前世に忘れてきました。何を?人道とやらを   作:しらたまあんみつ

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暗転

 

 

まずはそれぞれの役割を決めようと言う忍び(仮)の発案で、集められた術師たちが一堂に会している。円の形になってはいるが、その空気は重い。当然だ、彼らは普段敵同士であり、呪術師。形だけでも仲良しこよしなど、この船が沈んでもしないだろう。

 

 

ふと、山伏のように兜巾を頭に乗せ、錫杖を構えた老人が前に出た。

「ワシは亡峠(むとうげ)。神隠しを元にした術式を使う。信濃から来た。誰かを消し去りてえならワシに頼めや」

「なるほど、それなら呪具回収班が適任かもね」

 

魑魅はさらさらと手に持った紙に何かを書きつけた。それを見ていた忍び(仮)が首を傾げた。

「朝鮮に呪具なんかあるんか?そもそも、あっちの呪術は俺たちの知っとるものとどんだけの乖離があるんや?」

「良い質問だね。けれどもそれを説明するには少々時間がかかる。先に今出せる情報を聞いてしまった方が早いだろう。ちなみに君の名前と術式は?」

於土岐(おどき)。ヒダル神を元にした術式や。まあ簡単に言うたら、相手を急激な飢餓状態にできる。悪いけど詳しい条件は言えやん」

 

無造作に行われた自己紹介に、何人かの術師が顔を上げる。その目に探るような色を見つけ、錦は首を傾げた。

(そんなあからさまに反応するほど有名なのか?)

そこまで強そうな術式ではないが。

 

その一層緊張が強まった空間で、於土岐の肩を親しげに打った子供がいた。

「へえー、あんたが徳川も恐れたっていう、伊賀の御斎峠のヒダル憑きぃ?非術師の兵相手だったらぁ、百人力だねぇ」

「…その言葉遣いに背格好。もしや坊主は例の犬神筋(いぬがみすじ)かいな?」

 

於土岐は目を細めて子供を見やる。子供も、於土岐の目を真正面から見返した。

「悪いけどおっさん、犬神筋って悪口だからやめてよねぇ?あと、坊主じゃなくて忽那(くつな)っていう立派な名前があるからさー、それで呼んでよ」

 

なぜか笑いを含んだ口調に、於土岐の額に青筋が浮かぶ。

「坊主、やなかったなあ忽那。何舐め腐った口聞いとるの。幾ら名が売れとるとしても、先達には気ぃ使うのが常識やろ?」

 

 

パン!!!

ビリビリと、鼓膜を大きく振動させる音に思わず耳を覆った。それは術師連中も同じだったようで、ほとんどが耳を塞いでいる。余裕そうにしている数人も、顔に冷や汗が浮かんでいた。

 

「お前らさっきからごちゃごちゃとうるせえんだよ」

その音の発生源は、両の手を打ちつけた鹿紫雲だった。その危うく人を殺しそうな眼光に、忽那と於土岐はぐっと息を呑む。

「挨拶なんざどうでも良い。それよりとっとと朝鮮のことを聞いた方が早え。どうせこの場の全員の情報くらい、お前ならとっくに掴んでんだろ」

 

なあ、と話を振られた魑魅は腕を組んだ。

「でもさ、まずは親睦を深めるのは組織の基本だろ?全く、これだから一匹狼は…はいはい、分かったからそう睨まないでよ」

やれやれと言いたげに肩をすくめ、魑魅は話を続けた。

 

「知ってると思うけど、朝鮮には「巫俗(ムーソク)」という独自の民族信仰がある。「巫堂(ムーダン)」と呼ばれる巫女が歌や舞などによって、祭神に祈りを捧げる儀式が中心だ」

「歌や舞、か。確か一部の巫堂は呪力を得てるんだらず?その儀式の行程がそのまま術式となってる、てことか?」

考え込むように顎に手を当てた亡峠に、魑魅は頭を振って見せた。

 

「いいや、まず呪力という概念が相応しくない」

そしておもむろに懐から鈴のようなものを取り出し、その場の呪術師に掲げる。

 

 

(…何だ、あれは?)

