ヤクザの息子でも幸せになりたい   作:野鳥

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幕間4 あたしの居場所

 

 正直、約束通りにしても悩みが解決するとは考えてなかった。

 

 本当に答えが見つかる保証はない。

 そもそも昨日初めて会った人の話で、信用すら出来ない。

 

 ……けど、他に方法がある訳でもなかった。

 

 このまま何もせずにいても、また後悔で気持ちが落ち込むだけ。

 だからあたしは期待しないよう肝に銘じながら、また公園へ向かったんだ。

 

「えっ……」

 

 するとそこには、一人の待ち人がいた。

 

「り、リオ……」

 

 あたしの妹は、こちらを見るや酷く怯えた表情を見せる。

 なんでここに……と口にしかけて、声が掠れて言葉にならなかった。

 

 いつも顔を合わせているのに。

 何度も話そうとしたのに。

 

 いざ対面すると、まるで久しぶりに会ったかのような緊張が胸の内を駆け巡る。

 

「……何の、用事なの?」

 

 そして言葉を掛けられて、ドクンと心臓が跳ね上がった。

 リオから話しかけてくれたのはいつぶりだろう……もう何年も前のように錯覚してしまう。

 

 それだけあたし達の間には距離があったって事だ。

 あたしが手放してしまったモノ。壊してしまったモノを示す、何よりの証明……

 

「そ、それは……」

 

 ……何て言葉を掛ければいいんだろう。

 

 この期に及んで言葉が出ない。

 もし本当に拒絶されてしまったら……そんな最悪の想像ばかり浮かんで、次の一歩が踏み出せずにいる。

 

 ……リオからの視線が、あたしを責め立てる圧のように感じた。

 黙ってる間に口はどんどん重くなっていく。たった一言すら喉を通らずに奥へ引っ込んでしまう。

 

 ────けど直接、妹さんから訊いたんじゃないだろ?

 

 やっぱりダメなんだ。もうリオとは昔みたいには……

 そう諦めかけた時、あの人の言葉が脳裏に浮かび上がった。

 

 ────手遅れになる前に、妹さんの気持ちを確かめた方がいい。

 

 手遅れ……あたしにとって手遅れってなんだろう。

 

 リオと仲直り出来ない事?

 それとも、リオに嫌われてしまう事?

 

 ……きっとどれも違う。

 だったらもう、あたしはとうの昔に出来る事なんて無くなってる。

 

 けれどあたしはここへ来た。

 何も期待してないって言いながら、現在から何かを変えたくてこの場にいる。

 

 それに理由があるとすれば、きっと────

 

「────ゴメン!」

 

 ずっと怖くて言い出せなかった一言。

 それをようやく、リオの前で曝け出す事が出来た。

 

「私、自分勝手で! 自分の事しか考えてなくて!

 リオがいたら友達と自由に遊べないなんて……貴女の事、邪魔だって遠ざけた!」

 

 我ながら最低だと思う。 

 

 だとしても言わなきゃ始まらないんだ。

 たとえ嫌われてたとしても……謝りもせずに、平気な顔して生きていけないから。

 

「なのに今更、こんな事言うのはズルいけど……勝手な事言ってるって分かってるけど……っ」

 

 その上で身勝手なお願いをリオに告げる。

 

 拒絶されてもいい。

 そうなったって当然の事。

 

 それでも伝えなきゃ。

 これがあたしの、本当の気持ちなんだって。

 

「もう一度、前みたいに。また一緒にいたい……

 やっぱりリオがいないとダメなんだ。私、リオと一緒にいたい……!!」

 

 ……返事は、すぐに返ってこない。

 それが十秒、二十秒と続いて……様子が気になったあたしは、恐る恐る顔を上げた。

 

「……いいの?」

 

 視線の先には、顔を俯かせたリオが映る。

 

 一目で泣いてるんだと分かった。

 俯いた顔からはいくつもの雫が零れ落ちてる。

 そして何かを堪えるように、リオは声を震わせていた。

 

「私と、一緒にいるの……迷惑じゃ、ないの……?」

「っ、迷惑じゃない……そんな事、考えなくていい……!」

 

 どうしてリオが泣いてるんだ。

 悪いのはあたしなのに……何でリオが、そんな風に泣かなきゃいけないの……?

 

「……おねえちゃんに、嫌われたんだって……思ってた。

 私が甘えて、ばかりだから……迷惑なんだって……もう、一緒に……いてくれないんだってっっ!」

 

 ────その答えが示された時、あたしは気付けばリオを抱きしめていた。

 

「ごめん……ごめんね、リオっ!」

 

 心の中は色んな気持ちが混ざってぐちゃぐちゃだ。

 

 リオはこんな酷いお姉ちゃんでも、嫌わずにいてくれた。

 こんなに想ってくれる妹を、あたしは悲しませた。

 

 それが情けなくて、罪悪感でいっぱいで

 ……何より、嬉しくてしょうがなかったんだ。

 

 だからこの時誓った。

 

 もう絶対リオを裏切らない。

 あたしはずっと、この子が好きでいてくれる『おねえちゃん』であり続けるんだって。

 

 そして誓いと共に、あたしの心にはあの人の事が刻み込まれていた。

 あたし達を繋ぎ止めてくれた恩人の姿が────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからあたしは、矜児さんと関わるようになった。

 

 あの公園での出来事で、噂通りの人じゃないのは理解してた。

 とは言っても、最初は深く関わろうとは思ってなかったんだ。

 

 それが何度も偶然が重なって。

 偶然が当たり前に変わって。

 

