◈天織有栖→御坂美琴
暗闇に包まれている。何も陽がとっくに落ちきってしまった、街灯もない河原にいるからというだけじゃない。身体が夜闇に包まれているように、心も真っ黒な暗闇に呑まれてしまっているような気分。
「なんで……」
佐天さんが倒れたとき、学園都市中で人が倒れたそうだ。その原因は『
多分、私が追い詰めてしまった。佐天さんが
「なんでっ!」
せっかくアマリリスを外に連れ出して、黒幕に手が届いたところで取り逃してしまった。終始翻弄されて、戦えてすらなかった。目撃者の記憶も監視カメラの映像も差し換えられて証拠は一つも残らず、結局アマリリスが───友達が再び連れ去られて閉じ込められてしまった。
「荒れてますね。ですが門限破りは感心しませんよ」
「……アンタもでしょ」
「生徒会長ですから、ある程度の融通は利くんです」
穏やかな笑みを浮かべたソイツは、まるで友人に語り掛けるような態度でにこやかに述べる。今のところアマリリスを閉じ込めている黒幕で、佐天さんを昏睡させている可能性のあるソイツ。
「言葉を間違えたわ。なんでアンタが、ここにいるのよ!!」
雷が迸る。文字通り光の速さで空気中を駆けた閃光は、しかし狙いの相手を貫き、焼き焦がすことはなかった。
「ふふっ、実のところ私も寮監の許可を取らずに抜け出してきているんです。お互い、バレる前に戻らないといけないですね」
「アタシはもうバレて怒られるのが確定してるから、いくらでも時間をかけてやるわっ!!!!」
全周囲に向けた大規模放電。一瞬昼間になったのかと思うほどの光と共に四方八方雷が飛び散ったのに、これもまたアイツを焼くことはない。
「空がなぜ青いのか。それは空気が太陽光を散乱して、青い光だけが残るから。そして日が沈んだあとも空気は残る。だから夜中でも強い光があれば空は青く見えるっていうの、本当だったんですね。一緒だけ、綺麗な青空が見えましたよ」
「さっきからぴょんぴょんぴょんぴょんと!『
さっきから繰り出す攻撃の全てが
「正しくは『
「じゃあ攫われる前に一つ答えて。今巷で噂の『
「いいえ?確かに私の能力は対外的には『
違うの!?あまりにタイミングが良かったし、類似する能力だったからコイツが犯人だと思ってたのに!
「なら犯人を知ってる、のっ!!」
砂鉄によって作られた剣撃。完全に死角からの一撃だったはずなのに、気付けば砂鉄の剣の後ろにいた。まるですり抜けるような、ギリギリのタイミングでの
「ええ、一応は。ですがきっと、ご自身で確かめた方が良いですよ?私が教えてしまったら、犯人がなぜこんなことをしたのかを知る機会がなくなってしまいますから」
「それ知ってどうしろってのよ」
「さぁ?それは貴女次第ですが、知らないままでは必ず後悔しますよ」
後悔?友達を傷付けられて、その犯人に同情できるっての?確かに私は甘いところがあるかもしれないけれど、それでも到底許すことはできない。どんな理由があっても、多くの人を昏睡させて良い訳じゃない。
「そう怖い顔をしないでください」
「そんなあからさまな殺気向けられといて怒るなって方が無理よ」
「あら、バレてましたか。ええ、貴女にはここで死んでもらいます。今際の際ですし、まだ聞きたいことがあるならもう少しお付き合いしますよ。そうですね……二問くらいなら答えましょう」
ずいぶんと余裕があるじゃない。ま、確かに私の攻撃は当たらないし、あっちは私の心臓にナイフでも
「……んなわけ、ないでしょうが!!!」
自爆に等しい広範囲落雷。昨夜のように周囲の電源全てが落ち、再び街は暗闇に包まれる。
自分でも周りが見えなくなるくらいの巨大な雷を落としたけど、正直当たってる気はしないというか、確実に当たってない。さっき青空がどうとか言ってたから、光が散乱しきる距離までは一瞬で跳べるっぽいし。でも、そこまでの距離跳ばせたら十分!
