スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう 作:嵐山田
「私は魔法学校を優秀な成績で卒業して、魔王討伐パーティの一員に選ばれたの」
一言目に発されたのはそんな物語の設定にありがちな言葉の羅列だった。
「最初は凄く嬉しかったわ。こんな私を拾ってくれる、それもすごく名誉ある形で起用してくれるとは思っていなかったもの」
感情豊かに、当時は本当に嬉しかったであろうことを察させるように話すスウォメルだが、その口調は尻すぼみにテンションを下げていた。
「けど、違ったわ。あったのは名誉だけ、それも対外的な、ね。そのパーティで私に与えられた役は……私の魔法を当てにしてのものではなかったの」
言い淀み、濁した言葉の先をなんとなく察する。
やはり胸糞の悪い人間と言うのはどこに行ってもいるものなのだな。
「まあ、考えてみれば当然よね。魔法理論は完璧でも、私がまともに使えるのは回復魔法だけ。そんな私の魔法を見込んでのスカウトなんて来るはずがないのよ……」
自虐的にそう言うスウォメル。
なるほど、それで攻撃力不足を補おうと大槌を持っていたのか。
なんというか、すごく健気だ。
それに回復魔法しか使えないとなると、スウォメルの職業はヒーラー系なのだろうか?
そう言えば、こっちの世界での職業概念ってどうなってるんだろう?
骸骨剣士センパイの例から察するに職業そのものは存在していそうだけど……。
「でも、私は必死に頑張ったわ。ソレ以外にも役立てることを証明しようと必死に、雑用とか色々も引き受けたし、慣れない武器も特訓した。……でも、結果が今よ」
無理に笑って見せるスウォメルに心が痛む。
どこが神ゲーだよ。クソゲーじゃねぇかこれじゃあ。
「そうか……スウォメルも大変だったんだな」
こういう時、気の利いた一言を言えると良かったのだが、残念ながら俺にそんな高度なコミュニケーション能力はない。
月並みで悪いとは思ったが、相槌がわりにそれだけ言っておいた。
「ええ、本当、大変だったわ」
すると、人肌の温もりと心地よい重さが肩にかかる。
「だから、さっき、トウジがずっと一緒に居てくれるって言ってくれて本当に嬉しかったの」
どこまでも甘く深く、そして重たい言葉。
暗所に男女が二人、だと言うのに、なぜかそれを聞いた俺の額からは一筋の汗が伝った。
こんなスリルは知らない。
肩に頭を預けられているせいでスウォメルの顔は見えない。
けど、何となく、彼女の目はまたあの色のない据わったものになっているような気がした。
……剣鬼の未練を装備しておいて良かったかもしれない。
◇◇◇
「……そろそろ進むか」
あれから、体感数時間、実際は数十分程度の無言の休憩を俺は切り上げようと口を開いた。
最初は肩に頭をのせていただけのスウォメルが気が付けば絡みつくようになっており、これ以上は知らないスリルと暴力クッションの過剰摂取になってしまう。
「……あっ! ご、ごめんなさい。トウジの隣は心地が良くて、つい」
「いや、気にしないでくれ。スウォメルの気持ちは俺も少しは分かるつもりだ。頼れるときに頼れる人がいるのは安心出来るよな」
俺には居なかったけど。
なんて、スウォメルにあてられてか俺も少し自虐的になってしまったようだ。
忘れろ忘れろ。
もう終わったことで、ここにアイツらはいない。
「……ええ。ありがとうトウジ」
しっとりと柔らかい感触が離れて行けば、触れ合って高まった肌を空気が冷ましていく。
「……そ、そういえばスウォメルの大槌は普段はどこに仕舞ってるんだ? あれ、かなりのサイズだったから普段は大変そうだな~って思ってたんだけど」
何となく密着していない今の方がまずい雰囲気になりそうだったので、無理やり疑問を口にして流れを逸らせる。
「え? 普通に亜空間収納よ? ほら」
すると、スウォメルは何事もなかったかのようにパッと立ち上がり、そう言って大槌を取り出して見せた。
俺も先ほど見たばかりのコンソール画面らしきところから。
「……あ、ああ。そうだよな。俺みたいに普段から剣を下げている方が珍しいよな」
「そう言われてみれば、そうね。でも、トウジにはその剣、似合っていると思うわ」
驚きを嚙み殺して、なんとか話を繋げる。
まさか、こういう転生・転移特有の特典かと思っていた機能が、普遍的な物だったとは。
ってことは、この世界の住人は物を入手するたびに製作者こだわりのフレーバーテキストを読まされてんのか?
