学園都市ってどこもクソだな【分割版】   作:あしゅけーね

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7月23日15時頃

 

 

 ◈美琴美琴→天織有栖

 

 

『あら、ここに人が入ってくるなんて珍しいですね』

 

 打ちっぱなしのコンクリートの廊下を抜けた先、大人たちからは入っちゃダメと言われた部屋に彼女はいた。柔らかい金色の髪に、穏やかな日差しのような微笑み。窓の無い部屋だったけど、明かりに照らされて本を読む彼女の姿は、まるでそよ風に吹かれるように優雅で、絵画から抜け出て来ちゃったのかと思ったくらい。

 

『私は329番。貴女は……』

 

『私は14番です。ですがそんな名前は可愛くないでしょう。そうですね……リリウムとアマリリスなんてどうでしょうか?どちらも同じ花の別名なんです。素敵でしょう?』

 

 そうだ。アマリリス(この名前)は、このときリリウムが付けてくれたんだった。

 

「っ……夢?」

 

 懐かしい夢。私たちが初めて会った時の。

 あれからこっそり忍び込んではリリウムに色んな本を読んで貰った。どの童話に対しても淡白な態度を取っていたリリウムが唯一気に入ったハッピーエンドが『御伽の姫と竜の魔女』。だけど私は……

 

「アンタ、納得してるの?」

 

「……美琴?三日ぶりだね。納得って何が?」

 

「あの結末がハッピーエンドかどうかよ」

 

 あの結末……きっと『御伽の姫と竜の魔女』のことかな。この話がハッピーエンドかどうか、か。

 

「ハッピーエンドだよ。リリウムがそう言っているから」

 

「……昨日、『幻想御手(レベルアッパー)』事件が解決した。犯人は木山(きやま) 春生(はるみ)*1。ある実験により昏睡状態になってしまった教え子たちを目覚めさせるために『幻想御手(レベルアッパー)』を使用した一万人の脳を繋げて巨大なネットワークを構築することで、その方法を探ろうとしていたわ」

 

 一呼吸おく。まるで抱きしめるようにそっと肩に乗せられた手は力なく震えていて、まっすぐこちらを見つめる目は何処となく涙ぐんでいるように思えた。

 

「その実験は、能力を意図的に暴走させるというもの。犠牲になった子は皆、置き去り(チャイルドエラー)だった。アンタも、そういうのを見てきたんでしょ」

 

「……うん」

 

 『孤児院(ランカスター)』にいたあの日、身体を切り刻まれて、繋ぎ合わされて、その中で他の子がどんどんいなくなっていった。最初は皆が帰りたくなくなるくらい素敵なところへ行ったんだと思ってたけど、今はそうじゃないことくらいわかっている。

 

「確かに、この街には目を覆いたくなるような非道がある。そんな汚い部分を見せたくないから閉じ込めたくなるのも分かるわ。でもこの街はそんな汚いところだけじゃない。私が黒子に初春さん、佐天さんや貴女と出会えたように、素敵なところもいっぱいある」

 

 肩に添えられた手が強張る。きっと美琴は無意識なのだろうけど、ギュッと握りしめられた指先が肩に食い込んでいく。

 それでも、その痛みを感じさせないほどの悲痛な熱が、そこにあった。

 

「汚いものを見せないように小部屋に押し込めて、綺麗な景色をみる機会を奪っていい権利なんて誰も持ってない。答えて、天織有栖。生徒会長を慮らなくていい、貴女自身がこの結末に納得しているかどうか」

 

 私が、『御伽の姫と竜の魔女』をどう思っているか。

 

「……違うと思う。本当のハッピーエンドは、御伽の姫も竜の魔女も騎士も皆が満足できる終わり方」

 

「なら、結末を変えなきゃね」

 

 手を引かれるがままに連れてこられたのは図書室の入り口。重く閉ざされた扉をゆっくりと開ければ、窓から差し込む日差しの暑さと眩しさが飛び込んでくる。

 

「さ、行きなさい。最後の一歩は貴女が踏み込むの。誰に連れ出されるもなく、自分の意志で外にでなきゃ結末は変わんない」

 

「ダメだよ、美琴。それはできない。“御伽の姫”は魔法の小部屋から出ようとすると“病気”が発症しちゃうの。誰かに連れ出されないと、私───」

 

 痛みが走る。皮膚が裂け、肉が断たれ、血が溢れる。幸いなことに見える範囲には誰も居なくて、怪我が伝播されることもないみたい。

 

