【TS】潰れそうで潰れない訳ありの喫茶店でバイトしたい! 作:ひぶうさぎ
予告していたユウリの視点は初めじゃなくて最後です
「ミツ! 良く無事で帰ってきてくれた!」
「ぐえっ、お、おっさん苦しいって」
「本当にすまねぇ、お前のことを使い捨てはしないって言ったばかりなのによりにもよってあのユウリと戦わせちまって」
「おっさんがそう言うってことは相当強いのか」
「強いなんてもんじゃねぇ、あいつがいるだけで表の治安が守られると言っても過言じゃないくらいだ」
追手を全員振り切った俺に待っていたのは、おっさんのこれでもかというほどの抱擁だった、痛い。
しかも、俺を危険な任務に就かせたことについて何度も謝られてしまった。
やっぱり、あのユウリという男がいたのはおっさんにとっても予想外だったのか。
弱点が何処に見えなかったしな、何で俺アレ相手に生きて帰れたんだ?
しかも結構煽るようなこと言った気がするし、本当に右手一本だけで済んでよかった。
……って、あ。
そうじゃん、俺逃げるために右腕切断したんじゃん。
逃げてる最中、完全に忘れてた。
どうりで重心が転生した時以上に安定しなかった訳だ。
右腕も置いてきちゃったしな。
これ、治るのか?
「おっさんおっさん、俺の右腕ってどうするの?」
「ああ……それはなぁ……一応、再生させること自体は可能なんだが……」
「どうしてそんなに渋るんだ? 再生できるなら今すぐにでもしてくれよ」
「いやなぁ、その再生、死ぬほど痛いんだ。文字通り、死ぬこともあるくらい痛いんだよ」
あー、なるほど、そういう感じなのか。
確かに、いくら異能がある世界だろうと無くなった部位の再生っていうのはそう簡単には行かないよな。
これがそう簡単に行くんだったら、特攻とかもし放題だし、流石にか。
とはいえ、無くなった部位を再生することが可能な時点で大分おかしくはあるんだけれど。
おっさんの目をじっと見つめるが、その目はしっかりと俺を映していて嘘をついているようには到底思えない。
つまり、おっさんが言ってることは多分本当だっていうことだ。
一応、俺なんかより腹芸が圧倒的に得意なおっさんのことだから嘘をついている可能性はある。
でも、ここは一旦俺のことを心から案じているだろうおっさんを信用しよう。
……だからと言って、腕を治さないとは言ってないけどな?
「じゃあおっさん、腕治そうぜ。療養とかも含めて俺は何日活動出来ない?」
「そうだよな、お前だったらそう言うと思ってたよ。……少なくても1週間は動けないだろう」
「で、場合によってはもっとかかるって訳か。まあ、何とかなるだろ」
「言っておくが、死ぬかもしれないんだぞ? 俺らの技術を使えば、生身の手と遜色ない義手をつけることができるし、なんなら武器だって仕込めるんだぞ? それでも、お前は生身の手を優先させるのか?」
「勿論だ」
おっさんに拾ってもらった日から今日まで、『裏』の様子をそこそこ見てきた。
その中で、強そうな奴、弱点が少ない奴は大抵生身の奴で。
逆に、身体中をメカにしてる奴らなんかは、体全てが弱点だと示されていた。
俺の異能が間違っているだけかもしれない。
けれど、それでも俺は体の一部分でも機械にすることは生存率を大きく下げることだと思う。
だから、たとえ死ぬかもしれない痛みを伴うとしても、俺は再生させる方を選ばせてもらう。
どれくらい痛いのかは、流石に不安だけれど。
まあ、喫茶店で謎のバイトとして働くならば、痛ましい過去なんてあればあるほどお得だろ?