……何というか、面白い感覚だな。
いや、スウォメルは亜空間収納って言っているし、もしかしたらこのフレーバーテキストが見える機能こそ特典だったりするのだろうか?
だとしたらすぐに返品したいところだが……。
これ以上は流石のスウォメルにも常識のなさを疑われてしまいそうなので聞くに聞けない。
「それで、次はどこに向かおうかしら? さっき気が付いたのだけど、この部屋、もう一つ道が出来てるわよ」
「え?」
スウォメルが指さした先に目を向ければ確かに、俺たちが通って来た道とはまた別の道が出来ていた。
ドクンと強く心臓が胸を打つ。
やばい、そうだよな。
よくよく考えてみれば、この世界はハクスラでローグライクな世界だ。
どんなに最強を目指して装備を整えても、死ねばすべてが終わる。
ああ、そんなの、そんなのって!!!
「……こう」
「え?」
「行こうスウォメル」
確かに俺はスリルが好きだ。
だが、自分の命を賭けたいとまで思ったことはなかった。
しかし、強い痛みを受けた奈落の番人との戦闘、それから明確に死を意識させられた骸骨剣士との戦闘を経て、スリルへの理解が一歩深まってしまったらしい。
ローグライクを意識した途端、自分でも抑えきれないほどの高揚感が俺を襲う。
「戻っても先には進めないだろう? なら、進むべきだ」
一機のみのローグライク。
セーブもロードもリセットもない。
ああ、なんて最高なスリルなんだ。
再び大槌を亜空間収納へと仕舞ったスウォメルの手を掴み、少し強引に引く。
「ふふっ、トウジって不思議な人ね。分かったわ。私はあなたの行くところに行く。行きましょう」
凄まじく重たい感情を向けられている気がするが、今は気にならない。
俺の矢印がいきり立つ方へ、この感情の示すがままに、俺たちは駆け足で踏みだした。
◇◇◇
「なぁ、スウォメル。この奈落から出た人たちは一体どこから脱出してたんだ?」
歩き続けること数分、ようやく昂りが落ち着いてきた俺はずっと引いて来てしまったスウォメルの手を離して、歩調を揃えながら聞いた。
「脱出の記録は色々噂が飛び交っていたけど、どれも曖昧ね。魔方陣を起動しただとか、すごく強い魔物を討伐したらだとか、壁をひたすら上って再び奈落の口が開くのを待っていたとか」
すると、俺の手が離れるのを咎めるように今度はスウォメルの方から手をギュッと握りながら教えてくれた。
「最後のは流石に嘘っぽいな」
温かい手には知らないふりをしてやり過ごす。
「そうね。確か、一説では一度閉じた口は二度と開かないって話もあるくらいだもの」
「そうなのか」
益々不思議な存在だな、奈落。
世界の至るところにある穴なのに、誰かが落ちればその口を閉ざして、急に道が出来たりもするなんて。
現在進行形の不思〇のダンジョンじゃないか。
うん、うん。
いいね、ようやくルナティックらしさが出て来たじゃないか!
と、一人なら喜びニヤニヤしながら探索をしていたところだろうが、今は二人だ。
「……スウォメルはここから出られたら何がしたいんだ?」
会話に困って、適当に切り出してみた。
「……トウジのしたいことをしたいわ」
……ん?
今、なんか耳を疑いたくなるような言葉が聞こえたような気が……。
「これから先、ずっと一緒に居てもらうんだもの。私の願いはそれだけ。だから、トウジがしたいことを一緒にしたいと思ってるわ」
うん、どうやら聞き間違いじゃなさそうだね?
……あれ?
ずっと一緒に居るって奈落を出るまでの話じゃなかったの?
そんな一生単位の話?
「そ、そっか。じゃ、じゃあ俺も何がしたいかとか考えておかないとな~」
「ええ、たくさん考えておいて。あなたとならなんでも楽しそうだもの」
完全に話題選択をミスった気がする。
そんな安易に開けて良い扉じゃなかった。
ギュッと手に込められる力が強くなる。
それはまるで、掴んだ手を絶対に逃さない即死トラップのようにさえ感じられて……。
……これ、スウォメルの方が難易度ルナティックだろ。
と、思い始めたのはここだけの話だ。
ああ、俺がこんなスリルも楽しめたら良かったのに……。
残念ながら、女性とのやり取りで発生するスリルでは俺は昂らないらしい。
剣鬼の未練の効果詳細を思い出す。
・精神攻撃への抵抗を高める。
……お前、ほんとに効果あるんだよな?
なんか、胃が痛くなってきたんだけど?
繋がれて、今は見えない左の人差し指へ視線を落とす。
すると、繋がれた手の中で、スウォメルが俺の指輪を撫でたような、そんな気がした。