【完結】「全知」がこたつから出てきたんですが。 作:ただねこ
「……少し、くだらない話でもしましょうか」
「……ああ」
電気のついていない部屋で2人炬燵に足を潜らせ、ホットミルクをちびちび飲む。
「流さん」
「ん?」
「この世界で最初に出会ったのが貴方でよかったです」
「……ああ、俺もそう思う」
「あら、天才美少女の私に魅せられてしまいましたか?」
「最後まで通常運転だな、お前は」
「ふふ、照れ隠しは要りませんよ?」
ヒマリはそう言ってウインクをする。色素の薄い瞳が細められ、白い硝子のような身体に閉ざされる。
「……綺麗、だな」
「……ふふ、そうでしょう?」
「ああ、そうだな」
「なんですか、やけに素直ですね」
「俺はツンデレじゃないからな?」
でも、自分でもするりと言葉が出てくる感覚がある。何故?
「……ああ、今日は24日か」
「……そういえば、そうでしたね」
そのまま、お互い目を逸らす。無音の空間が過ぎていく。炬燵の稼働音と、エアコンから放たれる空気の音だけが、耳に入ってくる。
「クリスマス」
「え?」
「クリスマスプレゼントの代わりなんだが……パンでもやるよ」
「ありがとうございます。流さんのパンは美味しいですから」
「焼き方の紙いるか?」
「大丈夫ですよ、覚えましたから」
「流石は全知だ」
「褒めても何も出ませんよ?」
眉を下げて笑うヒマリの顔が、月明かりに照らされるヒマリの瞳が、妙に残る。
「……」
「もう眠いか」
「ええ、そうですね……くあぁ」
伸びをするヒマリを抱え、布団に運ぶ。舌足らずに礼を言うヒマリの髪をほどき、寝かせる。
「……白雪姫か?お前は」
「……今度から名乗り口上に使いましょうか」
「それはいい」
「ふふ……それでは、おやすみなさい」
「ああ、また明日」
今日が、最後の夜。
・・・・・
「おはよう、ヒマリ」
「ええ、おはようございます」
とうとう、今日だ。今日で、明星ヒマリとの半月の日常が終わる。……まだ、そんな時間しか経っていなかったのか。てっきり、半年暮らしたのかと思ったくらいだったけど。
「寂しくなりますね」
「そう思ってくれるだけで嬉しいよ。……あっちでは、時間の流れはどうなってるのかな」
「クリスマスプレゼント、間に合えばいいですね」
「そうだな」
ヒマリのスマホが振動する。
次元間遡行装置の起動合図は、先生からの電話だ。
「よい、しょ」
一旦こたつを退かして、ヒマリを車椅子と、パンと一緒にそこに配置する。
「……それでは、またいつか会いましょうね」
「ああ。……良いお年をって言うんだったか?」
「そうですね。……流さん、ほんとうにありがとうございました。それでは、良いお年を」
空間がぐにゃりと歪んで、ヒマリが居た痕跡は消え去った。