スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう   作:嵐山田

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8.ドロップをプレゼント

「……む、休みすぎたか?」

 

 固い地面での休息だと言うのに、どうしてかよく眠れ過ぎてしまったような気分ですっきりと目が覚めた。

 視界は変わらず暗い。

 だが、何かが違う。

 この暗さ……どこかで覚えがあるような……。

 それに何かすごく手触りの良い毛布みたいなものが、ある?

 

「あ、トウジ。起きたかしら?」

 

「……トージ、おはよ」

 

 すると、俺の真上と腹部の上あたりから声が聞こえた。

 

「あ、ああ。おはようスウォメル、ウルル」

 

 咄嗟に体を起こそうとして、その柔らかな壁にぶつかって思い出した。

 これ、また膝枕されてない? この柔らかい壁は……あれだよな?

 それにこの手の感触は……もしかしなくてもウルルのケモ耳か?

 

「良く休めたようで良かったわ」

 

「……ん。もっと耳、触る?」

 

 スッと身体を横にスライドさせて、それ以上余計なところを触ってしまわないように、俺は紳士なので。

 と言うか、この子たち急に距離が近すぎないですかね?

 

「いや、十分休めた。二人とも助かったよ」

 

「そう? ならよかったわ」

 

「……ん」

 

 相変わらず剣を持っていないと視界は暗すぎて話にならない。右手側に置いた『狂剣士の執念』を触れば、フッと視界が明るくなる。

 本当に面白い世界だ。

 

「さて、今日はどうしようか? 探索はするとして、どこに進む?」

 

 この部屋は俺とスウォメルが来た道以外には一本しか道がない。

 だが、来た道を戻れば、まだまだ向かっていない先はある。

 どこがどのくらい続いているか分からない以上、予定を立てるのは重要だ。

 

「一先ず、まだ行ってない方に行ってみない? そこが行き止まりなら、戻ればいい訳だし」

 

「……ウルルは、どこでもいい」

 

「よし。じゃあ、とりあえず進めるところまで進んでみるか。本当はマッピングできるといいんだが、流石にこの暗い中じゃ厳しいよな」

 

 俺はスリル好きだが、それ以前に一人のゲームプレイヤーでもある。

 この世界における俺がいったいどういう状況に置かれているのかはいまいちよく理解していないが、せっかくなのだからしっかりとした攻略も楽しみたい気持ちだって十分に持っている。

 

「そうね……それに、さっきトウジが落ちたって言う部屋には道が増えた訳だし、マッピングに頼りすぎても迷うことになりかねないわ」

 

 それはその通りだ。

 正確にマッピングをすればするほど、イレギュラーには弱くなる。

 いったいどこからどう違えているのかが分からなくなり、パニックになる可能性がある。

 やっぱり不〇議のダンジョンと割り切って、地図は諦めようか。

 

 そう思った時――。

 

「……ウルル、鼻、良い」

 

「ん?」

 

 それまで黙って俺たちの話を聞いていたウルルが口を開いた。

 

「……ウルル、通った道、分かる、匂いで」

 

「――! 本当か!?」

 

「……ん。トージの匂い、覚えた」

 

 凄い、これは凄いことだ。

 つまり、ウルルがいれば、「あれ? この道通ったっけ?」が発生せず、未知のスリルを求めて実はさっき来た場所でした~! と言うぬか喜びスリルを味わう心配がないわけだ。

 

「流石だなウルル! じゃあ、道に迷いそうになったら任せて良いか?」

 

「……ん。ウルルに、任せて」

 

 テンションに任せてハイタッチを求めれば、ウルルは控えめにパチっと手を合わせてくれた。

 ウルル、スリルについても探索についても優秀過ぎるぜ。

 

「………………」

 

 ……ただ、もう一方から無言の圧と言うか、妬み嫉みの籠った視線が向けられていたことには気が付かないフリをしておいた。

 

 ◇◇◇

 

 この深淵奈落の問題点はなんの面白味もない一本道がひたすらに続くことだろう。

 最初こそ、どこかから何かが飛び出してくるんじゃ? なんて言う警戒心もあったものだが、ここまで確実に一日以上の時間をこの奈落の中で過ごしてみても、そんなことは一度もなかった。

 

