学園都市ってどこもクソだな【分割版】   作:あしゅけーね

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7月20日14時頃

 

 

 ◈白井黒子→天織有栖

 

 

「入学式の日にここに閉じ込められてから、リリウムか“竜”の人がいつもきっかりお昼の十二時に食べ物を持ってきてくれた。時間がずれ込んだのは入学式から一週間の間だけ。その間、リリウムは何をやってたんだろうね」

 

「生徒会長の能力がアンタの言うとおりなら、仲間を作って───いや、役者を仕立て上げていたってことになるわね。そして今日も一人、役者になった」

 

「うん、それが黒子。“騎士”の役割を被せられたんだと思───被せられたんだね」

 

 ヒュンと音を立てて、扉も使わずに目の前に現れた二房に束ねられた茶色い髪の女の子。同じくらいの背丈だからしっかりと目が合ってしまったので確信できる。彼女が“騎士”だって。

 

「『昼の月・夜の太陽』……本当に見えるようになりますのね」

 

 やっぱり“騎士”になっちゃったんだ。誰かは知らないけど、“王様”から合言葉を盗み聞きして、“騎士”として私を攫いに来たんだね。

 

「美琴、抑えて」

 

 バチバチと、音を立てて電気が空気中を迸る。黒子に手を出されて怒るのはわかるけど、近くにいた私の髪の毛が逆立つし、服もパチパチしてきたからやめて欲しい。

 

「そんなことをしても意味ない。物理的な干渉じゃ解けないよ」

 

 痛みで解けるようなものなら、私が図書室から出ようとしたときに発症する“病気”の痛みでとっくに解けてるからね。

 

「じゃあどうしろってのよ!!」

 

「声をかけて。今黒子が観測してる世界と、それまで黒子が観測していた自分だけの現実(パーソナルリアリティ)*1との差異に違和感を覚えたとき、強い方が勝つはず。黒子はもともとリリウムと同じ大能力者(レベル4)だから、黒子が望む方が勝つよ」

 

 だけれど───

 

「黒子!目ぇ覚ましなさい!!アンタがアマリリスを攫う理由はないはずでしょ!攫うなら、そのぅ……アッ、アタシじゃ…ない…………」

 

 わぁ、美琴ってば大胆。途中で恥ずかしくなっちゃったのか声がすぼんでいってるけど、昨日の黒子のお姉様大好きっぷりをみたら十分なはず。()()()()()()()()()()()()

 

 そう、だけれど───白井黒子ならともかく、“騎士”が美琴の話を聞く必要はないのです。なぜなら姫を攫えればいいから。そして、黒子の能力はそれをするのに都合が良く、最も効率良く攫うには周囲の一切合切を無視して姫を空間移動(テレポート)させればいい。

 

「わぁ」

 

 目を離していないのに黒子が視界から消えて、気づいたら目の前に扉。それを認識したときにはもう外に出てて、夏の差すような日差しとじんわりと湿った空気が肌を包み込む。

 

「出れた……?」

 

 一年ぶりの外。本が痛まないように、かつ過ごしやすいように温度と湿度が調整された図書室と違って、汗をかくし、風で髪が崩れちゃうし、暑さと湿気で凄く不愉快。だけど、それがどうしようもなく愛おしい。

 

 ずっと、ずっと焦がれていた空。窓から見える景色は、ずっと同じものだったから、見えるものがかわり続けるというのは心が躍る。一年前は、当たり前だったはずなのに。

 

「ちょっと、なんで私まで連れられてるのよ。いや狙い通りではあるんだけど……」

 

 右手に私の、左手に美琴の手を握りしめ、空間移動(テレポート)を繰り返す黒子。役を遂行するだけなら私だけを連れ去ればいいけど、昨日のお姉様好きっぷりを見ると捨て置く事も出来なかったんじゃないかな多分。

 

「童話から逸れなければ意外と自由が利くからね。お姫様を連れ去ったと書いてあってもそれ以外の、例えばこっそり忍び込んだ“ネズミさん”を連れ去らなかったとは書かれてないから」

