生活が数ヶ月経ったある日、キムラヌートの仕事時間が終わり退勤しようとしていた。
「じゃあ明日お休みいただきますね」
「わかったよ、気をつけてね〜」
キムラヌートがバイトから帰る。今日は珍しく掛け持ち無しでそのまま家に帰った。
「ただいまー」
「お兄さまおかえりなさい!」
「おかえりなさーい!」
「兄さま?今日はやけに早いですね…」
最近だと夜中に帰ってくる事も多かったキムラヌートが早い時間に帰ってきた事によりマルクトが疑問を抱いた。
「明日休みを貰ってな。ちょっと皆で出かけようかと思って」
「え!?どこ行くんですか!?」
床で寝転びながらお絵描きをしていたアインがお出掛けに反応し飛び上がってキムラヌートに駆け寄る。
「それは明日のお楽しみだ、今日はまだご飯を食べてないのか?」
「はい、そろそろ作ろうかと」
キムラヌートが働きに出てから基本的な家事はマルクトが、アイン、ソフ、オウルは各々出来る所を手伝う形で分担していた。
料理に関してはキムラヌートがマルクトに死ぬ気で教えた。何があったのかは…多分彼の口から語られることはない。
「お、いいねぇ。今日は俺も手伝おうかな?」
「今日は餃子ですよ、あとは包むだけです」
キムラヌートとマルクトが台所で楽しく話しながら料理を作り、アインとソフとオウルが3人で仲良くボードゲームで遊ぶ。
『ガーーーーー』
「あ、ネツァクちゃん。いつもありがとうね」
途中、ネツァクがアイン達の足元にやってくるのでアイン達はネツァクの通り道を作る。そしてネツァクは床の掃除を行うのだった。
ネツァクはなんと掃除機に作り替えられていた。ネツァクのコアが組み込まれた自動掃除機は、アインがショッピングセンターで感銘を受けネツァク自身が立候補し、アイン自身が素体を作った世界に一つだけの自立型掃除機となったのだった。
「やったー!昇格ー!!」
「ぐぬぬ…!こんな借金返せばすぐに…!」
「あ、また子供が産まれました…お祝いお願いします」
「アイン!?あなた今ので5人目ですよ!?」
「出来たぞ〜」
「アイン、ソフ、オウル。片付けて手を洗って下さい」
キムラヌートとマルクトがお皿を持ってくる。アイン達はボードゲームをすぐに片付けて手を洗った後定位置に戻って行った。
「「「「「いただきます」」」」」
5人で食事をする。やってきて間もないあの頃、あの時食事という物を経験してよかったと全員が思っている。もう食事をしない日々なんて有り得ない。
「ん〜〜〜♪」
オウルが大変満足そうに舌鼓を打つ。この中で食事を1番楽しんでいるのはオウルだろう。
ソフは静かに食べ、アインは1番食が細いがちゃんと残さず食べる。
マルクトはそんな妹達の様子を微笑ましく思いながら笑顔でご飯を食べる。
「ふぅ……」
「お兄さま!私もお願いします!」
「……しょうがないなぁ」
キムラヌートがおかわりをよそいに立つとオウルも茶碗を差し出した。
ご飯を食べ終わり、キムラヌートは一人でテレビを見ていた。
『本日の特集は、キヴォトスで噂される怪談について…』
マルクト達は現在お風呂に入っており、キムラヌートは一人で何か面白い物がやってないかテレビのチャンネルを変えて見ていた。
『親しい人に送る、結晶の花束______』
『「ふはははは!!今日こそここで終わりだ!テルミ______」』
『トリニティの学園祭で行われたアイドルイベント、日程は未定ではありますが他校で第2回が行われると発表がありました!』
「……ふーん?」
少し興味が惹かれたキムラヌートがチャンネルをそのままにしておく。部屋にあったゲブラのコアが何故か反応していたように思えたが、気の所為ということにした。
煌びやかな衣装と大々的なステージ。大勢の人に求められるその姿…
「なんか、神みたいだな…」
『……そして、なんと今度は一般参加が可能になるかもしれない_________』