 本当にただひたすらに、材質も何も変わらないトンネル状の道が続いているだけなのだ。

 

「……あ、もうすぐ次の部屋に出そうね。また、番人がいるのかしら?」

 

 松明の明かりが反射せず、視界の先が闇に閉じられたところで満を持して明かりを灯す魔法を発動したスウォメルが言った。

 

「ここからだと、スウォメルの灯りがあってもそこまでは分からないな……」

 

 口ではそう言っている俺だが、本音を言えば分からない方が嬉しかったりする。

 やっぱり突然の遭遇戦で、何の準備もない中戦闘がスタートする方が、スリルがあってイイ。

 

「ごめんなさい。これ以上明るくすると眩しすぎると思うし、私の魔力も無限じゃないから……」

 

 すると、俺の言葉を明るさへの批判だと勘違いでもしたのかスウォメルが勝手にへこむ。

 なるほど、こう言う方向に思い込みの強さを発揮することもあるんだな。

 

「いや、良いんだ。スウォメルの魔力は俺たちの切り札兼命綱でもある。居てくれるだけでも安心感に繋がるんだから、そんな風に卑屈になることはないさ」

 

 スウォメルの回復魔法の腕はおそらく超一流だろう。

 まだ、数回しかその恩恵に預かったことはないが、回復を実感できると言うのは地球出身の俺からしてみれば、すごい感覚だった。

 昨日、ウルルを受け止めて着地した足への反動も一日も経たないうちになくなり、今じゃ健脚過ぎるくらいだ。

 

 それに、俺がスリルを味わうための命綱でもある。

 確かに、HPを赤ゲージで止めて狩りをする火事場戦法のスリルも嫌いではないが、それは次が約束されていない可能性のあるローグライクとはあまりに相性が悪い。

 俺はスリルジャンキーだが、目の前のスリルの最大化にこだわって以降のスリルを犠牲にするばくち打ちではないのだ。

 

「そ、そう? なら、私の魔法は温存しておこうかしら」

 

「ああ、それで、もしもの時は頼むよ…………ィヒッ」

 

「はうっ!」

 

 いけないいけない。

 後のスリルを考えて、思わず笑いが零れてしまった。

 ……それにしても、スウォメルの返事はよく「はうっ!」って言ってるように聞こえるけど、もしかしてそう言うキャラ付けだったりするのだろうか?

 

 と言うか、そう言えば、彼女たちはこのゲームにおけるどういうキャラなのだろう?

 

 こんな時ばかりは己の事前情報不足を恨む。

 二人ともかなり可愛い外見をしているし、登場キャラクターならかなり人気はあっただろう。

 その辺りの知識があれば、今の自分がどういう状況に置かれているのかを完全に知ることは出来ずとも、推測することくらいは出来たはずだ。

 そうすれば……今後のスリルをなるべく大きくすることだって出来たかもしれないのに。

 

 まあ、この手探り感もそれはそれで悪くはない。

 悪くはないのだが、そんな感情と同じくらい気になる物は気になるのだ。

 

 ◇◇◇

 

 目指していた部屋に出てすぐ、俺は戦闘を開始していた。

 もちろん、二人には道の方で待っていてもらって、だ。

 

 今回の相手も前回同様奈落の番人と思しきゴーレム。

 だが、ウルルを助けたときのやつではなく、スウォメルを助けたときに出て来たノーマルな型に似ている。

 

「……でも、少し小さいな」

 

 番人の鋭いストレートを剣で受け流しながら、俺は冷静にその全身を観察していく。

 今回の相手は明らかにサイズが小さい。

 しかし、その分、今まで戦ってきた二体よりも身軽で攻撃に鋭さがあった。

 

 前二体がのっそりのっそり、重い一撃を打ち込んで来たのに対し、コイツは軽快なフットワークを踏んできそうな身軽さがある。

 

「じゃあ、お手並み拝見と行こうか」

 

 そんな身軽さが持ち味の相手に対し、俺は敢えてフットワークを止め、相手の動きをただひたすらに見つめ隙を晒す。

 

 なぜ、こんなことをするかって?