 美琴を除いて。

 

「黒子がやったみたいに、アンタも根性見せんのよ!!」

 

 痛いはず。苦しいはず。だって私がそうだから。私が一歩下がれば治まるのに、立ち塞がる美琴はそれをさせない。

 

「無理だよ。だって“御伽の姫”はアマリリスなんだよ。“騎士”と違って、最初から役を被る人が決まっていた。“御伽の姫”のやることはアマリリスのやることなの」

 

「でもアマリリスのやることは“御伽の姫”のやることじゃないでしょ!だって貴女は役に制限されていた!!“御伽の姫”の役が、天織有栖と完全に一致してない証拠よ!!そんでその差があれば、黒子みたく役を脱ぎ捨てられる!!一歩踏み出せ!!貴女が踏み出さなきゃ、何も終わらないわよ天織有栖!!!!!!」

 

 踏み出さなきゃ、変われない。痛みを抱えたままでしか、何かを捨てることはできない。役を捨てなきゃ、結末を変えることはできないんだ。

 

「美琴」

 

 溢れる血を拭って。痛みを奥歯で噛み殺して。一歩、外へ。

 

「屋上に行こう。“竜の魔女”は“騎士”を殺すために、屋上で待ってるはずだよ」

 

 リリウムと話すんだ。

 

「こっちよ」

 

 駆け上がった階段の先、鍵の開いている扉を潜れば、綺麗に手入れされた植木に囲まれた屋上。幾つか設置されたパラソル付きのテーブルは生徒たちで埋まっており、そのなかの一組にリリウムとガオちゃんがいた。

 

「……リリウム」

 

「来ましたか、アマリリス。では、幸せな幕引きとしましょうか」

 

 片手を上げれば、お茶をしていた他の生徒たちが立ち上がる。生徒会メンバー以外もいるからまさかとは思っていたけど、全員が“竜”だ。

 

「ちょっ……っと多いわね。十六体のドラゴンは予想してなかったかも」

 

「元々は普通の人だから怪我させちゃダメだよ?“竜”は頑丈だからそうそう重傷は負わないと思うけど、狙うなら翼か尻尾にして。そこは人間にはない器官だから傷付けても大丈夫なはず」

 

「んな無茶な……!」

 

 流石に美琴でも十六体の、それも多様な能力を使ってくる“竜”を相手取るのは無理そうかも。でも私はリリウムと話さなきゃいけないし、そもそも私が出来ることがない。せめてもう一人戦える人が居てくれたら……。

 

「人間の脳には記憶を消去する機能がついていないそうですの。忘却とは記憶を想起できなくなるだけで、記憶そのものがなくなるわけではないんですのよ。脳をごっそりと削り取らない限りは」

 

 どこからか降ってきた網が一体の“竜”を絡め取り、そのまま地上へと墜落させた。その直後に空間移動(テレポート)してきた小柄な人影。特徴的な二房の茶髪を棚引かせた彼女は───

 

「黒子!?なんでここに!!?」

 

「ドラゴンが見えたら誰だって飛んできますの。ですがわたくしがここに来たのは何時ぞやの借りを返すためですわ、宿里生徒会長」

 

「……『心理掌握(メンタルアウト)』の洗脳をどうやって解いたのですか?確かに私が使う分にはいく分か性能が落ちるとはいえ、自力で解けるものではないのですが」

 

「そんなもの、同じ『心理掌握(メンタルアウト)』を頼ったに決まってますの。この白井黒子、お姉様のためであればいくらでも頭を下げますわ。例えそれが食蜂操祈相手であっても*2

 

 黒子が来たことで戦える人が二人になった。それでも数の差があるから厳しいかもしれないけど、美琴たちならやってくれる。

 

「久しぶりに、お話ししようリリウム」

 

「いつもしているではないですか。ですが決着がつくまでの間の時間潰しには良いですね」

 

 炎と雷が入り混じり、石や丸太が飛び交い“竜”を撃墜していく喧騒の中でも、リリウムはその優雅さを崩さない。揺れるテーブルの上であっても一滴も紅茶を溢さず、吹き荒れる風に呑まれても髪が乱れることがない。

 

「リリウム。私ね、貴女に謝らなきゃいけないことがあるの」

 

「“竜”が、それが敵わなければ私が、貴女を連れ出した“騎士”を打ち倒せばハッピーエンドです。なのに何を謝るというのでしょう」

 

