前世に忘れてきました。何を?人道とやらを   作:しらたまあんみつ

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今回ちょっと長めです。
申し訳ございません、錦の術式について大幅に変更いたしました。前話も確認してみてください。


正義か悪か、なんて

 

 

呪術師には色素異常が多いのだろうか。

五条悟とか、三輪霞とか、我らが主人公虎杖悠仁とか。メタ的に言ってしまえば、キャラ作りに便利とかそういう理由なのだろうけど。多分、呪力が遺伝子やらに影響を及ぼしているんだろうな、と。転生してからはぼんやりとそう思っている。

 

なぜなら、かくいう錦もそうだから。髪は夕焼けのような赤色ー茜色というのだったかーだし、目なんてくすんだ鶯色だ。明らかに日本人のカラーリングではないのだが、風貌はいわゆる塩顔というものだし。

 

そんなどうでも良いことに思考を飛ばしているのは、今まさにその特徴的な色合いが注目されているからだろう。いや、注目というには好奇心の色が強すぎるような気もするが。

じろじろと、周囲からの不躾な視線に晒されながら錦はため息をついた。

 

 

修行を始めてから五年は経っただろうか。術式の拡張についてはかなりの自信がついてきた。呪力操作、体術なども上手く身についたのではないかと思う。

そこでふと思ったのだ。

(何というか、手詰まりだな)

正直、これ以上一人で研鑽を重ねても、現状維持にしかならないのでは、と。

 

悩みに悩んだ挙句、錦はある答えを出した。それは、一人でダメなら実戦経験を積めば良いというもの。幸い、と言っていいのかは分からないが、今は戦国時代。戦ならそこら辺に転がっている。

 

ということで、近場の戦場まで足を運んできたのだ。

 

 

(鬱陶しい…)

だが、この目線はどうにかならないものか。よく聞いてみれば、「女が戦に出るのか?」だの、「何だあの赤髪、目立ちたいにも程があるだろ」だのと、嘲笑の混じった話も聞こえてくる。

 

「おいおい嬢ちゃん、ここを何処だと思ってるんだ?」

いい加減フラストレーションが堪忍袋の半分くらいまで溜まってきた時、にやにやと薄笑いを浮かべた浪人が近づいてきた。

 

「…何か用か」

苛立ちを過分に含んだその声色に、浪人はピキッと青筋を立てる。

「随分とまあ、舐めてくれんじゃねぇの。ここはお前みたいのが来る場所じゃねぇんだよ。土下座して許しを乞うってのなら、今の生意気については水に流してやるけどな」

 

ハハ、と馬鹿にするようにーいや、実際見下しているであろう笑い。錦はムカつき具合がまた上がっていくのを感じながらも、努めて冷静に返す。

「…許し?そんなもの必要とは思えないな。むしろ逆じゃないか?今の発言と、さっきまでの侮蔑。その全てについて誠心誠意謝るってなら、無傷で返してやるけど」

「…あ゛?」

浪人のだみ声が、さらに低くなる。

 

「分かったよ、もうタダじゃ済まさねぇ!その口縫い付けて、女衒にでも売り飛ばしてやらあ!!」

 

怒号と共に抜かれた刃を見て、錦はふっと口角を上げた。

変圧呪法(変圧呪法) (らん)

 

ぽん、と。浪人の腕を、何でもないように叩く。その軽い動きに、場の緊張感が緩みかけた瞬間、

 

バン!!