 

「ねずっ───」

 

「───来た」

 

「来ましたの」

 

 翼が風を切る音がする。鳥のそれとは違って、重厚な体躯が巨大な翼を用いて飛翔するその音の源は、遥か上空から豆粒のような影を落としていた。

 

「もう学舎(まなびや)(その)*2からだいぶ離れたわよね」

 

「うん。黒子の能力で、結構な速度で空間移動(テレポート)してきたね」

 

「なのにもう追いつかれるってのは、どういうことよ」

 

「見てればわかりますわ」

 

 豆粒よりも小さかったその影は、獲物に近付くために急降下しどんどんと大きくなっていく。小さな鳥の影が、違和感を覚えるほどの大きさになり、そして道路を走る車ですらすっぽり覆い隠せる大きさになった。

 

「っ、ドラゴン!?それも二体も……」

 

 それも当然。だって彼女は───

 

「迎えに来ましたよ、アマリリス」

 

 “竜の魔女”なのだから。

 

「早かったね、リリウム」

 

「この子が教えてくれましたから」

 

 リリウムが乗っていたオレンジ色の“竜”の頬を撫でる。“竜”は元になった人の特徴が出るけど、見覚えがないから全く知らない人かな。逆にあっちのトゲトゲした黒い“竜”はガオちゃんだ。

 

「っ、ドラゴンがなによ、ただ図体の大きいトカゲじゃないの!!」

 

「美琴、ダメッ!!!」

 

 ポケットから取り出したメダルを弾いて、彼女の代名詞ともいえる超電磁砲(レールガン)を放とうとしている美琴を全力で止める。ギリギリで手を引けたからか竜に気圧され手が震えていたのもあってか、光を纏って撃ち出されたメダルは、オレンジ色の“竜”の後頭部にお下げのように生える、上向きに大きく湾曲した角を片方千切るに留めた。

 

「……まさか、小牧(こまき)*3?」

 

 あのオレンジ色の“竜”は、私とは面識がなくても、黒子とはあったみたい。

 

「その人って、確か風紀委員(ジャッジメント)でアンタが面倒見てる新入りよね……アマリリス、アンタさっき()()()()()()()()()()()()?まさかアイツらって」

 

「うん、リリウムによって“竜”の役割を被せられて洗脳されちゃった子たち」

 

 リリウムの能力を使われた相手は大能力者(レベル4)まで上がるため、対外的には条件の合致した生徒のレベルを上げられるだけの『才人強化(レベルアッパー)』なんて言ってるけど、それは嘘。

 

 リリウムの本当の能力は『結末創造(ハッピーエンダー)』。リリウム曰く声の抑揚や、瞬きの回数、紅茶を飲むタイミングなどで緊張状態を緩和させ、そこに童話の読み聞かせをして一種のトランス状態に入りこませることで対象が観測する自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を童話の世界で上書きする、洗脳系の能力。学校で行われている能力開発を行う能力と言ってもいいかも。

 

 普段は『発火能力(パイロキネシス)』や『空力使い(エアロハンド)』なんかの“竜”の能力に似通う部分がある生徒だけに絞って能力を使うことで、表向きは単なるレベルアップ、裏では“竜”という手駒を増やしていた。

 

 ガオちゃんの能力は『才人強化(レベルアッパー)』の条件に合致しない『感応反射(リフレックスアンサー)』だけど、生徒会のメンバーは条件に合致しない能力でも“竜”の役割を被せられてるし、リリウムの性格から優秀なら誰でも“竜”にすると思うから、この小牧って人もリリウムに認められるくらい凄い人だったんだね。

 

「やっぱり、元々人間なのね」

 

「なんて非道な……とても人間のやることとは思えませんの」

 

「非道?人間のやることではない?貴女達……それ、本気で言っているんですか?」

 

 ……リリウムの能力は、特定の動作を見せつけ、読み聞かせをしたら発動する。その結果、能力がかけられた人は大能力者(レベル4)になれるし、役に関係ないところでは平和に学校生活を送れる。それは───

