前世に忘れてきました。何を?人道とやらを 作:しらたまあんみつ
もっと…いっぱいもらえたら嬉しいなあ…(あからさまな感想乞い)
さて、モチベが湧いてきたところで。零落ーもとい、奴の領域をどう攻略するか。
まず、既出の情報を整理しよう。
一、領域内では零落の命令に従わなければならない。
二、一に反すると死というペナルティが与えられる。
三、原理は不明だが零落は鎧人形を操ることができる。
(しかしまあ、なかなかに強力な領域だな)
襲いかかってきた足軽の横腹に蹴りをお見舞いしつつ、錦は苦笑した。
そう、強力すぎる。ならば、それ相応のデメリットもあるはずだ。
考えられることとしては、零落は領域のルールについて説明しなければならない。
領域を展開した時、奴は錦たちに実演してまで解説した。だが、命令に反したものを殺すなら、そのことを伝える意味はあるか?「死」を回避するために錦たちが命令に従っては、結局手出しができなくなってしまう。
要は、零落が語ったルールは正確だってことだ。そうでなければ、縛りとして成り立たないからな。
(何か、何かないか。現状を打ち破れるような…)
そこまで考えて、錦ははっと膝を打った。もちろん、心の中でだが。
ー「儂の命令に反発したものは、例外なく死ぬ」
そう言った時、零落は自身を「将」に、錦たちを「兵」と言い換えていた。それは、恐らく「傀儡征野」の発動条件に必須なことだったから。
つまり、この情報は領域の根幹にも関わる重要なこと。
(発言的に、零落は自分を「将」に見立ててるって感じか。…いや、「将」と「兵」の主従 関係を押し付けている、の方が正しいかな?)
ということは。
「傀儡征野」はその主従関係をどうにかすれば、攻略できる可能性がある。
ヒョウ、と鎧人形が放った矢を避ける。頬を掠ったそれに、あっぶねと呟いた。思考に集中し過ぎた、というべきだろうな。
「にしても多すぎない、これ」
目の前に立ち塞がった鎧人形の群れに、思わずため息をついた。数で押してくる奴とは戦い飽きたんだ、とぼやいた錦に、容赦なく刃が降りかかる。
咄嗟に身を屈めると、ちょうど首があった位置に一斉に刀が突き立てられた。
「変圧呪法 銀鼠」
呟けば、鎧人形の手から刀が叩き落とされる。ガチャガチャと音を立てて拾おうとするその隙を錦が見逃すはずもなく。そのうちの一体に向けて、思い切り蹴りを繰り出した。
ガン!!、とかなりの音と共に吹っ飛んでいったそれは、周りの鎧人形をも巻き込んで派手に倒れた。そのまま動かない様子を見て、パンパンと手から土を払う。
(やっぱり弱いなコイツら。マニュアル操作じゃなくて、決められたプログラムをこなしてる、みたいな)
「傀儡征野」は主従関係の押し付けに主眼を置いており、あくまで鎧人形はオマケということか。
あとは、零落にどこまでの命令が許されているか。
例えば、零落が「自死しろ」と言ったとして。それに従う義務はあるのか、ということだ。従わなければいけないのなら、それはほぼ詰みを現しているだろう。文字通り生殺与奪の権を握られているのと同義なのだから。
だが、零落は未だそんな命令を下していない。これは、裏を返せば「そこまで強い命令は出せない」、ということになる。あくまで主従関係は常識的な運用にとどまるようだ。…殺し合いの強制が「常識的」かは知らんが。
(ま、そこを考えてもキリないか)
重要なのは、「傀儡征野」が想定している主従関係がどこまで現実に沿ったものか、ということ。
「頭で考えても意味ないし、とりあえず試すとしますかね」
そう、錦は挑戦的に笑って。ドン、と地面を力の限り蹴った。
そうして、一気に零落に肉薄する。周りには鎧人形が控えているが、その強度はタカが知れている。
「変圧呪法 友禅」
パンパンパン、と散弾のように空気が弾けた。怯んだように下がる鎧人形どもを無視して、零落めがけて拳を放つ。
「は?」
ーだがそれは、零落に届く前に勢いを失った。
正確には、当たる直前に、見えない壁に弾かれたような。予想し得なかった現象に、錦の思考が数秒停止する。たかが一瞬、されど一瞬。鎧人形の拳が錦の鳩尾に炸裂した。
走った鈍い衝撃にカハ、と肺から空気が強制的に叩き出される。そのまま数メートルほどすっ飛んだが、錦は綺麗に受け身を取った。
(さて、今のは何やら)
パチパチ、と。まるで出来の悪い子供を褒めるように、零落はわざとらしく手を打った。
「惜しかったのう。だが無駄じゃ、将たる儂に単なる一兵卒が傷をつけるなど許されんじゃろ?」
「知らないの、今のご時世下克上っつう概念もあるんだよ」
零落への攻撃不可もあるのか!ただ、今の一連の流れで零落が直接攻撃して来なかったことが気になる。流石に零落側にも、「兵」への行き過ぎた攻撃の禁止とかがあるのか?
