前世に忘れてきました。何を?人道とやらを   作:しらたまあんみつ

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"力"の意義

 

 

「暇だな」

「暇ですね」

 

何の意味もない問答だが、実はこれで通算四回目だ。

(くそ、何だって鹿紫雲サンはあんなこと言ったんだよ)

暇を前面に押し出すように寝転がりながら、錦は愚痴った。そろそろ鹿紫雲への評価が「尊敬している人」から「尊敬しているけど信頼はそこまでしてない」に変わりそうなくらい暇だ。

 

 

 

鹿紫雲と忽那が探索班として出かけたのが二日前。もちろん錦は呪霊処理の活動を続けるつもりだったが、そこで鹿紫雲は「何でだよ、お前は休んどけ」と。そう、一言言ったのだ。

曰く、怪我をしたのだから無理をしないほうが良い、だとか。もちろん正論ではある、だが彼に焚き付けられた錦にとっては寝耳に水以外の何物でもなかった。

 

「許斐に直して貰ったから怪我はないようなものだ」と反論すれば「じゃあ修行でもしてろ」と返され。結局丸め込まれ、錦は一人寂しくー遙太も同じ理由で安静にしているため実際は二人ー兵舎で待っていたのだ。

 

当然、時間を惜しまず鍛えてはいるが、流石にずっと同じことをやっていれば飽きる。…飽きるとはいかないまでにしても、ほとんどの仲間は戦っているというのに、自分だけ安全地帯で修行というのもなかなか堪えるものだ。

 

ちなみに魑魅は調べたいことがあるとか何とかでどっかに行き、許斐は兵隊の治療のために太閤軍の陣地に呼ばれている。

つまり暇なのは二名だけであった。

 

 

 

 

「柳生シン・陰流 簡易領域」

ブゥーン、と鈍い音と共に結界が張られた。その様子を微塵も見逃さないと言わんばかりに錦は目をかっぴらく。

ふぅ、と空気を吸い込んで、柄に手を添える。見据えるのは竹束、距離は二尺(約六十センチ)

 

シャキン!!

鮮やかな一閃で両断された竹束に、おおと軽い拍手を送る。

 

(やっぱ洗練されてんな)

よほどの鍛錬を重ねたのだろうと推測できる。

簡易領域は原作の中でも最も頻発した領域対策だ。相手の必中効果を中和できるのは、少しでも反撃の隙を作るのに向いているからだろう。

実際、領域はほぼ確殺攻撃。必然、その展開時に敵は緩む。例えどれだけ気を張っていたとしても、だ。

(零落は必中効果がただのルールの押し付けだったから何とかなった。…いや、結構ギリギリだったな)

つまり、あのレベルの敵と戦うのであれば、勝利を目指すのであれば、領域対策は必須。

 

 

錦はこの数日執拗に遙太に絡んでいた。簡易領域を教わるためである。鹿紫雲は原作で言われていたように彌虚葛籠を使っているようで、簡易領域のことには疎いらしい。だが、手印を結べば最大出力を維持できる彌虚葛籠と、現代では主流となっている(原作での描写が圧倒的に優遇されている)簡易領域を天秤にかけて、錦が選び取ったのは後者だった。

 

まあ結果的には伝授は叶わなかったが、見て盗む分には構わないらしく、遙太の練習を必死で観察するのがここ最近の日課になっている。

 

 

 

「集中できておりませんね」

「は?」

ちゃきりと刀を鞘に収めた遙太が錦の顔を覗き込んだ。

「別にそんなことはないけど」

「その割には、何というか…初日の気概が見られませんよ。僕から技術を盗みたいのなら、もっと本腰を入れたらどうです?」

「なんか随分遠慮なくなってない?」

「君こそ」

 

お互い様でしょう、と遙太は錦の隣に腰を下ろす。抜いた刀を脇に置き、どこからか持ってきた茶を口に含む。本格的な休憩の体勢であった。

「聞きたいこと、あんだけどさ」

それを見て、錦は自身の前にも出された茶碗の縁を爪でなぞった。

「何か相談事でも?」

「ま、それに近いもんだよ。お前は何のために戦ってるんだ?」

「…それは、何とお答えすれば良いので?」

 

