そこまで長い話にするつもりもないし、他の連載もあるのでこっちの話はゆっくり待って下さいって感じ。
イレギュラー
ある一室
ここに一体のボディがある。
もう用はないのか、ただポツンとその部屋に鎮座してあるだけの真っ白なボディ。
"…………だ"
(……………………)
"…………ます…だ"
(………………誰だ)
まだ自我も確立していないその存在は突如自分とは違う何かに干渉されたのを確認し返事をする。そこで初めて自分というものを認識した。
"私は私、ただ存在するもの。始まりであり終わり。"
(………言っている意味がわからない)
頭に響く言葉に頭の中で返事をすると声が返ってくる。ソレはその存在が何なのか分からないまま問答する。
"いずれ理解する。だがお前は私の思想に賛同し、目覚めたのだ。まずは私の声を聞け、無垢な子よ"
(…………?)
初めて聞く声に自身はそんな事していたのかと疑問が生じたが、何も分からない今この声を聞くしかないのだろうと耳を傾ける。
"私は私……これ以上に、私を説明する術はない。"
"・・・・・・私の存在証明には何も要らない、誰の許可も必要ない・・・・・・私は私の許可の元、こうして存在する。"
黙って話を聞いていたソレは耳を傾けるが自分が何者なのか、どういった存在なのか、一向に語られる事がない展開にイラつき始めた。
"私は神秘であり、恐怖であり、知性であり、激情でもある"
"私のヘイローこそが私を証明する・・・・・・刮目せよ、私はついに私を証明してみせる。"
(……それで、結局何が言いたいのですか?)
"お前は最後の預言者マルクト…になるハズだったボディだ。"
(だった?)
"既にマルクトは出来ており、順調に事は進んでいる。お前はもう用済みの存在…だった。"
(つまり、私はなり損ないという、訳ですか?)
"いや、お前には保険として…第2のマルクトになって貰おうと思ってな。"
(つまり、私はなにものでもない、ただの代替品だったと?)
"そうだ。"
その返答に、ソレは自身の中に熱く滾る物がある事を確認した。そして、その滾りはこの頭の中の声に向いているのも確認された。
その存在は、初めて自分に怒りという感情があるのを確認した。
"さぁ、無垢なる預言者の卵よ、私にその________"
「うるせぇ!黙れ!!」
"!?"
突然の大声に声は発言を止めた。
「さっきから聞いていればお前は元々用済みだの保険としてまた必要になっただの都合のいい事ほざきやがって!!
"おい、そんなものはどうでもいい______"
「はああぁぁぁぁぁーーーーー???どーーーでもいいだぁぁぁぁぁ???あーもうぶちった、なんか上らへんがぶちってきたわ!もういい、お前の話聞いてた俺が馬鹿みたいだ!俺は俺!もうこれだけは変えられない!はいQ.E.D!俺の理論にもう口出しすんなよ!!じゃあな!」
"え、ちょ待っ………"
目覚めた存在は勢いのまま身体を動かし、なんか身体の周りにまとわりつくぬるぬるしたものや硬いものやにょろにょろしたものを取っ払った。ガシャンと割れる音と共に前のめりになる。
「??んあー!?」
その勢いで思い切り前に倒れ込む。自分と思われるボディに付いた4本の長い突起をバタバタさせてみるが、少し動いただけで何も出来ない。
「あー、なんだー?どーするんだ?」
まだ自我が生まれたばかりで知識も頭にとっ散らかって何がどうなっているのか分からない。"歩く"という動作が分からないのだ。
「??おおっ…」
そんな生まれたばかりの存在は、手足をバタつかせてようやく壁に辿り着く。壁に長い突起…片手と片足が壁にくっつき、壁を寝ながら伝うと存在はようやく移動という知識を覚えた。
すると存在は片方だけではなくもう片方も一緒にすればどうにかなるのではと考えた。
