ソフの決意
ソフはマルクトに抱えられ空を飛ぶ。両隣りにはアインとオウルも一緒だ。
2人は何が起こったのか分かっていない状況だ、それもそうだろう。起きたらお姉さまが必死表情で私達3人を抱えて急いで家を飛び出したんだから。
お姉さまはいつの間にか着替えており、私達は寝間着姿のまま病院へとやってきた。
「ソフ、何があったんです?」
「……ソフ?どうして病院に来たんですか?」
「…………」
アインの問いにソフは答えられなかった。アインはソフとマルクトを交互に見てから不安がる。
「……ソフ?顔が怖いです…お姉さまも…」
「……アイン、オウル、これから見るのは辛い事だと思うけど…絶対に目を逸らしちゃダメ」
「………」
「ソ、ソフ!そんな縁起悪いこと言っちゃダメです!だって…だってここでそんな事言うって事は…」
「この部屋です」
医者にある部屋に案内されたマルクトが扉を開ける。
「お兄さまに…何かあったって……っ!」
アインが部屋を覗き込むと、中に他の患者は居なかったが、部屋の奥にはボロボロなキムラヌートが眠っていた。
「来たか」
「貴方は……」
「電話した錠前サオリだ……今代わろう」
サオリがキムラヌートの隣を退いてマルクトに代わらせる。
マルクトが近づき手を取り顔を見た。
顔は右半分が酷い状態なのか布が巻かれており、布に巻かれた箇所からわかりやすい程ひび割れが広がっていた。
「我々でもできる限りの事はしました。ですが彼に使われている物が一般とは一線を画しています。万全な状態になるのは不可能かと」
医者の言葉にマルクトは顔を伏せる。
「う、嘘ですよね…お兄さまが…そんな…っ!」
アインは膝をついて現実を受け止めきれずにいた。
「……オウル、あんたは結構冷静だね」
そんな中、ソフとオウルは少し離れた場所で3人を見ていた。
「少なくともこんな惨状のお兄さまを見たらアンタが1番取り乱すと思ってた」
「そう見えますか?これでも結構限界なんですけど」
ソフがオウルを横目で見るとオウルは震える程拳を握りしめていた。
「そういうソフは、なんとも思わないんですか?お兄さまがこんな状況なのに何も感じないんですか?」
「……感じない訳ないじゃん」
ソフ自身、マルクトの電話の内容を聞き酷く困惑した。ただ時間が経ち少し冷静になれていただけだ。
「お兄さまぁぁ!嘘です!こんな事ある筈ないです!!うわぁぁぁん!!」
アインがキムラヌートの身体に顔を埋め、マルクトは顔を背ける。見ると微かに光るものを見てソフの精神は限界に達した。
「………ごめん、ちょっと離れる」
「ソフ?どこに行くんですか?ソフ!?」
オウルがソフを静止するがソフは聞かずに急いで病院を出る。
その後、我武者羅に街の中を走り、どこまで行ってどこまで走ったか分からなくなり、ソフは足の疲れと精神的による疲労によって足がもつれて倒れた。
まだ夜中の時間、ポツポツと雨が降り始める。
「………うっ…」
ソフは貯めていた涙を決壊させて大声で泣いた。
「うわあああぁぁぁん!!」
ヨタヨタと立ち上がり宛もなく歩きながら泣くソフは悲惨な姿の兄と、それに悲しみ涙を流す姉妹が頭の中を埋めつくす。
「お兄さまぁぁ……なんであんな………うええぇぇぇ……」
雨に打たれながら歩くソフに、誰かが通りかかった。
「………あれ?ソフちゃんじゃない?」
「…………え?」
顔をあげると傘を刺してソフを見る早瀬ユウカがそこにいた。
「久しぶり…いや、今はそんなんじゃないわね…何してるのこんな時間にこんな所で!風邪ひくわよ?」
「……アンタには関係ない」
ソフは冷たく突き放しながら反対方向に向かう。
ユウカはソフの手を取り離さなかった。
「離して!離してよ!」
「…こんな雨に打たれて泣いてる子を見放す程私は薄情じゃないわ」
ソフはひとしきり暴れるがユウカを離すことはできず徐々に抵抗しなくなっていった。
「…へっくしゅん!」
「…とりあえず、ウチの部室にいらっしゃい?」
ユウカは優しい目付きでソフを連れて行く。ソフは反論も反撃もする気力もないのかとぼとぼとユウカと手を繋ぎながらついて行った。