「オウルーーーー!!」
突然ソフの大声と共にびしょ濡れでしかも裸で出てきたオウルとソフが机を挟んで追いかけっこを始めた。
「おい、身体を拭け!風邪ひくぞ!…いや、そもそも俺たちって風邪ひくのか?まだ誰も人間の病気をひいてないしな…いやでも…」
キムラヌートがソフとオウルを注意しようとするが、気になった疑問が浮上してしまいその場で考え込んでしまう。
「に、兄さま!ソフとオウルを捕まえてください!」
タオルを身体に巻いたマルクトがソフとオウルを捕まえようとし、キムラヌートにも声をかけた。
キムラヌートが考えながら座っているところに2人がやってきた瞬間キムラヌートはすぐさま2人の首を掴み持ち上げた。
「全く…元気なのはいいが、身体くらい拭いてこい。部屋中水浸しじゃないか」
「……ごめんなさい」
「…でもオウルが」
「でもも何も、これ以上言わすようだったら明日のお出掛けは無しだぞ?」
そういうと2人は無言となった。ソフとオウルを膝に乗せて身体を拭いてやる。
「…へっくちゅん!」
「ほら、もう1回風呂入るか?」
「…うん」
「すみません兄さま、明日が楽しみだったのと、兄さまが早く帰ってきたのが嬉しかったらしくて…」
「わかってる、アインを先に寝かしといてくれ」
「わかりました」
マルクトにアインを任せてソフとオウルを風呂に入れてやることにしたキムラヌート。
紳士なら事案だと思うだろうが、そもそもキムラヌートは身体の性別が無性なので生殖器が無い、妹に欲情なんて出来ない、そもそも欲情しないので事案が起こることなんか無いのである。
ソフとオウルをまた湯船に浸からせてドライヤーで髪まで乾かし布団で仲良く眠った。
次の日、兄妹は約束通りお出掛けをする事にした。
今回はいつもより遠出をするので電車を使って行く。
「お、お兄さま!ここって!」
アインが目を光らせる、ソフが忙しなく目を動かす、オウルの口が開いたまま塞がらない、マルクトはいつかの買い物で買ったカメラでそんな3人の写真を撮っていた。
「この為にシフトを増やした甲斐があった、今日はここに連れてこようと思ったんだ」
着いた先は、遊園地だった。
「わぁぁ!すごい!すごいです!」
「ねぇお兄さま!あれ!あれ乗ろう!!」
「私はあれがいいです!行きましょうお兄さま!」
ソフとオウルがキムラヌートのそれぞれの手を引っ張って別のアトラクションに向かおうとする。
キムラヌートが苦笑しながら2人を落ち着かせる。
「俺は1人しかいないんだ、そうだな…また2手に別れるか」
ソフとオウルはじゃんけんをして、オウルが勝ちキムラヌートと二人でアトラクションに向かう。ソフはマルクトとアインと一緒に向かった。
所謂、チェーンタワーと呼ばれるアトラクションを体験する事になったキムラヌートとオウルはグルグル回るチェーンタワーを叫びながら楽しんだ。
「凄かったですね!」
「な、次はどうする?」
「あれ行きましょう!」
オウルが指さしたのはカートアタッカーだった。
オウルと共に列に並ぶ。前に並んでいたのはよく知る人物だった。
「「「あ!」」」
どうやら、ソフ達もカートアタッカーをやるために並んでいたようだった。
「奇遇だな?ソフがやりたがったのか?」
「いえ、今回はアインの希望です」
「えへへ……」
アインが少し照れた様子で頬をかく。すぐにアイン達の番になった。
「あれ?お兄さま達はやらないの?」
ソフはそう聞くがキムラヌートは手を振った。
「俺は気にすんな、3人で楽しんでくれ」
「我は兄さまと一緒にソフ達を見てますよ」
マルクトもソフ達に手を振って3人が楽しむ姿を見ようとキムラヌートの隣に立った。
そして、いい場面が映るとマルクトは写真でその場面を抑えた。
「そろそろメモリがいっぱいにならないか?」
キムラヌートがマルクトにそう聞く。
「大丈夫です、今日の為に新しいカードを用意しておきました」
