ヤクザの息子でも幸せになりたい   作:野鳥

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兄弟

 

 ……あれから結局、リナの機嫌は直らないままだった。

 

 リオは謝った方がいいと言うが、どうにも腑に落ちない。

 プールに落としたのが気に食わないのは理解できる。

 だがそもそもリオへのセクハラが無ければ、あんな真似をする気は無かった。

 

 なのにあの怒り様はどういう訳なのか?

 

 夕食の時もろくに相手されず終わってしまった。

 そこでようやくリナの本気度が窺えたのだが、やはり何度考えても原因が解らない。

 

 リオは謝った方がいいと言うものの、まず相手の怒る理由に見当もつけないのは寧ろ逆効果だろう。

 

「きゃあ!?」

「声……?」

 

 どう始末をつけたものかと思案していると、不意に廊下の奥から誰かの悲鳴が聞こえてきた。

 

 今日は昼間からトラブル続きだ。

 今度は一体何なのかと、せめて確認はしようと声の方へ近づいていく。

 

「いいから俺と付き合ってみろって! 絶対イイ思いさせてやるからよっ!!」

「は、離して! やめてください……っ!!」

 

 そうして曲がり角の先で目にしたのは、誰かを羽交い絞めにしている英二の姿だった。

 

「やめてっ! 英二さんは……こんな事をする人ではなかったでしょうっ!?」

 

 あの声と英二の執着ぶり……まさか相手は音羽さんか?

 

「あの馬鹿が……ッ!」

 

 音羽さんの言葉を聞いても英二は彼女を離そうとしない。

 寧ろ抵抗されたのを受け入れられないのか、益々締め上げる力を強めているように見える。 

 

 気付けば自然と足が動いていた。

 後ろから英二に駆け寄り、音羽さんを締めるその腕を掴み上げる。

 

「っ、矜児さん……」

「……この手は何の真似だ、矜児?」

 

 予想通り、英二は頭に血が昇っている状態だった。

 

 こいつはただでさえ普段から粗暴な男だ。

 それがこうなれば、音羽さんを手にかけるのも時間の問題だったろう。

 

「見た通りだ。音羽さんから離れろ」

「病人が力尽くで俺を止められると思ってんのか? 第一お前には関係ない話だ、すっこんでろ!」

 

 邪魔されたのが気に食わないらしく、英二は口汚く喚いている。

 

「身内の恥を止めてやろうとしたんだがな。それすらも分からないか」

 

 ……こいつは昔からそうだ。

 身の回りを取り巻く闇に気付かず、自分の見ている世界が全てと思い込んでいる。

 

 俺への認識がいい例だろう。

 俺の持病が嘘だなんて、こいつは今まで欠片も疑った試しが無いんだから。

 

「音羽さんに振られたんだろう? それで腹いせに襲おうとするなんて、相変わらず品のない男だよ」

「……お前、誰にものを言ってる?」

 

 他者への態度もまるで品がない。

 ヤクザのやり方が世間ではどう思われるか、こいつは気にした事もないんだろう。

 

 ましてやそれで女の子がどう感じるかなんて、思考の片隅にもない筈だ。

 

「親の威光を傘にきたろくでなしだろう?  お前じゃ彼女には一生賭けても釣り合わないよ」

 

 そもそもこいつが自分の力と信じて疑わない力は、吉良組の存在あってこそのモノ。

 吉良英二という男はヤクザの息子でなければ、他者に誇れるモノなど何一つ持ち合わせていない。

 

 そんな軽蔑を以て煽ってみれば、英二は見る見る内に顔を真っ赤にして顔を険しくさせる。

 

 そして殴りかかってくるのも、実に予想しやすい反応だった。

 しかしその動きは実に緩慢だ。今まで相手取ってきた組の連中に比べれば、英二の拳は生温い。

 

「が、ああ……つっ!」

 

 拳を寸前で躱し、掴んだ流れで腕を極める。

 英二は抵抗するも、俺の腕力が逃げる事を許さない。

 

「早く逃げろ」

「で、でも英二さんは……」

「こいつは最初からこんな男だよ。他人を思いやる事を知らない、力で全てが手に入ると勘違いした屑だ」

 

 そうしてこの男を抑えている間に、音羽さんへ逃げるよう促す。

 

 中々足が動かないのは、彼女の優しさ故だろうか。

 このまま逃げてしまっていいのかと、抑え込まれる英二から視線を離せないでいる。

 