(じゃないと本っ当に不平等だよなぁ)
領域なんて大概がそんなものだと言われればそうなのだが。単なる必中のみがメジャーだった時代にも領域対策が必要な理由がよく分かる。
「だが儂を祓うのを最適解と看做したその気概は認めよう」
「そりゃどーも」
別に嬉しくもないけどな、と毒づいた錦に、零落はその深い眼窩を向けた。
「だからこそ、「儂に許可なく近づくな」。この命令は後付け故、貴様に「死」は与えられない。代わりに少しの間、その場から動けなくなる。ちなみに無理に動こうとすれば死ぬぞ」
(…まずい!つーかアリかよそんなん!)
命令の後付けとは、無茶苦茶にも程があるだろ!!
命令と同時に、ワラワラと鎧人形が集まってきたのを見て唇を噛み締める。いくら雑魚どもとはいえ、動けない状態を強制された上で襲われるのは分が悪すぎる…!
「取ったりー!!!」
その時。零落の背後から、一人の術師が吠えた。
手にはドスが握られており、それを零落に刺そうとしてー
「ッチ
ーその前に、白目を剥いて倒れた。
「は…?」
「零落に許可なく近づくな」という命令は、錦だけに科されたもの。なぜ、あの術師にペナルティが?
ー零落の命令に反発したものは死ぬ
ー「将」と「兵」の主従関係の強制
ー「将」たる零落への攻撃禁止
(そういうことか!)
次々に、考えが浮かんでは消えていく。その泡が全て消えた時、錦は「傀儡征野」のルールを理解した。
ずっと引っかかっていたことがあった。
「傀儡征野」を発動するのに必要な条件は、多分「ルールのある程度の説明」と「零落からの攻撃も禁止」。しかし、その程度のデメリットで、「相手の動きの強制」と「それに反したものへの死」などというメリットに釣り合うのか?と。
そうして今、腑に落ちた。
単純な話、「零落に近づくな」は、錦のみに科された命令ではなかったのだ。…いや、錦のみに対象を絞れなかった、というべきか。
そう、「傀儡征野」には個人に命令を下すことはできない、という見えないデメリットが存在していた。
「将」と「兵」の概念は、現実世界のそれと同じものだ。そして、「将」とは一定以上の兵団を率いるものの称号。寡兵であれば、「伍長」などの肩書きはあれど、「将」とは認められない。
恐らく、零落は錦たちを「兵」という一つの塊で認識している。だからこそ、一人ずつ別個の命令を科すことは不可能。主従関係を押し付けるには、それ相応の「兵」ーつまり、領域に入れる人数が必要、ということだ。
結論、零落が「兵」として認識できなくなるくらい、この領域内の人間を減らせば良い。
「はは、案外簡単だね。皆殺しにすりゃ良いんだから」
そう、錦は何故だか腹を抱えて笑いたい気分になった。
きょろり、と周りを見渡せば、五十人近くいた人間はもう十数人程度まで減っている。それにまた、可笑しくもない笑いが込み上げてくる。
ああ、そんなに少ないのならば。殺すのもまた、容易である。
今生き残っているのは、積極的に人を殺そうとしなかった連中か、逃げ回っていただけの連中、そして鹿紫雲。前者二つに、一体何の価値がある?少なくとも、生かしておくメリットなど存在しない。
「ああうん、じゃあ良いか」
ー殺そ
トン、トンと片足を地面に当ててリズムを取る。ふう、と浅く息を吸った。
「一人目」
最も近かった足軽に触れる。直後、触れた箇所からかかった凄まじい圧力によって、その体が弾けた。
「二人目」
一人目の死を呆然と見ていた鉄砲持ちの首に手刀を入れる。呪力で強化されたそれは、いとも容易く首を断ち切った。ビシャ、と吹き出した血が頬にかかる。
「三、四と五」
体勢を低くし、相手の膝に蹴りを入れた。簡単に崩れた体を引っ掴み、思い切り振り回す。それに巻き込まれた数人が倒れるのを確認し、「銀鼠」を発動。最大出力で放たれた空気圧は、呆気なく人間の体を押しつぶした。
「待て待て待て、ちょっと止まれ!!」
次、と視線を向けたところで。焦ったような声が思考外から聞こえた。
「何か?」
「いや、何かではなく。お主、正気か?何故わざわざ人数を減らすのだ。たださえもう十人ほどもいないのだぞ」
知らない顔だ、と錦は判断した。一応術師ではあるが、それだけだ。
「それの何が悪い?」
「…協力しよう、という話だ。拙者たち全員で立ち向かえば、あやつ一人、何とかなろう。それに集まった方が良い策も」
「へえすごいね。私にもあるけど、策。で、なんか思いついたわけ?」
そう、錦の心底どうでも良さそうな声に、侍崩れのような術師は口ごもった。
「それは、今から考え、」
「話にならない」
バキ!!
