「はい、ミヤコさん今日渡された分は終わったよ。」
「ありがとう景虎。課題もあるでしょうし今日はもう休んで。」
とある人物の提案から始まった大学生と苺プロの事務員の二足の草鞋はかなり充実していて楽しい。幼少期からミヤコさんの仕事を見させてもらっていたのとパソコン作業は好きだったから慣れるのは早かった。
「分かったよ。もしよければド〇ールでコーヒー買「だーれだ?」...お疲れ様です、アイさん。」
「あはっ☆やっぱり溢れる魅力は隠せないか。」
てへっと舌を出すこの三十路に見えないいたずらっ子は十数年前一世を風靡したアイドルユニット「B小町」のセンター、アイこと星野アイその人だ。ついでに僕が苺プロで働くことを提案してくれた人でもあり今は苺プロのマルチタレントとして現在も芸能界の一番星として燦然と輝き続けている。
「あ、あのアイさん...。」
「ん?なあにトラくん?」
「...近くないですか?」
前から感じていたことだけど、この人僕に対する距離感がなんかおかしい。近い。近いよお!!
「えー?一応トラくんのことは赤ちゃんの頃から知ってるからこれぐらい普通じゃない?」
赤ん坊のころから知ってくれているにしても近くないですか?
「それにしても本当に大きくなったよねえ。髪も結構長くなってきて。伸ばしてるの?」
「あ、はい...。」
「そっか。前の短めなのも可愛くて好きだったけど、長い髪のトラくんはきっと大人っぽくてかっこいいんだろうなあ。」
耳にアイさんの吐息が当たってくすぐったい。きっと今の僕の顔はトマトみたいに真っ赤だ。ちなみにミヤコさんはまた始まったよ...と言わんばかりにため息をつきながら視線をパソコンの画面に向けている。助けは期待できないなあ。
「ふふ。照れてるの?トラくんてミヤコさんと暮らしてるのに女の人への耐性なさすぎじゃない?ま、そこがかわいいんだけど。」
「か、可愛いなんて...」
この人ところかまわずこんな感じだから心臓に悪いんだよ...。そろそろ僕の顔面が恥ずかしさやらなんやらで花火のように爆散しそうなとき、二人の救世主が現れた。
「あー!!またママ勝手にトラ兄とイチャついてる!!許せん!!」
「母さん、あんま景虎をからかうなってこないだ言ったばっかだろ?」
「あははごめんごめん。」
女の子の方がアイドル志望の星野瑠美衣ちゃんで、男の子の方がルビーちゃんの双子の兄で役者志望の星野愛久愛海略してアクアくん。苗字からわかる通りアイさんの子供たちだ。今年の春に芸能科がある陽東高校に入学して高校生になる。若いって羨ましいね僕20歳だけど。
「ママがごめんねトラ兄。ママに変なことされてない?」
「あ、ああうん。大丈夫だよ。」
「ルビー。ママを何だと思ってるのー?」
「母さん、周りから見たらあんたショタコン拗らせたやばい奴だぞ。」
「ぶー。トラくんが可愛すぎるのが悪いのー!!」
頬を焼いたお餅のように膨らませ腕を振り回して抗議するアイさん。これが二児の母って初見じゃわかんないよね。石仮面でも被ったのかな。しかもお子さんたちも美男美女で...。何だこの一家。逆に何を持ってないの?キレそう。ってか僕ってショタなの?初耳。
アイさん達星野家と僕の観音坂家は僕の年齢と同じくらいの付き合いがある。アイさんがアイドルになって二年ぐらいが経ったころ仕事の幅を増やすために壱護さんが母さんに話を通し当時母さんが所属していた劇団ララライのワークショップにアイさんは参加しそこで母さんから演技のいろはを叩き込まれたらしい。それからアイさんは母さんと積極的に連絡を取りやがて互いの家に遊びに行くほどの仲になった。そしてある日アイさんが母さんの家に遊びに行ったとき当時二歳半ほどの僕に出会った。
『可愛い...直虎さんの子供なの?何歳ぐらい?』
『ええ。ほら、このお姉さんに自己紹介できるわよね?』
『観音坂景虎です!二歳です!』
『そっかそっか二歳なのか~。自己紹介できて偉いねえ。景虎くん、お父さんとお母さんのこと好き?』
『うん!僕お父さんとお母さんのこと大好き!愛してるよ!!』
『あらあら、いつの間に愛してるなんて言えるようになったのかしら。もしかして義景が仕込んだのかしら?』
そんな僕ら家族の様子を見たアイさんは自分も子供を育ててみたいと思ったようで同じワークショップで出会ったアクアくんとルビーちゃんの父親に協力してもらい二人を妊娠し、アイドル活動を休止し一度東京を離れ遠く宮崎県の病院で出産し16歳で二児の母となった。だけれどアイさんが生きるのは策謀欲望渦巻く真っ黒な芸能界。現役アイドルが母親になったという情報が知れ渡っては所属事務所もろともジ・エンド。同じ事務所内でも壱護さんやミヤコさんぐらいにしか知らせずにアイドルをすることを彼女は決意した...のだが。当時のアイさんや壱護さんたちは育児に関しては全くの素人で右も左もわからない状態だったので、背に腹は代えられず事情を話しコツやポイントを父さんと母さんに教えてもらっていたのだ。それが僕が4歳になったあたりのこと。今となってはあまり覚えていないけれど僕の幼稚園の帰りによくアクアくんとルビーちゃんと遊んだりしたな。時系列順に整理すると、
星野アイ、アイドルデビュー
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ワークショップで直虎と後のアクアとルビーの父親と出会い、直虎と演技の特訓
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直虎と親交を深め景虎と出会う
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アクアとルビーを妊娠し、出産
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育児のあれこれを義景&直虎から教わる
ってな感じ。こうして振り返ると僕らは割と切っても切れない関係みたい。苺プロと他の事務所のトラブルが発生した際もよく父さんが協力しててほぼ専属の弁護士みたいになってたらしい。あと父さんと壱護さんで遅くまで飲みに行ってたし。
「トラ兄、明後日一緒にここのカフェ行こ!」
「あ、ルビーずるい!私もトラくんとデートしたい!」
「母さん明後日モデルの仕事あっただろ。」
あの事件たちが起きた時もこの人たちはずっと僕のそばにいてくれた。そういう意味ではこの人たちも家族なのかもなあ。