【TS】潰れそうで潰れない訳ありの喫茶店でバイトしたい!   作:ひぶうさぎ

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第六話 受け継がれる異能

 びっくりした。

 まさかこんな大人数で誠くんのことを狙ってくるとは。

 

 えっと、全部で一人二人……七人!? 

 いくら何でも一人の子供を殺すために送るには過剰戦力過ぎるって。

 

 流石にもう残りはいないよな……? 

 もしいたとしても、この人数を撃退したとなれば普通は引いてくれると思うけど。

 

 いや、こう言ってしまうのは悪いんだと思うけど、誠くんの異能が覚醒してくれて本当に良かった。

 

 一応、俺は能力の拡大解釈で自分にも弱点を表示させて相手の位置も大まかに把握している。

 暗殺をする分には、別にこれで構わない。

 

 でも逆に、狙われてる時に自分の弱点を守るのに必死で相手がどこにいるかまでを咄嗟に考えるのははっきり言って無理だ。

 だからこそ、誠くんのサポートは本当にありがたかった。

 

 けれど、ユウリがついさっき異能を発動させたら二度と普通の生活には戻れないって言ってたばかりだしな……。

 喜びたいところなのに、こればっかりは素直に喜ぶ事が出来ない。

 

 

 

「凄いことになっちゃったけど、これからどうしようか?」

 

「……お母さんが今無事なのかが心配です。お母さんもお父さんと同じところで働いていて、仕事中は電話も繋がらないから確認する方法もないんですけど……」

 

 

 

 ってそうか、誠くんが襲われたってことはそりゃお母さんも狙われてる可能性があるのか。

 とはいえ、俺が治安維持部隊の所まで言ったら確実に捕まるんだよな。

 

 まず、どこに本部が置かれているのかが分からない。

 誠くんは両親とかなり仲が良いようだけど、それでも子供に大事な本部の場所を教えたりはしていないだろう。

 

 ……ていうか、なんか話す言葉が敬語に戻らない。

 あれかな、さっきの戦いでスイッチ入れたから、その状態から戻せてないのか。

 

 まあ別に敬語じゃなくたって良いだろ。

 多分、俺の方が年上っぽいし。

 

 

 

「じゃあ、一旦ユウリさんの所に戻ろうか」

 

「はい、わかりました」

 

「それと、多分まだ異能発動させたままだと思うんだけど、止めることって出来る?」

 

「止めるっていうかもう止まっちゃってるんですけれど……もしかして僕におかしいところがありますか?」

 

「うん、目が赤くなったままだね。だからまだ異能が発動しちゃってるのかと思ったんだけど……目の色が赤いのは、さっきとはまた別の異能かもしれないね」

 

 

 

 誠くんの目は、ユウリの店の中では確かに黒色だったはず。

 だから、今赤くなっているということは絶対に異能の影響だと思うんだけど。

 

 もう異能の発動自体は止まってるっていうのが不思議だな……。

 

 俺にもう少し異能についての知見があったらこういうのもその場で分かるようになるのかもしれない。

 

 ともかく、今のどこに監視があるのかも分からない状況で異能の能力を聞くわけにはいかないし、一旦ユウリの店に戻ろう。

 色んな話はそれからだ。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……流石にこんなまだ明るい時間に堂々と狙ってくるとは思っていなかったが……ミツ、誠くんを守ってくれて本当にありがとう」

 

「私は任された仕事をこなしただけですよ。それに、誠くんに助けられた部分もありますし護衛としては失格です」

 

「そんなに卑下する事はないと思うが……今は誠くんの異能について考えるのが先か……周りに何も異能が無いことを確認するから少し待っててくれ」

 

 

 

 途中で少し監視らしい視線は感じたものの、喫茶店に帰るまでの時には誰にも襲われなかった。

 

 ちなみに、路地裏で俺たちのことを襲ってきた男達の死体は放置したままだ。

 途中でサイレンの音が聞こえたし、今頃警察か治安維持部隊かが捜査している最中だろう。

 

 そして、道中で襲われたことや誠くんが異能を発動させたことをユウリに言って、今に至るってわけ。

 

