ヤクザの息子でも幸せになりたい   作:野鳥

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今回はリナ視点。



幕間2 あたし達との約束

 朝食の後、私達はアニスちゃんに真岡さんと一緒にいた。

 

 何でもPVを撮るらしい。

 せっかく豪勢なお屋敷に来たんだから、アニスちゃんの宣伝に使わせてもらおうって。

 

 その上であたし達も映ってみたいかって誘われたんだ。

 友達と一緒にいた方が、アニスちゃんの自然体を撮れるだろうって。

 

「いえーいっ!」

 

 そんなの勿論OKだった。

 

 断る理由が無かったのもある。

 けれどもしこの映像がホントに使われるなら、あたし達も芸能界の人に見てもらえるって事だよね?

 

「おねえちゃん、やっぱり恥ずかしい」

「何言ってんのよ! こんなチャンス二度とないわよ?」

 

 そうなったら偉い人の目に留まって、芸能界デビューかも?

 ……なーーんて、あたしは浮かれながらカメラに映ってたんだ。

 

「楽しそうだがどうした、二人共?」

 

 ……まさかそんな様子を矜児さんに見られるとは、欠片も考えてなかった訳だけども。

 

「あっ、えっ!? 矜児さん!?」

 

 思わず上擦った声を出してしまう。

 完全に不意打ちだったのもあって、ここまでの浮かれ気分も一気に霧散しちゃった。

 

「どうした? 芸能界デビューだって乗り気だったのに」

「あ、アニスちゃん! 今それは言わないで……!?」

「……あーー、俺はお邪魔だったか?」

 

 いつも元気キャラでいってはいるよ?

 でもまだ喧嘩の真っ最中で、こんな場面を見られるのは恥ずかしいと言いますか……

 

「ち、違います。ただアニスさんと一緒に、映してもらってるだけです」

「PVを作る時に使える映像があればって使う話なんです。

 リナちゃんはそれで芸能界デビュー出来るかも? なんて浮かれてて……」

 

 そうして悶えてる間に、ここまでの経緯をリオ達に説明されてしまう。

 

 ……一気に現実に引き戻された気分。

 今じゃなければ、いつも通り対応できたのに……

 

「そうだ! 矜児さんも一緒に映りましょうよ」

「俺か? しかし……」

 

 悩むあたしを余所に、話はどんどん進んでいく。

 

 琴美ちゃんは矜児さんも一緒に映ろうなんて誘っていた。

 この調子で映れるか自信がない。……一人だけ、部屋に戻ろうかな。

 

「そうかい? 君も『絵』になりそうなんだけどね」

 

 そうしてこの場から抜ける事まで考えたけど、どうも雲行きが怪しい。

 矜児さん、どうもPVへ映るのに乗り気じゃないらしかった。

 

「よしてくださいよ。そういう話なら雪斗の方が似合いそうです」

「お兄ちゃんが? あー……でも分かるかも」

 

 断りを入れる為か、雪斗さんの方が似合うなんて引き合いに出して。

 

 ……確かに雪斗さんなら芸能界にいても不思議じゃないかも。

 控え目に言って顔が整ってるし、性格も相まって人気が出そうな気がする。

 

「そう、ですね。歌ってるところとか、そういう風に見えましたし……」

「歌ってるところ……どこかで聞いた事あるのか?」

 

 リオも雪斗さんの歌を思い返してたら、矜児さんも話題に食いついてきた。

 

「はい。前に友達とカラオケに行きたいってお兄ちゃんに頼んだ事があるんです」

 

 確かあの時は琴美ちゃんにリオ。それに他の友達も呼んでの大人数だったっけ。

 

 そのお店はメンバーカードを使うと特典が貰えた。

 だから丁度持ってた雪斗さんを、琴美ちゃんが連れてきたんだった。

 

 最初こそそんな理由で呼ばれちゃったから、雪斗さんも困惑して。

 けどいざ歌えばスゴイ様になってて、みんな大盛り上がりだったのを覚えてる。

 

「財布役か。不憫な……」

「失礼な事言わないでくださいよ!

 メンバーカードを持ってると、色んなサービスが受けられたってだけで!!」

 

 ただ矜児さんはそれをお財布代わりに連れてきた、なんて捉えたみたい。

 

 に、似たようなものだけど…………代金はちゃんと他の友達と一緒に出し合ったよ!?

 これで勘違いされたら、私達酷い人になっちゃう。

 必死に弁明したものの、矜児さんは何だか納得いってないみたいだった。

 

「……メンバーカード?」

「えっと、会員になると貰えるんです。ポイントが貯まると料理やカラオケ代金が割引きされたり……」

 

 ……ううん、この反応。まさかメンバーカードがそもそも分かってない?

