前世に忘れてきました。何を?人道とやらを   作:しらたまあんみつ

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放浪編
悔罪典礼(ラスト・ミサ)


 

どん、と肩がぶつかり合う。

「前見て歩きなよ」

Desculpe(すまない)

 

え、と聞き返す間もなく、見慣れない風貌の商人は去っていった。はて、今のは何語だろうか、と首を傾げるが、それはすぐに目の前に広がった風景への感嘆に変わった。道の左右には、十字架があしらわれた教会堂や、南蛮風の建物の数々。

 

「国際色豊かっすね!」

「そーだな。俺も初めて来たが、思ったよりも活気がある」

錦ほどわかりやすくはないものの、鹿紫雲もまた物珍しそうに辺りを見回して呟く。

 

「お嬢ちゃん、ギヤマンはどうだい?南蛮から仕入れたばっかりだよ!」

ニコニコ笑みを浮かべて、美しい切り模様が入ったガラスのワイングラスを押しつけられる。それをしげしげと見て、わあと声を上げた。

「ガラスか!やっぱ綺麗だね」

日光に透かせば、道端に色とりどりの光が落ちる。擬似的なステンドグラスに、キラキラと目を輝かせた。

「ビードロか。話には聞いてたが、本当に透明なんだな。…絶対落とすなよ」

「私のこと何だと思ってんですか」

「手のかかるガキ」

 

 

「そこのお兄さん、この布見てきな!明の生糸使ってんだよ」

「いやいや、やっぱこれでしょ!南蛮の菓子だよ、かすていら買わない!?」

 

次々にかかる客引きをうまく躱しながら、二人は坂道を登っていった。と言っても、あしらっているのは鹿紫雲だけで、錦はいちいち引っかかっていたが。

 

「お前なぁ、観光しに来たんじゃねえんだぞ」

「だって、こういうの滅多にないじゃないですか。テンション上がってもしょうがないでしょ」

「てんしょ、何?」

「気分が上がってんです」

ため息をついた鹿紫雲とは対照的に、カタカナ語が飛び出すほど浮き立っている錦。

 

(懐かしいなぁ、長崎みたい)

珍しくその頬を紅潮させながら、彼女の目には現代の風景が広がっていた。確か家族旅行か何かだったか、一度長崎に訪れたことがある。そこで、洋館群やらグラバー園やら、絵本から飛び出したような風景を見たことを、転生してから初めて思い返していた。

 

もう戻れないと分かっている。だが、だが!誰だってあるだろう、過去を振り返ることは。

戻れないからこそ貴重な、自分の柔らかい部分を見つめて。ああ、こういうことがあったなと、懐かしいような、郷愁のような気分に浸る。それはきっと、過去を大切だと思える人間の特権なのかもしれないけど。

 

 

血みどろではない、あの頃の自分が、今の己の横を駆け抜けた気がした。そうか、と錦は目を細めた。前世は、もう自分にとっては過去なのかと。あの、ずぶずぶと平和という生ぬるい湯に浸かって、幸せなどという張りぼてを謳歌していた日々は、とっくに昔のことなのだ。

 

そんなことが一度に頭を過り、錦はふと足を止める。息を深く吸い込めば、そこには僅かに血がかおる。実際はそうでないかもしれないけど、それはもう自分に深く根付いてしまっているのだから。

(やめよ、くっだらねえ)

そう、ふっと自嘲して、錦は先を行く鹿紫雲を追いかけた。

 

 

 

「てか、私たちどこに向かってんですか?そろそろ教えてくれたって罰は当たらないと思いますが」

「もうちょっとで見えてくるから、それまで待てよ」

「さっきからそればっかりな気がしますが」

中々に傾斜のきつい坂道を登りながら、幾度目ともつかない会話を繰り返す。と、視界の先に立派な武家屋敷が飛び込んできた。さっきまでの異国情緒溢れる空気から一気に引き戻され、錦は不満を滲ませながら問いかける。

 

「…えーと、アレですか?」

「アレだな」

「なんかもっと異国風のものがお出しされるかと思ったんですけど」

「そりゃ悪かったな。言っとくが中身はちゃんと南蛮風だぞ」

「どう見てもガワが小さな平城ですけど」

 