「ううん、美琴は私を連れ出してないよ。私が図書室から出てきたの」

 

 暴風に煽られ、テーブルに備え付けられたパラソルが飛んでいく。それは風に乗ってさらに高く舞い上がり、あっという間に見えなくなった。

 

「何を言っているのですか……?貴女は、ハッピーエンドに至りたくないと?」

 

「ううん、誰だって、ハッピーエンドに憧れる。皆幸せな結末を望んでいる。リリウムも私も、黒子も美琴も。ガオちゃんもあの“竜”の子たちも」

 

 落雷が強烈な閃光を齎し、周囲が一瞬暗くなる。“竜”の咆哮が響き、何か大きなものが落ちる音がした。

 

「私ね、『孤児院』(あの場所)でリリウムと出会って、329番からアマリリスになれたのが嬉しかった。きっとあの時、329番は最高のハッピーエンドを迎えたんだと思う。だからリリウムには、誰かの名前を奪うようなことはして欲しくない。ねぇ、リリウム。あの“竜”の子たちは、なんて名前なの?」

 

「……アマリリス」

 

 その声は優しくて。まるで癇癪を起こした子供を宥めるような声色で、さも当然のようなことを述べるような顔で。

 

()()()()()()()()()()()()?」

 

「……え?」

 

「物語には描かれない者たちがいます。お城に住まう名もなき召使いのことを誰が気にするのですか?この物語の主役は私、ヒロインは貴女。描かれない者はないのと同じ、気にしなくて良いのです」

 

 それは本心からの言葉。本心からの困惑。落ち葉を踏むことを躊躇わないように、名前もない人を気にかけない言葉。

 

「貴女だって、覚えていないでしょう?暴走した『零距離痛(ストレンジペイン)』によって斃れた『孤児院(ランカスター)』の研究者や、他の置き去り(チャイルドエラー)たちの名前を」

 

「───っ!ダメだよ。だからこそ、私たちはハッピーエンドを迎えちゃダメ」

 

「なぜ?幸せになってはいけない人なんていませんよ。……ああ、“騎士”に何かを吹き込まれたんですね?だとしたら、だとしたら───私、少し怒ってしまいます」

 

 飛んできた小石が、ティーカップを割る。溢れた中身がリリウムのスカートに広がった。

 

「───()()()()()()()”。そうですよね?アマリリス」

 

「……違うっ!」

 

 違う。私は“御伽の姫”じゃなくて、黒子と美琴と───リリウムの、友達。

 

「私は、天織有栖(アマリリス)だよ。宿里海未(リリウム)

 

「これは驚きました。『結末創造(ハッピーエンダー)』を打ち破るには強固な自我───強大な自分だけの現実(パーソナルリアリティ)が必要。ですが、結局は同じこと」

 

「有栖!!」

 

 一体の“竜”が飛来する。雷撃を掻い潜り、飛び交う礫を避け飛ぶ“竜”の振るう爪は、僅かに掠っただけで景色を一転させ、視界いっぱいに地面が広がった。

 

「役を拒んだとはいえ、“竜”の力は現実。意志の力だけでは、対処は不可能です」

 

 一条の閃光がテーブルを貫く。リリウムは崩れたテーブルを無視して倒れる私に近付き、スカートの裾が汚れることも気にせずに跪いて手を差し伸べた。

 

「さぁ、私の下へ。もう怒っていませんから」

 

「……私、謝らなきゃいけないことがあるって言ったよね」

 

「ふふっ、だからもう怒っていませんのに」

 

 ううん、違う。謝らなきゃいけないのは、今じゃなくてあの日のこと。リリウムが全てを始めた、あの日の嘘。打ちっぱなしのコンクリートに囲まれた、小さな部屋で『御伽の姫と竜の魔女』を初めて読んだときの小さな嘘。

 

『───魔女は、お姫様の手を引いて。彼女を城へと連れ戻しました。2人はいつまでも、幸せに暮らしましたとさ。……ふふっ、素晴らしいハッピーエンドでしたね?』

 

 リリウムと一緒にいたくて。リリウムに嫌われたくなくて。だから……

 

()()()()()()?』

 

 あの小さな嘘が、私の、私たちの間違いの始まりだった。だから、今日ここで、間違いの全てを正さなきゃ。

 

「私ね、あの童話を……ハッピーエンドだって、思ってないの」

 

「……え?」

 

「ごめんなさいリリウム。あの日のこと、ずっと謝りたかった」

 

 差し出された手が震える。信じられないものをみるように、驚愕に震える瞳。

 