侍崩れの顔面に、正拳が叩き込まれた。地面を転がっていった侍崩れには目もくれず、残りの人間に目を向ける。
「策だのなんだの言うなら、最初に言えよ。ちなみに私の策はお前ら殺すこと」
「…手前、イカれてんのか!?」
恐怖の混じった声で怒鳴られ、錦は軽く耳を塞いだ。
「うるさい、耳障りだからあんま叫ぶな」
「俺たちを皆殺しにしても、結局お前も零落に殺されんだぞ!だから、」
「無駄だって言いたいの?」
一瞬の内に肉薄し、ちょうど相手の心臓がある箇所に触れる。ひぃ、と引き攣った悲鳴が響き渡る前に、グシャリと嫌な音がした。
(うん、内部破裂もいい感じ。こっちの方が血が出ないから良いね)
「やっぱ一人ずつ殺んの効率悪いな」
面倒くさそうにため息をつき、僅かな生き残りたちに人差し指を向けた。
「友禅」
パァン、と乾いた破裂音。その直後、生き残りたちの胸に拳大の風穴が空いた。空気の圧縮率をその都度変更することで、「友禅」はある程度威力を調整できる。体ごと爆散させることもできたが、わざわざ手札を晒す意味はないだろう。
倒れた死体には目も向けず、錦は領域の中を改めて見回した。
(やっぱこれ、戦場をモチーフにしてんのかな)
鼻を摘みたくなるような腐臭に、漂う硝煙の香り。よく見れば地面には骨が点在している。そうして、ばら撒かれた赤黒い血液。自身の手で撒き散らしたものだが、それにしては量が多い。
「ま、戦場にしちゃ立ってる人間が少ないか」
領域の中心で、床几に悠々と座っている零落に焦点を合わせる。その表情がもう笑っていないことを見て、口角を歪に釣り上げた。
「おい、余裕がなくなっちゃってんなぁ。知ってっか、「将」ってのは確かに凄いが、その実手足となる「兵」がいなきゃ役立たずなんだ」
そうして、煽るようにクイッと掌で手招きした。
じっと、少女による虐殺を見ていた鹿紫雲は、口の中が苦くなるのを感じた。
(これが最適解、そのはずだろ)
鹿紫雲は領域を展開された時から、「傀儡征野」の規則を理解していた。零落を突破する糸口は、この場の大多数を殺すことであることも。
だから。少女が周りを手にかけた時、自分でも意外なほど驚いたのだ。少女が「傀儡征野」の穴に気づいたことも、それを実行できる実力があったことも。そして、雑な動きに見え隠れする才能も。
これは、もしかしたら。自分に並ぶほどの、逸材であるかもしれない!胸に芽生えた期待も、確かにあった。
けれども。無表情で、その手を血に染めていく少女を見て。ああ、なぜだか、虚しさが湧いてくるのだ。
何度も、何度も。それは見てきた光景だったはずだ。なのに、どうしてだろうか。
冷酷、なんて言葉が似合わないほど、作業のように人を殺す少女から。どうしても、目を逸らしたくなってしまう。
その衝動を抑えつけ、鹿紫雲は再度少女を見た。
(アイツを駆り立てたのは、俺なんだ)
それならば、最後まで見てやらねば。ここで目を逸らすほど、無責任になったつもりはない。
錦の挑発に、零落は僅かに眉を顰め、立ち上がった。
「儂の領域の規則の穴をついたとて、それが何だ?忘れてはおるまいな、領域とは術者の固有結界。領域が展開されておる限り、儂が絶対有利であることに変わりはない!!」
「絶対有利、ねぇ。今自分で言ったろ、それは「領域が展開されてる」時だけだ!」
咆哮とともに、錦は鎧人形を零落に向かって蹴り上げた。思わず、といったように避けた隙を見逃さず、急所の顎に掌底を喰らわせた。
バキ、と痛々しい音が鳴る。
「ッチ」
けれども、相手は呪霊。ダメージが入っていないことを確認し、錦は舌を打った。
脳天を貫くように上から降ってきた刀身を握りしめ、呪力を込めて叩き折る。その破片を零落の目に投げつけた。
ざく、と柔らかく目玉が抉れるが、それも瞬時に回復する。
(馬鹿が!そのまま治し続けてりゃ、いずれ呪力も尽きる。領域を維持できなくなるまで、攻め続ける!!)
