それからプイとのトゥインクルシリーズが始まった。
「は? このまま競走に出る?」
プイのデビューは他のウマ娘より遅れてしまった。というのも、彼女が言っていたようにプイは最近トレセン学園に来ていた為に出走登録すらしていなかったのだ。
今は十月。彼女のメイクデビューは早くて12月という事になる。今更練習したのでは間に合わない。……通常ならば。
「ああ。前に言った通り、君には既にG1級の能力が備わってる。ダラケたりしない限り負ける事は無いさ。最も、君はストイック過ぎて逆に体を痛めないか心配だが」
「あなたが付いてからはこれでもトレーニングを控えているのよ? そもそも走り方を直すとか色々考える必要もあるでしょ?」
彼女の方がよっぽどトレーナーらしい事を言って来る。それはもっともで、それがセオリーではある。通常ならば。
「それなんだが、君は自分のフォームやレースの事を独学でかなり詰めてるみたいだな。そのお陰で俺が教えられる事はあまり無い。せいぜいトレーニングメニューを考えるくらいだ」
「何だかあなたをトレーナーに選んで後悔し始めてるわ……」
「ハッキリ言ってくれるな。とは言え、そんな状態だから君の思うレースを模擬レースではなく実際にやって欲しい。そこから君の弱点や改善点を模索して行こう」
「……まあ良いわ。私の選んだトレーナーだもの。あなたの言う通りにしてみるわ」
苦言を呈すが言葉には従う。走っている時からは全く想像も出来ないが、彼女は意外にも素直に言う事を聞くのだ。
その上覚えも良い。本当に誰が担当してもプイは一線級のウマ娘になっていたのは間違いないだろう。
そして……
――――12月
「あなたが言った通り、勝てたわね」
レースの翌日。軽い様子でプイは告げて来る。
レース疲れなど全く無い。それもそのはず、彼女はメイクデビューで余裕を残して圧勝したのだから。
レース内容は完全に模擬レースの再現だった。3コーナーで抜け出したプイは外に持ち出し、上がり3ハロン33.1秒のタイムで他のウマ娘達を圧倒した。
「それで、改善点は?」
昨日の今日で休んだらどうだと言いたくなるも、全く疲弊が見られないのでその心配は無さそうである。本人が言っているように、もしかしたら怪我や疲労には強いのだろう。
それより改善点だ。
「まず、君のレースは完璧だと言って良い。殆ど完成とも言えるレース運びだった。だが……完璧過ぎるが故の弱点がある」
そう言ってノートパソコンの画面を彼女へと向ける。それは昨日メイクデビューの映像であった。
「君はウマ娘の中でも比較的体が小さい。だから囲まれたり、乱戦の叩き合いに持ち込まれたら抜け出すのは難しいだろう。むしろ、俺が君を相手に他の子を戦わせるならまずそこを攻める」
「………………」
賢い彼女だからこそ、そこに反論の余地が無いのだろう。事実彼女の加速力があれば本来ならスタートの時点でハナを取れてもおかしくないのだ。それが出来ないのは、プイがレース中に他のウマ娘と並ぶのを避けている事を裏付けていた。
「なら、どうしたら良いのかしら」
「出遅れるんだ、ワザと」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げるプイにすかさず告げる。
「君の末脚なら、最後方からでも捉えられる。これなら囲まれる状況にはならないし、君の持ち味を最大限活かせる。所謂追い込みで勝負をする」
更に言えば、スパートを最後に集中する事で彼女の足への負担も減らせる。それは敢えて口にしないが。
「正気なの? レースのセオリーを完全に無視してるわ。あなた本当に宝塚記念を勝てたの?」
言いたい放題のプイに思わず青筋を立ててしまうも、グッと堪えて告げる。
「それだけ君が規格外なんだ。正直に言えば宝塚記念はその時の担当の実力が大半を占めてる部分はある。だが彼女が本格化したのは遅かったのに対して、君はもうそれに匹敵する素質がある」
「信じられないわ……」
と、まだ納得行かない様子のプイに溜め息混じりに告げる。
「メイクデビューだって難なく勝ったじゃないか」
それを告げて黙り込むプイ。
「不安なのよ」
普段の勝気の態度と変わり、俯くプイ。
「他のウマ娘と離されるのは、怖いのよ。勝ち負けじゃなくて……置いて行かれる気がして」
「自信を持てディープインパクト」
そう彼女の肩に手を置く。
「この戦法で勝った時、君は英雄になれる」
「英雄……?」
「そうだ。この勝ち方は君にしか出来ない。ターフの上で君は唯一無二だ」
「ダサ」
たった一言の鋭い言葉でバッサリ斬られる。断末魔すらも上げられずに後退ってしまう。
「英雄ってなに、今時流行らないでしょ」
流石はディープインパクト。鋭さの上に粘りも兼ねている。その切れ味は差し詰め日本刀だ。
「お返しよ」