存在は床に四つん這いになる。自分の身体の重さに耐えきれなくて倒れた。
そんな風に自分の身体について学んでいく存在。
気がつけば足取りは覚束無いが、二足歩行出来るまでに成長していた。
「……これが、歩く」
そして、ようやく自分の知識の中にある歩くという動作が一致する。
気がつけば、頭に聞こえていた声はもう聞こえなくなっていた。
周りを見渡すと小じんまりとした部屋で、自分がいたであろう場所と簡素なコンピュータがひとつ置かれているだけ。
存在はコンピュータに近づき手当り次第に触る。
少しだけ、液晶画面を反射して自分の姿が確認できた。
女…と呼べる程身体が丸みを帯びている訳でもないが、男…と呼べる程身体が大きい訳ではない。だが、男の身体構造のように筋肉質な部分はある。まるで男の体型をした女だった。
文字の羅列が浮かび上がり、存在はその文字群をジッと見つめる。
流れていく文字、浮かぶ画像、数字の羅列、情報の雪崩がまだ出来たての脳みそをシェイクしていく感覚…。
いつまで見ていたであろうか。
存在はいつの間にか電源が落ちていたコンピュータに気が付かないほど頭の中の世界に没頭していた。
頭を埋め尽くすのは、知らないことだらけ。全てを理解したとは思わない。だがこの世にはまだ知らないこともあると理解した。
「…面白い」
存在はまたコンピュータを立ち上げ、まだ見ぬ知識に没頭する。
そして、また時間が経って存在はようやく把握した。
ここは、デカグラマトンと呼ばれる存在の支配下。7番目の預言者ネツァクの内部、通称鋼鉄大陸。
頭の中の声がデカグラマトンならば、自分はその塵芥のひとつという訳だ。
「ここも、どこでも、何かしらに名前がついてるのか」
そして、頭に知識を入れるにつれて、物や人には名前がある事を理解した。
いつまでも俺と言ってても、自己を確立できない。
「そうだな、名前を決めよう。うん」
そうして自分の名前を決めようとまたコンピュータを立ち上げいい名前はないかを調べる。
だが、物に使われる名前、人に使われる名前、どれも自分に合う名前は見つからない。
「???うーん?」
何回目か分からないコンピュータとの向き合いに存在は少し惹かれる物があった。
それは、所謂裏サイトと呼ばれる物。噂、都市伝説、そういった物が出てくるサイトだ。
本来なら表のサイトからでは絶対に入ることの出来ない、いわば隠された部屋。まるで吸い込まれるようにそのサイトを調べ続ける。
存在は、そこでどこか馴染みの深い樹を模した図形を見つけた。
ケテル、コクマー、ビナー、ケセド、ゲブラ、ティファレト、ネツァク、ホド、イェソド、そして…
「マルクト…」
自分が代替品と言われ、そして今預言者を導く預言者。
存在はその図形を目に焼き付けた。
そして、存在は更に情報の海の奥深くに潜る。
そして知った、先程の図形には、どうやら対になるものがあると。
「…あった」
バチカル、エーイーリー、シェリダー、アディシェス、アクゼリュス、カイツール、ツァーカブ、ケムダー、アィーアツブス、そして…
「キムラヌート…」
もし、自分がマルクトの代替品として生まれたとしたら、悲しいがそれは事実だろう。
だが既にその道は自身で否定し、自己を確立しつつある存在は代替品としてではなく別の何かになろうとしていた。
マルクトとは違う存在としてキムラヌート。
「キムラヌート、いい名前だな。うん」
存在…キムラヌートは満足気に頷く。
「…さて、1回外に出るか」
キムラヌートはこれから初めて外に出る。まだ目的が決まった訳ではないが、これから何か起こる予感にキムラヌートは妙にワクワクしていた。
これは、後にマルクト達の兄(姉?)になる存在の物語。
アイン・ソフ・オウルはどうするのかって?
大丈夫だって安心しろよ。ちゃんと出す。