 

「もしそんなことを本気で言っているとしたら、貴女達は学園都市というものを理解していない。『孤児院(ランカスター)*4をご存知ですか?『暗闇の五月計画』*5、『才人工房(クローンドリー)*6……貴女に関係あることといえば『量産型能力者(レディオノイズ)計画』*7あるいは『妹達(シスターズ)*8、『絶対能力進化(レベル6シフト)計画』*9という単語を聞いたことはないですか、御坂さん?」

 

「……っ、ないわね」

 

「そう、それはとても幸運なことですね。超能力者(レベル5)の、それも第三位でありながらこの街の裏の顔を知らずに生きてこれたなんて。もし一つでも知っていれば、もし先に挙げた単語全ての意味を理解したら、きっと貴女はこう思うはずです。

 

───学園都市って、全部(どこも)クソだな

 

と」

 

 ───それは、人を操る手段の中で一番穏当なやり方。人に対する一番優しくて、暖かくて、怖くない方法。決して薬も電極も鎖も出てこず、暴力も刃物も無理矢理脳に流し込まれる他人の記憶も存在しない、優しい優しい支配。

 

「たったレベルを1上げる。それにどれだけ多くの血が流れているのか、貴女方はご存知でないのですね」

 

「そんなわけありませんの!お姉様は自らの努力だけで低能力者(レベル1)から超能力者(レベル5)まで上り詰め───」

 

「違うよ、黒子。個人の努力じゃない、学園都市全体の話をしてるの。モルモットに高度な芸を覚えさせるために、モルモットの頭をどんな風に切り開けばいいかこの街は試している。自分で二足歩行できるようになったモルモットの話はしてないよ」

 

 でも、それもまた貴重なサンプルだから多くの研究者から注目されているだろうけどね。

 

「モルモットって……言い方ってもんが、あるでしょうが」

 

 モルモット扱いされたら怒るよね。でも、そうなんだよ美琴。この街の子供たちは皆、大人のためのモルモットでしかない。それを見せるために、ゆっくりと袖を捲る。

 

「何……それ」

 

「自分でつけた……わけありませんわね」

 

 夏場だというのにずっと着ていた長袖の下には、まるで年輪のように等間隔についた縫合痕がある。右手だけしか見せてないけど左手にも、通常の制服よりもずっと長いスカートで隠された脚にも同じ痕が。

 

「美琴たちにはまだ言ってなかったね。物語が進行したからもう言えるかな。私の能力は『零距離痛(ストレンジペイン)』。私の傷や苦しみを周囲に広める能力なんだ」

 

 図書室で鼻血を出した時に、他の人も血を流したのはこの能力のせい。自力でONOFFできなくて、効果範囲を狭めるくらいしかできないし、それでも半径20mくらいあるからちょっと指を切っただけでも大惨事になる。

 

「『零距離痛(ストレンジペイン)』の原理はね、効果範囲内の人間の自分だけの現実(パーソナルリアリティ)において私と自分自身を同一視することによって、私が傷付いた=自分自身が傷付いたものとして観測し、結果として自らの能力で自分自身を傷付けてしまうんだって。でもさ美琴、リリウムと私が同じ人間に見える?」

 

「…………見えない、わよ」

 

「でしょう?声も目の色も髪の色も、髪の長さも身長も胸の大きさも、顔つきも癖も歩き方も違う。いくら自分だけの現実(パーソナルリアリティ)の中とはいえ、同一視するなんて無理だよ。だから私は、人が感情移入しやすいように作り変えられた。髪は何色にもなれるように白く、手足の長さも固定されて、背もこれ以上伸びないんだよ」

 

 私もリリウムみたいにもっと背が伸びて、モデルさんみたいになりたかったな。

 

「この都市には子供───特に置き去り(チャイルドエラー)に対しては何をしてもいいと思っている研究所が数多くあります。私たちが元いた『孤児院(ランカスター)』は、そういうところでした。すでに確立された自分だけの現実(パーソナルリアリティ)に対する干渉能力を開発することを目的に、身体を切り刻む場所。ですが、学園都市の裏ではこんな場所は珍しくもない。そんな汚い街をこれ以上アマリリスに見せるわけにはいきません。魔法の小部屋の中で、私たちは幸せになるのです」