若干の困惑を滲ませた遙太に、迷いなく言葉を紡ぐ。

「戦うことで相手を理解できるって鹿紫雲サンは言ってた。確かに私もそう思う。でも、それじゃただの肌感覚だ。私はお前のことを理解できない、だからまずは言葉で「お前」を聞きたい。…意味わかんないよな、でもとりあえず答えてほしい。お前は何のために戦っている?」

不意に引き締まった錦の表情を見て、遙太はどこか不意を突かれたように黙り込んだ。そうして、数秒の沈黙ののち、絞り出すようにして呟く。

「家族、です」

 

「…家族」

「はい。僕には、才能(術式)がなかった。でも、そんな(役立たず)を肯定してくれる、優しいひとがいたんです。初めて頑張ろうと思った。そのひとを守るためなら、何でもしようって、そう思えた。だから、術式に頼らずとも強くなれる方法を探しました」

 

穏やかに笑って、隣の刀をそっと撫でる。

「そこで、簡易領域というものを知って、自分なりに改良しました。それが「柳生シン・陰流」です。僕はずっと呪術師になりたかった。僕の生家である石流家は、代々伊達家に使える呪術の名門です。認められるには、それが最も手っ取り早いですから。…才能がないからと諦めていましたがね」

 

寂しげに言って、ズズと茶を啜る。それに倣うように錦も茶を飲もうとして、ゲホ、と思い切り咽せた。

「何っだこれ、土の味すんだけど」

「ああ、高麗人参茶(インサムチャ)というそうです。飲んだことないですか?高麗の茶で、滋養強壮に良いそうで」

「へー、確かに後味はさっぱりしてて結構うまい…じゃない、私は茶の話がしたいんじゃない」

 

話題を元に戻そうと茶を置く。こほん、と咳払いを一つし、疑問を問うた。

「でも今は呪術師になれたんだろ?家の連中も、簡易領域を認めたってことなのか?」

 

「ええ、そんなところです。でも、その一歩を踏み出す勇気をくれたのは家族です。だから、少しでも恩返しがしたくて。だから、僕は家族のために戦っていると、そう確信を持って言えますよ」

 

そこで言葉を切って、遙太は錦を見て驚いた。彼女は、ひどく柔和で、それでいて悔しそうに唇を噛んでいた。そのどちらともつかない表情に、恐る恐る遙太は問うた。

 

「ええと、ご期待に沿いませんでしたか?」

「…いや、全然。もう一個聞いていい?」

 

こくりと頷いた遙太の反応を予測していたかのように、錦は躊躇わずに聞いた。

「じゃあ、何であの時戻ってきた?そんなに家族が大事だってなら、お前が逃げた理由はわかる。でも、お前は戻ってきた。確固たる目標っつーか、「家族のために」っていう信念がありながら、それを捨てたのは、どうして?」

「…僕にも、よくわかりません。ただ一つ言えるのは、重なったからでしょうか。僕には末娘がいましてね、もちろん全然君とは似てないし、年だって違う」

 

そう、照れくさそうに頭を掻く。その瞳には、生ぬるい優しさがあった。

「でも、あそこで君を、君たちを見逃したら、顔向けできないなと思ったんです。末娘をこの手に抱くたびに、君たちのことを思い出すんだろうな、と。そう思ったら、気づいたらあの場に戻っていました」

「お前バカだな」

「まあ、馬鹿ですね」

「…でも、良いなぁ」

 

錦はポツリと呟いた。ぎゅっと何かを堪えるように目を瞑り、万感が込められているであろうため息を吐く。

 

(私も、そうやって、自分の信念を語れるのかな)

「大切なものとか、私にはないよ。ほしいと思ったこともないや。それでもさあ、いつか信念みたいなものってできると思うか?」

「そうですね、不確かなことは言えませんが。今の強さに貪欲な君なら、あるいは」

「そっかぁ…」

 

ふっと小さく笑って、錦は目を開けた。途端に眩しい日光がその目を焼かんと差し込むが、手を日除けにしてそれを防ぐ。そうして、付着した土を払って立ち上がった。

 

「見てるだけも何だし、次は組手しよう。呪術ありな」

「え僕の鍛錬は…?」

「対人戦闘したほうが竹束斬るよりためになるだろ。ほらとっとと茶飲み干せ」

「そんな無茶な!」

 

 

 

 

 

はっ、はっ、と一定のタイミングで息を吸う。兵舎の周りでのランニングはもはや習慣となりつつあった。見慣れてきた景色に、どのくらい朝鮮にいるのかなと思う。日ノ本が恋しい訳ではないが、そろそろ白米が食べたい。