「全く、まこと鬱陶しい小娘よ。どれ、儂が相手をしようかの」
直後、凄まじい速度で強打が放たれた。
反射的に両腕をクロスさせガードしたが、それでも。錦はゴキ、という鈍い音を聞き顔を顰める。
吹き飛んだ錦に、追撃と言わんばかりに腹部に衝撃が走った。ゴボ、と赤い液体が口から吐き出される。
流石に受け身を取れず、地面を数回ゴロゴロと転がった。
(…痛ってぇな!)
素早くダメージを確認する。
(両腕は…だめだこりゃ折れてんな。アバラも多分逝ってる。つーか内臓に刺さってそうだな)
腕に力が入らないこと、腹部が焼けるように痛いことはとりあえず無視して、錦はペッと口に残った血を吐き捨てた。
流石、領域を展開できるだけある、というべきか。呪力量も出力も錦を遥かに超えている。
「ま、だから何だっつう話だけど。手が使えなくても、武器なんざ山ほどあるんでね!!」
言うが早いか、再び弾丸のように錦は飛び出した。だが、鳩尾を狙った膝蹴りはあっさりと受け止められ、逆に両の眼に向かって目潰しが飛んできた。それを可能な限り首を後ろへ曲げてかわす。
「更紗!」
最早やけっぱちのように叫ぶ。同時に、零落の体が弾けーなかった。僅かに内部に圧力がかかっている程度、とても大ダメージとはいえない。
(くそ、呪力出力の差か!ふっざけんな、これでどう勝てって言うんだよ!!)
お返しと言わんばかりの掌底をバク転で避ける。
(さあ、どうする?)
体術は押し負ける、呪力は大分格下、術式は論外。ここは相手の領域内。
それなら、どうすれば良いか。簡単だ、単体でダメなら、組み合わせれば良い!
飛びかかってきた鎧人形の腕を引っ掴み、力の限り零落に投げた。
「何じゃ、お手上げか?」
余裕綽々、といった様子で鎧人形を片手で粉砕した零落。
(それはただの時間稼ぎだよ、バーカ!!)
三度目の突撃。命懸けの蹴りも、呆れたように零落にあしらわれるがー本命は、それではない。
「なっ」
すでに折ったはずの右腕に、とんでもない呪力が込められていることに零落は瞠目した。
(まさか、この蹴りは陽動!?…いや、あの腕では大した攻撃は出来まい、攻撃直後の隙を狙う!今度こそ、貴様を木っ端微塵にしてやろう!)
すう、と錦は深く息を吸う。
別に、一年間戦ばっかりやってた訳じゃない。戦闘に身を置くことで、どれだけ自分が通用するか測っていたのだ。
その中で、幾多の実戦を経て生まれたのがこの技。近接でしか通用しない割に格上には使えない己の術式で、如何にして相手を倒すか。それだけに特化した、技。
拳が自壊するほどの圧力を込めて殴る。
ただそれだけだ。しかし、それは
「
錦の殴打が、零落を捉えた。
錦の脳内に今あるのは、「目の前の標的を仕留める」ことただ一つのみ。失敗した場合も、砕かれた腕の痛みも。余計な雑念など一切ありはしない。
そこから生ずる集中は、零落はおろか本人の想像をも超えている。研ぎ澄まされた全力、その先で散るのはー
黒閃!!!
ー黒い呪力の火花。
空間の歪みと共に掛かった圧力は、寸分違わず零落の
「グハアァア!!」
同時に、領域が崩壊する。
パラパラと、崩れた結界の欠片が溢れ落ちる中、錦は未だふらついている零落に笑いかけた。
「さあ、始めようか。第二ラウンドだ!!!」