 

破裂音とともに、浪人の腕が吹き飛んだ。びちゃりと、耳を塞ぎたくなるような湿った感触の肉片がばらばらに地面に落ちる。

「俺の腕…?何で、無くなって、」

それに一拍遅れて呆然と呟いた浪人に、肩を竦めながら冷たく言う。

「一度警告したはずだよ。それを無視したお前がこうなるのは当然の結果だろ?腕一本で済ませたことを有り難く思いな」

 

その声音に、シンと周りの足軽も口を閉ざした。否、喋れなかった。何処までも冷たく、そして不用意に触れば簡単に手を貫く氷柱に、自分から触れようとするほど馬鹿ではなかったから。

 

それに満足そうに表情を緩め、錦は足軽の溜まり場から去っていった。

 

 

 

 

 

(…やりすぎたかな)

かなり離れたところまで来て、錦はあちゃあと額に手を当てた。

やりすぎ、というか。ムカついたから腕を落とす、というのはあまりに乱暴な結論だったのではないか。

 

「仕方ないっちゃ、仕方ないんだけど」

はあ、と反省するように肩を落とす。

 

自分は元来、キレやすい性質なのだろう。転生してからはそこまででもなかったのだが、鹿紫雲に殺されかけてから血の気が多くなった気がする。それでも、普段ならここまで怒りはしなかったはずだ。

言い訳がましくはなるが、この状況がそうさせたのだと言いたくなった。

 

 

錦が来ていたのは、伊達家と蘆名家の戦いであった。1589年に起きたこの戦は後に摺上原の戦いと呼ばれることになるのだが、錦はそんなこと知る由もないし、知っていたとしても興味を持つほどミーハーではない。

 

ただ、伊達家が正面切って戦うということで、珍しく楽しみにしていたのだ。伊達家といえば、呪術師を公費で雇い戦力として惜しみなく使っている戦国大名。

では、その戦いは一体どれほどレベルが高いのだろうか。錦にとっては久々の復帰戦となる訳だし、高水準の戦いであればあるほど己の実力を試す絶好の機会にもなる。

 

それがどうだ、蓋を開けてみれば。

伊達家の陣地についても、めぼしい人材は全くと言っていいほどいない。色んな待機場所を巡ってみたが、いくら探せど雑魚ばかり。

その上、人の容姿ばかりに気を取られて。挙げ句の果てに、実力差も分からず喧嘩を売ってくるとは!

 

まあ、そういうわけで。溜まりに溜まっていたものが噴出した結果、横暴なことをやらかしてしまったのだ。

 

「やっぱアレかなあ、私も悪いのかな。煽るようなこと言っちゃったし」

半分自己嫌悪に首を突っ込み始めたところで、いやいやと首を振る。

 

これがもし戦場であれば、自分は躊躇なくあの浪人を殺していただろう。妙に罪悪感を覚えるのは、よくある言い争いで武士生命を断ち切ってしまったこと。

だがしかし、そこで錦が申し訳なく思う理由はあるのだろうか?

そう、本物の殺し合いなら浪人は死んでいた。そうなることを想定せず、相手を選ぶこともせずにガンを飛ばしたアイツが悪い。

 

そんな結論に辿り着いた錦は、一人うんうんと頷いた。

(アイツが弱いのが悪い。強かったら「藍」をくらう訳ないしね)

 

「藍」は修行期間で身につけた技だ。ご大層に技名までつけたが、触れたものの圧力を突発的に変えているだけ。つまり、「変圧呪法」の基本効果を強化し高速にした、ただそれだけのものである。

 

先ほど腕を落としたのは、血管内の圧力を瞬発的に引き上げその衝撃で体内組織を破裂させた、という原理である。

 

ぶっちゃけ強者なら触れられる前に躱すだろうし、「藍」は呪力などで抵抗されると効かないから触れても無駄だったろうが。その事実が、軽く腕を持っていかれた浪人の程を示している。

 

 

「あーあ、最悪。もっと強いやついると思ってたのに」

戦う前から出鼻を挫かれた気がして、錦は風船から抜けていく空気のように息を吐いた。まあ、実際に殺し合いになれば、強者と呼べるような人物もいるだろう。

下がり切った気分を無理やり上げるように、錦は自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

「…マジさ。何でこう、期待を悉く裏切ってくるのかな」

積み上げられた死体の山の上で、錦はぽりぽりと首の後ろを掻いた。

雑に縫われた白い小袖には、一滴の血も散っていない。そう、殺した相手の血飛沫を避ける余裕すらあったのだ。

 