 

「久しぶりやな、佳宵」

ふとどこかで聞いた伊賀弁に振り返ると、於土岐が「よ」と手を振った。

「お前、太閤軍に居たんじゃないのか?」

「まあそうやったんやけど、状況が変わった。詳しゅうは全員が集まった時に話す」

軽妙な言葉遣いとは裏腹に、その眉根は険しく寄せられている。彼の足早な歩みを小走りで追いかけた。

 

慌てて入った天幕にはすでに遙太、鹿紫雲、魑魅、忽那が集まっている。

「遅かったじゃん、何してたのー?」

「訓練だよ訓練。それより許斐は?あいつまた怠けてんのか?」

鹿紫雲の隣に座り込み、忽那を軽く流す。と、難しい顔をした於土岐も空いた場所に座った。

「そのことについてだが、一つ重要な報告があるに。許斐が、死んだ」

 

(許斐が…?)

その一言は、集まった面々の少なからず衝撃を与えたようで、各々が反応を示す。

「許斐は太閤軍の治療をしていたんじゃねえのか?なら護衛がつくはずだが」

「その通りや、軍の陣地におる間はな。ここからの行き帰りはそれがあらへん。その隙を襲われた」

「それは、どんなふうに死んでたのー?残穢はあった?」

 

忽那の問いに、於土岐は心臓を指し示した。

「ここを一突き、即死やろうな。抵抗した後も見られんだ。問題はその後や。現場にはどこにも残穢がなかったんや」

「それは、亡峠の時と同じ…!」

 

ガタンと立ち上がった錦に、於土岐も大きく頷く。

「考えられるのは二つ。呪力を持たん足軽が殺ったか、それともー残穢を残さん巫堂が殺ったか」

「前者はありえません、だとすれば後者ですが…。巫堂殺害班がめぼしい巫堂を殺したはずでは?」

「取りこぼしがあった、ということかな?」

 

そこで今まで黙り込んでいた魑魅が口を挟んだ。目を向けられた鹿紫雲が考え込むように腕を組む。

「それは何とも言えねえな。お前が言った通り、霊力とやらは未知の力だ。呪力に似たようでもあり、違う性質を備えている…かもしれない。もしかしたら、俺らの網を潜り抜けた奴がいた可能性も否定できねえ」

「つまり、許斐くんを殺したのは巫堂であると?」

「おそらくは」

 

そう言い切った鹿紫雲に、忽那が挑発するように言った。

「へぇー、じゃあキミらの責任じゃない?どうすんのぉ、高麗に呼ばれたのは日ノ本の精鋭呪術師だよ。それが二人も!死んでるんだからさー」

「知るか」

 

煽りを多分に含んだそれは、バッサリと切り捨てられた。

「そいつらが死んだのは端的に言えば弱かったからだ。誰が悪いかっつー無意味な議論には興味ねえが、この場合は明白じゃねえか?」

「鹿紫雲サンの言う通りだ、今は責任の押し付け合いなんてしてる場合じゃない」

 

錦は形の良い眉を顰めた。

「今の喫緊の問題は、私たちに()()()()()を持って呪術師を殺害している巫堂がいるってことだ。もう二人殺られている、そろそろ本腰据えて巫堂殺しに専念したほうが良いんじゃないか」

「…僕も、錦くんに賛成です。例外を除いて日ノ本の呪霊と比べ積極的に人を襲わない呪霊と、自ら動く訳でもない呪具に時間を割くよりは…」

「そーだねえ、このままじゃおちおち寝てもいられないしぃ」

 

あっという間に意見を決めた三人を押しとどめるように、於土岐は手を前に出した。

「待て待て、少しは俺の話も聞いてや。太閤からの命令が出た。呪術師を殺った巫堂を殺せ、とのこっちゃ。疑わしいものは全員、な」

「本営は余程焦っているようだね。これまでは私たちにできるだけ干渉させないようにしていたのに」

 

首を傾げた魑魅を見て、於土岐はすっと目を細めた。

「お前らもわかっとるやろうが、高麗に()()()集められたのは精鋭部隊や。それ二人も殺されたんやに?」

「ハッ、結局は太閤のメンツのためかよ」

 