「え?」
「私に変なあだ名つけたお返し」
「そういう事を言うなら、君も色々と控えて欲しいな」
「努力はしてるでしょ?」
「だが課題は山積みだ。今後君はレースでも生活でも、抑える事を意識した方が良い」
「私控え目なのだけど?」
「その発言が既に控え目じゃない」
そんな紆余曲折がありながらも、二人は次の目標“若駒ステークス”を迎える事となる。
――――2月 若駒ステークス
『時間を置く毎に気温が下がって来ました京都レース場。10レース若駒ステークス3歳のオープンクラスレース芝2000メートル戦です。人数は少数精鋭7名となりました』
スタンド席から彼女を見る。今現在は落ち着いた様子で彼女はゲートに入る。
狭い所が嫌いなのと、堪え性の無い彼女はゲートが苦手らしい事をデビュー戦の後に聞いた。どうりで僅かにスタートで遅れる訳だと思っていたが、今後しばらくその心配は無い。
『例年はこのレースを勝ったウマ娘からクラシックで注目される選手が出て来るのですが、今年も注目のウマ娘が出て来ました』
実況の言葉でカメラがディープインパクトへと向けられる。
メイクデビューで鮮烈なデビューを飾った彼女は既に注目されていた。
重賞レースですら無いオープン戦。空気の凍てつく曇天の中、その重圧はG1にも迫るものがあった。
何かが起こる気がする。そんな雰囲気が場内を支配していた。
緊張が張り詰める中、ある確信を抱いていた。
このレースは伝説になる。そしてここが、ディープインパクトという衝撃の真のメイクデビューになると。
そして……
『最後7番納まり……スタートしました!』
ゲートが開き、一斉に駆け出す。そんな中、ゆっくりとした立ち上がりでディープインパクトはゲートを出る。
場内がどよめいている。1番人気に推されたウマ娘が、スタートに失敗して最後方に位置付ける様相に敗色の空気が場内に満ち始める。更に――
『スピードを上げて行くのは5番のコニャックと6番ヒットマン。この二名が、かなりスピードを上げて逃げていく形となりました!』
そのまま大きく差が開いて行き、向正面にディープインパクトが立つ頃にはその差は20バ身以上も広がっていた。
(焦るなよプイ……)
胸の内で彼女に訴える。
先頭は折り合い始めるが明かなハイペース。スタンド前では間違いなく全力を出す事は出来ない。
これは彼女にとっての試練だ。離される事への恐怖心を乗り越え彼女だけのレースをする。その為の練習をここ2ヶ月間積み上げて来たのだ。
4ハロンのラップタイムを身体に叩き込み、完璧な体内時計を仕込んだ。彼女が冷静にレースを出来る限り、ペースを誤る事は無い。
そのまま3コーナーに差し掛かる。
『先頭から中団までは10バ身、後方までは20バ身程の距離になりました。ここでディープインパクト動き出しました』
ディープインパクトがペースを僅かに上げる。後方のウマ娘達よりも早めに上がり始めたディープインパクトの位置が上がって行く。
だがそれでもその差はまだ10バ身以上ある。
そのまま4コーナーを抜けてホームストレッチ。ディープインパクトはまだ7バ身後ろの後方二番手。
「ハァァァァァ!!」
前方のウマ娘達がスパートをかける。そのまま5番のコニャックが6番のヒットマンを躱して先頭に立った。
その瞬間をカメラがアップで捉える。
だがその瞬間だった。
ワッと場内の熱が上がる。
「!?」
その異変と威圧感にコニャックは気が付いた。
思わずコニャックが振り返ったそこにディープインパクトの姿があった。
後方7バ身もの差を、ディープインパクトは一瞬で埋めていた。
『ディープインパクトがじわじわと上がって来た残り200メートル一気に加速!』
僅か200メートルの間に、後方二番手のウマ娘が先頭に立っていた。
全力ですらないスパートで、全てを薙ぎ払うその姿は最早別の時間の存在とすら思えた。
全力でスパートをかけるウマ娘達の時を止め、その中をただ一人駆け抜ける。そんな光景を見せ付けながらディープインパクトは単独でゴールを切った。
『ディープインパクト衝撃の末脚ィ!! 一気に抜けた強い! 強すぎる!! ディープインパクト強い印象を残してゴールイン!!』
実況が白熱し、場内が熱に沸く。
「はぁ……」
そんな中トレーナーである自分一人は喜びより先に疲労でその場に崩れ落ちた。
こんな作戦を思い付いてなんだが、この戦い方は心臓に悪過ぎる。
G1を終えたかの歓声の中、その余韻に浸る事も出来ない。
ディープインパクトの衝撃の二戦目は、終わってみたら最終直線後方二番手のウマ娘が、5バ身の差を付けてゴールするという俄には信じられない結果となった。
――――控え室
「何よ疲れた顔して。疲れてるのは私の方なんだけど」
控え室のパイプ椅子に腰掛けてドリンクを飲みながら、涼しい顔でプイは告げて来る。
