前世に忘れてきました。何を?人道とやらを   作:しらたまあんみつ

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リクエスト企画、参加ありがとうございます!ここからは二話連続、リクエスト小話をお届けしていきます。第一弾は、みやいちの助さんからのリクエストです!


リクエスト小話:美濃の刀匠

 

「くそ、これも駄目か…」

ぼろぼろに崩れた刀を見て、鹿紫雲一は肩を落とした。足元には先ほど殺した足軽や呪術師が山と転がっている。その山に刀を適当に投げ捨て、鹿紫雲は深くため息をついた。

「もうちっとマシなものはねえのかよ」

 

美濃国、関。現代日本でも刃物の町として知られるこの地は、戦国においても武人たちが刀を求めて集う一大産地だ。なぜそんな場所に鹿紫雲がいるのか。もちろん戦があったから、という理由もある。だが、一番の理由ではない。それを説明するためには、数年ほど時を遡る必要があった。

 

 

ばき、ごき。鹿紫雲が駆け抜けるたび、周囲の足軽が倒れ込む。大将首まであと少し、今回の戦の功労者は自分で決まりだ。そう思っても、やはり鹿紫雲の胸が満たされることはなかった。

(…この程度、か)

むしろ失望した、と言ってもいい。

 

とにかく、鹿紫雲がこの退屈な戦をとっとと終わらせようと前に出た時だった。

「待てい」

一人の声が、その足をぴたりと止めた。

「誰だお前は」

「なに、拙者はただの牢人よ。名乗るほどの名もない」

「そうか」

鹿紫雲は振り向く。

「じゃあ、死ね」

 

今まで、自分の速さについて来れた人間はいない。今まで通り軽く触れて、呪力(雷)を流す。それで、十分のはずだった。

 

カキン!!

 

ありえない、と思うより先に、足に鈍い痛みが走る。甲高い金属音に、鹿紫雲は目を見開いた。

刀、だった。すらりと伸びた刀身に、大きく波打つ刃紋。妖しく光を弾くそれは、鹿紫雲が見たなかで最も美しい刀だった。

(…それは、問題じゃねえ)

ただ美しいならば、それに価値はない。鹿紫雲が目を止めたのは、その刀の武器としての優秀さだった。触れようとした鹿紫雲の足を見事に弾き返すしなやかさ。攻撃の威力に負けない硬さ。そして、と視線を落とせば、ぽたりと血が滴る。

恐ろしいほどの、鋭さ。

 

なるほど、と鹿紫雲は場違いにも感嘆してしまった。牢人本人の力量は飛び抜けているわけではない。だが、あの刀がそれを補って余りある。

「いい刀だな」

「だろう?拙者には勿体無いほどだ」

「誰が打った?」

興味津々、といった様子の鹿紫雲に、牢人はにやりと笑った。

「お主が勝てば、教えてやろう」

 

結果として、戦闘は鹿紫雲の圧勝だった。血まみれで、ぜえぜえと息を吐く牢人の体を無造作につつき、鹿紫雲はしゃがんだ。

「おい。死ぬ前に教えろ。誰が打った?」

 

刀には呪力が籠っていたが、術式がついている様子はない。練習用か、その類のものだろう。それでこの出来なのだから、なおさら驚く。

鹿紫雲は、今まで武器を必要としたことはない。己の徒手と呪力さえあれば十分だと思っていた。

 

(有って困ることはない。むしろその逆、か)

武器があれば戦術の幅も広がる。もちろん、そこらの粗悪品では話にならないが、この牢人が持っているような逸品であれば話は別だ。

 

牢人は観念したように口を開いた。

「さすが、鹿紫雲殿…。お見事であった。我が生涯最後の相手として、不足はなし」

そうして、満足をいっぱいに浮かべた顔で、刀を差し出す。受け取った鹿紫雲は、目釘を素手で抜き、柄を外した。

「…滝糸(たきいと)?」

恐らく、無骨に刻まれたこれが刀匠の名前か。確認しようと牢人を見て、鹿紫雲は口を閉じた。死んでいたのだ。ひどく、穏やかそうな顔で。

「…羨ましいもんだな」

思わず口をついた言葉を、耳にしたものは誰もいなかった。

 

 