一体何であろうか、この何ともいえない気だるさは。まるで、誕生日に立派な包装紙のプレゼントを渡され、喜び勇んで開けたら安っぽいオモチャだった時のような。

期待外れ、とはまた違う。やっぱり、と何処か納得している自分もいる。合戦前のあの体たらくを見れば、この結末は予想できることだったろう、と。

 

ああ、でも。

(虚しい、かな)

渦巻く感情にそう結論づけ、錦は死体の山から飛び降りた。

 

ひい、と生き残りの足軽たちが短く悲鳴を上げた。それを聞き流し、一番近くにいた足軽に目を向けた。

 

「なあ、ちょっと聞きたいことあるんだけど」

カクカクと頷いた足軽に言葉を続ける。

「ここにさ、もっと強いやついないの?伊達でも蘆名でも良いからさ」

「つ、強いやつ…」

「そーそー。噂で聞いたとかでも全然良いよ。とりあえず知ってるやついる?」

 

聞いてみたが、何故か足軽は口をパクパクと動かすだけで返答しない。その口からは、あの、ええと、と意味のない言葉が連なっているが、生憎そんなことに興味はない。

 

「ま、知らないならいいよ。他のやつに聞く」

そう言い捨て、さっさとその場を去ろうとした時、足軽が突然大声を上げた。

「いえ!!知っています、強いやつ!」

「…へえ。何処にいるか分かる?」

「は、はい!!」

 

 

一通り情報を引き出し、錦はやっと能面のような無表情を投げ捨てた。

(いやしかし、助かったな。このまま不完全消化で帰るわけには行かないしね)

 

そうして、腰が抜けたのか座り込む足軽に、銭が入った袋を投げる。

「あんがとね、それお礼。大した額じゃないけど使ってよ」

 

 

 

 

 

ここか、と錦は足を止めた。足軽が言っていた、「強い奴」の配属場所。

 

そこは、一見何の変哲もない村だった。家とも呼べないような掘立小屋が立ち並び、畑が延々と続いている。

だが、そこに漂う雰囲気はどうだ?雨の日に湿気がべたべたと纏わりついてくるような。不快感をもたらし、なおかつ薄気味悪さがじんわりと同居している。

(これは呪力の気配かな。術者が居場所を隠すためにわざとこうしている?)

これは期待できそうだ、と錦は村に足を踏み入れた。

 

 

呪力はできる限り抑えた方が良い。それは、戦場で錦が最初に学んだことだった。

呪術師は、垂れ流される呪力を追う。

それはつまり、呪力を抑えることもできない弱者だと声を声を大にして言っているようなものだから。

いつだって、強者に蹂躙される弱者を見てきた。

だからこそ、自分はああはなるまいと。狩る側になっても、狩られる側になることは避けようと。

呪力の気配を無くすのは、錦のような子供にとって、命を守るたった一つの術だったのだ。

 

 

そして、今自分のように、気配を押し殺しているのは。同類に違いないのではないか?その癖が抜けないほど、戦場を渡り歩いてきた、本物の強者なのではないか?

 

目を閉じれば、そこにはかつて焼かれた雷が轟いている。もちろん、彼ほどには強くないだろうけど。

それでも、錦の虚しさを、少しでも埋めてくれるというのならば。

 

ああ、それはなんて嬉しいことなのだろう!

