「よし、これで準備は完了かな」
ここは彩葉とかぐやのタワマン。
机にお菓子とお酒を並べ終わり、コップも並べ終わった。
「にしても、研究室でやらなくてよかったのかな。やけにみんなお二人でごゆっくり〜、とか言ってくるし」
今日はかぐやにアルコールを分解できる機能を組み込んだのでそれの試験日だ。数週間前に芦花と真実の3人で飲み会をやっていたとき、かぐやがお酒を飲みたいと、暴れていたのが事の発端。それから彩葉は研究室の仲間と案を出し合い、どうにかアルコールを分解できる機能を組み込めた。
実際、この機能はアルコールを分解するだけなので原理的には酔わないはずなので、今日は自宅にて試験を行うことになった。
ちなみに、年齢についてはかぐや曰く『まぁ〜精神的には8000歳だし、いけるっしょ!』とのことだ。
「彩葉〜、出来たよ!お酒に合いそうなおつまみ料理!」
そんな件のかぐやがキッチンからおつまみを持ってきた。鼻歌を歌いながら作ったものを並べ、楽しげに席に着いた。
「彩葉!早く飲んでみたい!」
「はいはい、わかりましたよ」
彩葉が席につくと、かぐやはサワー、彩葉はチューハイを手に取り、それぞれプルタブを押し開け、掲げる。
「それじゃ〜乾杯!」
「乾杯」
その勢いのまま、かぐやは缶をあおるように飲む。ぐびぐびと心地よい音を鳴らしながら飲み込み、缶を机に置く。そしてひと言。
「……なんかジュースの方が美味しい」
顔を顰めながら、近場のお菓子で口直しをするかぐや。そんな様子を見ながら彩葉は昔のパンケーキを食べた時を思い出し、笑いながらおつまみを小皿に取り分ける。
「まぁお酒は好き嫌い分かれるから、かぐやは好きなものを飲めばいいと思うよ」
「むむ……それなら彩葉のをちょうだい!」
「あちょ、それはアルコール度数がぁ…………どう?」
「……さらにまずい」
かぐやは眉を顰めながら、おずおずと缶を彩葉の前へと移す。そのまま彩葉が取り分けたおつまみを口に運ぶ。おつまみを食べながらかぐやは当然の疑問を口にする。
「でも美味しくないのになんで飲むの?苦いし、消毒液みたいだし……」
「んー、人によるけどやっぱり酔える、っていうのが一番の理由だと思う。友達となら楽しい思い出、一人だったら嫌なことを忘れられる。悪いことばかりではないんじゃないかな」
彩葉はみんなとの飲み会を思い出しながらゆっくりとお酒を飲んでいく。そんな彩葉を見てかぐやは少し羨ましそうに呟く。
「……私もみんなと一緒に酔えたらよかったのになぁ」
「かぐや……」
「あはは!少し言ってみただけ!チョコ取ってくるね!」
少ししんみりしてしまった。その雰囲気を払拭しようとかぐやはチョコを取ろうと、慌てて立ち上がった。
「ん?なんかぐらつく」
立ち上がったかぐやはその場でたたらを踏み、ふらついた。その様子をみた彩葉は驚き、かぐやに近寄る。
「ちょ……かぐやまさか酔ってる?!」
「うーん、なんかふわふわするような……」
どうやら数秒で願いが叶ってしまったようだ。流石はかぐやである。だが、彩葉からしてみるとそれどころではない。本来の機能を逸脱した異常事態。慌ててかぐや用のタブレットをたぐり寄せる。
「バイタル数値的には問題ない……液漏れもなし、アルコールの分解機能は正常に作動してる……ん?アルコールの分解時にメインCPUの機能低下を引き起こしてる?ちょっとかぐや、これ何本にみえる?」
「ぅん〜?可愛い彩葉の顔がみえるよ〜?」
「っ!?…………ま、まぁ酔いを擬似的に再現できたってことでいいのかな、メインCPU以外に異常な点は見つからないし、原因不明。いったんは経過観察ってことで……」
突然のかぐやからの爆弾投下を躱しながら、データを記録していく彩葉。だが、目の前に居る彼女はそれを許すはずがない。
「ちょっと〜!かぐやと呑んでるんだからかぐやだけを見て!」
かぐやはタブレットを見つめる彩葉の頬を両手で包み、無理矢理かぐやへと向かせる。彩葉の手元からタブレットが床に滑り落ちる。そして逃げ場のない彩葉にかぐやの星々のような煌めく瞳が接近する。
「へ、すっストップ!待って待って待って!」
突然の出来事に動揺する彩葉。だが悲しいかな。相手は自由でわがままなお姫様。止まることは知らない。彩葉は慌てて目をつむり、唇に来るであろう感触を待ちわびた。だが帰ってきたのは、温かい抱擁だった。
「彩葉、いつもありがとう、私のために。無理させてるのも分かってるんだ。でも、彩葉がさ、優しいから、つい甘えちゃうの」
耳元で想いを打ち明けるかぐや。その声を聞き、彩葉もおずおずと手をかぐやの身体に回す。温かい。彩葉が10年間、求めていた物が形違えどそこにはある。その熱に浮かされて、彩葉も言葉を紡ぐ。
「甘えて良いんだよ。今まで甘えられなかった分、ずっと待ってた分、全部私がかぐやにあげるから」
かぐやがその言葉に返事をするように抱き締める力が強くなった。その想いが心地よくて、彩葉もかぐやの肩に頭を預ける。ゆったりとした時間が流れるなか、彩葉は静かに要求を告げる。
「……ん、欲しいな」
「えへへ、そうやって甘えてくれる彩葉も大好き」
私、お酒はそこまで弱くないはずなんだけどなぁ、そんな事を考えながら交わした口づけはいつもより少し、大人の味がした。