文句たらたらな弟子に、うるせえなと一睨みする。それにぶうたれながらも黙り込んだ錦を見て、こほんと小さく咳払いした。

「許斐が提示した借金額は膨大だ。とても今のお前には返せっこねえ。だから、ちっとは汚ねえことにも手を染める必要がある」

「それとアレと何の関係が」

「黙ってろっつったろ。太閤がバテレンの追放を命じたのは知ってんな?ま、結局貿易の利益が欲しくて完全には徹底されちゃいない。だがな、太閤にも面子がある。バテレンをとっ捕まえりゃ、それなりの報酬が約束されるってわけだ」

 

淡々と言い切った鹿紫雲に、錦は腕を組んだ。

「あの、バテレンと言えども非術師でしょ?それを捕まえて金を得るって、そんな行為で食う飯がうまいですか?少なくとも私は嫌ですね」

そう早口で言って、錦は如何にも嫌そうに顔を歪める。それにくつりと笑いを漏らし鹿紫雲は、まあ待てと続けた。

 

「んなこと俺がするとでも?早とちりすんなよ、今見えてんのは呪術師崩れのバテレンーいや、キリシタンがいるところだ。太閤が基督教(キリスト教)を禁じてから、あちこちの南蛮寺が壊されてな。ああいう、南蛮のなの字もない場所で細々とやってんだよ」

「呪術師が基督教に靡くことがあるんですか?」

「偶に居るだろ、呪霊と戦うのが嫌になって、仏道にのめり込む奴が。それと本質的には変わらねえってこった」

 

へえ、とそびえ立つ武家屋敷を見る。何だか気味の悪い気配はするが、それ以外に特筆すべきところはない。

それを伝えると、鹿紫雲は鼻を鳴らした。

 

「そりゃそうだろ、太閤主導のの弾圧の中で目立つ真似なんざ出来るわけねえからな」

「意外に小心者ですね。場所まで割れてんのに」

「っつっても、まあまあ時間かかったがな。相手は用心深い、まずはあの屋敷から引っ張り出すぞ」

 

ーぞわ

はい、と元気よく返そうとしたところで、錦は何か悪寒のようなものが背筋を走り抜けるのを感じた。鹿紫雲も同じだったようで、如意を構える。目線の先には、取り立てて特徴のない小男が居た。

 

(…気配を感じなかった)

つまり、手練。

 

「おやおや、今日はお二人さんですか。師弟ですかねぇ」

人が増えるのは良いことだ、と小男はニコニコと口角を吊り上げた。彼は、ひどくチグハグな格好をしていた。小袖を身につけているのは一般的な武士と同じだが、その襟元には白く派手な立ち襟ー南蛮襟が目立つ。南蛮と和の融合、けれどもそれは不自然さを感じさせない。まるでこの天草の街のように、さも当然であるかのように馴染んでいた。

 

「お前か?呪術師崩れのキリシタンってのはよ」

軽い口調で問いかけられた小男は、意外そうに瞼を瞬かせた。

「ええ、その通りですが…あの鹿紫雲一に知られているとは、光栄です。私はピエトロ、以後お見知り置きを。ああ、これは洗礼名と言いまして、本名ではございませんよ」

 

(ほんっとにキリシタンなんだな)

格好といい、特徴的な名前といい。

錦はふーん、と目を細めた。太閤が大手を振って弾圧している中で、堂々とこんなアピールをしているのだ。信仰心が強いのか、それともー余程実力に自信があるのか。どちらにせよ、厄介なことに変わりはない。

 

 

「立ち話も何だし、貴方たちもぜひ礼拝へおいでなさい」

ピエトロはそう言って、屋敷を指し示した。

 

罠か、と錦はぎゅっと眉根を寄せる。というか罠以外あり得ないだろう。隠れ忍んでいる奴が、わざわざ刺客と分かって姿を現す理由なんて。…もしくは、本当に礼拝に誘いたいと思っているか。

(いや、考え込む意味ないだろ)

どちらにせよ、錦がそれを見抜くことはできないのだ。であれば、どうするかは決まっている。

 

「ああ。案内してよ」

「俺も頼む」

二人して一歩踏み出した師弟に、ピエトロはうっそりと笑みを深めた。

 

 

 