ともかく、「滝糸」なる刀匠を探しに、鹿紫雲は日ノ本を渡り歩いた。どうやら滝糸は名のある刀匠のようで、美濃国の関にいることはすぐに分かった。だが、肝心の居所が定まらない。滝糸は刀に限らず、気が向けば他の武器も作るらしい。そしてその材料を得るために、しょっちゅう家を出ているのだ。

 

関に行ったらすぐに会えるだろうと思っていた鹿紫雲も、これには閉口した。故に、美濃国周辺で起きる戦に片っ端から出ることにしたのだ。場所が近ければ、滝糸の作品を持つものも多いだろう、と。要はパクろうという訳である。

だがそれは世の習い、奪われようがどうされようが、弱い奴が悪いのだ。

 

しかしその見通しもまた、甘かった。滝糸は気に入った者にしか武器を売らないらしい。そんじょそこらの足軽や呪術師が持っているわけもなかったのだ。それで、今日も今日とて戦場をさすらう羽目になっている。

 

 

「そろそろ引き上げるか」

茜色になって随分時が経った空を見上げて、鹿紫雲は呟いた。夜目は利くとはいえ、日が暮れると流石に困る。

「帰るのか?」

ぞっと、背筋に悪寒が走った。反射でしゃがみ込めば、首があった位置を刀が通り抜ける。

「奇襲なら黙ってやれよ」

軽口を叩いて顔を上げれば、細身の侍が立っていた。

「俺に用か」

「ああ。鹿紫雲一、で合っているな?」

「恨みか?それとも名を上げるのが目的か?」

久しぶりの高揚感に、鹿紫雲の口角を吊り上げる。だが、侍はこてんと首を傾げた。

「そっちがア(・)タ(・)シ(・)を探してるっていうから来てやったのに、酷い言い分だな」

「…は?」

 

しばらくの間、鹿紫雲は言葉を失った。

「…女、だったのか」

「そうだけど?」

何か、と見つめ返され、鹿紫雲は黙りこくる。軽く髪を掻きむしって、次の疑問を吐き出した。

「俺を探しているんじゃなくて、俺が探していた相手ってことか」

「何だ、違ったのか?あの鹿紫雲が探してるっていうから期待したんだけどな」

思い違いか、と女が鞘に納めた刀を見て、鹿紫雲はハッと息を呑んだ。

 

牢人が持っていた刀と、ひどく似ていたのだ。刃紋でも形でもない。だが一目で、同じ打ち手のものだと分かる気配があった。

であれば、この女は。

「滝糸だな」

「アタシと同名のヤツを探してるんでもなければ、そうだよ」

「武器が欲しい」

滝糸が柳眉を顰める。

「…どんな」

「俺に見合ったものを」

 

滝糸が、切れ長の目を溢れんばかりに見開いた。ついで、ゆっくりと肩を震わせる。

「はは、あっははは!言うなあ、お前!噂通りだ、さすが日ノ本一は言うことが違う!」

はー、と長く息を吐いて、滝糸は鹿紫雲を見返した。その目には、先ほどまでとは違う好奇心が宿っている。

「いいよ、アタシの工房に来な」

「…タダじゃねえんだろ」

「察しが良いね。その通り、お代はしっかり貰うよ」

再び愉しげに言って、滝糸はくるりと踵を返した。死体を踏み越えて、鹿紫雲もそれに続く。太陽は、稜線に沈もうとしていた。

 

 

「酷いもんだな」

滝糸に着いて行った先には、何の変哲もない小屋があった。…周りに散らばるものを除けば、だが。

「よく言うよ、アンタも同じ穴の狢だろ」

「そりゃ正論だ」

鹿紫雲の視線の先には、切り捨てられた死体が山と積み上がっていた。近づいてみれば、どれも同じようにすっぱりと切られている。

「刀匠のくせに、腕も立つんだな」

胴体から真っ二つに割られている死体を見て、鹿紫雲は感心した。当然、と滝糸が首をすくめる。

「自分の造った作品の試し斬りくらい、自分でやるさ。それにね」

滝糸は鞘から刀を抜き、うっとりと言った。

「刀ってのは、人を斬ってナンボだろ?」

 

小屋の中には、整然と武器が並んでいた。鎖鎌、太刀、小刀、薙刀…ガキの頃から戦場を駆け回ってきた鹿紫雲すら知らないものもある。

「綺麗なもんだろ?全部、アタシの可愛い子供たちさ」

「…すげぇな。これだけの数を一人で造ったのか」

薙刀を手に取って呟く。しかも、どれも最高級の呪具。巷では当代一の武器職人と言われるそうだが、確かに納得だ。

「それで?俺は何を払えばいい」

「決まってるじゃないか」

滝糸は、挿していた刀を壁にかけた。そして、何もない空中を掴む。次の瞬間、その手には別の刀が握られていた。

(…術式か!)