 

(なんて、思うのは柄じゃないかな)

思わず浮き立ってしまう足に苦笑し、人っ子一人いない村を歩く。戦で離れてしまったのだろうか、ならそれは申し訳ないなと、いつもは絶対に思わないようなことでさえ頭をよぎった。

 

 

がさり、と。

真後ろの茂みが、微かに揺れた気がした。その揺れが終わるより早く身を翻し、茂みに向かって拳を突き出す。

ぐちゃ、と手に残った感触に眉を顰めつつ、拳の中を見れば。

「げ、最悪。何の虫だよ、これ」

 

原型をほとんど留めていない虫のようなものがある。ばっちいと振り払おうとするも、中々取れない。そうこうしているうちに、虫の残骸はザフッと特徴的な反応で消えていった。

 

「成程ね。式神の類、といったところかな」

 

村全体に蟲の式神を配置しておき、呪力の気配を分散させる。本体の居場所も悟られず、侵入者の監視や攻撃も可能、というわけだ。

 

(一石二鳥、か。足軽から聞いた話とも合致する)

 

土蜘蛛(つちぐも)

あの足軽が震えながら言った言葉だ。

何処からともなくカサカサと蜘蛛が這う音が聞こえてきて、気づけば皆死んでいる。

というのが専らの評判で、その特性ゆえか近づきたがる人間もおらず、術式などについては一切知られていないという。

 

 

だが、今潰した蟲を見るに、式神は「蜘蛛」の形態を取っているのだろう。噂ってのも案外役に立つもんだな、と何もなくなった掌を見つめる。

 

結局、本体は何処にいるのだろうか。「蜘蛛」を一匹ずつ潰せば自ずと出てくるだろうが、正直面倒だし極力やりたくない。

 

(「蜘蛛」の分布でも見れば良いのか?)

どれだけ分散させていようが、本体の場所を中心として式神は配置されているだろう。いざという時、本体を守れるように。

 

けれども。

一帯に意識を集中させた時、上手いなと素直に錦は感嘆した。見事に、バラバラ。中心なんてものは存在せず、子供が適当にパズルをばら撒いたような。

だが、「蜘蛛」の統率を取れるようにだろうか、それぞれの「蜘蛛」の位置は一定間隔を保っている。

どんな人間が来ようと、あくまで本体の生存を最優先に。そんな目的が見て取れる。

 

しかし、これでは戦闘にならない。その前に逃げられるのがオチだ。せっかく足を運んだのに、それでは意味がない。

「…ここは勘にでも頼ろ」

 

 

 

 

 

(まさか、適当にぶらついたら本体に当たるとは)

今日の私はついているのかもしれない、と錦は独りごちた。それは、クジがたまたま当たった時のような表情だったが、目の前の光景とはひどく乖離していた。

 

惨状。一言で表すのなら、そうであろう。

湯気を上げる腸が、くり抜かれた眼球が、切り落とされた手首が。

あちこちに転がっており、とても足の踏み場など存在しない。いや、この中に進んで入ろうとする人間がいるならば、それは余程の変態か、もしくはただの狂人だ。

 

(つまり、これを平然と眺めている私も狂人に分類されるのか?)

それは困ったなあ、と困っていないような仕草で腕を組む。

 

恐らく、常人ならばこの血の匂いにすぐ気づいただろう。だが、錦が反応できなかったのは。何も、「蜘蛛」や本体に見つからないよう集中していただけではない。

単純なことだ。蔓延する生臭い血の香りを、不自然なものだとすら思っていなかっただけ。

そうなってしまうほど、殺しが身近にあった。ただ、それだけだ。

 

 

「や、やめてください!」

女の、絹を裂くような悲鳴に。錦は意識をそちらに向けた。

「何で、何の恨みがあってこんなこと…」

「恨み?ククッ、そんなものありはしねぇよ。ただ俺が殺りたかったから殺る、それだけだからな!!」

 

ああ、そういうことか。

惨状の中心で、子供らしきものを抱える女を今まさに殺そうとしている男を見て、錦は頭の中で豆電球がパッと光ったような気がした。いや、この時代だと「行燈に火が灯ったような」というべきか?