前回同様、その様子はとてもレースとウイニングライブが終わった後の姿には見えない。
「この戦法は見てる側からしたら心臓に悪いな……と」
先程の場内の興奮から水を掛けられた気分になりながらもそう答える。
「はぁ? あなたが言い出した事でしょ? そもそも一番私が苦しい思いしたんですけど」
その通りなのだが、ふてぶてしい彼女の態度が素直に納得させてくれない。
「その割に余裕だったな」
「何の為に練習して来たと思ってるのよ。先頭の子は飛ばし過ぎてて、絶対最後は詰まると分かってたから差が開いても焦る必要無かったのよ」
「さいで」
短く返すと、「フン!」と鼻を鳴らしてプイはドリンクをストローで勢い良く飲み込む。
そして1拍置いて視線を真っ直ぐ向けたまま徐ろに再び口を開いた。
「でもまた、あなたの言った通りになったのは認めてあげるわ。あれだけ離されても、私なら余裕で差し切れるって分かった。今回のレースで自信もついたし、離されても大丈夫だって分かった」
「全部君の素質だ。俺に出来た事は少ない」
「けれど、流石はグランプリを獲ったトレーナーだって思えたわ。その……疑ってごめんなさい」
「…………」
俯き気味に告げる彼女にかける言葉がすぐには思い付かなかった。
「な!?」
しかし無言という訳にも行かないので、ワシワシとプイの頭を撫でる。
「ちょ! やめてよ!」
彼女に手を払われる。プイは勢い良く立ち上がって尻尾を振り回して憤って見せた。
「そういう時は感謝してくれれば良い。謝るのは君らしくない」
「む」
と膨れるプイ。彼女もまた押し黙ってこちらと同じように言葉を探していた。
「私も……G1を勝てたら」
膨れっ面を解いて、真面目な顔でプイは告げる。
「私もG1を勝つ事が出来たなら、あなたに感謝の言葉を送っても良いわ」
「ああ。期待してるよ。その為にも、俺も全力で君を勝たせないとな」
そう互いに不敵な笑みを浮かべながらその日は幕を降ろした。
――――7日後
プイのデビューから7日。衝撃的な彼女のレースぶりに、連日記者達が押し寄せて来ていた。
プイにもあまりにインタビューが集中してしまい、練習に身が入らないとあってたずなさんが報道規制をしてディープインパクトとそのトレーナーへの取材は制限してここ数日は収まったが、ここまで話題になるとは流石に思っていなかった。
そんな忙殺の日々の中、一つだけ気になる質問があった。
「ディープインパクトはこのままクラシック路線でレースをするのでしょうか?」
「ええ。次には弥生賞を。そして皐月賞を予定しています」
「ならば、無敗の三冠ウマ娘も視野に入れているという事でしょうか?」
そんなやり取りがあった。
(無敗の三冠ウマ娘……)
途方も無い偉業。それを成し遂げたウマ娘は史上かつてたった一人のみ。
皇帝シンボリルドルフ。無敵と称されるその走りは、出走したらレースがつまらなくなるとさえ言われた程である。
そんな者と肩を並べる程の大偉業。だが、プイならそれを成せるのでは、という気を抱かずには居られなかった。
そんな事を思い返している時だった。
「ディープインパクトのトレーナーはあなたか」
低く威圧感のある少女の声に、目を向ける。
そこに居たのは鹿毛のウマ娘。キリと鋭い目をした少女が立っていた。
制服姿でも一目見ただけで彼女が誰だかは分かった。何故なら彼女の記録は記憶に新しい。
「……アレクサンドロス」
大王アレクサンドロスと呼ばれた彼女は、昨年のダービー覇者であり、NHKマイルからのダービー制覇という史上初の変則二冠を獲得し、更にはその両方がレコードというとんでもない偉業を成し遂げた。
だがその強烈な強さが故か、その次の出走から調子を崩した彼女は次走の天皇賞・秋を前にして引退してしまった。彼女もまた、ウマ娘の限界を超えて走ってしまったのだろう事は、トレーナーという立場から容易に察する事が出来た。
しかし現役を退いて尚、彼女の威圧感は消えていない。
「うちのディープインパクトに用かな?」
そう尋ねると、アレクサンドロスの目はウッドチップコースを走るプイへと向けられる。
彼女は日課となるコースラップを身体で覚える訓練をしていた。もっとも、今日の練習メニューを終えた後の自主練を勝手にやっているのだが、どうにも走り出した彼女を止めるのは容易ではなかった。
「先日は凄まじいレースだった」
アレクサンドロスがふと呟き、同じように目を向ける。
「まだまだ、彼女は全力を出し切っていない」
「ならば見てみたいな。彼女のその全力を」
聞き覚えのある、低く凛とした声にハッとして目を向ける。
「ルドルフ……会長」
長い鹿毛に、前髪に一本月型の白い髪が混じった印象的な姿。何より自信と気品を備えた真っ直ぐな出で立ちから来る絶対王者としての貫禄が、彼女シンボリルドルフを只者で無いと感じさせた。