果たして呪具の術式か、それとも滝糸のものかは分からない。一度に何本も出せるのか、それともあの刀だけなのか。目まぐるしく思考を巡らせる鹿紫雲を嘲笑うように、滝糸はゆったりと笑う。

 

「アタシはね、人を斬るのが好き」

だから、と鹿紫雲を見定めた。

「「最強」ってモンも、斬らせておくれ」

 

鹿紫雲は、全力で飛びすさった。ガキン、と背後の石垣に刀が突き刺さる。折れもせず、むしろ深々と刺さったそれに、流石の鹿紫雲も顔が引き攣った。

滝糸の手には、すでに次の刀が握られている。

「逃げるの?別に痛かないよ!」

「そういう問題じゃねえだろ」

鹿紫雲の蹴りが、女の細首に振り下ろされる。

 

キィン!

呪力を込めた足と、鋼の刀が火花を散らす。

「アタシの刀は、日ノ本の何より硬い。アンタの防御なんざ、豆腐みたいなもんだよ!」

「知らねぇのか?呪力はなにも、守るだけのものじゃないんだぜ」

 

ピリ、と空気が痺れた。まさに電光石火の速さで、刀を雷が伝っていく。

だが。滝糸に、その雷が届くことはなかった。刀身の中程で、ぴたりと止まったのだ。

(…どういう絡繰だ?)

経験則からして、刀は雷を通すはずだ。それなのに、途中で止まった。考えうるのは、特殊な材料が使われているか、それとも刀の術式か。

だとすれば、と鹿紫雲は滝糸を見る。術式は、「刀を自在に出す」類のものか…!

「骨の髄まで刀匠なんだな」

「そりゃそうだろ」

鹿紫雲の打撃を捌いて、滝糸は破顔した。

「今のは、「雷」だね?呪力の特性って聞いてたが…「雷神」の由来が見れて光栄だよ」

「今からもっとデケェのを喰らわせてやろうか」

「そりゃありがたい。この子ーー天鼓(てんこ)も喜ぶよ」

天鼓はね、と唄うように言う。

「アンタの噂を聞いて造ったんだ。雷を吸い込み、己が力とする。本家と闘れるなんて、刀匠冥利につきるよ!」

 

(「造った」、か)

無尽蔵に見える刀も、自作のものに限るのか。…いや、あえて滝糸が紛れ込ませた嘘の可能性もある。

「ちゃっかり術式の開示を済ませたことといい、なかなかやるな。呪詛師まがいの駆け引きまでこなすとは」

そう言えば、滝糸は不快そうに整った顔を歪める。

「アタシは刀匠だよ。呪詛師なんぞと一緒にするな」

「だから爪が甘いわけだ」

 

ビリ、と鹿紫雲の指先が小さく光る。それに呼応して、天鼓の刀身も雷を帯びた。

(あの刀に触れた時、必要以上に呪力(雷)が吸い込まれる感覚があった)

そして、先ほどの滝糸の発言。鹿紫雲の呪力は、雷と同等の性質を持つ。つまり今、天鼓に蓄えられているのはーー分離されたプラスの電荷!

 

空気を、雷鳴が切り裂いた。

 

鹿紫雲の指から、剣先まで。まっすぐに奔った稲妻は、天鼓の刃を粉々に砕いた。

「なっ…天鼓!?」

「やっぱりな。吸収できる雷には限界があんだろ」

雷を吸う性質の余波か、滝糸自身には雷が届いていない。だが、同じような刀が何本もあるとは考えづらい。

 

ーー天敵となる天鼓を破壊した時点で、鹿紫雲は勝ちを確信した

 

「…舐めんじゃ、ねえ」

衝撃波を伴った刀が飛んでくる。それを片手間に叩き折り、鹿紫雲は滝糸に肉薄した。

「アタシは、天下の刀匠!呪術師如きに遅れを取っちゃあ、名折れにも程がある!」

その一瞬で、滝糸の準備は整っている。

 

