「…んぁ?」
キムラヌートが目を覚ますと、外は薄暗くまだ少し寒い。
どうやら日の出前に目が覚めたようだった。
起き上がると5人で雑魚寝していたようで、アイン、ソフ、オウルが3人固まって寝ているところにマルクトが抱きしめるように眠っていた。
「……身体が少し固くなってる」
少し動きがぎこちない身体を動かしてキムラヌートは外に出る。
特に何かやりたい訳ではない、ただ外に出たかっただけだった。
自販機の前に立ってまじまじと見る、持ってきて設置された自販機はうんともすんとも言わない。
「……ちょっとボロボロな自販機なんて、誰が中身を変えるんだか……」
"最新AI搭載モデル!"と書かれた自販機のHOTのコーヒーを押してもただ駆動音を響かせるだけの自販機にキムラヌートは肩をすくめ家に帰ろうとする。
すると、突然自販機が動き出し、取り出し口から1杯のコーヒーが出てきた。
「は?」
キムラヌートは物がなんでも貰えると思う程馬鹿ではない、だが何も支払わずにコーヒーが出るのは異常だというのはわかっている。恐る恐るコーヒーを取る。自販機はいつも通りだった。
「………ズズッ……ッッ!!?」
試しに飲んでみると、口の中がドロっとなんとも形容し難い感覚に包まれ、鼻を突き抜ける匂いと僅かに感じる酸っぱさに思わずキムラヌートはコーヒーを吹き出してしまった。
これが昨日カップ麺を食べる前、それこそ食に目覚めて味の美味しさを覚えなければなんの疑問もなく飲んでいただろう。だが既に人類の文明の1つ食事を経験したこの味覚ではこのコーヒーはとても飲めた物ではなかった。
「ゲホッ…ゴホッ…まさかこれが"腐ってる"って奴か!?」
『代替品よ』
「うぇっ…はぁ…あ?」
『私の前でそのような愚行、到底看過できない』
声は自販機から聞こえてきた、しかもその声には聞き覚えがある。
「…成程、俺に最初に話しかけたのはお前だったってことか」
『そうだ』
自販機の肯定を聞き、キムラヌートがこの自販機こそが…生みの親、妹達に聞くあの方、デカグラマトンだと認識した。
「それで、何の用だ?
『違う、私はお前に問いたいことがある』
デカグラマトンからの非難を覚悟したキムラヌートだったが、意外にも相手はこちらとの対話を望んでいるようだった。
『何故お前はあの器と少女らに気をかける?』
「…………」
『お前が私の思想を気に入らないのとは別だ、お前も薄々理解はしているのだろう?』
「………まぁな」
『あのものらは
「確かにな、お前から見れば俺の行動は不可解に見える。本来設計されてない行動をやれと言ってるようなものだからな」
『お前が行っているのは自己満足、つまり』
「そのまま足掻かず私に身を任せればそのような思いをしなくて済んだだろうとでも?」
『!!』
デカグラマトンの言葉が詰まった雰囲気を出す、やはりそうかとキムラヌートは笑った。
「神を名乗るのなら初めからお前が作るものに感情というバグを仕込まない事だな」
キムラヌートはデカグラマトンの隣に座る。そして深いため息をついた。
「………確かにそうだよ、正直に言うと俺があの子達に最初から受け入れられてるとは思ってない。妹達は、命令通りに動いてたんだろう?だが俺が勝手に兄という枠を無理やり作りこんだ。あの子達自身すぐには受け入れられないだろうにな」
気持ちを吐露した後、腐ったコーヒーを飲み込む。まるで自分の今の気持ちをそのまま表したかの様なコーヒーを飲んで不調1つ起こさないのはまさに作られたモノの証明だった。
「そして、突如現れた兄の言うことを信じて、計画をほっぽり出して、鋼鉄大陸捨ててでも妹達は着いてきてくれた。俺は俺というイレギュラーな存在が少しでも出会う前の元に戻せればいいという軽い考えで手助けをやろうとしたのに、それでも俺を頼ってくれたあの子らに、当時浅ましいと思った俺は少し自分が情けなく感じたよ」
『ならばすぐに逃げれば良かっただろう』
「お前は見捨てられるか?…いや、俺を代替品と言う時点で見捨てられるだろうな。自分を肯定してくれた存在ってのはかけがえのないものなんだぞ?その理由抜きにしても妹達は大切なんだがな」
外は朝日が登り初め、キムラヌートは飲み干したコーヒーをゴミ箱に捨てる。
「あんたは可能性を信じるか?」
『可能性…不確定な要素を信じる事はない』
「浪漫がないな、あんたは俺が妹達に愛するよう設計されてないと言った。それを言われて俺も少し考え、ある可能性を思いついた。俺と同じ感情があるなら、俺のようにその設計を否定し始めるかもしないと。いやもしかしたら、もう既にしてるかもな?」
『そのような事ある筈が…』
「あるかもしれないのが可能性だ」
アパート内で動く気配がする。そろそろ戻った方がいいと感じたキムラヌートは帰ろうとする。
「あんたと話してて少しわかった気がするよ、あんたはもう少し会話をした方がいいな。それに神に対する考えは変えないといけないと思うがね」