くだらねぇ、と鹿紫雲が鼻を鳴らす。

「班決めはこっちでやる。お前は今まで通り太閤軍の補助でもしとけ。どうせそういう命令なんだろ?」

「まあ、そうやけど。呪術師部隊の指揮権も太閤にあること忘れやんこっちゃ。なんぼ個人の力が強うても、国に対抗できる思わんとな?」

「…お前はどっちの味方だよ」

 

唸るように言った錦にふっと笑みを返し、於土岐は天幕から去っていった。

 

 

 

 

 

月が煌々と闇間を照らした。それを恨めしげに睨みつつ、二人の影が木の間を走り抜ける。前の影は中くらいだが、後に続く影は小さい。少なくとも、こんな夜間に猛スピードで移動しているのには似つかわしくない。

 

後ろの影をチラリと見て、前の影ー錦は心中で盛大にため息をついた。

(ったく、マジで何であいつがペアなんだよ)

遙太が独断と偏見で(勝手に)決めた班により、忽那と錦、魑魅と遙太、鹿紫雲に別れて現在巫堂を探している。呪霊処理班に続き、忽那とはこれで二度目である。鹿紫雲と戦いたかったなんて贅沢は言わない、だがせめて遙太が良かった。

…魑魅?アレは論外、何をやらかすか分からないので。

(にしてもないだろ、何で二連続!)

 

正直振り切りたいが、一人で行動して圧倒的強者にでも遭えば死は免れない。少なくとも二人の方がその確率はグッと減るだろう。そんな事実が頭をよぎり、錦はチッと舌を打った。

 

「えなに、どしたのー?舌でも噛んだぁ?」

「何でもないから黙ってろ舌噛むぞ」

 

(むしろ噛めやこのクソガキ!!)

先ほどから、ずーっとこの調子である。錦の堪忍袋の尾がまだ切れていないことに忽那は感謝すべきだと思う。

 

 

ふと、たくさんというほどでもないが人間の気配を感じた。ざっと立ち止まった錦に、忽那もそれに倣う。

「…味噌汁のシジミの砂が抜けきっていない時みたい」

「何でそんな例えピンポイントで出てくんだよ」

 

確かにあのジャリッとした違和感に似ているが、人を砂に例えるな。

「ぴん、ぽいんと?」

「あー気にすんな。で、どうする?多分この数、村程度の規模ってとこか」

「ねー。まだ残ってたってことは、護衛がいるのかなぁ?」

「…巫堂か」

我が意を得たりと忽那が頷く。

 

太閤は、朝鮮出兵における戦績の証明として、朝鮮の軍民の耳や鼻を削ぐように命じた。それらは手柄に飢える将兵によって塩漬けにして日ノ本に送られた。だが、戦争とは人間の狂気が如実に現れる。耳や鼻で済むはずがなく、辺りの民間の街や村は壊滅しているはずだ。

 

 

「全く、あの悪趣味な命令が役に立つ時が来るとはな」

「ひょっとして太閤嫌いー?凄いねぇ、国の最高権力者にそんなことが言えるなんて」

「別にそんなことは言っていない。けど悪趣味に変わりはないよ」

 

まーね、と軽く肯定して忽那は飛び上がった。頭上の木の枝に乗り、錦を見下ろすように頭を限界まで下げる。

「どーする?尋問の類ならボクが適任だけど」

 

脳裏に「犬神」と、自身を喰らって消えた呪霊が浮かび、思わず顔を顰めた。それは暗さ故か忽那には見えなかったようで、逆さまの表情は変わらない。

 

「分かった。とっとと行ってこい」

「はぁーい」

 

のっぺりと光って見える顔が引き上げられ、木上で影がさっと動いた。忽那の気配が消えたのを感知し、グシャリと前髪をかき混ぜる。

 

()()を、一般人に使うのか)

それが最も合理的で、簡単だと理解している。だが、どうしてもそれを受容できないと喚く部分もある。葛藤とまではいかないにしても、どうにも割り切れない感情が鬱陶しかった。

 

 

 

 

「…やっぱ便利な術式だな」

できるだけのろのろと村へと向かったら、すでに()()は終了していたようで、一人の女が忽那の足元に転がっていた。

「でしょぉー?あんまり好かれないけどね」

「で、情報は?」

「まあまあ、そう結論を急がないでってば」

「早くしろ」

 

