ここはツクヨミのとある一室。そこで2人のアバターが机を挟み向かい合っていた。
片や、だんだんと実力を付け、今やツクヨミ内でも美容系と言う括りであればかなりの配信者となったROKA。
対するは、ツクヨミの管理人でもあり、トップライバー。ツクヨミ内で知らぬ人は居ない月見ヤチヨ。
互いに譲れぬ者のため、今日という日で決着をつけるべく、この場に集まった。
その熱い思いを胸に今、両者の戦いの火蓋が切って落とされる!
「FUSHI?ちょ〜っと黙ろうか?」
あっ……ごめんなさい」
「んん!それじゃあ気を取り直して〜……イロハとの、思い出マウント取り合いゲーム〜!」
わーっと自身で拍手をするヤチヨ。それを見ながら、芦花は未だに状況が理解できず、首を傾げたまま、どうしてこうなったんだっけ、と事の発端を振り返っていた。
彩葉から、かぐやが紆余曲折あり何年も待ち続け、ヤチヨと名乗った。
そんなおとぎ話の様な奇跡を聞いてから数週間。
芦花は今まで通り、ツクヨミで彩葉と駄弁っていた。
「それでさ、うちの親なんて言ったと思う?『好きにやりなさい』だってさ。全く、今までの私の悩みに使った時間を返してほしいくらいだよ」
「まぁ、とにかく話ができたならよかったよ。イロハ、お母さんの話になると目が死んでたからさー」
「えっ嘘、そこまで顔に出てた?」
いつもツクヨミで集まる場所でパフェを食べながら、いつものように過ごしていた。そんなとき。
「あっ、イロハ〜!ここにいたんだ〜!」
「ヤチヨッ!?ギャア!!」
彩葉の最推しが、空から舞い降りた。
「へぇ〜昔と変わらず、ここで集まってたんだね」
「そうそう、にしてもまだ信じられないなーヤチヨがかぐやだったなんてさ」
「まぁいきなりそんな事言われても信じられないよねぇ」
そう言うと、ヤチヨは頬をかきながら困ったように笑みを浮かべる。そんな中、彩葉は芦花の背中に隠れていた。
「ほら、イロハに会いに来てくれたんだから、いつまで隠れてるの。そもそもかぐやの件、説明してくれたのはイロハだったじゃん」
「それはそれ!これはこれ!ヤチヨは私のなかでは揺るぎなき最推しなの!ちょっと心の準備と深呼吸させて!」
と、パニックになり勢いよく深呼吸をしてむせ込む友人をよそに、芦花はヤチヨに謝罪していた。
「ヤチヨ、ごめんねー。昔からイロハこういう所あるからさ、ちょっと時間貰うよ」
それを聞いたヤチヨは「昔から……」と呟いてから手をポンと打ち、満面の笑みでこう言った。
「じゃあ、イロハの学校での話を、ロカから聞かせてほしいなぁ〜」
そして冒頭に巻き戻る。
芦花はいつからゲームになってるんだ、そもそもマウントをなぜ取り合うんだ、と言った疑問が過ったがそれを隅に追いやり、一番の疑問をぶつけた。
「思ったけどさ、私よりイロハから聞くべきだと思うんだけど……」
「ノンノン!それだと面白みがない!なので直接聞くのは最後として、まずは仲良しのロカに聞いてみるのが筋だと思うんだよね〜」
嬉しそうにお菓子を並べながら説明していくヤチヨ。そして並べ終わってから、芦花に向き直りヤチヨは指を立てて意気揚々に宣言した。
「あとロカ、言っておくけど、そっちが
「……それ、言った側負けてるらしいし、何なら立場逆だと思うんだよねー」
「嘘ぉ?!」
じゃあまず私から?んーあの話でいいか。
確か……バレンタインデーの日だったかな。結構友チョコとか貰ってさ、持ってきた紙袋がいっぱいになっちゃったんだよねー。
それで帰ろうとした時にイロハがさ「そんなにあるのに1個増えてもかもだけど……はいこれ」ってチョコを渡してくれたんだよ。
その時の顔がもう真っ赤でさ、可愛いのなんの。え、その時なんて返したかって……?はぁ、恥ずかしいから言いたくないんだけど……「彩葉のなら一番美味しいから大丈夫、ありがと」って……。
「え〜!どっちも可愛すぎない!?うらやましいなぁ〜!」
持っているお菓子をブンブン振り回しながら声を上げるヤチヨ。対する芦花は顔を赤らめながらぷるぷると震えていた。
それからヤチヨは振り回していたお菓子の封を開けて齧ると、次は此方の番と話をし始めた。
次はヤッチョの番だね〜。
割と最近なんだけど、私のライブの後に欠伸をこらえてそうな仕草をしててさ〜。そんな中でもライブに来てくれたのが嬉しくて、それで私の部屋に招待してね、膝枕してあげたの!