「どうぞ、お入りなさい」

こじんまりとした門を通り、屋敷の中へと入る。やはり、薄気味悪いような、まるで何かに見つめられているような居心地の悪さがどうにも耐え難い。それさえなければただの屋敷、言い換えれば呪力の気配もない。

 

がらり、と屋敷の中では一等大きい印象を与える扉を開く。十数個の座布団が均等に並べられており、ところどころに人が座っている。

「好きな席について良いですよ。先客がおりますが、まあ気にしないでください。ともに礼拝を行う同士、あまり敵対することはしないでくださいね」

おっとりとした口調でそう言い、ピエトロはいそいそと部屋の外へと消えていった。

 

錦は鹿紫雲と目を合わせ、何を言うこともなく一番後ろーつまりピエトロと最も遠く、後ろからの奇襲にも対応しやすい席を選んだ。座布団にあぐらを掻き、そっと周りを見回す。

 

「…全員呪術師?」

「みたいだな。ったく、あの小男と言い、物好きが多いな」

 

四人の先客を観察し、こそこそと言葉を交わす。といっても、警戒するような実力などないだろうが。素人に毛が生えたようなものである、二人ならば蚊を潰すよりも簡単に殺せる。

(それも罠かも、だし)

疲れるなあ、と錦は若干面倒そうにため息を吐いた。朝鮮での経験が悪さをしているのか、警戒が抜けない。

 

 

ガランガラン!

突然鳴り響いた鐘の音に、錦はびくりと肩を揺らした。咄嗟に立ち上がりかけた彼女を鹿紫雲が制す。

「それでは、始めましょうか」

音もなくするりと部屋に入ってきたピエトロが告げた。全身を覆う黒いローブを身につけており、首にはロザリオを下げている。

 

軽やかに部屋奥に配置されている祭壇まで歩き、僅か六人の出席者を笑顔で見つめる。そうして、手を額に当てた。

「皆様、神に祈りましょう」

その言葉に、錦たち以外の参加者が一斉にピエトロに倣った。

 

「父と」

手を胸の中央に。

「子と」

左肩に。

「聖霊の」

右肩。

「御名によって」

両手を組んで、小さく唱える。

「アーメン」

 

それを、四人が復唱した。

 

 

 

「ッツ、」

(なんだ、この気配は!?)

錦と鹿紫雲は同時に立ち上がる。ピエトロの目が、細められる。

「領域展開 悔罪典礼(ラスト・ミサ)

 

 

 

「柳生シン・陰流 簡易領域!!」

「彌虚葛籠」

領域対策を瞬時に行なった二人の反応は正しい。…通常ならば。

 

バリン!

「なっ…」

((簡易領域/彌虚葛籠が解けた!?))

一瞬固まった二人を嘲笑うかのように、ピエトロは聖母の如き笑みを浮かべた。

 

そう、ピエトロの領域「悔罪典礼(ラスト・ミサ)」では、礼拝を邪魔することは許されない。よって、必中を防ぐ結界そのものが、儀式違反として解体される。

 

そこは、果てしなく広がる大聖堂。純白に塗られた壁に、数千本の蝋燭の影がちろちろと揺れている。頭上を見上げれば、そこには気が遠くなるほど高いゴシック様式の天井。だが、そこに描かれているのは可愛らしい天使ではなく、地獄の業火に焼かれる罪人たちと、ラッパを持った七人の怪物。

 

「なるほど、そういう感じね」

「この分だと、戦闘もできないと見るべきか?」

「ですね。不用意に動くとなんらかの罰が科される可能性もありますが…あいにく基督教に詳しくないので」

「奇遇だな、俺もだよ」

 

構えを崩さず、小声でやり取りを交わす二人に、ピエトロは座布団ーではなく、立派な木製の椅子を指した。

「二人とも、お座りなさい。皆様、礼拝の最初に聖歌を賛美しましょう」

呼びかけられた参加者が立ち上がり、ラテン語がびっしりと書かれた紙を取り出す。

 

ピエトロが指揮でも振るように手を動かせば、パイプオルガンの荘厳な音が鳴り響く。いっそ不快感さえ覚えるほど頭に響くそれに、思わず耳を塞いだ。だが、ピエトロたちは構わず歌い続けている。

 