気が削がれたのか頬を膨らます忽那を無視して催促すれば、やれやれと口を開く。

「いるよ、この村に。一人、相当強いみたい。ここらに派遣された足軽は全員殺されたってさ」

「それは…本命の可能性が高いな」

「どうするー?増援でも呼ぶ?」

「相手の実力にもよるが、増援呼んだらわざわざ班分けした意味なくないか?それよりは戦ってみて、圧倒的格上なら逃亡。そんで情報を持ち帰るってのがいいと思う。ま、私たちだけで殺せるならそれに越したことはないけどね」

「とりあえず、巫堂をどう呼び出すかが問題ってことだねぇ」

 

忽那は足元の女を蹴り上げた。グル、と呻いて近くの家にぶち当たった女には目もくれず、犬の毛を懐から数本取り出した。

 

「この村の人間をちょっとずつ「犬神」に憑かせよー。そんで騒ぎが起これば来るでしょ」

そう、家の中で震えているであろう住民たちに、忽那はうっそりと笑いかけた。

「さてー、どいつからやろうか」

 

「…待て」

楽しそうに言って、一歩踏み出した彼の腕を錦は掴んだ。

「何?」

「ここにいるのは一般人だ。一人くらいは仕方がない、だが無駄な犠牲を出す意味はないだろ」

「…はあ?何言ってんの?」

 

本気で訳がわからないとでも言いたげに忽那は肩を竦める。

「これはさぁ、戦なんだよ!一般人?そんなこと関係なくない?巫堂を殺さなかったらさぁ、次にやられるのはボクたちだ。正義ヅラすんのやめてよね、見苦しい」

「正義ヅラ?悪いが私はそんなこと一寸たりとも思ってないね。別に村人を使わなくても幾らでも誘き寄せられるだろ。そもそも戦っつったって、将兵対将兵が基本だ。戦闘能力のない奴を襲うことを戦とは呼ばない。虐殺って呼ぶんだ」

「…だからぁ?勝つには何でもやる、それが呪術師でしょーが!」

 

ふざけんな、と錦が叫びかけた瞬間だった。

シュバ!!

凄まじい勢いで、誰かが斬りかかってきたのは。

 

それを間一髪で避け、闖入者を睨め付ける。

「誰だお前。巫堂か?」

神経を張り詰めた錦の問いには答えず、闖入者はゆらりと動いた。それは、二人が想定していたよりはるかに小柄で、韓服(チマチョゴリ)をゆったり着こなしている。ばさり、と綿飴の如く縮れたーただし灰色がかっている為そうは見えないー髪を振り、害虫でも見るような目がこちらを睨んだ。

 

(婆さん…か?)

その皺だらけの顔を見て、錦は瞼を瞬かせる。

(でもあの速度は尋常じゃない。油断は禁物、か)

 

 

「…(何故)

しゃがれた声を老婆は発した。

이렇게도 우리 땅에 밟는다?(我々の土地に踏み込む?)

 

「なんて言ってるかわかるか?」

「わかる訳ないでしょ。あーあ、これじゃ情報も取れやしない」

はあ、と嘆くようにため息をついた忽那とは対照的に、老婆はどんどんとその語気を強めていく。

 

게다가 여자 아이까지 죽인다고는!(その上、女子供まで殺すとは!)사람의 소업이라고는 생각되지 않습니다.(とても人の所業とは思えん)

「こっちの言葉で喋れよババア」

「今初めてお前に同意したよ」

 

二人の軽口に、ふと老婆が口を止めた。そうして、再び血走った目が二人を捉える。ニタリ、と口角が不気味に上がった。

 

침입자는 모두 죽인다.(侵入者は、皆殺し。) 그렇게 정해져 있기 때문에(そう決まっておるのでな)

 

(何だ、この殺気は!?)

肌の内側を爪で引っかかれるような不快感にぎゅっと口を引き絞る。それは隣の忽那も同じようで、すでに余裕は抜けていた。

 

죽는 것이 좋다, 저주받은 자들!(死ぬが良い、呪われしものたちよ!)

 

老婆が、その手の金の鈴を、しゃらんと振った。

 

 




先日あるアドバイスを頂きまして、朝鮮出兵編に含まれる語句を一部改変いたしました。詳しいことは八話目の後書きに書いております。本筋には一切関係ありませんが、それに伴い少々変わる点がございますのでご報告させていただきます。アドバイスをくださった方、ありがとうございます!
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