スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう 作:嵐山田
ああ、さいっこうだぁぁ!!
掠れば首が落ちるような凄まじい剣閃を引きつけては躱し、
剣士だが、どこか和テイストな武士っぽさもある骸骨剣士。
コイツはかなりの強者だ。
俺の中の狂剣士がビンビンに警報を鳴らしている。
しかし、そんな警報もスリルを好む俺にとっては快楽の一要素でしかない。
ゲーム風に言えば、HP表示が赤に突入しBGMが変わるあの瞬間のような感覚がずっと続いているような、焦らされながらも正確な判断を求められる感じだ。
そうして、ひとしきり遠距離でのやり取りを終えると、骸骨剣士もこれ以上は効果が薄いと見たのか、剣を構え直し、こちらへ突っ込んでくる。
突っ込んでくると言っても、ただ、馬鹿正直に突進をかましてくるわけではない。
しっかりとしたステップ、まばたきでも挟もうものなら次の瞬間には姿を見失ってしまうのではないかと思うほどの踏み込み等々、その足さばきもまた強敵らしいものだ。
「――右か!」
反射的にそう口にしながら剣を向ければ、今にも俺の首を落とさんとする骸骨剣士の姿が視界に映り込む。
そうして次の瞬間にはカーンと高く、だが鈍い音を立てながら刃同士がぶつかり合った。
「……クヒッ」
初めて味わう剣のぶつかり合い。
だが、俺に宿った狂剣士の記憶が
さっきのデカいだけの的ゴーレムとは違う。
本物の剣士同士のぶつかり合いに狂剣士としての俺が昂っているのだ。
こうして、スリルでの昂りと強者と対峙したことによる昂り、二種の昂りに身を委ねた俺は最高にハイになっていた。
身体が動き、思考は冴えわたる。
感じたことのないやり取りが剣を介さずとも行われている。
すると不思議と、表情のない骸骨剣士の考えや感情が読み取れるような気がして来た。
幾度となく剣を打ち合う。
一手一手気を抜くことなく、強敵への尊敬を込めて剣を振るえば、こちらへ伝わってくる感情はより明瞭に確かなものになって行った。
「……そうか。お前が、こいつの主だったんだな」
そして遂に俺はこの骸骨剣士の正体に辿り着いた。
どうやら彼はここで死んだ狂剣士だったらしい。
俺が宝箱だと思って開けた箱に入っていた剣、つまりこの『狂剣士の執念』は元々彼の剣だったようだ。
そして、今、彼は死してなお『狂剣士の執念』に俺がふさわしいかどうかを確かめるべく現世に蘇ったらしい。
「尊敬するぜセンパイ。死んでもなおそのすべてを剣に捧げるなんて……正しく執念ってやつじゃねぇか!」
大振りの一撃。
おそらく骸骨剣士センパイの最も得意な必殺パターンだったのだろう。
まるで流れるような動きで、思わず見惚れそうになる。
だが、見惚れられるということは見切れているという証左でもある訳で……。
光るように見えた剣筋をなぞるように払いあげれば、骸骨剣士センパイの剣は弾かれ、センパイは大きく体勢を崩した。
その瞬間、センパイ剣から伝わって来たのは「……見事」という満足げな感情だった。
「ご指導ありがとうございましたセンパイ」
そんなセンパイに俺も心からのお礼を告げてから、覚悟を決める。
こんな最高の相手に無礼を働くわけにはいかない。
俺も、俺のできる最大の剣を見せるとしよう。
「閃光二連」
力で振ることでは絶対に到達できない、高速の二閃がセンパイを捉える。
そして俺が剣を納めれば、先輩は塵となって消えていった。
「……ふぅ」
骸骨剣士の塵が消えていくのをどこか冷静に見つめていれば、その塵の中からなにやら光る物が顔をのぞかせている。
……そう言えば、ここってハクスラゲーの世界だったな。
さっきのゴーレムは何もドロップしなかったけど、また倒したら何か落とすのだろうか?
というか、そうじゃないとハクスラじゃないか……。
なんて、そんなことを考えながら光るソレに手を伸ばしてみれば……『剣鬼の未練(祝)』と言う名前が脳に……ではなく視覚情報として確認できた。
「……は?」
間抜けな声を上げてしまうも、こればかりは無理もないだろう。
目の前にはいかにも近未来な感じのするコンソール画面が浮かび上がっていた。
剣鬼の未練(祝)
剣に狂い、剣にその生を捧げた剣鬼が唯一付けていた未練の宿る装備品の指輪。
しかし、その未練は断ち切られた。
・精神攻撃への抵抗を高める。
「……え、ゲームじゃん」
コンソール画面にはフレーバーテキストと指輪の効果詳細がしっかりと書かれている。
……んん?
確かにゲームの中なのだろうとは思っていた。
だが、メニューが開けて、説明が読めてしまうとなるとそれはまた別だろう。
だってこれじゃあ、スリルがないじゃん!
ハクスラゲーの醍醐味と言えば、武器や防具、アイテム、素材などドロップの収集やレベルアップによるキャラクターの強化だ。
それには俺も同意する。
だが、それ以上の醍醐味が……もしかしたら呪われているかもしれない装備を思い切ってつけてみるスリルだろう!!!