 

 本当に、この街の裏側には『孤児院(ランカスター)』のような場所が腐るほどある。それは目を覆いたくなるような事実で、目を覆ったところで消えない瞼の裏に焼き付いた過去。

 

「私たちが見えてないだけで、この街が汚れてるってのはわかったわよ。でも、アンタはそれで良いわけ?」

 

「アマリリスもこのハッピーエンドには納得しています」

 

「アンタには聞いてない。答えて、アマリリス」

 

 私が、どう思っているか。それは……。

 

「………………私も、ハッピーエンドだと思うよ」

 

「……帰るわよ黒子。もう付き合ってらんない」

 

 そう言って踵を返す美琴。うん、美琴は帰れるかもしれないね。でも、黒子は違う。

 

「帰れませんの」

 

「は?アンタ何言って────」

 

 美琴の話を遮るように、“竜”が咆哮する。自らが“騎士”の敵であることを示すように。

 

「ええ、白井さんは帰れません。だってここで死ぬのですから」

 

 “御伽の姫”を連れ去った“騎士”の結末は、“竜の魔女”に殺されること。こうして連れ去ってしまった以上、あとは死ぬだけ。役を被っている以上絶対に覆せない。『結末創造(ハッピーエンダー)』とは、そういう能力なのだから。

 

「お姉様は先に帰っていてくださいまし。私はこの頭のおかしい淫蕩女を警備員(アンチスキル)*10につき出してから戻りますわ」

 

 ……それは、無理だと思う。“騎士”の役を被せられている限り、例え黒子が超能力者(レベル5)の、触れただけで人を殺せる能力だったとしても“竜の魔女”には敵わない。黒子がリリウムに勝てるとしたら、それは黒子が“騎士”の役を跳ね除けた時か、『御伽の姫と竜の魔女』のストーリーが変わった時だけ。

 

「ダメだよ黒子。戦っちゃダメ。逃げよう?」

 

「逃げる?何処へ逃げると言うんですの。これだけ空間移動(テレポート)を繰り返したというのにあっという間に追いつかれたんですのよ。それに、わたくしこのイカれた女を豚箱に押し込めなければ気が済みませんの」

 

 ……豚箱?さっきも警備員(アンチスキル)に引き渡すって言ってた。

 当たり前だけどどっちも『御伽の姫と竜の魔女』には出てこない。それに、事件の犯人を捕まえるのは王城に勤めてて王様の合言葉を盗み聞けるような立場の“騎士”の役目じゃない。“騎士”も盗賊を捕らえることもあるだろうから矛盾はしないけど、役的に外れた行為ではある……。

 

「……!美琴、黒子の口癖っていうか、決め台詞みたいなのない!?自分の立場を明確にできるの!!黒子から引き出して!」

 

「っ、黒子!!アンタなんで生徒会長を捕まえなきゃいけないの!!!!

 

「何故って、“竜の魔女”を返り討ちにして……あ、れ?」

 

 揺らいだ!“騎士”として自分がしなきゃいけないことと、今していることの差に気付いた!

 

「そうだよ黒子。返り討ちにするなら捕らえる必要はないよ。だって、生かすより殺す方がよっぽど簡単なんだもん」

 

 “騎士”として“竜の魔女”を返り討ちにするのと白井黒子が宿里海未を捕まえるのは、その難易度が大きく異なる。どちらも結果としてはリリウムの無力化だけど“騎士”の役割───“御伽の姫”を連れ去る役を遂行するなら、“竜の魔女”を殺してしまった方がいい。追っ手が居なくなるし、黒子なら『空間移動(テレポート)』でリリウムの頭に釘か何かを空間移動(テレポート)させるだけで完遂できるから簡単。

 

 だけど黒子はそれをしない。黒子の立場がそれを許さない。

 