「うるっせぇ…」

ただの歌なら正直BGMにもなりはしないが、歌の隙間にある不愉快なノイズがそうしてくれない。

まるで、悲鳴か何かのような。か細くて、だが正確に意識に入り込んできて。脳みそをぐるぐるとかき混ぜてくるようで。

 

「…気持ちわっる」

一番気色が悪いのは、どこかで聞いたことがあるような気がすること。記憶の奥底に散らばっていて、いつも聴いているはずの、

「…あ」

ころしたにんげんの、悲鳴。

 

それに気づいた瞬間、ノイズが異様に大きくなった。聖歌さえも掻き消して、なりふり構わず耳に飛び込んでくる。喚き立てる声がする。お前のせいだと、どうしてくれるのかと、そう叫ぶ声がする。

 

 

「ねえ」

ノイズを割って、澄んだ子供の声が聞こえた。ハッと顔を上げれば、そこにはもういないはずの人影。

「…忽那?」

「そうだよぉ、忘れたかと思った」

スタスタと歩いてきて、錦と目を合わす。その、どこまでも空っぽな水晶玉に、ヒュッと息を呑んだ。

「なんで、なんであの時ボクを見捨てたの?」

「違う、見捨ててない」

「見捨てたでしょ。キミならボクの気配を辿れたはず。でもさぁ、諦めた。なんで?ボクは、キミがくれば助かっていたのに」

ぎちり、と腕を掴まれる。

 

 

「家族がいたのだ」

別の声が、さらに割り込んでくる。知らない声。

「娘と妻が居てな。二人とも可愛いものだった」

ガチャガチャと鎧の音を立てて、血まみれの男が覗き込む。

 

「拙者もだ。拙者が死んだせいで、家族はみんな路頭に迷った」

「俺の家族は落ち武者に殺された」

「お前に殺されなければ、そんなことにはならなかった」

「お前のせいだ」

「お前が悪い」

「お前が死ねばよかったのに」

 

 

「うるさい!!!」

今まで、出したこともないような大声で錦は叫ぶ。

「知らねえよてめえの家族なんざ!てめえらが死んだせいで家族がどうなろうが私の知ったこっちゃねえ!よしんば私のせいだとして、それは自然の摂理だ!」

声を枯らすほどの勢いで、纏わりついてくるノイズを一生懸命蹴散らそうとして。

「てめえらが悪い!私に殺されたのは、てめえらが弱いからだ!そもそも、戦に参加したのはてめえらの意思だろ!?それを無視して私のせいだと!?」

笑わせんな、と唾を吐いて。

 

 

それでも、絡みつくように過去の記憶が手を伸ばす。血に塗れた手のひらが、灰色の世界が、生への醜い執着が。

錦を引き摺り込まんと、その深い深淵を覗かせる。

 

 

聖歌はいつのまにか止まり、ピエトロが錦に向かって歩み始めた。一歩、二歩。けれども、未だ威嚇するように唸る錦の焦点は合っていない。

 

「罪を」

そこに、ピエトロの優しい声が染み込んだ。

「あ…?」

「認めなさい。告白するのです、神に。神は広い御心で、貴女を赦して下さいます。貴女の今までの罪深い行いを、全て」

さあ、と錦の目の前に跪く。

「楽になれますよ」

 

その甘美な響きが、錦の鼓膜を揺らした。

「…わたしは」

それに釣られて、小さく呟く。

「ひとを、たくさんの人を」

 

 

ドン!!

瞬間、その場の空気をまるごとぶち壊すような衝撃が、錦を襲った。文字通り横っ面をぶん殴られ、錦は大聖堂の壁まで吹っ飛ばされた。かろうじて受け身を取り、激突は避けるが、頭がぐわんぐわんと揺れている。

 

「おい」

錦を、怒りがこもった目が見下ろした。

「鹿紫雲サン、何して、」

バキ!!