 俺の予想だと、誠くんは気配探知みたいな能力だと思う。

 敵の位置を言うのが的確だったし、ちょっと頭を押さえてたのは、周りのいろんな状況を取り込んだことによる副作用……じゃないかな。

 

 ユウリが、周りに異能の気配や盗聴器の類もないことを確認し終えた。

 これで、何の心配もなく誠くんの異能を聞くことができるな。

 

 

 

「先に言っておくが異能っていうのは簡単に人に明かして良いものじゃない。俺がミツの異能を知らなくて、ミツが俺の異能を知らないように。だから、異能については俺達に言わずに秘密にしても良いんだ。その上で、俺は誠くんの異能を聞こうと思っている。いいか?」

 

「わかりました。お父さんが信頼してるユウリさんと、僕を助けてくれたミツさんになら言っても良いと思ってます」

 

「ありがとう。じゃあ名前は分からないと思うからその時の感じたことから聞こう。異能が発動したとき、誠くんの世界はどう変わった?」

 

「はい、まず、襲われたっていうのにやけに冷静だったんです。そして、そう思った瞬間に急に世界がゆっくりとしか動かなくなって……」

 

 

 

 自分の異能を語ることについての注意をユウリが言い、それに了承した誠くんが異能が発動した時のことを喋り始める。

 これ、出だしからして気配探知なんかじゃないな……。

 

 世界がゆっくりっていうのは、自分だけが早く動ける世界ってことなのか。

 それとも、周りの動きが遅く見える代わりに自分も他と同じ速さでしか動けないのか。

 

 このどっちなのかによって使い勝手の良さとか色々変わってくるんじゃないかな。

 まあ、まだ俺が考えてるものとは別のものの可能性もあるけど。

 

 

 

「その時、僕が相手から見てどういう速さで動いていたのかは分かりません。けど、多分、襲ってきた人達よりかは速く動けてたと思います」

 

「ミツ、どうだ?」

 

「私は襲ってくる相手を処理しただけなのでなんとも……ただ、一人、私じゃなくて誠くんを狙った相手を倒したんですが、その時誠くんの動きに特に違和感はなかったです」

 

「……となると、誠くんの異能は『思考加速』と呼ばれるものだな。メインはそれだ」

 

 

 

 ユウリは、ひとまずそう結論付けた……けど、いまいち納得がいってないようだ。

 俺も誠くんの能力についてここで考えるのをやめてしまうのは勿体無いと思う。

 

 確かにメインの能力は思考を引き延ばして体感時間を長くするものだろう。

 

 けれど、誠くん自身は速めに動けたと言っているのに俺が見た誠くんの動きは加速しているわけじゃなかったりと、謎が残っている。

 それに、気持ち速く動けるだけで様々なところに隠れていた暗殺者達を見つけることなんて出来るのだろうか? 

 

 ……あれ、やっぱりこれ探知系の能力も入ってるんじゃない? 

 直感的に自分に害をなそうとする人物の方へ注意を向ける事が出来る、みたいな。

 

 目が赤くなっていることについてもさっぱり分からないし、複雑な異能の予感がする。

 

 

 

「すみません、なんだか分かりづらい異能みたいで……」

 

「誠くんが謝る必要はない。俺の異能の知識がそこまで多くないのが悪いから」

 

「うーん、目が赤いままってことは何かを常時発動させているって事だと思うんですけど……」

 

 

 

 一旦、俺が気になっていることだけ試してみよう。

 ちょっと誠くんをビビらせてしまうかもしれないけど、最悪寸止めする予定だから多分大丈夫。

 

 仕舞っていたナイフを取り出して、今日ついた血を拭いてっと。

 

 弱点じゃない位置を狙わないといけないから、異能を発動させて誠くんを見る。

 ……意外と弱点が少ないんだな、どの人間にも共通する急所以外は完璧だ。

 

 

 

「ユウリさん、ちょっと動かないでくださいね」

 

「ミツ? その手のナイフは、何をしようと……ッ!?」

 

「……あれ、こんな簡単に避けられるんですか」

 

 

 

 そして、俺は確実に誠くんに向けてナイフを突き出したのだが……普通に避けられてしまった。

 