全員が錦と同じ感想を持ったようで、不思議そうにその鈴を眺めている。

見た目はただの鈴なのだが、その纏うオーラは格別だ。呪力のような、それでいて何か違うもの。魑魅が鈴を振るたびに、シャランという涼しげな音とともに、光の残滓が見えるような。

 

 

「これは、例の巫堂が儀式に用いるものだ。分かるだろう、これには巫堂の力が込められている。私がさっき「呪具」と言ったのはこれのこと。もちろん厳密には呪具ではないが、それ以外に言いようがなくてね」

「じゃあ結局、巫堂の力ってなんなんや?呪力とちゃうとさっき手前は言うたし、現に俺から見てもそうや」

 

於土岐の言葉に、視線が一気に魑魅へと集中する。

 

「…()()、と仮に言おうか。呪力とは違い、負の感情を基にしているわけではないんだ。巫堂はその霊力を使って神霊との対話や降神、儀式を行う。けれども、呪力と似た点も多く散見されるんだ。例えば、少数の人間しか霊力を持たない、霊力を使い身体強化を行うこともできる、などね。術式に関しては未だ未知数だけれども」

「…な、なるほど。呪術の本場といえば、中華です。そこに近い高麗も、自然と呪力に似た体系を持っている、と…」

 

今まで聞いたことのない声に、錦がそちらを見れば、ずっと震えていた小太りの術師がいた。視線に気づいたのか、小太りがぺこりと頭を下げる。

 

「あ、僕は遙太(はるた)と申します…。柳生(やぎゅう)シン・陰流の師範代を務めさせていただいております」

 

(シン・陰流?)

確か原作でも簡易領域を独占していた流派だが、「柳生」とは何だ?派生のようなものだろうか。いずれにせよ、この場に呼ばれるくらいだ。相当の使い手だろうな。

錦はチラリと遙太と目を合わせる。と、ヒイと悲鳴を上げて逸れされた。

…そうは見えないが。

 

 

「そういうことだね。日ノ本は天元の結界が作用するため、呪霊が非常に発生しやすい。当然、呪術も発展してきた。だが、中華ではもう以前とは違い衰退しきってしまっている。その代わり、朝鮮では霊力が台頭しているんだ」

「だからこそ、ボクたちにお鉢が回ってきたってことー?」

 

忽那が首を傾げる。それに魑魅が頷いた。

コホン、と亡峠がわざとらしく咳払いをした。

「では、そろそろ本来の議題に戻ろか。先ほどお前は「呪具処理班」とワシに言うたけど、他にはどんな班分けを?」

「私としては、三つの班を想定している。巫堂を始末する術師対処班、強力な呪具を封印する呪具処理班、悪霊と呼ばれる呪霊のようなものを祓う呪霊処理班だ。もちろん、どの班も基本は武将の指示に従って動くこと」

 

 

(名目上は、あくまで太閤の言う通りにするってことか)

この面子を見渡せば、そんなつもりはないことなどすぐに分かるが。というか大人しく従うような呪術師がいるのか?

 

 

「はいはーい、うちゃ術師対処班か呪霊処理班がよかね。そのどっちかが一番うちに向いとろうし」

元気よく手を上げたのは、巫女服を纏った女性。錦は一瞬、溌剌とした笑みに呪術師であることを忘れそうになった。

(なんか現代のギャルみたい)

懐かしいな、渋谷とかによく居た感じの。一時期オタクに優しいギャルっていう概念が流行った気がする。

 

「うちん術式は、あらゆる怪我ば治しきるったい。結構使えるやろ?ま、死んだ人間は直しぇんっちゃけどねー」

ケラケラと軽快に、けれども笑い事ではない事実を伝えた巫女に錦はハッとした。

 

(そうだ、昔を懐かしんでる暇なんかない。コイツも、呪術師なんだから)

鹿紫雲以外、この場の全員が敵と言っても過言ではないのだ。気を引き締めなければ。

 

 

「おい」

その時、鹿紫雲に腕を引っ張られた。

「はい?何ですか?」

「話がある。ついてこい」

 

そう、船内へ足を進めた鹿紫雲を咎めるような声が引き止めた。

「どこへ行く気や。まだ終わっとらんやろう」

「俺は朝鮮の情報を得られたからそれで良い。お前らの話に興味はないんでな」

 