「英二へ情けをかけるのは金輪際止めた方がいい」

 

 しかしそれは甘い。

 この男は暴力で他人を従えるのが日常と化している。彼女達はそれを知らないだけだ。

 

 今回だって音羽さんを無理矢理手籠めにしようとした。

 ……あのまま見過ごしていれば、玲矢程じゃなくとも惨い真似をしたに違いない。

 

「君も好きでもない男と初夜を迎えたくないだろう?」

「そ、それは……」

「はぐらかすな。まだ話し合おうとした日には、今度こそ襲われてしまうぞ」

 

 それを分かってもらうべく、敢えてセンシティブな話題で現状を伝える。

 

 ギュッとスカートを掴んでいるのは葛藤の表れか。

 それでも英二を説得できるビジョンは思い浮かばなかったようだ。音羽さんは一礼し、その場から走り去っていった。

 

「……お前は! 俺の邪魔をして楽しいか? えぇ!?」

「まさか。寧ろあそこまで往生際の悪い男だったかと呆れてるところだ」

 

 音羽さんがいなくなったのを確認し、英二の拘束を解く。

 すると感情のままに怒鳴り始め、俺へ怒りの籠もった視線を向けてきた。

 

「俺に説教出来る立場か? 殺人を見逃して、今ものうのうとしてる男がよ!」

 

 ────そうして口にしたのは、玲矢に組した俺への批判。

 

「……驚いたな。お前、まさか何も知らされてなかったのか?」

 

 動揺するな……こんなもの、邪魔をした俺への意趣返しでしかない。

 

 そもそも殺しの事は兎も角、玲矢の二面性は把握していた筈。

 なのにまんまとついてきた時点で、英二も俺を批判する資格はない。

 

「なら所詮、アイツにとってお前の価値はその程度だったって訳か。

 大方音羽さんを餌にすれば、上手く騙せるとでも考えたんだろうな」

 

 本心を悟られる訳にはいかない。

 ……万が一バレて告げ口でもされれば、俺の願いは潰えるのだから。 

 

「……俺をピエロだとでも笑うのかよ」

「さっきも言った通り呆れてるだけだ。あのザマで音羽さんの事を好きだなんてな」

 

 それに、俺もコイツには言いたい事が山程ある。

 

「好きだって言うんなら相手が何を好むか、何を嫌うかくらい知ろうとするものだろう」

 

 まずは音羽さんへの態度だ。

 あれで彼女を好きなんて、コイツは本気で言ってるのか?

 

「それがお前はどうだ? 自分の事ばかりで、何で音羽さんに拒絶されたかすら分かってないだろ」

 

 俺からすればコイツの恋慕は真実味がない。

 

 力で従わせようとしたのがいい証拠だ。

 本人の意志を無視した想いなんて、受け入れられるどころか拒絶されるに決まってる。

 

「俺の……俺の気持ちが嘘だってのか」

「そうだ。お前は音羽さんが好きなんじゃなくて、久遠寺音羽(トロフィー)が欲しいだけなんだよ。

 だから久遠寺音羽そのものの価値を知ろうとしない。手に入れたという実績さえあれば、彼女の魅力が損なわれようと気にしない」

 

 それが分からない時点で、コイツは音羽さんの心を見ていない。

 

 あくまで知人の俺でさえ彼女の人柄を把握してるんだ。

 それすら出来ないコイツが、音羽さんの何を知っているというのか。 

 

「断言しよう。お前は音羽さんを手に入れても長続きしないよ。

 いずれ遊び飽きて、別の女性に乗り換えるさ」

 

 コイツの行動は街灯に群がる虫と同じだ。

 

 要は強い光に中てられて群がっているだけ。

 自分が見たモノの本質を知ろうとしないから、本当に求めるものは手に入らない。

 

 だから英二の恋が成就させる方法は、力尽くで服従させる事のみ。

 

 そうして意思を奪った音羽さんに本来の魅力はない。

 すると英二を満足させるには、もう肉体的な繋がりしか残らないだろう。

 

 だがそれも歳を重ねると共に限界が来る。

 そうして全てが損なわれた彼女に執着できる程、英二という男は一途じゃないだろう。

 

「……あ、あぁぁあああああっっ!!」

 

 そしてここまでの指摘を受け入れる程、英二は素直じゃない。

 

 襲ってくるのは想像できていた。

 繰り出される拳も先の焼きまわしでしかない。

 

「ぐぶ、は……ッ!」

 

