所謂エロゲな訳ですが、そのジャンルがNTRというかNTRせです。
しかも何をとち狂ったかサイコサスペンス要素まで足した結果、ヒロイン達がかなり酷い目に遭いまして……
なので作品内に出てくる女の子は、もれなく養豚場に送られる豚を見る気持ちで見てください(無慈悲)
八月初頭、夏休み。
恐れていた殺人旅行は恙なく開催の折となった。
参加者は雪斗を初めとしたあの日の購買にいた五名。
そしてそれ以外には当日までに各人が誘い、或いは勝手に付いてきた者が加わっていた。
まず一人目は一つ先輩の『哀沢鈴香』
雪斗の姉であり、聖桜学園の生徒会長。今回は雪斗の紹介で旅行に参加したらしい。
二人目は後輩の『相沢琴美』
彼女は雪斗の妹であり、リナとリオの友人。先に誘われた俺達からは、ある種愛されキャラとして親しまれている存在だ。
三人目は『久遠寺音羽』
彼女は大財閥の令嬢であり、玲矢の許嫁。
雪斗達とも仲が良く、恐らく何人かは彼女の存在で旅行への参加を決めたのだろう。
四人目は『アニス・リナフォード』
彼女はアイドルであり、全国的にも有名なスターだ。
本来多忙な中で今回参加したのは、リナ達や琴美ちゃんに誘われたかららしい。彼女達とは同じ聖桜学園の同級生故、その縁があっての事だろう。
そして『吉良英二』
俺の兄にして、玲矢の裏の顔を知る数少ない人物。
とはいえ殺人の協力者にいない辺り、全てを知っている訳ではなさそうだ。
ただその残忍性は知っている筈……一体何を目的として来たのか、警戒は必要かもしれない。
他にも大人が二名程いる。
一人は『鷹峰五郎』
雪斗達のクラス担任だが、校内では空気の読めない口うるささで有名な嫌われ者だ。
今回も『生徒だけで旅行などけしからん。保護者が必要だ』などという理屈で旅行に付いてきた。
これに対する雪斗達の反応は想像に難くない。噂に聞いた通り、これでは普段の言動が窺い知れるな。
二人目は『真岡ジュン』
アニスのマネージャーらしく、この旅行において一番の部外者と言える。
こちらもアニスの保護者として付いてきたらしいが、どうも怪しいものを感じるのは気のせいか?
こうして以上の一二名と俺が、この旅行の参加者となる。
別荘まで向かう道中、皆は伊能家が用意したバスにてこれからの時間に心躍らせている。
…………その果てに待つのが、自らの死とも知らずに。
それを知るのは俺と玲矢だけだ。
アイツは何食わぬ顔で皆と話しているが、俺はとてもそんな真似は出来そうになかった。
これから人が死ぬと分かっていながら、素知らぬ顔を貫ける程面の皮は厚くない。
しかも犠牲者の中に気心の知れた隣人も組み込まれたんだ。それで心が荒れるのをどうして止められようか。
だからといって真実を話す事も出来なかった。
それは玲矢にこの旅行に賭けた願いを捨てる事になるから。
そうなれば俺は自ら命を断つ。そう自分で分かっているから、俺は奴に逆らえない。
情けないものだ。彼女達を死に追いやってまでも、俺は自分の事が大事らしい。
そうやって己を呪いつつも、この口を噤み続ける。
心配してくれるリナとリオにも応えられず、真実を内に仕舞い込んで。
別荘に辿り着き、俺は玲矢の部屋へと足を運んだ。
「……玲矢」
中には玲矢が一人佇んでいる。
今回の旅行の仕掛け人───参加者を毒牙に掛けようとする、悍ましい殺人者が。
「嫌そうな顔をするなよ。今日まで中学からやって来た仲じゃないか」
「思ってもいない事を……」
対外的には俺とコイツは友人になっている。
中学の頃から関係が続いている、玲矢にとって大事な友人の一人だと。
実際恩がないでもない。俺が友人を作れたのも、切っ掛けは玲矢のお眼鏡に叶ったのも要因だ。
そんな恩義すら塗り潰す程、コイツの本性は恐ろしかった。今となっては、外面を取り繕う事すら難しくなるくらいに。
「だとしても誰も俺達の関係に勘付いていない。こういう時、外面を取り繕っていると便利だよ」
けれど千堂姉妹を初めとした周囲は、玲矢の本性に気付いていない。