「「黒子(アンタ)の右腕に着けた腕章(それ)はなに?」」

 

「わたっ…くしは……」

 

 “騎士”としての役目と黒子の立場によって生じた、殺害という最善手と捕縛という緩手の僅かな差が、『結末創造(ハッピーエンダー)』を打ち破る鍵になる。

 

「黒子がリリウムを捕まえるのは私の“騎士”だから?違うよね」

 

「黒子!事件に首突っ込むなら、一般人を安心させるために自分が何者なのかハッキリさせとく必要があんでしょ!!アンタは何!!?」

 

 

 だって黒子は────

 

 

「っ、風紀委員(ジャッジメント)ですの!!!

 

 

 “騎士”じゃない。

 

 

「能力の不正使用の現行犯、及び拉致監禁その他幾つかの容疑で連行させていただきますの!!」

 

「……驚きました。まさか役を跳ね除けられるなんて」

 

 自らが姫を守る剣でなく、市民を守る盾であることを示す盾の紋様が描かれた腕章(ジャッジメントの証)を見せつけるように引っ張って宣言する。黒子はもう『結末創造(ハッピーエンダー)』の影響を抜け出て、“騎士”じゃなくなった。これなら、黒子は────

 

「えっ?」

 

 “竜”は厄介だと思う。大きな体で立ち塞がれたらリリウムが見えなくなるし、炎を吐かれたひとたまりもない。その大きな翼で風を起こしたらきっと立ってられないだろう。そんな“竜”は美琴が抑えてくれるし、黒子は『空間移動(テレポート)』で彼女たちを無視できる。“竜”がほぼ無力化されるなら“竜の魔女”はほとんど何もできないと言っていいかも。

 

「確保、ですの」

 

 だから、だから十分勝機はあったはずなのに。

 

「黒子っ、アンタ何して……」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「うるさいですのよお姉様。大人しく捕まって一晩反省してくださいまし」

 

 美琴の左手を捻り上げ、その背中を地面に縫い付けるように脚で踏みつける黒子の目は、お星さまみたいな十字のきらめきが宿っていた。明らかに普通じゃない、キラキラと澄んでいるのに正気を失った目。

 

「……っ!!この感覚、食蜂のっ」

 

「話には聞いていましたが、やはり効きませんか。漏れ出る微弱な電磁波が『心理掌握(メンタルアウト)』の洗脳を弾いてしまう。やはり厄介ですね、超能力者(レベル5)は」

 

「アマリリス!どういうこと!!?」

 

「し、知らない……わかんない!」

 

 黒い“竜”(ガオちゃん)の上に乗り換えて、美琴へとリモコンを向けているリリウム。リモコンを向けて他人を操る能力は常盤台のもう一人の超能力者(レベル5)、食蜂って人の能力のはず。いくら似てる精神系だからって、能力は一人一つの原則が覆せるはずがない……!!

 

「……酷いね、リリウム。家族()にすら隠してたなんて」

 

「おいたする悪い子に隠してることがあったように、私にも家族にすら隠してることがあるんですよ」

 

 ああ、なんで気付かなかったんだろう。黒子が“騎士”の役という自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を植え付けられたのに『空間移動(テレポート)』が使えて、ガオちゃんが“竜”の役という自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を植え付けられたのに『感応反射(リフレックスアンサー)』が使えてて、私が“御伽の姫”の役という自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を植え付けられたのに『零距離痛(ストレンジペイン)』が発動してるのに、リリウムの能力が一つでない可能性がないわけない。

 

 でもどうやって?自分だけの現実(パーソナルリアリティ)は脳の何処かにある機能の一つに過ぎないはず。まだ未解明の部分が多いとはいえ、目玉が三つ目が生えてきたりしないように、おいそれと増えるようなものじゃないと思う。

 

「……っ、何!?」

 

 思考をかき乱すように、電話が鳴り響く。私のでもリリウムのでもない着信音は、美琴の腰の辺りから響いていた。

 

「どうぞ」

 