もうすっごく可愛かったんだよ〜!「あにょ!……あの、あんまり見られると、恥ずかしい……」って噛んじゃってて、嬉しくなって抱きしめちゃったの!
それが原因で前回会った時に私の背後に隠れていたのでは?芦花は訝しんだ。
「それを抜きにしても、流石イロハだなー可愛さが違うわ」
うんうん、と腕を組みながら頷く芦花。満足気に笑うヤチヨ。そのまま2人の夜は更けていく。
開始から2時間と8分が経った頃。
「────で、その時脚立の上でバランスを崩した私をイロハが飛んできて支えてくれてさ、本当にかっこよかったんだ」
「やっぱり……」
芦花の話す様子を見て、何かを悟ったヤチヨ。すると、申し訳なさそうに芦花に尋ねた。
「ロカ、イロハの事が……」
「あー、バレちゃったか。正直ここまでこっちの気持ちが出てる話し方してるとわかるよね」
気まずそうに目をそらす芦花。そんな様子を見て、ヤチヨは何か言わないとと慌てていると、芦花がそれを手で制す。
「私はさ、イロハが生きてるなら、それで良いんだ」
芦花はどこか浮世離れした様な笑みを浮かべ、静かに語る。
「かぐやに出会う前の彩葉はさ、なんか儚くて、例えるならー……なんだろう、吹かれれば消えそうな小さな火みたいな感じだったんだ。
私と真実はそんな彩葉が放っておけなくって。必死に繋ぎ止めようと、関わりを持ち続けた。それを続けてたある日、かぐやが来た」
手に取った棒状のお菓子を指でもて遊び、咥える。目を伏せて芦花は呟く。
「その日から彩葉が変わった。嬉しかったし、悲しかった」
咥えたお菓子を噛み砕き、飲み込む。まるで自分の本心を隠すように。
「でも私はそれでよかった。あそこまで嬉しそうにさせられる自信、なかったし」
「だから私は、これで」
「ちょ〜っと待って!」
息継ぎすら煩わしいように、矢継ぎ早に口を回す。その最後の一言を芦花が口に出そうとした時、ヤチヨが割ってはいる。
「……まだ諦めちゃ駄目だよ!彩葉が好きな人なんて、まだわからないじゃん!」
それを言われた瞬間、お前が言うか、と顔にデカデカと書かれた表情に変わったという。
一度話を落ち着けるために、互いに緑茶を飲み、小休憩を挟んだ。そして、改めて芦花が話を切り出した。
「ヤチヨがかぐやっての、今さっきの発言で納得したかも。……言っとくけど、恋のライバルが増えるってことは不利になるかもしれないんだからね?」
先ほどの笑みとは異なり、不敵な笑みを浮かべる芦花。そんな様子を見て満足気に頷くと同じように笑い、指を立てながら宣言する。
「だから言ったじゃん、そっちが
「……!漫画と同じ様には行かないってことね……上等じゃん」
と、この長いバトルは一旦引き分けという形で幕を下ろした。
「……ところで、イロハって今日ログインするって話あったっけ?」
「あ」
「こらぁ!!人の過去でバトルすんなぁ!!」
代償として、イロハからのお叱りをもらったうえで、だが。