スリルジャンキーな狂剣士、ギリギリの戦いを楽しんでいるだけなのに何故かヒロインたちをどんどん病ませてしまう   作:嵐山田

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9. 徘徊型《無貌の死神》

「スウォメル、ちょっとこっちに来てくれ」

 

「どうしたの? 回復必要?」

 

 あれからも俺たちはウルルの匂いを頼りに探索を続け、もう何度も日を跨いだ。

 スリルに固執した戦い方をしていた俺も、流石にこうも同じような番人ばかりだと飽きてきて、今では最高効率で倒す方法を取っている。

 今もちょうど、そんな奈落の番人との戦闘が終わった直後だった。

 

「いや、そうじゃないんだけど」

 

 不思議そうな顔でこちらを見つめるスウォメルの首に手を回し、俺は今入手したドロップの首飾りをかけた。

 

「……え?」

 

 間の抜けた声が奈落に木霊する。

 

「この前、ウルルには耳飾りをあげたからな。スウォメルにも何かと思っていたんだが、丁度良さそうなものが出たからプレゼントだ」

 

「………………はぅんっ!」

 

 ちょっとキザ過ぎたかなと思って、スウォメルを直視出来ずにいれば、急に胸の辺りを抑えて奇声を発しながらうずくまるスウォメル。

 

「す、スウォメル? 大丈夫か?」

 

 さすがに心配になって肩に触れようと手を伸ばすと、その手をウルルが止めた。

 

「? ウルル?」

 

「……今は、そっと、しておく」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

 少しだけ機嫌が悪そうな声で言ってきたウルルに従い、俺はスウォメルをそっとしておくことにした。

 

 ――――――

『依存の首飾り』

 トップに模られる石はかつて依存するがゆえに依存相手を殺してしまったとされる堕天使が封印されているとかいないとか。

 ・魔力の回復速度を高める。

 ・装備者に精神攻撃強化を付与する。

 ・女性限定装備

 ――――――

 

 ◇◇◇

 

「……ん、この部屋、行き止まり」

 

 スウォメルをそっとしている間にウルルと一緒に部屋をぐるりと壁に沿って一周してみれば、俺たちが入って来た道以外に続いている場所はなかった。

 

「そうみたいだな。なんだかんだ行き止まりに当たるのは初めてか。結構歩いたよな」

 

「……ん」

 

 あれからもう本当に何体もの奈落の番人を倒してきたが、脱出の鍵をドロップしたのはウルルを抱いたまま戦ったあの再生型番人だけだった。

 俺は今一度、亜空間収納にしまったあの鍵を取り出してみる。

 

 ――――――

『帰還の鍵』

 深淵奈落より脱出するために必要な紅い鍵。

 この鍵が何で出来ているかは誰にも分からない。

 ・所持者の精神攻撃への抵抗を高める。

 ――――――

 

 意味があるのかは分からないが、入手するアイテムの全てにはこのこだわりのフレーバーテキストがついているわけで、これを読む感じ、他の色の鍵もありそうなんだよな。

 単純にレアドロップだったのか。

 それともあの再生型が特別だったのか。

 

 これまでの傾向から、ドロップについて確実に分かったことは一つだけだ。

 奈落の番人を倒しても何かが必ずドロップするわけではないということ。

 

 あとはドロップする物の傾向も種類も千差万別。

 ただ、こう言うゲームに在りそうな回復薬などはまだ一度もドロップしていないため、もしかすると装備とこの鍵のようなアイテムだけをドロップするのかもしれない。

 

「……トージ?」

 

 と、一人思考の海に浸かっていれば、ウルルがこちらを覗き込んでくる。

 

「ああ、いや、脱出方法について考えていてな。ウルルを助けたとき以外に鍵がドロップしてないからどうすればいいかなと思って」

 

 別に隠し立てするようなことではないと、俺はウルルにも考えを共有する。

 

「……ん、ウルル、難しいこと、わかんない」

 

 だが、ウルルはそもそも脱出に興味がないのかその反応はあまり芳しくなかった。

 

「そうか……」

 

 鍵を手に入れたときはこのまま奈落でスリルを味わっていたいと思っていたのだが、ここ数日の張り合いの無さから段々俺も脱出がしたくなってきていた。

 もっと、凄まじく強いボスみたいなのが出てきてくれれば話は別なのだが……。

 

 

 

「ご、ごめんなさい、急に変な声を出しちゃって」

 

 そうして俺とウルルが壁に寄りかかって休んでいれば、どうやらトリップから帰還したらしいスウォメルが申し訳なさそうにやって来た。

 

「いや、いいさ。悪いな、俺が急に首飾りを付けたりするからびっくりさせたよな」

 

「……ええ、まあ、そうね。でも、すごく嬉しかったわ。ありがとうトウジ」

 

「喜んでもらえたなら良かったよ」

 

 どうやらトリップの原因は俺の上げた首飾りだったらしい。

 もしかして呪いの装備だったりしたのかな?

 フレーバーテキストと効果詳細を読んだ感じはそんなこともなさそうだったけど……。

 

「……さて、これからどうする? 一先ず進み始めたところまで戻るか?」

 

 スリルに飢えた思考がジッと視線をスウォメルの首飾りに持って行こうとしたが、それを凝視するということはつまりスウォメルの巨大クッションを凝視することと同義であるため、何とかチラ見程度に抑え、俺は話を変える。

 

「ここは行き止まりだったのよね? 広い部屋だから何かがありそうなものだけど……」

 

 そう言いながらスウォメルもぐるりと部屋の全体を見回す。

 すると、その視線が一周する前に、何かに釘付けになるようにして固まった。

 

「……スウォメル?」

 

 ウルルも何か違和感を覚えたようでスウォメルの顔を見上げる。

 俺も釣られてその顔を見ると、なぜかスウォメルの顔は青ざめていた。

 俺は咄嗟にスウォメルの視線の先へ顔を向ける。

 するとそこには……

 

「……なん、だよ、アレ?」

 

 俺たちの視界に現れたのは再生型の番人なんかよりももっと奇妙で気味が悪いものだった。

 死神、とでも形容すべきだろうか?