 返しのタイミングで英二の腹に膝蹴りを見舞う。

 

 膝が鳩尾にめり込み、たたらを踏んで後退する。

 そうして英二は立つ事も困難になり、うつ伏せで倒れ込んだ。

 

「……何が違う」

 

 それでも意識はまだ保っているらしい。

 荒い息遣いながらも、奴は一心に俺を睨みつけていた。

 

「お前と! 俺の何が違う!! お前は誰かから本気で愛されてるとでもいうのか!?」

 

 もう暴れる気力もないとはいえ、見逃す理由もない。

 今度こそ意識を刈り取ろうかと足を向けて────途端、英二は叫びを挙げる。

 

「玲矢の事だってそうだ! どうせお前もあいつの道具ってだけで、掌の上で踊らされてるだけだろうがッ!!」

 

 こんなもの、苦し紛れの喚きだ。

 相手にする必要はなく、気絶させてしまえば耳障りな声も聞こえなくなる。

 

「そうだな」

 

 …………だというのに

 俺は馬鹿正直に英二の問い掛けに応じていた。

 

「アイツは人を愛した事のない男だ。善人の皮で騙して、何人もの人間を貶めてきた外道」

 

 それは規定の事実であり、嘘に隠れた玲矢の本性。

 きっと誰も信じない。そう思えてしまう程に、玲矢という男は社会に上手く擬態していた。

 

「だからこの館にいる者は全員、奴にとって気まぐれに捨てれる玩具でしかない」

 

 俺も気付いた時には遅かった。

 

 全てを知った段階で、俺は既に大切なモノをつくり過ぎた。

 そしてその縁は玲矢の気まぐれで、呆気なく消えてしまうものでしかなく

 

「だから時が来れば音羽さんも殺すだろう────裕明のように」

 

 ……俺もいつ捨てられるか分からない。

 だとしても日常に縋りつく為に、奴の匂わせた餌に食いつくしかなかった。

 

「まさか……自分の、許嫁だぞ?」

「だったらお前を連れてこないだろ。一歩間違えば、自分から許嫁を奪うかもしれない男を」

 

 音羽さんだってそうだ。

 許嫁とされていても、玲矢にとっては人より長く弄べる玩具。その程度の価値しかない。

 

 でなければ誰にも渡さないよう、英二のような不穏分子は遠ざける筈だ。

 

「仮に奴が音羽さんと結ばれたとしても、お前以上に長続きしないよ。

 恐らくすぐに飽きるとして……最期は適当な男に遊ばせて、壊れる様を嗤ってるかもな」

 

 もし結ばれたなら、最初は紳士を演じて丁重に扱うだろう。

 

 しかしそれも時間が経てば本性を隠さなくなる。

 やがて音羽さんに飽きた奴は彼女を辱めて、どれだけ耐えられるか秤へかけるに違いない。

 

 それこそ、この屋敷で犠牲になってきた数多の女性のように────

 

「なんだよ、そりゃ……なら、音羽の奴は……」

「……玲矢に逆らうのは止めておけ。

 ここに連れてきたなら、奴もお前を殺す算段はつけている証拠だよ」

 

 英二はどうやら俺の予想に恐れ慄いているようだ。

 こいつにも人並みの心があったのか? だとしても今更止める方法などある筈もない。

 

「だから奴を止める方法は何もない。欲をかかずに自分の身を案じてるんだな」

 

 …………違うな。これは俺のエゴだ。

 

 自由が欲しいから玲矢の凶行を止めないでいるだけ。結局俺も自分の事だけしか考えてないんだ。

 

 そう自嘲しても願いは捨てられそうにない。

 

 どうせ隠している真実を知れば、みんな離れていく

 ────玲矢に告げられた言葉がいつまでも頭の中で反芻していた。

 

 

 

 

 





 英二ってNTRルートだととんでもない屑でして。

 初手で音羽を強姦。その後も平気でスタンガンを当てたり銃で脅したりで、そうして無理矢理音羽を犯していった後に、完堕ちした彼女を花魁に堕とします。

 音羽も財閥の娘だよな? 親は何も言ってこなかったのか?
 NTRゲーに整合性を求めるのもなんですが、初見は疑問符しか湧かなかったです。というか惚れた女にする事かよこれと……

 なので英二の音羽に向ける愛は、一個人への愛ではなくコレクションを収集するのと同じではないかというのが個人的な感想。

 多分NTRルートの音羽は歳をとったら捨てられると思います。
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