 おかしいな、少なくとも俺には警戒心MAXの裏社会の人間を殺せるだけの暗殺能力はあるはずなんだけど。

 

 これで何も成果が得られなければ、俺はただ誠くんを刺そうとしたヤバいやつになってしまう。

 けれど、収穫はちゃんとあった。

 

 それは、誠くんの目。

 暗めの赤色だった目がさっきとは離れていても分かるほどに光り輝いている。

 

 

 

「ミツさん、いきなり何なんですか」

 

「何と言われても……誠くんの異能の確認ですよ? ああ、すみません流石に急すぎて戸惑いますよね」

 

「……さっき襲われた時以上の尋常じゃない殺気を受けたんですけれど」

 

「だって、それくらいしないと私が『敵』の判定にならないかな、と思ったので」

 

 

 

 俺の考えでは、誠くんの異能が真価を発揮するのは『敵』がいる時。

 

 だからきっと、今誠くんから俺に向けられている視線は敵意の孕んだものに……ってあれ? 

 なんか、思ってたのと違うな。

 

 驚きはしたけど、思ったより悪くないな、みたいなよくわからない目を向けられてるんだけど!? 

 

 さっきまでピカピカに光り輝いていた赤色の目も元に戻ってしまったし、おかしい、想像していたのと全然違う。

 仲良く話していた人間が急にナイフを向けてきたんだからもっと警戒したっていいじゃないか。

 

 もしかして誠くんって、そういう趣味があったのか……? 

 

 

 

「ち、ちょっとミツさん!? 何ですかそのなんか違うなって表情は!?」

 

「いや、予定ではもう少し敵意を向けられるはずだったんですけど。誠くんが思ったより……その……言いづらいんですけど……」

 

「誤解です! ミツさん! 誤解ですって!?」

 

「……今日会ったばかりだっていうのに仲が良いんだな」

 

 

 

 ま、まあ色々と予定とは違った感じになってしまったものの、これで誠くんの異能はなんとなく見えてきた。

 

 そして、多分俺たちがメインだと考えていた『思考加速』は彼のメインの異能じゃない。

 

 多分今も発動はさせていたとも思うが『思考加速』しただけじゃ俺のナイフは避けられない、避けられるわけがない。

 何故なら、思考加速はあくまでも体感時間だけが引き伸びる異能で、俺を見てから発動すると、その時にはもうナイフがスローになるだけじゃ絶対に避けられない所まで来ているはずだから。

 

 だから、絶対に今は『思考加速』とはまた別の違う異能が発動していたはずだ。

 

 それを踏まえて、俺は彼の異能をこう捉える。

 誠くんのメインの能力、それは敵を探知して、その場に合わせた適当な複数の異能を発動させるものだ。

 

 同時にいくつ発動させられるのか、発動させられる異能は何種類あるのか。

 それは分からないが、多分俺の予想の根幹は間違っていないはずだ。

 

 ユウリの方を見れば、彼もまた、何か確信したような表情をしている。

 ふう、中々複雑な異能だったな。

 

 

 

「凄いな、真也さん達の異能を完全に受け継いでるのか」

 

「……お父さん達と同じ異能?」

 

「ああ、あんまり言うもんじゃないが、まあ息子の誠くんにならいいか。誠くんのお父さん、真也さんは複数異能を持っていて、お母さんは探知系の異能を持っているんだよ」

 

「つまり、僕の異能は……」

 

「そう、あの二人の異能が混ぜ合わさっている異能なんだ」

 

 

 

 そうか、ユウリは誠くんのお父さんの異能もお母さんの異能も知っているのか。

 

 凄いな、誠くん。

 両親の異能を受け継いで更に強力なものするなんて。

 

 まあ、一つ弱点があるとすれば、一度味方だと信用した相手に対しては敵意を感知するのが難しく今の俺の時みたいな裏切りに弱いって事だけど。

 それは裏を返せば、味方には絶対暴発することのない異能っていうわけで。

 誠くん自身の優しさが濃く反映されているんだろうな、と思う。

 

 誠くんを異能にまで反映されるほど優しい子に育てた両親は、きっと立派な人達なんだろう。

 

 誠くんのお父さんである真也さんと、名前も知らない誠くんのお母さん。

 無事だといいな。




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