 その体から生える足はなく、黒一色のボロボロのローブを身に纏ってふよふよと浮いている。

 顔の辺りには黒いモヤが掛かってその内側を見ることは出来ず、目も合うことはないが、まるで自分の内側を全て覗かれているような錯覚さえ覚える。

 そしてその存在は精神を直接揺さぶるような本能的な恐ろしさを感じさせる。

 そんな存在が突然出現していた。

 

 目をそらそうとしても、恐怖ゆえか、それとも何らかの効果かその死神のような何かから視線を外せない。

 

 あいつは何だ?

 一体いつからあそこにいた?

 

 考えても考えても、それを拒むかのように脳内にノイズが走る。

 

 俺たちとちょうど対角になるような位置を彷徨うようにうろついているそれは間違いなく俺とウルルが部屋を一周した時には居なかった。

 そして、この部屋から繋がっている唯一の道は俺たちのすぐそばにある。

 

 つまりあいつはたった今ここにスポーンしたか、壁を関係なく動ける魔物かのどちらかだ。

 

「……スウォメル、ウルル、聞こえるか?」

 

 どれだけ意味があるかは分からないが、念には念を押して、声を殺して俺は二人に声を掛ける。

 

「ん」

「え、ええ」

 

 すると、変わらずアレに視線を取られたままだが、二人から返事が返って来た。

 

 どうやら、完全に動けないわけではなく、少しでも目を離したらまずいと言う本能的な恐怖が俺たちの身体を縛り付けているようだ。

 幸い俺は元々恐怖感が薄いおかげか、それともこんな状況でもスリルを感じられているおかげか、段々身体に自由が戻って来た。

 

「俺が合図したら、少しでもいい、こっちに身体を寄せてくれ。そしたら俺が二人を抱えて逃げる」

 

 とは言え、あいつがまずいことは火を見るよりも明らかだ。

 俺一人ならまだしも、二人を守ったままではまともに戦えるような相手には到底思えない。

 

 俺たちの視界を奪い続ける死神はふらふらと彷徨いつつも、ただ確かに少しずつこちらに近づいている。

 もう、二人からの返事を待っている時間はない。

 

「行くぞ、3、2、1……今だ!」

 

 カウントダウンを終えた瞬間、二人は精一杯の力と精神を振り絞って俺に抱き着いてきてくれた。

 俺はそんな二人の尻と太ももの境目辺りに手を回し、米俵を抱えるような要領で抱き上げて即座位に走り出す。

 

 すると――

 

 ガシャン!

 

 と、まるで手錠が繋がれたような、はたまた重い金属のシャッターが閉じられたかのような音が奈落内に木霊した。

 

 俺は必死に一本道を走りながら察する。

 間違いなく、発見・追跡状態になった、と。

 

「スウォメル、あれが何か分かるか?」

 

 走りながら、この中では一番奈落に詳しいだろうスウォメルにダメ元で質問をしてみた。

 

「分からないわ……でも、奈落からの帰還者の噂で、鎖を引き摺るような音を聞いたって話は聞いたことがあるわ」

 

 だいぶ距離が付いたおかげだろうか。

 先ほどよりは楽そうにスウォメルが話してくれる。

 

「鎖を引き摺るような音……」

 

 あいにく、俺たちがさっき聞いた大きな音とはまた違う音だろうが、同じ金属音と言う時点で何らかの関連性は考えられる。

 

「……徘徊型」

 

 そう、俺とスウォメルが話していれば、ウルルが一人、ぽつりと呟いた。

 

「徘徊型?」

 

「……ん。ウルル、昔、調べた。呪いについて」

 

 俺の左手側に抱かれているウルルは小さく震えている。

 それでも、ウルルは懸命に話を続けた。

 

「……あれは、多分、呪い。それも、色んな呪いが集まって、実体化した」

 

 呪いの実体化?

 どういうことだ?

 

「聞いたことがあるわ。積り重なった呪いは死の権化として実体化することがあるって……」

 

 俺の内心に応えるようにスウォメルが付け加える。

 そう言えば、ここに来たばかりの頃にスウォメルが言っていたか。

 ここはその昔、流刑地としても利用されていたって。

 

 もしかするとあいつはそんな刑死者たちの怨念の塊のような存在なのかもしれない。

 

 気が付けば、一部屋も二部屋も超えて俺は走っていた。

 番人が出てこない辺り、ここまでは俺たちの通って来た道を進めているのだろう。

 

「……トージ、次はあっち!」

 

 三つに分かれた道を前に俺が一瞬スピードを緩めれば、必死に身体を捩じってウルルが道を指してくれる。

 

「分かった!」

 

 俺は指示された通りの道に飛び込み走り続ける。

 しかし、さすがにそろそろきつくなってきた。

 スウォメルもウルルも信じられないほどに軽いが、軽いとは言え二人の人間だ。

 人間を二人担いだままここまで走れる俺の方がおかしいのだ。

 

 だが、そんなきつさも……なんだか楽しくなってきた。

 戦闘ではない。

 だが、俺が足を止めれば全員の命が危ないかもしれない状況。

 

 俺は二人の命を預かっていると言うのに、そんなスリルに興奮してしまっているのだった。

 




F.〇.Eとか呼ばれるあれのイメージです。(笑)
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