それだけコイツの嘘は用意周到に取り繕われていた。きっとその毒牙に掛かるまで、この男の悍ましさは気付きようがないんだろう。
「俺と同レベルに、とは言わないさ。それでも怪しまれるような言動は控えてもらわないとな」
玲矢は俺に近付くと、微かな声で耳元に囁いてくる。
盗み聞ぎでも警戒しているのか。自分の部屋でも対策を怠らない辺り、己を取り繕う事に関して手を抜く気はないようだ。
「でないと、せっかくのお楽しみが台無しになる」
「……人殺しがお前の快楽か」
───全ては己の快楽の為。
女性を貪り、辱め、命を奪って嘲う。
その為に伊能玲矢という男は、己とは正反対の善人を装ってきた。
「まさか責めるつもりか? この殺人旅行に協力している身で?」
それを責める資格など俺には無い。
……分かっている、そんな事。
それでもコイツの言葉に頷けず。相も変わらず出来たのは黙る事だけ。
「知らないフリをしたいなら最初からここに来なければ良かった。それでも参加した以上、お前はもう俺の共犯者なんだよ」
そこで玲矢は俺を見据え、そう告げた。
激情を抑える心すら見透かしては、嘲うように瞳を細めて。
「……分かってる。わかってるさ」
結局手を貸す時点で、俺はコイツを肯定してしまっている。
コイツの女漁りも、人殺しも───リナとリオを殺す事も。
全て自分の為に見逃した。
自由を手にする為に、俺は目の前の悪魔に魂を売ったんだ。
「ならいい」
返答に満足したのか、玲矢は俺から距離をとる。
そうして玄関へ向かうと、再びこちらへ顔を振り向かせた。
「それじゃあ俺は最初の標的に唾を付けてくるよ。
ミステリーものじゃ、最初の犠牲者は大々的に演出するものだからな」
去り際に放った言葉も、俺の選択を自覚させる。
犠牲者はあの二人だけじゃない。
本命以外は全て連続殺人を彩るスパイス。殺される理由も、ただ奴の気まぐれでしかない。
一体何人死ぬのだろう。誰が俺の目の前から消えていくのだろう。
それを知ったところで俺は既に選んでしまったというのに。
これから起こる惨劇に、俺は耐えきれる自信が無かった。
空は日が沈み、星が見え始めた頃。
別荘に招かれた人々は自然と集まり、夕食を食べる事となった。
開けた食堂には様々な料理が並び、旅行の参加者はそれぞれに舌鼓を打っている。
「うめぇ~~……本物のメイドさんが作る料理は格別だぜ」
「確かに美味しいけどな。その言い方はどうなんだ?」
「何言ってんだ。これは俺なりの誉め言葉だぞ?
やっぱり大金持ちに仕えるメイドさんってのは何でも出来るものなんだなって」
特に反応が大きいのは裕明だろうか。
どちらかといえば"メイドが作った"という点が大きそうだが、よく味わって食べているのは間違いない。
次点で反応が大きいのは、主に女性陣だろう。
「本当に美味しい……」
例えば音羽さんは、噛み締めるように料理を味わっている。
彼女の家も伊能家に負けず劣らずの大財閥。所謂上流階級の味を知っており、この食事で出された料理の良さを人一倍感じ取っているんだろう。
「矜児さん、この料理って何か分かりますか?」
一方でリナは好奇心旺盛なようだ。
一般家庭ではまずお目に掛かれないモノだからだろう。どういった食材か分からず、つい俺に尋ねてきたというところか。
「これはツバメの巣だな。前に一度食べた事がある」
「ツバメの巣……高級な食材、ですよね」
存在は知っていたのか、リオが横から捕捉を挟む。
するとそこからリナはツバメの巣を凝視し始めた。……どうも悩むような唸り声を上げる辺り、何故高級なのか分からないのかもしれない。
「食卓に出された以上、食べられるモノなのは確かだ。あんまり考えすぎると味も分からなくなるよ」
深く考えないよう伝えれば、リナはほんのり顔を赤らめてしまう。
「そ、そうですよね……ごめんなさい。つい緊張しちゃって……」
どうも恥ずかしがっているようだ。理由は今の行動を見られたのが原因、か?
