯だった。
裏切りの予兆はあった、だけど、私はそれに気が付かないフリをして……なんて、そんなことばかりが脳内を占拠していた。
だが――塗り替えられていく。
視線はもう、トウジから離すことが出来ない。
つらい過去も、投げかけられた酷い言葉も、落ちていく私を見る外道どもの最悪な顔も全部、全部、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部!!!
「トウジ……あなただけ」
ああ、もう、何も思い出せない。
私を構成していた色々な要素、虚構で幻で虚しいだけだったそれは、今、そのすべてが彼に塗り替えられてしまった。
剣閃が輝いて見える。
ああ、トウジ……私を助けてくれた、唯一の存在。
トウジの剣が骸骨剣士の剣を強くはじき、骸骨剣士は大きく体勢を崩した。
そして、その一瞬を見逃す彼ではない。
声が聞こえる。
「閃光二連」
剣の速さを目で追い切れない私にも、確かに光り輝く二筋の剣閃を見ることが出来た。
トウジが骸骨剣士に背を向けながら、剣を納める。
その背後では、ばらばらに砕かれた骸骨の骨が今まさに塵へと変わって行っていた。