「はぁ、そうか、お前も分かってんのか、生身じゃないと生き残るのは難しいことくらい」
「やっぱりそういうもんなのか?」
「そうだ、一部が生身じゃないってだけで心のどこかに驕りが生まれるんだ。そして引き際を間違えて死ぬ、何十回も見てきた」
「じゃあ俺の判断は間違ってなかったってことだな」
「でもマジで痛いからな? 本当に覚悟だけはしておけよ?」
おっさんの言うことは程々に聞き流しながら、俺はおっさんに着いて行く。
俺の立場じゃ到底入れそうにない暗証番号付きのドアを開け、俺達はどんどん地下へ進んで行く。
途中で、廊下におびただしい量の血痕を見つけた。
もしかしたら、腕の再生に失敗した誰かのものなのかもしれない。
耳をつんざく様な叫び声も道中通った部屋から聞こえた。
これは拷問だろうか、これが腕の再生であげる声だとしたら相当だ。
流石に、これは怖くなってきた。
俺はこんなヤバそうな地下空間の中で腕を再生しなければならないというのに。
そんなことを考えていたら、おっさんが奥の突き当たりの部屋で止まる。
どうやら、俺がしばらく世話になる部屋はここのようだ。
「そこらじゅうに血が飛び散っているが気にしないでくれ。ドクター! いるか? 新しい患者だぞ」
「これはこれは、No.2がこんなところにまで出向いてくるなんて珍しいですな」
「こいつの右腕を再生しろ。死ななければ何をしても構わん」
「なるほど、お気に入りってことですか」
部屋の中で待ち構えていたのは、腰を曲げた、いかにもマッドドクターといった風貌の老人。
一見頼りにならなそうだけれど、鋭い目から彼が只者じゃないことは嫌でも分かる。
おっさんが再生を手伝うんだったらちょっと心配だったが、この人になら任せられる
だっておっさんって、絶対頭脳派に見せかけた脳筋?
それよりかはこの鋭い目つきをした老人の方が医療って点では信用できるに決まってる。
「切断面がズタボロじゃが、これは自分でやったのかね?」
「そう、切羽詰まってて丁寧に処置をする時間もなかったんだよ」
「普段より難しい施術になるのは間違いない。が、咄嗟に自分の腕を切り落とす胆力があるならおそらく大丈夫そうじゃ」
「よろしくな、爺さん」
それから、俺は老人によく分からない義手のようなものを取り付けられ、明らかに拷問用の椅子に縛り付けられた。
上半身と足は椅子に固定されている上、舌を噛まないためなのか猿轡もされている。
こんなんもう、これから途轍もなく痛いのが待ち構えていますよって言っているようなもんだよな。
でも怖がったってどうしようもないし、さっさと覚悟を決めるか。
全力で耐えてやるぞ、文字通り死ぬほどの痛みって奴に。
「準備はいいか? 行くぞ、3、2、1」
「ッ!? ッッッッ〜!!!」
痛い、痛い、痛い。
意識すらも飛ばすことが許されない痛み。
腕がメキメキと音を立てているのが良く分かる。
そして、その過程で感じたことのない痛みが発生しているのも。
痛い、何も考えたくない。
でも、ここで考えることをやめると廃人になるんだろうという予感がきっとする。
考え続けろ、俺。
腕が再生し切るその時まで、絶対に『自分』を保つんだ。
「……ほう、これはなかなか」
「ミツ! 起きろ、終わったぞ!」
そうして、何時間が経っただろうか。
体を削り取られるような痛みが無くなったと思ったら、おっさんが見たことのない表情で俺を覗き込んでいるのが見える。
やべ、俺途中で耐えられなかったのか……?
体を動かそうとするが……そうだった。
俺思いっきり椅子に固定されてるんだ。
右腕は無事再生出来たのだろうか。
前の机みたいなところに置かれている
お、でも猿轡は外れてる。
一応、これで喋ることは出来そうだ。
「あ〜、おっさん? ん、ん゙っ上手く声でねぇな」
「そりゃそうだ、もうお前が意識を失ってからもうちょいで2週間も経つんだからな」
「2週間!? 何で俺そんなに飯食わないで生きれてんだ」
「猿轡外してるだろ、そっから意識がない奴用の飯を俺が食わしてやってたんだよ。まあ流石にそれだと限界はあるからドクターに相談して点滴に変えようとしてたところなんだがミツが起きたっていうならもう必要ねえな」
え、それってつまりおっさん自ら俺の看病? をしてたってことか?
おっさん優しすぎだろ、『駒』にそこまでしてくれるのは聖人過ぎる。
ドクターは……何かめちゃくちゃ微笑ましいものを見る目で俺たちのこと見つめてきてんだけど……。
何やってんだ。
ああ、ていうかそれより右腕がどうなったのか聞かないと。
「ん? ああ、右腕は無事に再生出来たぞ」
「でもまだ感覚ないんだよ」
「まあそれはじっくり慣らせ。放っておけば使えるようになる」
「そういうもんか」
「そういうもんだ。そういや、ミツに聞きたかったことがあるんだが、お前ユウリに何をした? あいつ、急に治安維持部隊やめて何を考えてんのか喫茶店開こうとしてるんだが」
そうかそうか、右腕はちゃんと再生したのかって…え?