 リリウムに促されるまま、黒子が美琴のポケットをまさぐる。取り出されたのは可愛いカエルのキャラクターを模した携帯電話。着信音と共に震えているのが見て取れた。美琴の腕を捻り上げたままの黒子が、片手で器用に携帯を開き美琴の耳に当てる。

 

「……っ、初春さん?悪いんだけど今取り込み中で────佐天さんが倒れた?それは……わかった。こっち片付けてすぐ行く」

 

「おや、どうやらそちらは急用ができてしまったようですね。“騎士”もいなくなってしまったことですし、今日はお開きにしましょうか」

 

 頭の中の“御伽の姫”が“竜の魔女”へ助けてって叫びたがってる。外は夢見ていたよりも暑くて、寂しくて、そして怖いと。ここで全部終わらせて欲しいと。

 

 でも、アマリリス()は違う。ここにいたくて、小部屋に一人は寂しくて、だから美琴たちに助けてほしくて、それでも“御伽の姫”の役から外れることはできなくて。

 

「リリウムッ────」

 

 だから、名前を呼ぶことしかできない。それが、私のできた精一杯の抵抗。

 

“御伽の姫”(あなた)を連れ去った人間を殺せば、『御伽の姫と竜の魔女』のストーリーは進みます。私は別に、それでもいいんですよ?」

 

「……っ、わかった……戻るよ」

 

 差し出されたオレンジ色の“竜”の腕に乗って、リリウムがいる黒い“竜”の背に乗る。悔しそうな、焦ったような表情を浮かべる美琴と無感情な黒子を置いて、“竜”は飛び立った。

 

「ああ、言い忘れてました。目撃者の記憶はこちらで処理しておきます。白井さんは……今日一日の出来事は忘れてしまうでしょうね」

*1
能力者が観測している世界

薬物等でこいつを実際の現実とごっちゃにすることで自分だけの現実(パーソナルリアリティ)で起きたこと=実際の現実で起きたこととして観測し、観測した以上結果が確定したものとして能力を発動する

ガチで説明が面倒くさい概念

*2
常盤台含む5つのお嬢様学校が共同運営する男性立ち入り禁止のエリア

男性でも招待された場合は入れる

*3
常盤台中学一年牧上(まきがみ) 小牧(こまき)

風紀委員(ジャッジメント)として白井黒子の後輩であり、食蜂派閥の一員

食蜂操祈(“王様”)に命じられ、さらに宿里海未(“竜の魔女”)に役を被せられて、自身の能力である『潜伏遊撃(ハイドアンドレイド)』で透明化してアマリリスの監視をしていた

*4
Shadowverseにおける才気学園編の舞台となった学園国家の名前

Shadowverseにおいて学園国家ランカスターとアマリリスたちがいた孤児院のつながりはなかったが、本作においてはアマリリスたちが能力開発を受けた孤児院の名前をランカスターとする

*5
超能力者(レベル5)の第一位、一方通行(アクセラレータ)の人格、演算方法を分割して植え付けることで被検体となった子供の能力の向上を図った実験

特に関わってこないので忘れていい

*6
天才や偉人を人工的に作り出すことを目的とした研究所

ある人物のクローンを作ったり、実際に超能力者(レベル5)を育てたりしてる

ほとんど乗っ取られてて関わってこないから忘れていい

*7
先の『才人工房(クローンドリー)』で作られたある人物のクローンを量産し、最強の能力者軍団を作ろうとした計画

クローンは元になった人物の1%に満たない能力しか使えないことが判明して取りやめになったので忘れていい

*8
量産型能力者(レディオノイズ)計画』で失敗に終わったものの、別の計画に転用するため生み出された2万体+αのクローンたち

最終的に半分死んでる

*9
妹達(シスターズ)』を2万体殺させることで一方通行(アクセラレータ)超能力者(レベル5)から絶対能力者(レベル6)にしようという計画

現時点だと多分9000体くらいしか殺れてない

*10
学園都市の治安維持組織

教員がボランティアでやっているため能力を持たない大人のみで構成される

逆に子供のみで構成される治安維持組織として風紀委員(ジャッジメント)がある

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