「あら、してやられましたね。こんなに真っ暗だとどれが御坂さんかわかりません」
砂鉄を固めて作った人形。平時ならともかく、巨大な落雷という鮮烈な光を浴びた直後のブラックアウト下ではまず見分けられないはず。
「ずっと考えてたのよ。なんでさっきアンタは『
私が今砂鉄を操ってるみたいに、一つの能力で複数の事象を起こせることもあるけど、それも結局元の能力の延長。私だって『
じゃあなぜ能力が二つ使えたのか。それは簡単な答え。彼女の能力を知ってるんだったら予測し得る話だった。
「自分に『
例えば薬かなんかで身体の自由を奪われたとき、私ならやろうと思えば自分の生体電気を操って無理矢理動くこともできる。やったことはないし、絶対やりたくもないんだけど、自分自身に対しても能力を行使することは可能だ。食蜂だって『
「……っ」
「今、初めて動揺したわね」
これまでずっと優雅さを保ち続けていたその人影が、一瞬だけその雰囲気を崩す。すぐにまた元の余裕ぶった姿勢に戻るけれど、その一瞬の揺らぎを見逃すほど甘くはない。
「そんでアマリリスはアンタの能力『
上書きっていったら、DVDに入った番組を消去して新しい番組を書き加えるようなこと。仮に新しい番組を消去しても元の番組は戻ってこない。でも、黒子は戻ってきた。“騎士”の
それはきっと、
「でも自分に対しては別。自分自身の能力である以上、自分の
他人の部屋を見ないで模様替えするのは難しいが、自分の部屋ならできる。能力が
「考えられるのは一定回数使うか一定時間経過すると『
「ふふっ、正解です。ですが、それがどうしました?この人影全部の頭に石でも
「簡単な話よ。そう長い時間ではないだろうし……時間が来るまで逃げる!!さすがに不規則な動きをする人形全ての頭に同時に
足止めのため何体かは突っ込ませて、残りは全員別方向へと走らせる。砂鉄の人形はそんなに耐久力はないけど、走るだけならそんなモンなくても!!!
「同じ動きの人影の中に、一つだけ動きが機敏なのがいますね。そう、わざわざ川の方へ逃げている貴女」
川の方へと走らせた人影の頭が弾け飛ぶ。でも残念、それじゃない。敢えて一体だけ動きに差をつければ、それを狙うと思ったから。
「ではこちらの、妙に遅れている方?」
土手を駆け上がっていた一体の身体が弾け飛ぶ。だけどそれも違う。そいつは単に操作範囲ギリギリにいたから操作し辛くなっただけ。正解は────
「ここよ!!!」
「あああああああああっ!!!!!?」
纏った砂鉄を振り払い、生徒会長の腕を掴んで流せるだけの電流を流す。雷に打たれたに等しい電流を浴びてさすがの生徒会長も耐えられなかったのか、ぐったりと倒れ伏した。
「死んでない、わよね。気を失ってるだけ……ってこれ
一瞬で逃げられちゃうから手加減なしの全力ブッパだったけど、逆に手加減してたら倒せなかったわねこれ。相手がハッキリしてるなら事前に対策を立てるくらいするって、それぐらいわかったはずなのに。考える余裕がなかったから結果的に勝てただけで、もし反射的に手加減してしまっていたら……さっきの砂鉄の人形みたいになってたってことよね。
「……うぅ、っ……砂鉄を纏って、他の人形と同化していたとは。さらに逃げるなんて言ったくせに他の人形と一緒に突っ込んでくるなんて」
「逃げて勝てるならそうするわよ。でもそうじゃないでしょ?私って結構負けず嫌いなのよね」
他の人形と完全に一致させるために顔まで覆ったから前が見えなくて大変だったわ。前に黒子が言ってた生体電気を感知するってやり方を試してみたけど二度とやりたくないわね。というか普段だとその辺の電線と混同して出来ないだろうし。
「人影が一回り大きかったのは全身を覆った砂鉄の大きさに合わせるため、というのはわかるのですが……胸を必要以上に盛ったのはなぜですか?それも巨大というほどではなく控えめに」
「うっ、うるさい!!」
もっぱつ軽めの電流を喰らえオラァ!!乙女の見栄と尊厳ってモンがあんだぞコラァ!!!
「っ、いぅ……」
あっまずい、電流流しながらガクガクさせてたら今度こそ死にそうになってる!さすがにやりすぎたから一旦安静にさせるけど、意識は失ってないし能力開発受けた人間はたまに異常な耐久力を発揮するから多分大丈夫でしょ。
「アンタ、さっき質問に二つ答えるって言ってたわよね」
「すでに幾つか質問に答えた気がしますが……はい、そうですね。何か聞きたいことがあるならお答えしましょう」
負けたんだからもっと答えろや、とは思わなくもないけれど、質問はすでに決まってる。
「私の命を狙ったのは私が『
「ええ。それだけなら見逃したのですが、貴女はアマリリスと話しましたから」
話すのすら禁止なのかよ……黒子よりヤバい変態なんじゃないのコイツ。生徒会長としての姿はちょっと尊敬できてたのに。
「じゃあ二つ目、私が“騎士”としてでなく自分の意思でアマリリスを図書室から連れ出したら、アンタは私を殺しに来る?」
「はい。“御伽の姫”を連れ出した以上は“騎士”として扱えますので“竜の魔女”が殺すことによってハッピーエンドが迎えられます」
まあさっきもそんな感じのこと言ってたしね。予想通りの回答だったわ。
「よしっ」
この回答で腹決まった。というか、聞く前から決めてたんだけど、気分的にもう一度腹を括る。
「この『
「……いいのですか」
「いいわよ。だって一回勝ってるし」
「だからとっとと話しなさい。その『御伽の姫と竜の魔女』ってヤツを」
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両方あると嬉しい