「私も先日の若駒ステークスを見させてもらった。オープンクラスとは思えない程の盛り上がりには私も驚かされたよ。遂にこの次元のウマ娘が現れたのか、とね」
「畏れ多い事です。あなた程ではありませんよ会長」
「謙遜はよしてくれ。彼女はまだ全力を出し切っていないのだろう? それに私には分かるよ」
チラっとルドルフはプイを一瞥する。
「彼女は三冠ウマ娘の器だ。それも、私と同じく無敗でそれを成し遂げられる可能性を秘めている」
「!!――」
それを見抜かれて思わず絶句する。
「どうだろう。私もその実力を肌で知っておきたい。面子はこちらで用意する。模擬レースをさせて貰えないか?」
思ってもない提案に再度絶句しそうになる。しかしすぐに言葉を返さなければならないと言葉を振り絞る。
「良いのですか!?」
「おや。提案をしているのはこちらなのだから、虚心坦懐の君の判断を仰ぎたい」
そんな難しい言葉を用いられて虚心坦懐で居られるものかと思ってしまう。
が、これは二度と無い機会だ。今後現役でレースを続けても、これ以上の相手は居ないと断言出来る程に。
「何人で走るのですか?」
「君のディープインパクトを含めて6名で模擬レースをやろうと思っている。ウッドチップコースを左回りで一周の1000メートルというのはどうだろうか?」
「是非お願いします」
「即断即決に感謝しよう。が、彼女の同意は取らなくても?」
「はい。これはプイの試金石にもなる。説得させてでも模擬レースに参加させます」
「心得た。では私は他のメンバーに声をかけて来るとする。それまで休んでいてくれ。出走は1時間後だ」
そう告げてシンボリルドルフはアレクサンドロスを引き連れて去って行った。
――――1時間後
「どうして本人の同意も無しに引き受けるかしらね……」
何とか自主練を中断させた後、プイをコースの脇に座らせて水筒から水分を摂らせる。
案の定小言を言われるが、それでも彼女は言えば従ってくれる事を理解していたのでどうにか納得させようとしていた。
「こんな機会はもう無いんだから。それに俺も君の全力をまだ見れていない」
「負けた時の事考えてないの? 相手はあの無敗の皇帝なんでしょ?」
「正直な事を言えば、君に負けて欲しいと思ってる」
そう告げた瞬間、彼女は飲んでいた水筒の蓋の水をかけて来る。
顔面水浸しにされるも、怒りを抑えて彼女に告げる。
「そういうのは話を最後まで聞いてからにしてくれ。ここで全力を出して負ければ君の弱点と課題を知れると思ったんだ。これは公式のレースじゃないから黒星は着かないし、相手はベテランなんだから君が負けても仕方ない」
そこまで告げてから再び顔面を水浸しにされる。
「私の精神的には黒星付くんですけど。それに……」
とプイは水筒の蓋を戻して投げ渡して来る。
「私負ける気なんて無いから」
そう告げてプイは立ち上がる。
と
「待たせたなトレーナー君」
と声を掛けられる。
振り返れば、ジャージに着替えたシンボリルドルフが、同じ格好の4人のウマ娘を率いていた。
その豪華な面子に思わず声を上げてしまう。
怪物ナリタブライアンにターフの演出家ミスターシービー。そしてシンボリルドルフと来れば三冠ウマ娘の揃い踏みである。
そこに加えて……
「君は足はもう平気なのか?」
声を掛けた相手はアレクサンドロス。怪我で現役を退いた彼女は走れるのだろうかと思うも……
「1000メートル程度なら問題無い。それに、今回は無理をしてでも相手をしたかった」
そう告げてからアレクサンドロスはルドルフの後を追って行く。
そして最後の一人は……
「………………」
「………………」
お互い無言で見つめざるを得ない。そこに居たのは以前去って行った担当。青いリボンが特徴的なウマ娘、ヘルツイエーガーであった。
恨めしげな目で見つめて来る彼女はしばらく只々こちを睨んでいた。が、やがてコースの方へと向かって行く。
担当を変わって後、彼女は何度もG1を走っている。結果こそまだ出ていないものの、彼女の戦績は著しくそれこそ、今そこに居るアレクサンドロスとのダービーでは二着に入着している為その実力は現役でも上澄みの中の上澄みと行って差し支え無い。
そんな豪華面々による模擬レースともなれば、そんな大イベントを聞き付けてギャラリーも増えていた。
「トレーナー君! 合図を頼めるか?」
シンボリルドルフに促され、スタートライン上に立つ。
皆横並びになって体勢は完了していた。
「位置に着いて……」
六人は体制を低くして構える。
それを確認してから、手を上げる。
「用意……スタート!」
手を振り下ろした瞬間だった。二つの旋風が駆け抜ける。
乗っけから即全力を出したのはディープインパクトと……
(ヘルツイエーガーだと!?)