喫茶店開いたら似合いそうな渋めの顔だななんて思っていたけど、マジで開こうとしてるのかよ。
これは、俺の夢思ったよりもすぐ叶えられるかもしれない。
俺は、気づいたら拘束されている中でも分かるくらいに身を乗り出していて……。
「その話、詳しく教えてくれ」
「どうしたんだ、いつになくテンションが高いな」
おっさんから詳しい情報を聞き出そうと体が勝手に動いてしまった。
◇◇◇
裏社会の暗殺者である少女を取り逃したという知らせを聞いた時、俺の頭の中は真っ白になった。
──俺のせいだ。
少女だからと油断して、右手を掴んだ瞬間に殺せなかった、俺の、せいだ。
あの瞬間に首でも絞めていたら、蒲生さんが死ぬこともなかったのに。
躊躇して、しかも蒲生さんを彼女から離すっていう基本的なことすら俺は忘れていた。
同僚の一人は、「殺されたのが蒲生で良かった」と言う。
また別の同僚は「暗殺者を前にすぐ逃げる選択をしなかった蒲生が悪い」と言った。
だが、言うことはそれぞれ少しずつ違かったものの、誰も「
確かに、俺だって蒲生さんの悪い噂は耳が痛いほど聞いている。
今回の件も蒲生さんが裏社会に手を出したから、言っちゃなんだが自業自得だ。
でも、俺たち治安維持部隊の役目は異能から人の命を守ることだろ?
いくら悪人だとされる人間だって、そういう人間も守るのが俺たちじゃないのか?
ここでは俺の方が異質なんだということも俺は理解している。
けれど、どうしても俺は俺のことを許せなかった。
「本当に辞めるのか? あの件は、本当にお前のせいではないと私は思うが」
「いえ、俺はあの時胸を張ってやれることをやったとは到底言えないので」
「……そうか、なら俺は止めない。が、いつでも戻ってきていいからな」
だから、俺は気持ちの整理をつけるために治安維持部隊を辞めることにした。
俺が10代の前半から入ってたここを抜けるのは俺にとって大きな決断だ。
それでも、俺はこれは気持ちの整理をつけるために必要なことだと思っている。
ただ、問題なのは辞めてからどうするか何も決めてないってこと。
後輩達からどこかでは会いたいって言われているから、喫茶店でも開くか?
まあ、開いたところで人なんて来るわけないのは分かり切ってる。
それでも、誰かしら物好きはちょくちょ来るだろうし、俺の気分転換としてなら別に悪くないかもしれない。
仮に売上が殆どないとしても、金なんて腐るほど持っているし。
何事もなければ、しばらくは間違いなく持つはず。
ただの思いつきにすぎなかった喫茶店を開くっていう案、思ったよりも良いかもしれない。
……そういや、後輩の中に金をたんまり稼いだら喫茶店を開いて可愛いバイトの女の子を雇うんだ、とかいう馬鹿なこと考えていた奴が昔居たな。
開いたばかりの喫茶店にバイトをしようなんて思う変人はいないってあいつに言ったのも今じゃ良い思い出だ。
そんな事を考えてから一ヶ月が経ち、俺は少し前なら考えもしなかった喫茶店の店主をやっていた。
客は予想通りと言って良いほどこない。
治安維持部隊の後輩がたまにくるくらいだが、そいつはいつも俺のコーヒーが不味いと愚痴をこぼしている。
今日も、やっぱり人は来ない。
一応、一日に一人くらいは見知らぬ人も来てくれるのだが、やっぱり俺のコーヒーが不味いと言って帰っていく。
そんなコーヒーが不味いってことはないはずなのだが……うーん。
その時、珍しく入口につけたドアベルが鳴った。
新しい客だ、自分で言うのもなんだが、この喫茶店の何に惹かれてやってきたのだろうか。
そして、俺は入口の方を見て、固まることとなる。
今日の客は、儚げな雰囲気をした、誰に聞いても美少女だと答えるほどの美少女だった。
肩にかかった銀色の髪を揺らし、こちらへ近づいてくる。
まるで知り合いに近づくような歩き方で。
だが、俺はこんな子は知らな……ッ!?
違う、俺はこの子を知っている。
何が儚げな美少女だ、俺はこの子の鋭いあの『目』を知っている。
なんで、どうして、そんな言葉が頭に浮かぶ。
「すみません、バイトをさせてくれませんか?」
「どうして、どうしてここに来た」
「お久しぶりです、履歴書もありますよ、バイトするために来たんですから。まあ、名前は秘
俺のトラウマは、憎たらしいほどに整った顔で、さも当然かのようにそんなふざけたことを言ってくる。
誰がついこないだ殺し合った相手をバイトにするっていうんだ。
何なんだよ、俺に何の恨みがあるんだよ……。
次回からは喫茶店編(予定)
段々一話辺りの文字数が多くなっていくという謎