ーーはずだった。

 

大槌を、力強く地面に叩きつける。カァン、と小屋を金属音が満たした。

「領ァ域展開!!」

 

世界が、切り替わった。ーー否、呑み込まれた。

 

そこに、上下は無かった。

金床で叩かれる鉄塊。炉に風を送り込むふいご。絶えず音を鳴らす槌。

それら全てが乱雑に取り囲む空間。まるでそれは、一つの工房のように。

 

「千刃己炉(せんじんきろ)」

 

瞬間、鹿紫雲は走り出す。展開とほぼ同時、術式の発動よりなお早く。

だが。滝糸の方が、速かった。

「ッツ!!」

鹿紫雲の体に、無数の切り傷が走る。先ほどまでは確かに存在すらしなかった刀が、彼を切り刻んでいた。

 

千刃己炉。その効果は、鍛刀におけるあらゆる工程の圧縮。故に滝糸は、領域内でのみ、刹那のうちに数百の刀を打ち上げる!

 

「気づいただろ!?アタシが造る刀は式神!必中の上、触れるまで存在しないんだよ!!」

滝糸が陶酔したように叫ぶ。

 

ここは言わば、いや文字通りーー刀匠の、領域である。

 

「ッチ!」

(彌虚葛籠はまだ安定しねえ、なら!!)

鹿紫雲に群がっていた刀が、一瞬にして弾き返される。

「…小細工を!」

 

御三家秘伝、落下の情。昔戦った経験が生きたな、と鹿紫雲は笑う。だが、刀の猛襲は続く。

このままでは、削り殺されるだけ。

 

それならば、攻めあるのみ!

 

鹿紫雲は、地面を蹴った。滝糸までの距離は、およそ五間(六メートル)。呪術師にとっては、僅かな距離でしかない。

「無駄だって言ってんだろ!」

その行く末を、数多の刀が阻む。

 

鹿紫雲の呪力と、刀が幾多も触れ合う。弾かれ、裂かれ、削られ…。一瞬にも見えた攻防の末、跳ね飛ばされたのは鹿紫雲だった。

「痛ってぇな…」

当然、襲いかかる刀は全て呪具。しかも一振りごとに性質が違う。その効果は、着実に鹿紫雲の体を蝕んでいた。ぐらり、と視界が揺らめく。血の流しすぎか?違う。

 

「効くだろ?今アンタが喰らったのは餮蠱(てっこ)」

滝糸は愛おしげに刀の表面を撫でた。紫に輝く刃紋は、無数の蟲が這っているようだ。

「…毒、か」

「察しが良いね!」

流石だ、と歯を剥き出しにして言う。

 

鹿紫雲は、反転術式を身につけていない。そもそも、反転術式とて毒を完全に排出できるような代物でもない。

そしてここは、領域内だ。倒れ込んだ鹿紫雲に、再び刀が降り注ぐ。肩口を刃が貫通し、思わず鹿紫雲は顔を顰めた。視界を、山ほどの刀剣が埋め尽くす。

 

「アンタの負けよ」

いつのまにか、刀の嵐は止んでいた。さて、と滝糸が手を振れば、一振りの刀が現れる。自身の愛刀であるそれを握って、恍惚と鹿紫雲に近づいていく。

「さぁて、一体どんな切り心地なのか…」

 

「お前、ゲホ、学習能力ねぇのか…?」

血反吐を吐いて、鹿紫雲がゆっくりと起き上がる。

「は?」

「さっきやられたことを一瞬で忘れちまうとはな」

 

滝糸が警戒するように後ろに下がる。ガシャン、と積み上がった刀の山が鳴った。

(…刀の、山?)