彼女の担当をしていた時にそんな走り方は教えていなかったので驚愕してしまう。彼女は鋭くキレる脚を持つ。その瞬発力はディープインパクトすらも上回る。
現に本気で勝ちに行く為に先行策を取ったディープインパクトはヘルツイエーガーの前には立てずに二番手になってしまう。
そもそも、ヘルツイエーガーは現役G1クラスのウマ娘だ。はっきり言って現在この中で一番の実力者と言って良い。
だが、それに続くのは現ダービーレコードホルダーであるアレクサンドロス。それに続くナリタブライアンとシンボリルドルフ、最後方にミスターシービーが構える。現役G1クラスのウマ娘のラップタイムに誰一人遅れる事無く着いていく。
(何なのコイツ!?)
しかしそんな中ペースメーカーとしてハナを取ったヘルツイエーガーが背後を一瞬だけ確認する。
リードは1バ身と行った所。完全に捉えられる距離にディープインパクトは控えていた。
(これでまだ2戦!? もうG1クラスのレースが出来ている!)
しかも息を入れる為にペースを落とすヘルツイエーガーだが、ディープインパクトに息を入れる素振りは見えない。にも関わらず平然とした様子で普段通りの呼吸をしてる。
(上等じゃない!)
それを見て激情したヘルツイエーガーは向正面で息が整うと、まだ500メートルの距離で再びスパートをかけ始める。
(どこまでその余裕な顔をしてられるか見物ね!)
ヘルツイエーガーに合わせてディープインパクトのペースも上がるが、純粋なトップスピードではやはり勝てず、そのまま距離を離されて行く。
そのまま3コーナー、4コーナーを抜けて直線までスパートをかけ続けるヘルツイエーガー。
見せ付けるようなロングスパートの後にヘルツイエーガーは振り返る。それは自分のスパートでどれだけのリードがあるか確認する為だった。だが
「!?」
ディープインパクトは距離こそ僅かに開いたものの、余裕な様子でヘルツイエーガーに差し迫っていた。
すぐさま前を向き直してスパートを続行するヘルツイエーガー。しかし如何に1000メートルのレースと言えど仕掛けが早すぎ、もう彼女に脚は残っていない。
「ハァァァァァ!!!」
しかし現役シニア級としての意地が彼女を後押しし、気迫で前に出ようとする。
逃げ切る形になるヘルツイエーガーと追うディープインパクト。
その差は徐々に狭まって行く。そのまま残り100メートルを残してディープインパクトがヘルツイエーガーを交わす。……かに思えた。
「!?」
ディープインパクトは気が付く。ヘルツイエーガーに並び掛けようとするその時、外から並び掛ける影に。
「オォォォォ!!」
普段の姿からは想像もつかない程の荒々しい雄叫びを上げながらシンボリルドルフがディープインパクトの外から上がって来る。
「くっ!」
「?」
その威圧に圧されたか、プイは何時に無く焦った表情を浮かべていた。が、それは勝負とは全く無関係なものであるのが何となく分かった。
そのままシンボリルドルフが並ぶと、ディープインパクトの速度は僅かに落ちる。既にヘルツイエーガーは交わして内側が空いているのだが、並び掛けられたディープインパクトは何故かシンボリルドルフを追い越す事が出来ない。
そして……
(あれは……?)