「さぁいらっしゃい、まずは身体を温めましょ?」
ユウカが自身が住んでいる所に案内すると、部屋の電気を付けてタオルを渡した。
「……」
「どうしたの……って、そうか場所分からないか。こっちよ」
ソフを連れて脱衣所にソフを置いていこうとするが、ソフが動く気配がない為、ユウカはため息をついてソフを脱がして自分も脱ぎ始める。
「……」
「……」
ユウカは少し動きが止まる。脱がせた相手の容姿が人間に近くとも機械的な部分を備えてあった事に驚いたからだ。
「……何?」
「………なんでもないわ」
ユウカは微笑み、なるべく笑顔を絶やさないで恭しく風呂に入れた。
風呂から出るとソフに自分の着替えを着せて座らせる。冷蔵庫に何か無いか探す。
ソフはブカブカのシャツに自分の膝を仕舞い、3角座りのまま大人しくしていた。
「はぁ…仕方がない、これにしよう」
ユウカはちょっとしか無かった具材を混ぜて炒飯をソフに提供した。
それでもソフは動かなかった。
「………」
「…はぁ」
ユウカは溜息を吐くと置いてあるビーズクッションに腰掛け読書にふける。
そんなユウカを尻目にソフは目の前の炒飯についお腹が空いている音を出してしまった。
置かれたスプーンを手に取り1口食べる。
その様子を本から目を離して見ていたユウカは少し笑うとそのまま本を読み進める。
チビチビ…と食べ進めていたソフのスプーンに乗る量は次第に大きくなっていき、勢いも増し、食べる毎に目から涙が溢れ出る。
全部食べ終えた後、ゆっくりと喋り始めた。
「………お兄さまが、大怪我をした」
「…………」
ソフの言葉にユウカは無言だった。
勿論、ユウカ自身も驚いている。出会ったのはあの1度だけだが、悪い人ではないのは雰囲気でわかる。そんな彼が大怪我。一体どれ程の抗争に巻き込まれたのかとユウカはココ最近話題となった戦闘場所を色々と思い浮かべる。
「……お姉さまが言うには、車に轢かれかけた所を助けようとしたらしくて…」
(車に轢かれただけで?私達より身体が弱い…まるで先生のような…)
ユウカはソフの話を聞き、自分の中で最も似ていると感じた人物を思い浮かべた。
「もし…もしお兄さまの目が覚めなかったら…私達…どうなっちゃうんだろうって……不安になっちゃって…!」
ソフは自分の思いを伝えながら声を震わせる。
「うんうん、確かに気が気じゃないわよね。鼻かみなさい」
ティッシュ箱を差し出し、ソフは鼻をかむ。ユウカは少し自分には口出ししづらい内容にどうすればいいのか頭を回転させる。
「………とりあえず、連絡しましょう?」
ユウカはソフに心配してるであろう姉妹の元に連絡するよう促した。
ソフがマルクト達に連絡している時、ユウカは再びどう答えればいいのか悩んでいた。
(先生に相談しようかしら…でも、私の問題じゃないし…自分からするように伝えれば…)
すると、ドアが叩かれる音が聞こえた。開けると、外には白髪の少女がそこにいた。
「ユウカちゃん♪」
「ノ、ノア!?」
彼女は生塩ノア、ユウカと同じセミナーのメンバーだ。
「ユウカちゃんが夜遅くに色々物色してるって聞いて、何してるんです?もしかして、深夜のイケナイコトですか?」
「ち、違うわよ!あの子の為よ!」
ユウカの指を指す方向にはノアよりも白い少女が電話をしていた。
「……ユウカちゃん?あの子ウチの学校の子じゃないですね?どこから攫って来たんですか?」
「ちっがう!一応知り合いだけど、雨の中1人でずぶ濡れで歩いてたからウチに保護したの!」
ユウカが吠えるとノアもわかってたかのようにくすくす笑う。からかわれたユウカは頬を赤くすると、くいくいと腕を引っ張る感覚がきた。
「……終わった」
「家まで送りましょうか?」
「ううん、お姉さまは今日一日泊めさせて貰えって」
「わかったわ、じゃあ歯磨きして寝ましょ?」
「じゃあ私もご一緒していいです?」
「ノアも?」
「えぇ、このお客様に色々と聞きたい事がありますし」
ノアがニコニコとソフと目線を合わせて言う。
「ほら、ノアも早く準備してきなさい」
ノアはいつものようにニコニコしながら部屋から出て行った。