淡々と言い放ち、今度こそ鹿紫雲は錦を連れて船内へと消えていった。

「…なんやよあいつ、ほんっと無愛想な上に協力性があらへんな。あんな奴のことは無視して、俺らで決めように」

「うちも、希望は伝えたけんもう良かな。休みたかし。じゃああとはよろしゅうねー」

 

バイバイ、と緩く手を振って鹿紫雲に続いた巫女をポカンと見送り、於土岐は苛立たしげに甲板を蹴った。

「なんなんや、あの自由人どもは!」

 

 

 

 

 

 

「で、話って何ですか?」

船内に入ったきり、一言も喋らない鹿紫雲に痺れを切らした錦は話しかけた。それに鹿紫雲は逡巡するように小さく唸り、そうして口を開いた。

 

「お前、魑魅と知り合いか?」

「や、今日は初めてです」

「…そうか」

 

またもや会話が途切れ、鹿紫雲はぎこちなく壁の木目に目をやった。

「んで、それがどうかしたんですか?」

あまりにも珍しい動作に、少し驚きつつも続きを促す。

「アイツとは関わんな。話しかけない方が絶対に良いし、話しかけられても極力無視しろ」

(…具体的。魑魅ーいや、羂索に恨みでも?)

やっと話したかと思えば、早口での警告。珍しいことが続くな、と錦は瞬きした。

 

「お前が何でアイツの名を知っているかはこの際どうでも良い。だがな。アイツは疫病神みたいなもんだ。碌なことにならん」

「…向こうからの接触は?」

「逃げろ」

「そんな無茶な」

 

滅多に見せないような、本気でこちらを心配しているような言葉。

まあ原作の範囲だけでも羂索がやったことを考えれば妥当かもしれないが。いやむしろ甘いな。正直、何をやらかすか分からないただの爆弾だもんな。

 

「分かりました。気をつけときます」

「そうしろ」

鹿紫雲が大きく頷く。それに被せるように、不快感を伴う甲高い女の声がした。

 

「え、ばり仲良かろうもん」

驚いた、と言いたげに口を開けいていたのは先ほどの巫女。訛りから察するに九州の出身だろうか。

 

「…何か用か」

「んー、用ってほどんもんでもなかな。ただしゃ、君らん関係が気になって」

 

警戒を隠すこともしない鹿紫雲に、巫女は朗らかに笑った。

 

「ああ、まだ名乗っとらんかったね。うちゃ許斐(このみ)、筑前から来たと」

「お前の情報とか聞いてないんだよ。用ないなら帰れよ」

「そげんつれなかこと言いなしゃんなー」

 

そう、許斐は親しげに錦に腕を回した。強制的に肩を組まれ、錦は反射的に裏拳を叩きつけた。

「危なかねー、殺す気?」

だが、次の瞬間には許斐は消え、トンと離れた場所に着地している。

「ッチ、空気読めよ」

 

あからさまに舌打ちした錦に、許斐は呆れたように片手を頬に添えた。

「あんね、うちゃ別に喧嘩売りに来たわけやないとよ。そもそもあんたに用なんてないし。用があるんなそっちん方」

そう言って指差したのは、錦の隣で面倒臭そうに許斐を見ている鹿紫雲。

「俺はお前に興味の欠片もねえんだがな」

「あんたがそうでん、うちゃそん真逆。だってあんたは当代最強とも言わるー術師。あんたん情報ば欲しがる奴は山ほどいるんよ?」

 

バキ!!

笑顔で言った許斐のすぐそばの壁が、凄まじい速度でぶち抜かれた。パラ、と木片を払い、その下手人は温度の消えた目で許斐を見る。

 

「失せろ。鹿紫雲サンに害をなすってなら、今すぐここで殺してもいいんだ。私はお前が死んでも困らないしな」

「…仲間内で殺し合いなんてしたら、太閤ん面子が潰るーっちゃない?」

 

ぽたり、と許斐の額から汗が落ちた。

「知らないな。もう一度だけ言う、失せろ」

「しゃっきからずっと思いよったばってん、ちかっぱ鹿紫雲に入れ込んどーみたいね。ああ、もしかしてー」

 

薄ら笑いを浮かべて、許斐は小指を立てた。

「″()()″ってこと?」

 