だとすればそう気にする事じゃない。俺も初見の時は、ツバメの巣なんてどう食べたものか迷ったものだし。
「流石は銀行の御曹司ってところか。こうも高級食材ばかりとは羽振りがいいな?」
「それを言うなら、吉良の家も負けてはいないだろう」
「お前のところには負けるさ。俺の家は日陰者なんでね」
それにこの夕食の主催といえば、英二と他愛のない会話で盛り上がっている。
金持ち特有の余裕を感じさせる雰囲気だ。その程度の事で目くじらは立てないと対外に示していた。
「萎縮しなくてもいいんですよ。玲矢さんもプライベートでそういった事を気にする方じゃありませんから」
「……音羽さんの言う通りだ。ここは気にせず食べておけばいいさ」
「はい……ありがとうごさいます」
周りの皆も玲矢はそういう男だと認識している。
……実際のところがどうであれ、この場でリナの態度を追及する事はしまい。音羽さんに便乗して気にするなと伝えると、リナもようやく食事を再開する気になったようだ。
そうして和やかな食事も再開───といきたいところだが、そうはいかない事を俺は知らされている。
『番組の途中ですが臨時ニュースをお伝えします』
始まりはラジオのニュースだった。突然内容を切り替え、今日の夕方に殺人事件が起こったのを報せてくる。
内容は通行人が何人も通り魔に刺されるというもの。
犯人は先日複数名に性的暴行を加え、殺害した指名手配犯。現在も逃走中のそいつが犯人とあって、ニュースも大々的に取り上げているようだった。
恐ろしい事件ではあるが、あくまで山中にいる俺達には無縁の話。
皆そう落ち着こうとするも、ここで鈴香さんが会話を切り出した。
「霧風町って、このすぐ近くじゃなかった?」
「……この山を降りたところの町だよ」
「うわっ、めちゃくちゃ近いじゃん」
事件が起きた霧風町は、別荘に来るまでの道のりにある場所だ。別荘からの距離にしても、決してここまで来られない遠さではない。
「それにしても三人も犯して殺ってんのかよ」
「信じられない……人間のする事じゃないわよ」
そして犯行の内容も悍ましいとしか言いようのないもの。
他人事のようでいて、しかし確実に皆の心を冷やしていく。
「大丈夫だ。いくら何でも山を登ってくる事は有り得ない」
場を仕切り直すように玲矢が口を開く。
山は足で登ろうにも十全な装備が必要であり、逃げるならもっと開けた場所に向かうだろうと。
……だがそれは都合のいい嘘だ。
そもそもこのニュース自体が玲矢の仕組んだ罠だった。
まず連続通り魔事件は発生していない。
ラジオで流れている内容自体が事前に収録されたもので、まるで本物のニュースかの如く装っているだけ。
その目的は犯行の疑いを逸らす為。
こんな人里離れた場所で殺人が起こった場合、まず疑うのは内部犯だ。
だがもし外に恐ろしい殺人犯がいると、事前に知らされていれば?
となれば犯人の候補に外部犯の可能性も上がってくるだろう。しかも犯行の手順はご丁寧に通り魔のそれを模している。
犯された上で殺される…………それも親しい者がその餌食になれば、冷静でいられる者はまずいない。
そうやって心理的に追い詰めて、自分を容疑者から外すのが玲矢の狙いだった。
「矜児さん。だいじょうぶ、ですよね……」
玲矢の策を思い返していると、リオの声が俺の意識を浮上させる。
不安なんだろう。屋敷の主から念を押されても、殺人犯が近くにいる恐怖は拭えないようだ。
「だ、大丈夫よリオ……こんな山奥に来る訳ないって、玲矢さんも言ってたじゃない」
「でも……」
……これからその不安が的中すると知りながら、何を言えばいい?
そんな事起きないから心配するなと?
恐らく明日の朝には第一の死体が挙がってくるのに……?
「……不安なら一緒にいればいい」
気休めでも嘘は言えなかった。
「誰かと一緒にいれば不安も紛れるだろう。リオがいいなら寝る時間まで話し相手になろうか?」
代わりに一緒に時間を潰そうと提案する。
「いいん、ですか?」
「寧ろこちらからお願いしたいよ。俺も気を紛らわせたいからさ」
「じゃ、じゃあ! あたしも行っていいですか!?」
するとリオに続いてリナも話がしたいと手を上げた。
ここで断る理由はない。二つ返事で了承すれば、リナは花が咲いたような笑みを浮かべた。
「けしからん! 弱みにつけ込んで不埒な真似でもするつもりかァ?」
「鷹峰先生……これは矜児くんと彼女達の問題です。教師だからと出過ぎた真似をしないでください」
「なんだと? 哀沢、貴様……」
とはいえ端から見れば、この状況は逢引に誘っているようなもの。周囲の反応も様々である。
「また姉さん達のいつものパターンだ。矜児、あまり気にするなよ」
「そうそう、煩い外野は気にするなよ~~。
せっかく女の子二人とパジャマパーティーなんてご褒美イベントなんだからさ」
「ふふっ。そんなに揶揄っちゃかわいそうですよ」
批難する者、揶揄う者、微笑ましく見守る者。
好奇の視線に晒され、リナとリオは顔を赤くして縮こまってしまった。
「べ、別にそんなんじゃないですから……!」
「あうぅ……」
それでも意思を曲げる気がないのは、それだけ楽しみにしてくれている顕れだろうか?
……それでも、その期待を裏切るとしても……やるしかない。
俺の願いを叶える為には、自由になる為には───玲矢と同じになるしか、ないんだ。