 そんなもの、決まってる。

 スリルのためだ。

 

 今回の戦闘では、背後に庇う相手もいなければ、片手が塞がって動きが鈍くなっている訳でもない。

 つまり、スリルが不足しているのだ。

 だから、俺が選んだ戦闘方法は――

 

「ウルル! 今だっ!」

 

「……んっ!」

 

 俺が合図を出した瞬間にドッと体から何かが剥がれていくような、妙な不快感に襲われる。

 そして、そんな不快感を覚えている俺の明確な隙を奈落の番人が見逃すはずもなく、気が付けば眼前のもうすぐそこにまで拳が迫ってきていた。

 

 もう、防御を考える暇もないくらいのギリギリのタイミング。

 防御が間に合わないなら、人間はどうするか?

 

 少しでもダメージを逃すように回避行動をとる?

 →違う。

 甘んじて一撃は受け入れて、次の一手を狙う?

 →違う。

 

 答えは……殺られる前に殺る、だ!

 

 タイミングはほんの一瞬。

 ウルルの範囲デバフも相まって、一撃でも貰えば戦闘不能は間違いないだろう。

 だが、だからこそ……!

 

「ケヒッ! やっぱ最高の魔法だぜ、ウルル」

 

 俺は最小限の動きで剣を振るう。

 

「背水の一太刀」

 

 俺の鼻先を奈落の番人の拳が掠めた。

 ただ、次の瞬間――

 

 俺の鼻先を掠めた拳から番人の身体が塵となって崩れていく。

 

 俺の剣は最小限の動きで番人の首に当たるであろう部分を撥ね飛ばしていた。

 

 あぁ……スリル、さいっこう!

 ギンギンに研ぎ澄まされた剣を何とか鞘に納めて、消えていく番人を見つめながら感慨に浸る。

 

「トウジっ!」

「トージ!」

 

 すると、血相を変えた二人が俺の元まで駆け寄って来た。

 

「トウジ! あなた、どうして! あなたの実力なら、ウルルの魔法に頼らなくても勝てた相手でしょう!?」

「……トージ、ウルル、怖かった。また、ウルルの魔法で……」

 

 どうやら原因は俺の戦い方らしい。

 いやぁ、でもなぁ……スリルを味わうためには仕方ないし……。

 何とか二人を言い含めるようなそれっぽい言い訳はないかと考えていると、視界の端に今回のドロップであろう物の影が見えた。

 

 ……あ、そうだ!

 

 俺はそのドロップを拾いながら二人に向き直ると――

 

「確かに、勝てたかもしれない。でも、俺はそれ以上にウルルに知ってほしかったんだ」

 

「え?」

「……ウルルに?」

 

 二人は何のことだと首をかしげる。

 俺はそんなウルルの耳に今拾ったドロップの耳飾りを付けながら続けた。

 

「ウルルの魔法は呪いなんかじゃないって。あんな危険な状態からも逆転できる素晴らしい魔法だって。……よし、これでいいかな。うん、似合ってるよウルル」

 

「――!!」

 

「……え、え?」

 

「これからも頼むぞウルル」

 

「………………ん」

 

 俺がそう締め括れば、表情の乏しいウルルに満開の笑みが咲き、キュッと控えめに腕に抱き着いてくる。

 スウォメルもまだ何かを言いたそうな顔はしていたが――

 

「スウォメル、念のため回復魔法、頼んでいいか?」

 

「も、もちろんよ!」

 

 ――俺が頼めば、ギュゥっと言う擬音が鳴りそうなほどに反対側の腕に抱き着きながら、入念に回復魔法をかけてくれた。

 

 ふぅ……何とかなったぜ。

 咄嗟に考え付いた言い訳だが、もちろんすべてが嘘と言う訳ではない。

 むしろ嘘は最後の回復魔法くらいだ。

 

 ウルルの魔法について思っていたことに偽りはないし、実際そう言う意図もあって、ああいう戦い方をした(七……いや六割はスリルのためだが)のだ。

 

 こうして、俺は戦闘後の事後対応も完璧にこなしたのだった。

 

 ―――――

『妄信の耳飾り』

 とある信仰をしていた者たちが付けていたとされる耳飾り。

 その美しさのあまり、人々は次第に信仰の対象をこの耳飾りへと変えてしまった。

 ・弱体化効果の持続時間を高める。

 ・装備者に精神攻撃強化を付与する。

―――――

 




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