 

「カラオケ、行った事ないのか?」

「……行く相手もいなかったからな。そういった遊び場にはとんと縁が無かったんだ」

「えっ? そうだったんですか?」

 

 アニスちゃんが訊けば、どうやら本当にそうみたい。

 

 考えてみれば、矜児さんって言い方は悪いけど友達は多い方じゃない。

 

 玲矢さんはこんなお屋敷を持ってる御曹司。

 雪斗さんも自分から遊びに誘うタイプじゃなかった。

 

 だからあたし達が行くような遊び場に縁が無かったのかも。

 

「なら……今度一緒に行きません? みんなも、一緒に……」

 

 そう思うと自然に矜児さんを誘ってた。

 

 喧嘩中だっていうのは自分でも分かってる。

 それでも一度も機会が無いなんて勿体ないし……何よりあたしが矜児さんと行きたかった。

 

「あ、わたしも……」

「なら私も行きたいな。アニスさんはどう?」

「えっ? ……ひ、日にちと時間を教えてくれれば、多分行ける」

 

 そうすればリオやみんなも続々と提案に乗ってくれる。

 ……けれど肝心の矜児さんは喜ぶどころか、一瞬歯を食い縛ってるように見えた。

 

「……もしかして、迷惑でした?」

「そんな事は……ないさ……」

 

 まただ、またその表情……

 この旅行に行きたいって名乗り出た日から、矜児さんはあたし達に悲し気な顔を見せる時がある。

 

 何かあったのか訊いても、何でもないって誤魔化して。

 絶対何かあったのに、私達には何も教えてくれなかった。

 

 迷惑ならちゃんと言ってほしい。

 そうじゃないなら力になりたい。

 

 なのにあの日からずっと壁があるみたいで

 …………ずっと苦しんでる理由に、あたし達を踏み込ませてくれないんだ。

 

「……ホントの事、言ってください」

 

 それが悔しくて、悲しくて

 何より寂しかった。

 

 あたし達と矜児さんの関係ってその程度だったのかな。

 

 何の力にもなれなくて、心を許してくれない。

 傍で寄り添う事も嫌がられるような、浅い関係だったのかって。

 

「私と遊ぶのがイヤなら、もう……」

「それは違う」

 そんな悔しさを伝えたあたしに、矜児さんは首を振った。

 

「ただ……俺なんていない方がいいと思っただけだ」

 

 ……けれど語ってくれた事は絶対本心じゃない。

 何より『矜児さんがいない方がいい』なんて────的外れな事を言うのが許せなかった。

 

「楽しくないなんて……そんな事ない」

「リナ……?」

「楽しくなかったら、この旅行だって付いてきません!」

 

 我慢できなくて、叫びながら矜児さんに詰め寄る。

  

 昨日も……ううん、ここ最近そんな事ばっかり。

 あたしがどんな気持ちで貴方といるか、全然気付かないで……!

 

「なのに何でそんな風に言うんですか?

 まるであたしが無理してるみたいに────貴方が好きだから、一緒にいたいんです!!」                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     

 一緒にいたくないなら、貴方を追いかけて聖桜学園に入ったりしない。

 

 毎日会いに行ってる事も

 勉強教えてもらった事も

 こうして、遊びに行った事も……

 

 全部、ぜんぶ大事な思い出なんだ。

 それを、まるで嘘みたいに言わないで……

 

 あたしの気持ちを、分かった風に言わないで────!!         

 

「り、リナちゃん……?」

「……わたし達、邪魔だったか?」

 

 全部叫んだところで、何だか場がおかしな空気になってるのを感じた。

 みんな、あたしを見て顔を赤らめてるような……?

 

「驚いたな。人前でこうも大胆な告白とは」

 

 …………真岡さんの一言でようやく気付いた。

 

 こ、これ……告白にしか聞こえないよね?

 あたし、みんなの前で矜児さんを好きだって言っちゃった…………?

 

「あ、ぁああああ! あの! これは、その……っっ!?」

 

 さっきよりも顔が火照ってるのを自覚しながら、必死に弁明しようとする。

 

 けどダメだ……

 恥ずかしくって、全然頭が回らない……!

 

「……その、なんだ。友人としてって言いたかったのか?」

「えっ……そ、の…………はい……」

 

 どう収集をつけたらいいか分からなくて、つい矜児さんの助け舟に乗っちゃった。

 

「おねえちゃん……」

 

 リオの呆れるような、責めるような視線があたしに突き刺さる。

 

 ……分かってるよ。ここで否定しちゃダメだったって事は……

 

 ああ、あたしのばか…………っ!

 

「矜児さん。私達と、一緒に……カラオケ、行ってくれますか?」

 

 代わりにリオが矜児さんへ確認をとってくれる。

 

 声こそない。

 それでもあたしの盛大な自爆も効果はあったのか、矜児さんはゆっくりと頷いてくれた。

 

「これは、リナとコイツだけで行った方がいいんじゃないか?」

「いいんです……意気地なしのおねえちゃんじゃ、場が保たないから」

「うぅ……好き勝手言って…………」

 

 みんなの生暖かい視線が痛い……

 ただ遊びに誘うだけの筈だったのに……どうして大火傷する羽目になっちゃったんだろ。

 

「と、とにかく……約束ですからね!

 この旅行が終わったら、絶対カラオケに行きましょ!!」

 

 やけになって勢いで乗り切ろうとする。

 ぶつかりそうなくらい矜児さんに近付くと、目の前に小指を掲げてみせた。

 

「……指切りげんまんか?」

「矜児さん、ずっと煮え切らない態度ばかりとるんですから。これくらいはっきりさせた方がいいです」

 

 すると恐る恐る、といった体で矜児さんも小指を絡めてくれる。

 

「指きーりげーんまーん。うそついたーら針千本のーーます!」

 

 ……相変わらず矜児さんの顔は暗いままだ。

 

 やっぱりあたし達といたくないのか。

 そうじゃないなら、一体何が貴方を悲しませてるのか。

 

 その答えは考えても分かりそうにない。

 分からないけど……このまま諦めようだなんて絶対思わなかった。

 

「覚えててくださいね? 私達との『約束』!」

 

 きっといつか、貴方の悲しみを晴らしてみせますから。

 

 だからもっと一緒に。

 これから先もずーーっと! ────楽しい思い出を作りましょうね。

 

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