直後、許斐の首筋に打撃が放たれた。寸分違わないそれは、しかし当たる直前でピタリと止まった。

 

「やめとけ、バカ。こういう安い挑発に乗ったら命が幾つあっても足んねえぞ」

錦の手首を掴み、鹿紫雲は彼女と目を合わせた。数秒の沈黙の後、唇を噛みつつ錦は手を下ろす。

「…すいません」

 

蚊の鳴くように呟き、踵を返して扉に手をかける。勢いのまま扉を蹴破るように開け、外へ踏み出す。ギィ、と軋んだ音を立てて扉が閉まる。その隙間から、殺気の孕んだ目で見る目が見えた気がして、許斐はブルリと体を震わせた。

 

そうして、慌てて鹿紫雲に媚びるような声をかけた。

「いやあ、ありがとうね。アンタが止めな死んどったばい。それにしたっちゃ、乱暴な子やね。術師とはいえ、女とは思えん…」

 

それを遮り、鹿紫雲は抑揚なく呟いた。

「二度はないと思えよ」

今度こそ、許斐は口を開くこともできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

術師連合が朝鮮に踏み入り、数ヶ月が経過した。けれども、未だ任務の類はない。理由は単純、呪術師は日ノ本の切り札であり、簡単には出せないーそれと、武将の自尊心、であろうか。ということで、呪術師の大半は暇を持て余していた。

 

そんな流れが変わったのは、ここ数日のこと。

 

「へえー、ここが平壌(ピョンヤン)かあ」

物珍しそうに忽那が辺りを見渡した。その横では、遙太がキョロキョロと落ち着きのない動きをしている。二人の後ろで苛々と錦は爪を噛んだ。

 

(物見遊山じゃないんだぞ…!)

まるで緊張というものが感じられない同行者に錦が苛立ちを募らせていると、やっと観光もどきは終わったらしく、二人は歩き始めた。それを追い、小走りになりながら錦も二人に並ぶ。

 

「で?呪霊の居場所は見当ついているのか?」

「それは、はい。被害者が出た地域を順番に見て回ろうと…」

遙太は小さく返す。隣で鼻歌をるんるんと歌っている忽那は無視し、錦は顎に手を当てた。

 

(確かに、手当たり次第探すよりはマシか…)

結構考えてるじゃん、と遙太に言おうとして、遙太がすでに自身から離れていることに気づく。

「そんなに怖いかよ」

呆れたような言葉は、少しだけ暗かった。

 

 

 

非術師の足軽部隊が軒並みやられたという報告を受けたのは少し前。それが呪霊による被害ということが判明し、呪霊処理班に命が下った。大規模に行動しては巫堂に気づかれる可能性があるため、他の班も同時に行動している。

 

 

「ここですね。殺された人数が最も多いです」

三人がたどり着いたのは、ぱっくりと開く深い淵だった。覗き込めばどこまでも暗い水底がこちらを見つめ返す。

「んー?あんまり気配はしないけどねぇ」

ぽちゃ、と忽那が水に手を浸すが何も起きない。

 

「とりあえず帳だけ下ろしてみる。それで反応があるかもしれないだろ」

錦は二本の指を揃えて構えた。

 

「闇より出て闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え」

とぷり、と。

上空から墨液を垂らしたように黒い結界が辺りを覆う。それに反応するように、水面が大きく波打った。

 

「なるほどー、確かにここにいるみたいだねぇ」

おおっと歓声を上げ、早速忽那が川に飛び込もうとする。それを制したのは遙太だ。

 

「やめておきなさい。相手が何の術式を持っているかも未知数です。例の霊力とやらも関係してくるかもしれませんし。まず僕が行きましょう」

「大丈夫〜?ビビってんじゃないの?」

 

揶揄うような忽那に、遙太はふっと笑った。

「それなら、こんな所まで来ていませんよ」

では、と遙太は飛沫を上げて水の中へと入っていった。

「ま、そりゃそうだけど」

退屈そうに忽那は地面に転がりぼやく。

 

(これ、息できんのか?)