 

ともかく、男の方が土蜘蛛だろうな、と錦は当たりをつけた。ここまで近づいておいて、気づかないなんてことはないだろう。現に、家の影に隠れているはずの錦の周りに「蜘蛛」が集まってきている。

 

(多分、村人を惨殺したのは土蜘蛛かな。んで、あの女と子供が最後の獲物ってわけだ)

 

臆病なんだろうな、と錦は思う。今までの「蜘蛛」の動向、自分より遥かに弱いものを痛ぶる姿に。

足軽の情報から察するに、強い敵との戦闘を避けて、上手く戦国を渡り歩いてきたのか。

 

そこまで考えたところで、錦ははっと顔を上げた。

(ああ、何だ。何処までも私と同じじゃあないか)

 

正確には、「昔の自分」と。

では、土蜘蛛は偽物ではないのか?少なくとも、錦が求めるものとは似ても似つかないはずだ。

「かつての自分」と重なるのは当然だ、なぜなら同じように「偽物」でしかないから。

 

それでも、錦は。土蜘蛛が「本物」であることを期待したのだ。鹿紫雲と同じ、紛れもない強者であることを。

だが、実際はどうだ?

土蜘蛛は偽物、だろう。ほぼ勘だが、肌で感じたことだ。間違いない。ーでは、戦う意味はあるのか?

 

 

「じゃあな、テメェらのことは多分忘れるだろうが。まあ、夜までは覚えておいてやるよ」

自分に酔いしれているような土蜘蛛の声に、考えることを中断する。

 

(そうだ、戦う意味なんてなくて良い。少なくとも、アイツが強いってことは確定しているんだ。私は、自分の実力を試すためにここに来たんだろう?)

 

土蜘蛛が刀を抜いた。女はそれに怯えたようにぎゅっと子供を抱きしめてーすっ、とその手を離した。両手を広げて土蜘蛛の前に立つ。

 

「…この子は、殺させない。殺したいというのなら、まず私を殺してみなさい!」

決死の覚悟がこもった言葉を、土蜘蛛は鼻で笑った。

「随分肝の座った女だな。いいぜ、お望み通りにしてやるよ」

 

そうして、より恐怖を味わさせるためか、ゆっくりと刀が振り下ろされる。それにも怖がらず、むしろ一層腕に力を込めた女を、錦は呆然と見た。

 

(馬鹿か、何やってんだ。どうせ二人とも殺される。そんなことしたって無駄だろ!)

そう、確かに思ったはずなのに。

 

 

「…あ?」

「…え?」

気づけば、錦は土蜘蛛の刀と女の間に割り込んでいた。素早く女と子供を抱えて、土蜘蛛から距離を取る。

 

「何者だテメェ」

「何者だろうな。自分でもよく分かっていないんだ」

警戒が乗せられた言葉に適当に返しつつ、唇をきつく噛む。

 

(クソ、何でこんなことになってんだ!何で、体が勝手に動いた!)

そのまま見殺しにすれば良かったのに。女と子供、それも非術師を助けたところで一体何になる?

 

錦はどさりと母子を地面に落とし、短く告げた。

「とっとと逃げろ。後はどうなろうが、私は責任取らないから」

「あ、ありがとうございます!」

 

呆気に取られ、何が起きたのか分かっていないようだったが、女は錦の言葉に弾かれたように子供を連れて逃げていった。

 

「おいおい、俺の獲物を勝手に逃してんじゃねぇよ」

土蜘蛛の眼光がギラリと光る。

 

怒っているなぁ、と錦はもはや能天気に考えた。色々なことが頭の中でぶくぶくと湧き出て、考えがまとまるどころではない。

 

「…あー、その、悪かったな」

「ふざけてんのかテメェ!!」

 

こっちがどれだけ準備したと思ってんだ、と土蜘蛛が吠える。それと同時に、土蜘蛛の呪力が練られるのを感じて、錦はバッと構える。

 

(まあ、良いや。戦えるなら、何でも)

 

向けられた殺気に、背筋に心地の良い緊張が走る。実に久方ぶりのその感覚に、錦は自然に口角を上げた。

 

「かかってきなよ、蜘蛛野郎。ぶっ飛ばしてやるからさ」

 

 

 

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