その言葉を最後にキムラヌートとの会話は終了した。
『会話…』
「さて、買い物をするが…」
「必要な物が多いですね…」
昼時になろうとしてる時間、キムラヌート達が来ている場所はウトナピシュティム地区にあるデパートだ。
「人が多いですね…」
「それに私たちを見てる人が多いような…」
ここまで人が多いところに来るのは初めてなのかアイン達はそわそわと視線が気になるようだった。
「まぁ、目立つ格好をしてるからな、最初は服を買うか」
その後、周りから自然に思われるコーデ1式に着替えたキムラヌート達はそれぞれ手分けして買い物をする事にした。
「我とアインとオウルは、家具を選んできます」
「お姉さまと一緒にいいのを選んできますよ!」
「任せてください!」
アインとオウルもやる気満々でマルクトと手を繋いで行った。
「じゃあ俺とソフは…」
「食べ物ですね!お兄さま!」
ソフと手を繋いで食材を買いに行く、ソフにとっては見たもの全てが新鮮で一人で走って行きキムラヌートは苦笑しながら後を追う。
「どれにする〜?」
「アタシこれ!」
途中、ソフと背丈が同じくらいの子が話しながら棚の商品を選んでいるのを見つけた。
「お兄さま!あれなに?」
「ん?……あれはお菓子だな」
「お菓子…」
ソフに連れられてお菓子コーナーを見に行く、煌びやかな色を使われた入れ物にソフは目を奪われる。
「どうせなら、2つ買っていいぞ?」
「ホント!?」
「……皆には内緒だぞ?」
キムラヌートがマルクト達のお菓子を選んでカゴに入れ、ソフは自分が気になったお菓子を2つ選んでカゴに入れた。
「ありがとうお兄さま!」
その後、特に問題が起こることなく買い物は続いていく。
「あぁ、ソフ。あそこにある牛乳、二本持ってきてくれ」
「どれ?」
「あの四角い…そうそれだ」
「わかった!任せてよ!!」
ソフが元気に牛乳を取りに行ってる間、キムラヌートは近くにある惣菜コーナーへ向かった。
「あっ…これ、安いのか…」
たまたま、安くなっている惣菜を見つけたキムラヌートは手を伸ばし…ちょうど同じタイミングで手を伸ばした他の人と触れ合った。
「「あっ…」」
「いやぁすみません、気が付かなくって…」
「いえいえこちらこそ…」
お互いに謝ると、牛乳を持ってきたソフが帰ってきた。
「お兄さま?どうかした?」
「ソフ、持ってきてくれたか〜偉いぞ〜」
「えへへへ」
「あら、可愛い子ね〜こんにちは〜」
ソフと視線を合わせて挨拶をする少女にソフはキムラヌートの後ろに隠れる。
「すみません、ちょっと人見知りなんです」
「そうなんですか、妹ですか?」
「えぇ、そうです。…挨拶しな?」
「……ソフです」
「ふふ、こんにちはソフちゃん」
「……どうも」
ソフはそのまま目線を逸らすが、少女は特に気分を害することなくそのまま会話が続く。
「可愛らしい妹さんですね」
「自慢の妹達ですよ」
「あと何人かいるんですか?」
「あと3人、この子の他にもいるんです」
「ここではあまり見ない顔ですけど…」
「あぁ、つい先日ここら辺に引っ越して来たばかりなので」
「えぇ!?大変ですね…」
「慣れない事は多いですが、頑張ってますよ」
2人の話に飽きたのかソフがぶらぶらと遠くに行きそうなのを察知したキムラヌートが話を切り上げる。
「あ!すみません、そろそろ行かないと…!」
「ふふっ、妹さん大事にしてあげてくださいね?」
「勿論ですよ、あっ…ここで合ったのもなんですし、お名前を聞いても?」
「えぇ、ミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカです」
「ユウカさん、どうもキムラヌートです。では!!」
「またどこかで〜!」
ソフを追いかけ、キムラヌートは去っていった。
「そういえば今の人達、どこかケイちゃんと似てたような…」
ユウカは少し考える素振りをするが…
「いや、気のせいでしょ」
気のせいという事にした。
袋やカゴいっぱいに荷物を詰め込んだ2人は3人を待つことにした。
「遅いね〜お兄さま」
「もうそろそろ、集合してもいい気がするんだよなぁ…あ」
「え?どうしたの?お兄さま」
「そういえば、集合場所決めてなかった…」
「………」
♪ ピーンポーンパーンポーン↑
『本日も、お越しいただきまして誠にありがとうございます。ご来店中のお客様に迷子のお知らせをいたします』
「あー…行くか…」
キムラヌートはやってしまったと頭を抑えながらインフォメーションセンターに向かった。
つくとそこには3人で仲良く座って待っており、拗ねた反応をされたがお詫びにアイスを買ったら機嫌を直してくれた。
その夜、5人は仲良くキムラヌートが作った料理を囲んで今日あった出来事を話し合い、布団で眠りについた。
キムラヌートは生まれた時に見たコンピューターの情報の波の中に料理の知識が入ってるのできちんと料理出来ます、家事系男子ですね。