一瞬、何処からか黒い何かが過ぎったように見えた。木陰のようにも見えたが、このコースに影を落とす物など何も無い。
そんな事に気を取られているとディープインパクトは失速し、遂にはシンボリルドルフを追い抜けずにゴールラインを切っていた。
叩き合いで持ち味を活かせなかったディープインパクトはシンボリルドルフ、更には後から追い上げて来たナリタブライアンに次いで3着という結果に終わった。
「ハァ……ハァ」
模擬レースが終わって息も絶え絶えの五人。そんな中、プイだけは肩で息をする程度で立ち尽くしていた。
初めての敗北……だがプイの目は敗北に悔やむ様子はない。何か歯痒さをかんじさせる視線は何もない場所を見ていた。その“何か”を追うようにプイの瞳が動く……と。
「いやはや、まさか全力を出させるとはな。本当に、2戦目のウマ娘の実力ではないな」
そう語り掛けるシンボリルドルフへと視線を向けるプイ。
「どうも……」
と短い言葉を返すプイにシンボリルドルフは笑いを交えて返す。
「今回は模擬戦だったが実に良いレースだったよ。こちらは現役を退いた身とは言え君はまだまだこれからだ。今回のレースは気に病まなくて良い。今後の糧にして本番に臨んでくれ。それと……」
空気が重くなるのを感じる。遠くの木々が凪いで風が通り過ぎた。
「君は間違いなく私と同じ場所に届く」
その言葉に流石のプイも目を見開いて驚く。
「ではディープインパクト。改めて、今日は模擬レースを引き受けてくれてありがとう」
そう言ってルドルフ達三冠ウマ娘達は去って行く。そんな中プイに歩み寄る鹿毛が1つ。
「速いな、お前は」
アレクサンドロス。昨年ダービー覇者は直接何かを告げたい様子だった。
「本当はターフの上で君と競いたかった。本来ならそれも叶ったはずなのだがな……」
「……先輩の走りも悪くなかったですよ。けど」
と、プイの視線がアレクサンドロスの脚に向けられる。
「私だけではない。昨今のトゥインクルシリーズは、レースの激しさが増している。加えてそれに勝とうと限界を超えて鍛錬を積むウマ娘達も多い。私もその一人だ……」
自分の脚を撫でるアレクサンドロス。
「お前は私のようになるな。そして私の、届かなかったその先の道を見せてくれ」
「先の道……?」
「私達の世代が延々と記録に残るような……そんな伝説を君なら残せるかもしれない。頼んだぞ」
そう告げてアレクサンドロスはルドルフ達の後を追って行く。その向こうに居たヘルツイエーガーも、恨めしげな目を向けたままアレクサンドロスと共に去って行った。
――――後日
「………………」
黙り込みながらミーティングルームで頬杖をつきながら椅子に腰掛けるプイ。
「珍しいな。君が自主練してないなんて」
「悪い?」
「いいや。良い傾向だ」
とは言いつつも、プイの中で意識が変わった理由は何となくだが察していた。
アレクサンドロスが自身の怪我を悔いていた事が彼女には響いていたのだろう。
アレクサンドロスが言っていたのは事実だった。
ここ最近ウマ娘達の怪我が絶えない。それこそ重大事故も度々起きている。レースの熱が高まるのはギャラリーとしては良いだろうが、トレーナーとしては複雑な心境であった。
「改善点」
徐ろにプイが口を開く。
「なんだって?」
「改善点よ。何の為の模擬レースだと思ってるの」
そう憤るプイ。模擬レースとはいえ、やはり負けたのが気になっていたらしい。
「やはり当初言った通り、君に先行策は向かないという所かな」
「知ってるわよ。けど本気で勝ちたかったんだからベストのレースをしたかったのよ」
「そうだろうと思ったよ。けどそのおかげで君の弱点が今回ハッキリと露呈した」
「弱点?」
「ああ。君は叩き合いに弱い。並走するのが怖いのか?」
そう告げるとプイはいつになく俯いてしまう。
「最初に会った時の事を覚えてるかしら」
「ああ。なかなか忘れられない記憶だ」
「その時言ったのと同じよ。……他の子に近付くと、声が聞こえるの」
「声?」
「何処の誰か分からない、その子を応援するものなのか、私に対するものなのかも分からない沢山の声が聞こえて来るのよ」
それを聞いて顎に手を添えて考える。ウマ娘については分からない事が多い。その身体能力も、本来その体重から出せる能力を超え、医学的にも科学的にも証明出来ない何かがウマ娘にはある。
或いは想いの力とも云われているそれは、ウマ娘の力の根源ではないかと考えられている。
プイはもしかしたら、その想いの力に敏感なのだろうかと推測してみる。とプイが更に続ける。
「その声が聞こえて来ると、蝶が現れるの」
「蝶?」
「黒い蝶が、私の視界を邪魔して上手く走れなくなる。だから私は他の子に近付く事が出来ない」
(なるほど)
それを聞いてプイの境遇に納得してしまう。そんな体質だからこそプイは他のウマ娘と一緒に居る事が無ければ、寮も一人部屋を通されているのだろう。