 

無防備な体に叩き込まれた蹴り。間髪入れず、踵落としが背中を穿った。ゲホ、と肺中の空気と血反吐を吐く。

 

「痛、」

「何やってんだお前は」

茜色の髪を掴まれて、浅葱色の目と錦の目が無理矢理に合わせられる。

「敵の戯言に耳を貸して、挙げ句の果てに自分から術式にハマりに行ってんじゃねえよ!馬鹿かお前は!」

戦闘中だぞ、とビリビリと鼓膜が揺れた。

 

「ごめんな、」

「そもそも、お前のやったことは罪でもなんでもねえよ!殺される前に殺して何が悪い!?罪だったとしても、それを認めんな!それは、ただの逃げだろうが!」

 

さっきよりも、よっぽど強く殴られたような気がした。鮮烈な、どこまでもまっすぐな雷に。視界がはっきりする。まだ手は震えているけれど、それを抑え込むように握る。

(…そうだ)

私は、楽になろうとした。罪を認めて償うのではなく、認めることで罪悪感から解放されようとした。それは、やってはいけないことだ。一人の呪術師として、人殺しとして。義務から逃げるのはまだ良い、でも責任からは逃げるな。

 

「すいませんでした!!」

錦は腰を直角に折り曲げ、鹿紫雲に叫んだ。

「敵の甘言に乗って、自分を見失いました。迷惑かけて申し訳ございません!」

「…分かってんなら良い」

 

二度はない、と鹿紫雲は鼻を鳴らす。その視線の先にいるのは、無表情でこちらを見つめるピエトロ。

 

「…何故?」

その口から、心底不思議そうな声が漏れた。

「神は寛容です。自分から告白すれば、貴方方の、私たち人間の、どうしようもない罪すらも赦してくださいます。貴方方は、犯してしまった罪をそのままにしておくつもりですか?」

 

沈黙が降りる。参加者たちは、騒ぎの中でも手を組んで一心に祈っている。それは、誰に対しての祈りだろうか。神か、それとも己の心か。

「お前の言っていることが、俺は理解できない」

 

その沈黙を無遠慮に破って、鹿紫雲はコキリと首を鳴らした。

「人を殺すのが罪か?だったら、子を守るために追い剥ぎを殺した母親は罪人か?明日を生きるために商人を殺したガキは罪人か?」

「…」

「答えられねえなら、お前に罪だ何だと喚く資格はねえよ。…ま、俺もねえがな。詰まるところ、罪なんてちっぽけな単位で人を量ろうとしたお前はバカだ。どうせ人は、自分が生きるためなら笑って隣人を殺す生き物なんだからよ」

 

静かに言い切った鹿紫雲に、ピエトロはぎゅっと拳を握った。

「では、私はどうなる?」

「あ゛?」

「私は、かつて貴方たちと同じだった。人を躊躇いもなく殺し、それを見て笑っていられるバケモノだった。…だが、だが!そんな私を、神は憐れんで下さった!私に慈悲を、救いを下さった!人間の罪は、全て主が十字架として負った!…貴方は、それすらも否定するのか?」

であれば、とピエトロは嗚咽と共に呟いた。

「この世に救いなど、ないのか?」

 

「知るかそんなもん」

明るく、だがいっそドスが効いたように低い少女の声に、ピエトロはゆっくりと顔を上げた。

「神だの何だの、さっきの鹿紫雲サンの話聞いてなかったのか?」

「…黙れ、貴方に何が」

「分からないよ、お前の気持ちなんて。…でもさ、苦しいんだろ?だったら、それで救いを誰かに求めんな。自分で自分を救ってみろよ。…それができないのなら、一生苦しんでろ」

ちなみに、と錦は胸を張る。

「私はもう諦めた!どうせ自分にやる慈悲なんて、一寸たりとも持ってないからな!」

 

そういうこった、と鹿紫雲は錦と肩を並べた。

「それでも納得できないってのなら、どうやって解決するか知ってるか?」

「「戦うんだよ」」

 

一人は如意を、一人は徒手を。各々の武器を携えて、挑発的に笑う。

「ごちゃごちゃ言ってねえで、かかってこいよイカれ野郎が」

「勝つのは、私たちだから」

 

ゴウッ、と蝋燭の火が一層強くなる。それに、ピエトロの顔が照らされる。彼は、もう暗い面などしていなかった。晴れやかで、どこかネジが外れたような顔で、彼は笑う。

「良いだろう、神の名の下に。貴様らの罪を裁いてやろうではないか!」

 

 

 




今回はキリスト教がテーマですが、特定の宗教に対しての作者の思想を表しているわけではありません。作者はそこまでキリスト教に詳しくないので、描写に矛盾があるかもしれないです。

あとピエトロは原作の天使(来栖華)とはマジで関係ないです。ただの宗教にハマった日本の術師です。
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