そうだ、これらは全て鹿紫雲に跳ね返されたもの。破壊されずに、残ったもの。

「まさか」

 

鹿紫雲は、落下の情で必中効果を凌いでいた。そして落下の情とは、己の呪力を放出することで、触れたものを反射で弾く技。つまり、弾かれたものにはーー相手の呪力が、押し付けられる。

「…貴様ァ!」

滝糸は咆哮して、一直線に鹿紫雲に刀を向かわせる。

 

もう遅い、と彼は笑った。

 

再び、大気を雷鳴が震わせた。

 

滝糸の周囲の刀から、帰還電撃により、一斉に稲妻が発生する。それは、中心にいた滝糸を捉えて。幾重もの雷霆が、彼女の体を呑み込んだ。

 

築き上げられた工房が、打ち砕かれる。

 

 

静寂だった。元の現実に戻った鹿紫雲は、その静けさに暫し身を任せた。あちこちで血を滴らせる傷口に布を巻き、とりあえず処置をする。そうして、奥で倒れ込む滝糸にゆったりと近づいた。

 

「…完、敗か」

黒焦げの滝糸は、どこか寂しそうに笑った。

「餮蠱と、天鼓はね…対になる、刀。アタシの最高傑作だった」

それがこうもあっさりと、叩き折られた。

「もういい。アタシの刃は、アンタに到底届かなかった」

そうだな、と鹿紫雲は滝糸を見た。

「お前は結局中途半端だったんだよ。刀匠を名乗っておきながら、呪詛師まがいのことをやる。人斬りが好きなのは勝手だが、それで刀も鈍っちゃ世話ねえよ」

 

滝糸の領域は、圧倒的物量で押し潰すものだった。だが餮蠱を除けば、一振りごとの冴えは、鹿紫雲が期待したほどではなかったのだ。

 

本来、滝糸は一振りに魂を込めるような職人だったはずだ。それがいつしか量に傾き、己を見失ったのだろう。

 

滝糸は、自嘲するように口角を上げた。

「悔しいけど、アタシは負けた。反論の、しようもない」

殺しなよ、と半ば自棄になって言う。それに、鹿紫雲は首を傾げた。

「殺さねえよ」

「この後に至って、慈悲は要らない」

「いや違ぇよ。武器を造らせに来たのに、何で殺さなきゃなんねえんだ」

「…そういえば、そういう約束だったね」

 

ふ、と滝糸が笑う。

「自分を殺しかけたヤツに、武器なんか頼む?」

「どうだって良いだろ。良いものを造ってくれるならな」

それに、と目を細める。

「お前は、刀に嘘はつかねえだろ」

 

今度こそ、滝糸は大口を開けて哄笑した。

「アンタやっぱりおかしいね!良いよ。餮蠱と天鼓を遥かに凌ぐようなモンを造ってあげる」

満身創痍で、滝糸は起き上がり、鹿紫雲に言った。

「アンタにぴったりのモンをね」

 

 

数ヶ月後、鹿紫雲は再び滝糸の工房を訪れた。しかし、滝糸に差し出されたのは、予想の斜め上をいくものーー六尺棒であった。唐紅に塗装までされたそれに、鹿紫雲は困惑をもって瞬きした。

「なんだこれは」

「これとは失礼だな、アタシが丹精込めたんだよ?」

滝糸は恭しく六尺棒に触れる。

「どんな衝撃にも耐えうる硬さ。変幻自在な動きにも応えるしなやかさ」

そして、雷神の名を冠する男に、相応しい要素を。

「術式は刻まれてないけど、例え大木を両断するような雷でも、傷一つつかないよ」

 

へえ、と鹿紫雲は喉を鳴らして笑った。

「そりゃあ、俺にぴったりだな」

でしょう、と得意げに滝糸は胸を張る。

「号はアンタがつけな。武器ってのはね、確かに作り手の意図が映される。でも、活かすも殺すも、結局は使い手次第」

ちゃんと使いこなしてやんなよ、と滝糸は朗らかに言ったのだった。

 

 

「棒術、ねえ」

できないことはない。が、てっきり刀を渡されるものだと思っていた。しかし、初めて握った六尺棒は、なぜだか手にしっくりきた。

「アイツの目に狂いはなかったってことか」

流石だな、と呟く。

 

「ーー如意、だな」

脳裏に、その言葉が閃いた。単純といえば単純だが、これ以上に相応しい名はあるまい。よろしくな、と口の端を上げた。

 

空は快晴。

次はどの戦に出ようか。

如意を担ぎ、鹿紫雲は足取り軽く歩き出した。

 

これは、錦と鹿紫雲が運命的な出会いを果たす、ほんの数年前の物語。

 

 




まだまだリクエストは募集しているので、皆さんお気軽にどうぞ!あと、リクエストを基にしていても、出力するのはしらたまあんみつなので、どうしても解釈が違ってしまうことはありますが、ご了承ください。

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