正直トレーナーとして接する彼女はあまり態度が良いとは言えない。それ故に他のウマ娘から嫌厭されているのかと密かに思っていたが、他のウマ娘を避けているのは彼女の方だった。
「あれは蝶だったんだな」
「え?」
「模擬レースの時、君の顔に影が落ちた気がした。けどあのコースに樹木は立ってないから見間違えかと思ったが――」
ダン! とテーブルを叩いてプイが勢い良く立ち上がる。
あまりに突然の事に肩を跳ねて驚いて見せるも、お構い無しに彼女は声を上げる。
「見えたの!? あれが!」
「あ、いや姿までは見てない。影だけだ」
気迫に圧されそうになるも、徐々にプイの表情が変わって行く。
真剣だった眼差しが徐々に笑顔へと変わって行き、そのままゆっくりと彼女は椅子に腰掛ける。
「ごめんなさい驚かせて。今まで誰もこの話を信じてくれなかったから」
「まあこの目で見てる事だからな。それに君の担当なんだ。例えあの影が見えなくても君の事は信じる」
その目に彼女は目を輝かせる。しかし咳払いをしてすぐにいつものムスッとした表情に戻った。
「そ、そう。それより私はこの先どう戦えば良いのかしら?」
気丈に振る舞うも、彼女の頬は若干赤い。思わずそれを指摘したくなるが、せっかくやる気になったのならそれを削ぐ気にはなれない。
「前回と同じように行こう。あの作戦は並走出来ない君には合っている。課題があるとすれば……」
「前に行く気を抑えるように、でしょ? 前回ので自信が着いたし、今回の模擬レースであなたが正しかったと思い知らされたわ。以後この作戦を前提にしてレースをするわ」
「流石、君は覚えが早いな」
そんなやり取りをしながら二人は次のレースを目指す。
ディープインパクトは次のG2レースを圧勝。そして……
――――4月
「遂にこの日が来たな」
皐月賞。クラシック路線第一戦の舞台に二人は居た。
「どこか変じゃないかしら?」
と、控え室の鏡で自分の姿を何度も確認するプイ。
彼女は黒い勝負服に身を包んでいた。最も印象的なのはその背に羽織ったマントで、彼女の膝裏まで伸びるその端には黄色と黒のギザギザ模様で縁取られている。
「良く似合ってる。一端の英雄って感じだ」
「そのダサいの辞めて欲しいのだけど」
と辛辣な言葉をプイは返して来る。初G1という事もあり、余裕が無いのであろう彼女の言葉はいつもより鋭い。
と、傷心している中、コンコンと扉を二回叩く音がする。
「どうぞ」
答えると、係員が姿を見せた。
「ディープインパクト選手、パドックの時間になりました」
その言葉にプイと目を合わせる。
彼女は大きく頷いてから係員を見た。
「分かりました」
そう告げてプイは部屋から出て行こうとする。
「プイ!」
と思わず大きくなってしまった声に係員は肩を跳ねて驚く。しかしプイは微動だにしないまま、言葉も無く半身で振り返った。
「怪我だけはするなよ!」
そんな言葉にプイは「ふっ」と口元で笑うだけで応え、そのまま係員に着いて控え室を後にした。
――――
『8万人がこの目で見ようと集まった! 未来の夢の三冠ウマ娘の舞台へようこそ! 今年のクラシック第1戦はここから始まります!』
実況アナウンサーの熱が高い。8万人の歓声が、18人のウマ娘へと浴びせられる。
そんな歓声を一身に受けるのは断然1番人気に推されているディープインパクトだった。
しかし今日のレースではディープインパクトは外枠。中山競バ場というコーナーが多い舞台では有利とは言えない枠番だ。
そんな前評判に他のウマ娘達の彼女への印象はあまり良くないのだろう。更には訳あってあまり他のウマ娘と交流出来ないディープインパクトは余計にウマ娘達の目の敵にされている。
当然と言えば当然だ。実況からしてまるで彼女達の勝利は歓迎されていないようなものなのだから。
(何だか他の子が気の毒ね)
と、思いながらも順番にウマ娘達がゲートに収まって行く。
それに続いてディープインパクトもゲートへと納まった。
「やだ!」
と、ゲートの後ろで声がする。
「やだ! 私全然期待されてないじゃん! 意味分かんないんだけど!? なんでこんなレース走らないといけないの!?」
ゲート入りの前にそう喚き散らすウマ娘が一人。その言葉に思わず歯噛みしてしまうディープインパクト。
(私だって期待されたくて走ってる訳じゃないのに……)
そう俯いてしまうディープインパクト。
(私だってもっと自由に走りたいのに、こんな歓声なんか無い場所で……誰の声も届かない場所で)
そう思っていた時だった。
【勝て……!】
再び何処からか声がする。ゲートに入って他のウマ娘が近くに居るからだ。
【走れ!】
【差せ!】
【負けるな!】
【死んでも走れ!】
【脚が折れてでも勝て!】
【走れ!】
【走れ!】
【走れ!】
【走れ!】
(やめて……今だけは本当に!)