大抵そう言うアイテムは未鑑定だとか、入手しても(不明)みたいなのが名前の横についていて、強いけどもしかしたら呪われてる? とか、そう言うことにドキドキしながらも好奇心に抗えず装備して呪われるのが醍醐味なのに……このコンソールと来たら。
俺が注視するのは(祝)とフレーバーテキストの文面。
最初こそ属性表記かと思ったが、恐らく違う。
この「しかし、その未練は断ち切られた」という一文。
間違いなく、骸骨剣士センパイを正々堂々と倒したことで追加されたテキストで、討伐方法によって解呪された系のアイテムだ。
つまり、このゲームは、なにがどういう物なのかを入手した瞬間に教えてくれるタイプの神ゲーで、それも入手方法によってテキストが変わるタイプの作り込まれた神ゲーなんだ……。
「はぁ……」
確かに、この作り込み要素が色々なアイテムにあると言うのならそれは間違いなく一般的には神ゲーと呼ばれるのだろう。
だが、俺からしてみれば、美味しいところ食いもいいとこだった。
感覚としてはスイカの一番甘い先っぽの部分だけを食べられている感覚。
当然気分は良くない。
ま、いいか。
そう言う仕様なのだとすれば、文句を言ったところで仕方がない。
それに俺は分かってる、ちゃんと分かっていますとも。
自分が一般的に見て、マイノリティ側の人間であることくらい。
けどなぁ……せめて装備してみるまで煽るようなフレーバーテキストだけにしておいてくれたらなぁ……。
なんて、願望を呟いてみるがどうしようもない。
せっかくだから、装備はしておこうと指輪を左手の人差し指に嵌めると道の方へおいてきたスウォメルの方を振り返った。
◇◇◇
「スウォメル? 怪我はない? ――って、うおっ!」
何故か座り込んだまま動こうとしないスウォメルが気になって駆け寄ってみれば、何故かスウォメルが俺に飛びついてきた。
「トウジ、トウジ!」
「え、と……? スウォメルさん?」
背中に手を回し、ギュッと力強くこちらを抱きしめるスウォメル。
そんなに強く抱きしめられるとあまりに柔らかいクッションが暴力的を超えて、狂剣士もびっくりな破壊的攻撃力を持たれるので、そろそろ離れて欲しいところなのですが……。
「ねぇ、トウジ?」
「な、なんだ?」
「これからも、ずっと一緒に居てもいい、かしら?」
若干俺より低い身長から繰り出される強烈な上目遣いプラスクッションの暴力で脳が揺れる。
急に一体何を思ったのだろうか?
まあ、何でもいい。
スウォメルを守らなければいけない状態と言うのはスリルを高めるのに最高だし、俺だってこんな異世界で一人旅を好むわけでは……いや、そのスリルもよさそうだが。
しかしこの破壊的な力を前には俺のスリル好きも屈してしまう。
「ああ、もちろんだ。これからもよろしくなスウォメル」
「はぁんっ!」
「……ん?」
何故か艶やかな声で返事をしてくれたスウォメルに怪訝な視線を向けそうになるも、もしかしたら声が上ずっちゃっただけかもしれないのでやめておいた。
俺は人の失敗の見ないふりが出来る男だからな。
◇◇◇
「さて、探索を再開しましょうか」
しばらくして、おかしな調子から普段通りに戻ったスウォメルの一言で俺は再び目を冷ました部屋へ足を踏み入れた。
「トウジはここに落ちたのね……でも、さっきの骸骨剣士はトウジがここに落ちたときには居なかったの?」
部屋の隅々までを見渡しながら、先ほどよりもだいぶ距離感近めなスウォメルが聞いてくる。
「ああ。だから一本道を歩いていたら物音が聞こえて……それで、スウォメルに出会ったって訳だ」
今通って来た方の道を指さして伝えた。
「そう、あとから魔物が湧くこともあるのね……ってあら? トウジ、そんな指輪していたかしら?」
すると、興味深そうに呟いた後で、スウォメルは目ざとく先ほどドロップしたばかりの指輪に気が付いたようだ。
「ああ、これさっきの骸骨剣士からのドロップでさ」
「……そう。あの骸骨剣士のね」
何故か背筋にぞわっとした悪寒が走った。
横目に見えるスウォメルの目は何故か色を宿していない。
え? なになに? スウォメルの宿敵かなんかだったの?
「トウジ、一応攻撃は受けていなかったようだけど回復魔法をかけるわ」
「え? あ、おう。ありがとう」
妙に据わった目のまま俺の手(指輪をしている方)をグッと握ったスウォメルから温かい何かが流れ込んでくる。
……この感覚、さっき気を失って目を覚ました時に感じた感覚か。
なるほど、スウォメルの回復魔法のおかげであんなに早く立ち直れたって訳だったのか。
「はい、これでいいわ」
「おう、さんきゅな。そう言えばスウォメルは魔法が得意なのか?」
詮索はされたくなさそうだったが、このくらいはいいかなと思って聞いてみる。
「え、あ、そうね。魔法は得意よ。これでも優秀な魔法使いだったんだから!」
するとスウォメルは少し焦ったような反応をした。
ふむ?
魔法使いなのか。
でも、じゃあなんでさっきは大槌で戦っていたのだろう?
「……そうね。話しておくべきよね。一休みがてら聞いてくれるかしら? 私の話を」
なんて考えていれば、その考えを見透かしてか、それともいつもの思い込みでかは分からないが、スウォメルが滔々と語り始めた。