澱みきっている水を見て、錦は首を傾げた。ただでさえ呪霊が棲んでいるのだ、酸素がないと死活問題だろう。そもそもそんな状況で戦いたくはない。

 

 

「ねえ、どのくらい経ったらボクらも入るー?」

忽那は何気なく問いかけた。

「それは、まあ四半時くらいじゃないのか。そこまで長い時間潜っていられるとは思えないし」

「つまりぃ、アイツが死んだら入るってこと?」

悪趣味だねー、と忽那はくすくす笑う。

「そうは言っていない。というかアイツが死んだら撤退するのが筋だろ。別に呪霊を祓わなくたって、ここに近づかなければ良い話だ」

 

断定した錦によって、会話が途切れる。

 

それでも、忽那は再度舌足らずに口を開いた。

「そういえばさー、錦って幾つくらいから戦に出てるの?」

 

(もう話しかけてくんなよ)

若干げんなりしながら、錦は答える。

「覚えてない。むしろそんなの数えてる奴いるのかよ」

「そおー?大体は覚えてると思うよ?だってさあ、自分から戦に行ってるわけだから」

「…何が言いたいんだ」

 

ささくれだったような感情の波を返答に捉え、にんまりと忽那は笑った。

「いやあねえ、初めて会った時から、仲良くなれそうな気がしてたんだけどぉ。今のでもーっとそんな気がしてさあ」

「残念だが私はお前と話す気すらない」

「そう言わないでさー。どうせ暇だし、ちょっと話そうよ〜」

 

ずずいと忽那は錦に近づく。

 

「おんなじ匂いがするんだ」

「…は?」

「ボクと、君だよ。おんなじ、咽ぶような()()()()がする。一体何人殺したのかなあ?」

 

一瞬答えにつまり、それでも錦は口を開いた。

「…この時代、血の匂いがしない人間の方が珍しいんじゃないか。他の奴らだって同じだろ」

「ううん、違うよ」

 

そう、恍惚とした表情で、忽那は続けた。

「ボクはねえ、術式上鼻が効くんだ。そのボクが言うんだから間違いない。君はボクと一緒!数えられないくらい、それこそ物心つく前から人を殺してきたんでしょう?」

 

「違う」

そう答えたのは、ほとんど反射によるものだった。

 

「何が違うの?心配しなくてもぉ、ボクは別に君を貶しているわけじゃないよ。むしろさあ、嬉しいんだよねえ」

「は!相方が人殺しで、か?」

 

うんうん、と忽那は大きく頷く。

「同じ境遇で、同じく人殺し。だったら仲良くなれるに決まってるじゃん!」

「勝手な仲間意識を持たないでくれるか。知ってる?一方通行な感情ほど虚しいものはないんだよ」

 

ふと、辺りの薄暗さが増した。忽那と錦、両方の顔に影が落ちる。同時に、忽那はもう一歩踏み出した。

 

「君となら、退屈しない″友達″になれる」

それは、囁きに近い声だった。

「鹿紫雲なんて放っておいてさ。絶対仲良くなれるよ、ボクらなら。だってこんなにも似ている」

 

(似てない、似ているものか!)

錦はぎゅっと拳を握りしめた。そうだ、似ているはずがない。

こんな、不躾に相手の心中に踏み込んで、仲間などと突拍子もなく宣うガキと!

それと己が似ているなどと、天地がひっくり返ってもあり得ないはずだ。何の接点もなかった奴に「仲間」とは笑わせる!

そも、こいつは状況を弁えていないのだ。呪霊が側にいるのに、何とまあ脳みそお花畑なことを言っているのだろうか。呪術師として失格としか言えない。

 

(こいつが見る目のない「偽物」だった、それだけだろう)

落ち着けと一旦呼吸を整えて、しかと忽那を見返す。

 

「いい加減にしろ。そもそも私は友達なんて必要としていない。これ以上お前の勝手な妄想で話をするなら、」

 

 

ザバァン!!!

突然、淵の水面が隆起した。

 

「ッツ、」

振り返れば、そこに居るのは巨大な呪霊。龍のように鱗に覆われて、手足のない大蛇に似た姿だ。ぬらぬらと濡れ、その場の暗さを吸い込むような様相に、無意識に下がる。

そこで、呪霊が咥えているものを見て、ハッと叫んだ。

 

「遙太!!」

 

 

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