耳を塞ぐ程の声。思わず目を瞑ってしまう。またあれが見えたら……この声以外何も聞こえなくなったら……そう思うと怖くて仕方ない。
(早く……ここから出して……)
ここから逃げ出したい。何も聞こえない世界へ……
と、その時だった
「プイ!」
「!」
――――
「プイ!」
思わず声を上げてしまう。ゲート内のプイの様子はいつもと違っていた。
そしてその不安は的中し、ディープインパクトはゲートが開いてもそれに気が付いていない。
だが声に気付いたか、自力で気付いたか、ディープインパクトは遅れてゲートを出る。
が、
「!」
思わず声を上げそうになり、会場も響めきを上げる。
ディープインパクトは大きく躓いてその体が大きく前のめりになる。
その瞬間、脳裏にあの光景が浮かんでしまう。
大欅の先で、苦悶の表情を浮かべて失速して行く彼女の姿を。
「くっ……」
見れない。
自分の担当のレースから目を背けるトレーナーに有るまじき行い。それでも、恐怖でそこから先を見る事が出来なかった。
だがディープインパクトはそこから上体を起こして再び走り出す。
再び起こる歓声に顔を上げると、悠然と駆け出すディープインパクトが目の前を通り過ぎる。
中山の2000メートルはスプリントでは無いにしろ、中距離と考えればかなり距離が短い。さらにはそこに不利となる外枠からのスタートに躓いて出遅れるという状況でも、彼女目は全く諦めていなかった。
――――
『さあディープインパクトのスタートはちょっとどうかと言うところ。他の各ウマ娘達は第一コーナーに向かって先行争いが熾烈になっています』
大きく置いて行かれながらも、ディープインパクトは先団を追いかける。
(速い!)
今までのレースと違いG1レース。躓いて距離が離れたにしてもこの程度なら幾らでも詰められたが今日はそう易々とは行かなかった。
(それでも!)
若干のオーバーペースになるも気にしない。無理やり差を縮める為に、ディープインパクトはスピードを緩めずに第一コーナーへと入って行く。
そのまま後方二番手のままコーナーを抜け、向正面へと抜ける。
(勝たないと! どんな状況だろうと私は勝たないといけないの! じゃないと……)
【……て】
声が迫って来る。
ゲートで置き去りにした声が追い掛けて来ていた。
【か……て】
(やめて……)
声が迫って来てレースに集中出来ない。と、その時だった。
「くっ!」
「わっ!」
無意識にペースが上がって行く中、外に持ち出そうとしたウマ娘とディープインパクトは接触してしまう。
「!!」
すると、視界の端にそれが現れた。
【勝て! 走れ!】
「くっ!」
黒い蝶から逃げようとディープインパクトはペースを上げる。
必然的に大外を走らされるディープインパクト。更に不利を重ねてしまうが、それでも構わずにペースを上げていく。
そのまま3コーナーに迫る頃にはディープインパクトは先団に取り付いて7番手になっていた。
しかし
(しまった!)
4コーナーに向かって、スピードを上げたウマ娘達が遠心力で外へと膨らんで行く。
ディープインパクトの得意なロングスパートを掛けようにも、前が壁ではスパートの掛けようが無い。
更に……
「うおぉぉぉぉぉ!!」
後ろから他のウマ娘が迫って来る。更には前のウマ娘達もキツイ最終コーナーを曲がる為に減速し、ディープインパクトは完全に囲まれる状況になってしまった。
【負けるな】
【勝手て!】
【絶対に勝て!】
【走れ!】【走れ!】【走れ!】【走れ!】【走れ!】【走れ!】【走れ!】【走れ!】【走れ!】【走れ!】【走れ!】【走れ!】【走れ!】【走れ!】【走れ!】
頭の中が言葉で埋め尽くされ、視界一杯に黒い蝶が広がる。
何も見えない。何も聞こえない。
だがその時だった。
「プイ!」
その声だけは、脳裏の声の中でハッキリと聞こえた。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ視界を埋め尽くす蝶の隙間からトレーナーの姿が見えた。
そして瞬時に理解する。トレーナーの見えたその大外へと続くラインの直線上に他のウマ娘は居ない。
(これなら!)
ディープインパクトは大きく身を屈める。
そして強く大地を蹴り、大きく弧を描いて大外に持ち出す。
「ハァァァァァァ!!」
そこから声を上げて、全力で直線を駆け抜けた。
視界の黒い蝶たちを置き去りにする。
その先で見えた景色に、並び立つウマ娘は一人として居なかった。
『先頭はディープインパクトォォ!!!』
気が付けばゴール板を切っていた。
「ハァ……ハァ……」
初めてレースで息が上がる。
僅かだが脚が震えていた。
「すげぇ走りだったぞー!」
「そのまま三冠獲ってくれ!」
「三冠ウマ娘との巡り会いだ!」
そんな歓声が場内に巻き起こっているのに遅れて気が付く。
観客席を見れば、皆が大きな声で歓声を送り讃えてくれていた。
そんな光景に圧倒されたしまうディープインパクト。
しかし
「プイー!!」
慣れ親しんだ声は、そんな歓声の中でも耳に届いた。
視線が合うと、トレーナーはゆっくりと人差し指を立てて腕を上げる。
「ふふっ」
その意図に気が付き、ディープインパクトもそれを真似、観客席へと向かって大きく人差し指を掲げた。
クラシック第1戦皐月賞は、出遅れて終始大外を周りながらも圧勝。
滅茶苦茶なレース運びながらも、その衝撃の末脚は確かに見た者の目に焼き付いた。