「〜♪」
寝間着と睡眠道具を幾つか持ってユウカの所へ向かうノア。
「あら、こんな夜遅くにどこへ向かうんです?」
「あら、こんばんはヒマリ部長。ユウカちゃんの所にお泊まりです」
車椅子に座ってコチラに向かって来るのは明星ヒマリだ。
「……お泊まり?何かイベントでも?」
「ふふ、そんな物では無いです。ちょっとユウカちゃんの所にお客様が来たので、私も混ざろうかなーって」
「……お客様?」
こんな時間に?とノアの発言に訝しむヒマリにノアはいつもの笑顔を崩さない。
「宜しければ、ヒマリ部長もご一緒にどうしょうか?私はあの子は結構面白そうな子だと思ってるんですけど」
「…いえ、遠慮しておきます。最近私も忙しい身ですので」
「あら残念」
では失礼しますね、とノアは会釈をして別れる。
「リオと連携して、デカグラマトンのエンジニア達がこの近くに潜んでいるのは分かっているんです。この超天才清楚系病弱美少女ハッカーが………」
ヒマリは意外と近くにいる
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「ソフちゃんはお兄さんとお姉さんが大好きなんですねぇ〜」
「……うん、アインもオウルも、コクマー達も皆好き」
ノアはソフと会話を続ける。ソフは大分警戒が解けて自然体になれるようになったのかノアと軽い会話ができるようになっていた。
「……」
「どうしたの?急に黙って」
ユウカが聞く、ソフは先程の明るい声色とは打って変わって暗い声色になった。
「でも、お兄さまが動けなくなっちゃったら、今までみたいな生活は無理…」
厳密に言うと、暫くは生きる事は出来るだろう。だが、娯楽を知ってしまったソフ達にそんな生活は酷を極めるだろう。
だがソフは、そんな生活は捨ててもいいと思っている。寧ろここまでの生活を支えてくれたキムラヌートが倒れた今、動かないままでいる自分が許せないのだ。
「でも、私は、私達はこのままじゃいけない。いつまでもお兄さま達によくして貰ってちゃいけない」
ソフの言葉にユウカとノアは優しい目付きで頭を撫でる。
「立派ね。ウチの後輩に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい」
「でもソフちゃん?どうするんです?」
「私もお兄さまと同じようにどこかで働く」
「うーん、残念ですけど、ソフちゃんが今のままだとどこでも働くということができませんよ?」
「え!?」
ソフが目を丸くして驚愕する。
「例えば、ミレニアムにあなたのような子が入ってきたとします。そうすればその歳に見合った学年に配属されます」
「私はどこに配属されるの?」
「外見から見れば、初等部辺りですかね?」
「初等部に入れば働けるの?」
「初等部で働くのは無理ですよ?私達と同じ高等部にならないと働けません。初等部の子達も飛び級で高等部に来れば働くのは認められますけどね」
ノアの説明に自分が働けない事を知ったソフは分かりやすくガッカリした。
「でも、あなたのように学校に通ってない、働ける年齢にまで達してない子でもどうにかなる所があるんですよ?」
「え?」
「シャーレってご存知ですか?」
ノアの言葉にソフは固まった。鋼鉄大陸で自分達と対立したシャーレの先生。そのシャーレに行けば現状をどうにか出来るかもしれない。
「シャーレはあなたのような困ってる人を助けてくれる筈ですよ?」
「でも…」
ソフは言えなかった、自分達はそのシャーレと対立してしまっていることを。
「……もう寝ます」
「あら、少し話しすぎちゃいました?」
「おやすみ、ソフちゃん」
「……うん」
部屋の電気を消して就寝するユウカとノア、ソフはノアに言われた事についてずっと考えソフが就寝したのはそれから1時間後だった。
最近アナログホラーなる存在を認知し、見事にハマりました。
みんなパンキプキンラビット見て(○亡描写等のグロテスクシーンはあるが比較的分かりやすい作品なのでアナログホラー系入門に最適だと思ってる。日本語考察系もあるのでそっちでも良し)。