 その上で、関わる毎にその人柄へ触れていって……矜児さんといるのが心地よく感じるようになった。

 

「……何もしないまま、終わるのは……ヤダよ」

 

 そんなあたしの居場所が、無くなってしまうかもしれない。

 もう矜児さんに、振り向いてもらえないかもしれない。

 

 それだけは、絶対にイヤだった。

 

「私、ちゃんと告白する。

 ダメかもしれないけど、矜児さんに……この気持ちを、伝える」

 

 気持ちを受け入れてもらえるとは限らない。

 

 でも何もしないまま全部終わっちゃったら……リオの時と同じくらいに、あたしは後悔すると思うから。

 

「だから抜け駆けなんてさせないからね。相手がリオでも……この気持ちに、嘘は吐きたくないから」

「うん……お互い頑張ろう、ね」

 

 リオと二人で笑い合う。

 

 どうなるかなんて分からない。

 それでも互いにとって、悔いのない結果になればいいと願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時あたし達は、あんな事になるなんて思ってもみなかった。

 ここ最近の矜児さんの態度。苦し気な表情の意味を、この身で味わう事になるなんて……

 

 その始まりはもう深夜を回る頃。

 そろそろ寝ようかという時、開かれた扉があたし達を連れ去ったんだ。

 

「おね、ぢゃ……」

「な、で……ごん、ぁ……うげっ!?」

 

 そこからはもう、抵抗すら無駄できない。

 

 無理矢理引き摺り出されたあたし達は、見た事もない部屋に連れてこられたんだ。

 そこから服を脱がされて、手足を枷で縛られる。

 そして互いの首にロープを巻かれて、天井の梁越しに吊るされてしまった。

 

 そんな事したら首が締まっちゃうのに、さらにあたしとリオは台の上に乗せられた。

 

 台は不安定で、少しの身じろぎで落ちてしまいそうだ。

 ただでさえ苦しいのに……きっと床に落ちてしまえば、一気に首を絞められてあたし達は助からない。

 

「だず、ぅ、げぇ、で…………おね、が、あぁぁぁ……っ!」

 

 それがとても怖かった。

 

 なんでこんな目に遭ってるのか分からなくて。

 どうしてあたし達なのかが分からなくて。

 

 なによりあたし達をこんな目に遭わせてるのが……玲矢さんだって事が、何よりも信じられなかった。

 

「どうするかな。俺は双子という存在が嫌いでね、お前達は顔を見るのもイラつくぐらいだったんだ」

 

 普段学校で見るような優しい目つきじゃない。

 まるで害虫を見るような態度。本気であたし達の事を煙たがってるのが嫌でも伝わってくる。

 

「ふぐっ! が……ぶ、ぁ……!?」

 

 それが怖くて、身じろぎしてしまったせいだ。

 その揺れでロープまで動いて、対面に座らされたリオが苦し気に呻いていた。

 

「ご、めっ……リ、オ……!?」

「酷い姉だな。妹の首を絞めるなんて」

「……だ、ずげ、ぇ、ぶっ…………ぜ、ぜめで……リオ、だげっ、あぁぁ……」

 

 何が何なのか分からないまま。

 けれど一つだけ確かなのは、きっとこの人はあたし達が死んでも構わないって事……

 

 もうなりふり構っていられなかった。

 何をされるか分からない。きっと拷問を受けるんだろう。

 

 それでもリオだけは……あたしの妹だけは、こんな狂った場所から逃がしてほしかった。

 

「なん、でぼぉ……ずるっ……なんでぉ、ずるが、ぐぁ……あっ!?」

「なんでもする、ねぇ……」

 

 呂律の回らない中で必死にお願いする。

 どんな拷問も受けます。あたしが殺されたって構いません。

 

 だから、リオだけはどうか……!

 

「ならあいつの前で無様を晒してもらおうか。

 お前達の一番大事な男に、あられもない姿を見られるんだ」

「えっ……」

 

 お願いを聞いてくれたのか、玲矢さんは一つの命令をあたしに下す。

 ただそれはとても残酷で……今のあたし達の心を抉る、何よりも酷い辱めだった。

 

 部屋の扉が勢いよく開かれる。

 ────そこから現れたのは、あたし達が最も信頼する人。

 

「きょう……じ、さ……ん……」

「みな……いで……みな、いで……っ!」

 

 今のあたし達は裸で、強制的に足を開かれた……要はM字開脚の姿だ。

 

 こんな格好、好きな人に見せたい訳ない。

 ロープに縛られてなければ、今すぐにでも逃げ出したい。

 矜児さんに見られたという状況が辛くて……あたしもリオも、思わず涙が零れてしまった。

 

「呼び出す手間が省けたな。丁度お前にも手伝わせようと思ってたんだ」

「えっ……」

 

 そこに追い打ちを掛けるように、玲矢さんはおかしな事を口走る。

 

 ……やめて

 

 もう、聞きたくない。

 

 ただでさえ、辛いのに。

 ただでさえ、苦しいのに。

 

 ずっと一緒だったのに……あの人が、そんな────

 

「まさかあいつがお前達を助けに来たと思ってたのか?

 矜児は俺の手下さ。ここにいるのも、俺を手伝わせる為に呼んだんだよ」

 

 そんな、否定したかった答えを玲矢さんは言葉にした。

 

 嘘、ですよね……?

 矜児さんが、あたし達を、苦しめるなんて……

 

 けれど、矜児さんは何も答えてくれなくて

 答えを示すかのように────無情にも、彼はあたし達から目を逸らした。

 

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