「いつの間に…」
「こんな事があろうかと、何時でも用意してあります」
キリッとした表情でマルクトはキムラヌートを見る。
キムラヌートがバイトで稼ぎ、マルクトが希望する物を聞くと、彼女が欲した物はカメラだった。
マルクトの為にカメラをプレゼントし、それ以来マルクトは何かある度に写真に収めようとしていた。どうやら色々な思い出を残しておきたいようで、風景や料理等よく写真に撮っている。
だが、1番マルクトが撮っているのは兄妹の場面だった。喧嘩や笑顔で何かしている所をよく撮っている。
「あっ」
アインがソフ達を追い抜き最高にいい笑顔をしているのをマルクトが逃さずカメラに収める。
レースはアインが1位で終わった。
兄妹が様々なアトラクションを楽しみ、観覧車に乗って一段落する。
「楽しい!なんて言うか…!身体で衝撃を楽しむというか!」
「平和な刺激と言うんですかね!」
「お兄さま!ありがとうございます!」
「はは…いいんだよ」
キムラヌートはゆっくり登る観覧車の風景を楽しむ。
上から見下ろす景色の中に、制服を着た少女達が楽しむのを見つけた。
「………」
キムラヌートは少し考え、マルクト達を見る。
4人で思い出を語り合っているのを見て、キムラヌートは少しある考えが出てきた。
「…お兄さま?どうかしたんですか?」
「…いや、なんでもない」
アインはキムラヌートがコチラを見ていた事について頭にはてなマークを浮かべた。
「それより、次はどこに行こっか!」
「あ!見てくださいあれ!ジェットコースター行きましょう!」
「身長制限大丈夫か?」
「あっ…」
その後、5人は遊び疲れるまで遊園地で遊び続けた。遊び疲れて眠ってしまった3人をマルクトと二人で背負いながら家に帰った。
「兄さま、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
夜、3人はすやすやと眠り、眠りにつくマルクトの頭を撫でながらキムラヌートは一人、1冊の本を読んでいた。
それは、各学園の紹介をしている本。学園の特色について書かれた本だった。
「数ヶ月もすればわかる…アイン達は、優秀だ」
身内贔屓無しでもアイン、ソフ、オウルの3人はその見た目に反して技術という面で優秀だった。
マルクトも、見た目の年齢で言えば学生と言える。
だがキヴォトス内での、生活という面で言うならまだ歳相応、世間知らずな面が多い。
「妹達の生活…いや、これからの人生この家のみの生活は、窮屈すぎる…」
あの3人、自分とマルクトも合わせ5人でずっとこの家で生活していける訳無いのは理解している。
だからこの狭い世界だけをずっと生きていけない。必ずこの家という檻から飛び出して更に広い世界を体験しなければならないのだ。
「まだ…足りない、アイン達…出来ればマルクトも、送り出してやらなければ…妹達の、為…それまで俺が、頑張…」
キムラヌートは徐々に意識が落ちていき、机に突っ伏しながら眠りについた。
『ガーーーーー』
先程まで動いていなかったネツァクが突然動き出し、手足のない身体を使い、毛布を持ってこようとする。
「……?」
そんな音に気がついてマルクトが目を覚ます。
マルクトは机で突っ伏しているキムラヌートを見つけると、ネツァクが持ってこようとしていた毛布をかけてあげた。
「兄さまは、頑張りすぎです」
キムラヌートの頭を撫でながらマルクトが呟く。
「ネツァク」
『ガーーーーー』
「我らもこの恩を返せるよう、頑張らないといけませんね」
マルクトの言葉に反応するようにネツァクのライトが明滅する。
その後、マルクトはまた就寝に入る。
そんな様子を、他の預言者のコアは見守っていた。
これが、キムラヌート達が鋼鉄大陸からここに移住するまでにあった大まかな出来事であった。
※今回向かった遊園地はスランピアではありません。
次回から時系列は戻ります。