【完結】「全知」がこたつから出てきたんですが。 作:ただねこ
「ありがとうございましたー」
……ヒマリは「銃を持っている私が外に出るわけにはいかない」と言っていたが、その実……ゲームのキャラクターが現実に存在していることが問題になってくる。
ヒマリは、高校の友人がよく話していた「ブルーアーカイブ」と呼ばれるゲーム……そのスクショに映っていたキャラクターにそっくりなのだ。
「……どうしたもんかねえ」
「どうしたんだい、流くん」
「おわーーーッ!?」
……って、店長?
「はっはっは、やっぱり君の声はよく通るねえ」
「はぁ……休憩中で良かったですよ本当に」
「はいはい、悪かったよ。……で、どうしたんだい?思い悩んでいることがあれば、言ってくれてもいいよ」
……絶賛、ヒマリのことについて悩んでいる。あの車椅子もそうだが、彼女の言っていた「ミレニアムサイエンススクール」。その中でも「全知」と呼ばれる学位を持つヒマリは、正直天才だ。俺なんて足下にも及ばない。
その上で、車椅子に乗る必要のある要介護者を養うことが、金銭的に厳しいと思った。
「……店長」
「うん?」
「シフト、増やせますか?」
「それは……厳しいね」
「ですよね……」
現在でさえ、かなりの時間を仕事に割いている。一度帰って晩御飯を食べた後も、再び夜の仕込みで家を開けることもある。
……趣味や、夢のためにお金を稼いでおきたいから、沢山仕事をしているわけだが。
2人分の料理だったり、ヒマリのサポート。それらも含めて、仕事を更に増やすという行為。それは、齢19という俺の若さにかまけたものだ。
「うーん……何かあったのかい?」
「事情は言えないんですが、人一人分養えるくらいのお金が欲しくて。新しくバイトを始めるとしても、移動時間が惜しいので、シフトを更に増やしてもらえないかと思ったんですが……」
「これ以上は労働基準法に抵触してくるかもしれない。それに、君の身体にも影響が出てくるといけないんだ。……うちはこれで回ってしまっているし、需要も低い。正直、見合ったお金を出せるわけでもないんだ」
「……っ」
「……すまない。君の要望に答えられなくて」
「いえ、いいんです。俺の我儘ですから」
「そっか」
店長の優しい声が沁みてくる。ヒマリの出自もそうだが、正直ヒマリのことはバレたくない。
「すみません、店長。この話は終わりで」
「……うん。休憩、あと30分だからね」
「はい」
……ブルーアーカイブについて、調べておくか。
・・・・・
「おかえりなさい、流さん」
「ただいまヒマリ。何か気になることはあったか?」
「いえ、何もありませんでしたよ。……強いて言うのなら、貴方のパンがとても美味しかったことくらいです」
「……ありがとう」
あれ、俺が焼いたわけでもないんだがな。
「お風呂、入りますか?それとも晩御飯にしますか?」
「晩御飯を作ろう。お風呂も入れておく。適当にシャンプーとかリンスとか、諸々を買っておいた」
「何から何まで、ありがとうございます」
「いいよ。俺がやりたいだけだから」
……俺だって健全な男性だ。ヒマリの声が、とても心地良い。それ以上に、ちょっと危うい。……理性が飛びそうだ。
……俺、耐えられるかな?
「何か、手伝えることはありませんか?」
「……ふむ」
今日は夜の仕込みがあるので、9時頃には家を出なければならない。ヒマリの睡眠を考えると……。
「そうだな、食器の用意と……冷蔵庫から食材を取ってくれ」
「はい♪」
・・・・・
「「いただきます」」
現在の時刻は、6時、ちょっと早めの晩御飯、くらいかな。今日の晩御飯はしょうが焼きだ。
「やはり、流さんのご飯は美味しいですね。……毎日でも食べたいくらいです」
「それ、意味わかって言ってるのか?」
「勿論ですよ。私がそういったジンクスや表現に精通していないとお思いで?」
「いや……いい」
俺の心が瓦解しかけたぞ……。その笑みと声でそのセリフはダメだってヒマリ……どう考えてもダメだって。
「そういえば、今夜はまた仕事に行くんですよね?」
「ああ。明日に向けての仕込みがあるからな。発酵の時間がある」
「趣味も、夢のこともあるのでしょう?」
「ああ」
「……流さん。寝れていますか?」
「……ああ、大丈夫だよ。問題ない」
「……そう、ですか」
「心配しなくていいよ。これはヒマリのためでもあるし」
……少し、余計な心配をさせてしまったな。
「ごちそうさま。先に風呂入ってていいからな」
「あっ……わかりました」
……少し、仮眠をしよう。まだ、大丈夫なはずだ。
パン屋の店長は作者のいい人像を反映しまくってます。