「嘘、嘘です。“騎士”に言わされているんでしょう?……そうだと言って。そうだと言ってください、アマリリス」

 

 図書室であの日の嘘(私の本音)を引き出したのは美琴。だから、“騎士”に言わされているというのもある意味では間違いでもない。だけど、私は今嘘はついていない。私がついた嘘は、あの日の嘘だけ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、貴女を止めなきゃいけない。これが私の本心だよ。───私にやり直させて、リリウム。もう一度、貴女のお友達から」

 

「私を止める……?アマリリスが、私の敵に?───嫌。そんなの、嫌よ」

 

 リリウムの不安に“竜”が呼応する。その数を半分以下に減らしたとはいえ、その身は強大。未だ劣らぬ脅威を示すように、あるいはリリウムの恐怖をかき消すように“竜”は声を上げた。

 

「……アマリリス、どうして……」

 

騎士と共にお城を出た御伽の姫は、色々なところを旅しました。

 

 外は暑くて、寒くて、苦しくて。何度も心が折れそうになります。

 

 だけどお姫様は諦めません。騎士と共に多くの苦難を乗り越えて行きました。

 

「な、に……?私の知らない物語……?」

 

お姫様が諦めずにいられたのは、お城で魔女が待っていたからでした。

 

 憧れの魔女に近付きたくて、お姫様は旅を続けられたのです。

 

 やがて、竜の魔女は騎士たちに追い付きました。そしてお姫様は、旅の中で学んだ魔法を魔女に見せるのです。

 

「……っ、“竜”の一撃を防いだ?あり得ません。そんなのは、“御伽の姫”じゃない!」

 

 そう、今の私は“御伽の姫”じゃない。“竜の魔女”に憧れて、魔法を使えるようになった“()()()()()()()()姿()

 

天織(あまおり) 有栖(ありす)だよ。宿里(やどりり) 海未(うみ)。この名前も、リリウムが用意してくれたんだよね」

 

 同じテーブルについて、紅茶を飲んで、同じ童話を聞いて、そして役を被せようとした。だったら、『結末創造(ハッピーエンダー)』は発動していて、私が受け入れればその役を羽織ることになる。ただし、羽織る役は“御伽の姫”ではなく、その未来の姿。書き換わった童話の中の私の姿。

 

「ちょっと有栖、さっきから力が溢れてくるんだけどアンタ何かした?」

 

「能力が強化されていますの。今ならいつもより大きいものも空間移動(テレポート)できそうですわ」

 

「うん、魔法を使ったの。正確には魔法を使える能力だね。今の私は、“騎士と共に旅する魔法使い”だから」

 

 身が裂け血がまき散らされる。図書室から出ようとしたときに起こる“病気”と同じ。あるいは、『孤児院(ランカスター)』で能力開発を受けていたときと同じ痛みが、全身に走る。

 

 でも気にしなくていい。今の私は『零距離痛(ストレンジペイン)』ではなくて、リリウムと同じ『未来想像(ハッピーエンダー)』なのだから。

 

「私の能力を利用して、自分自身の能力を上書きしたと?」

 

「うん。でも、できたのは少しだけ。やっぱりリリウムは凄いね。私には美琴たちを“竜”に変身させたりは出来なかった。できたのは、少しだけ力を強めること。私自身の結末(未来)を、想像することだけ」

 

「まさか、貴女が読み上げた童話の続きは───」

 

「うん、私が書いてみたんだ」

 

 リリウムが『御伽の姫と竜の魔女』を書いたみたいに。

 

「“御伽の姫”は“騎士”と一緒にお城を出ていくの。“竜の魔女”に憧れて、いつか彼女を超える偉大な魔女になるために。だからリリウム。あなたは、あなただけは私が止めるよ」

 

「……何故、何故です!何故私を拒もうとするのですか!?ずっと、ずっと一緒だったのに……!」

 

 拒んでいるわけじゃない。むしろその逆。あの日拒めなかった私が、嘘をついてしまった。

 

「怖かった。全部全部、あなたと一緒が良かった。その方が、楽だった。……だけど、今なら分かるよ。私とあなたは……最初から違うものを見ていたんだね」

 

「……どういう、ことですか?」

 

「私たちは置き去り(チャイルドエラー)だった。当時、リリウムはその意味を正しく理解できてたんだよね。だから『結末創造(ハッピーエンダー)』なんて他者を───この世界のものを上書きする能力になったんだ。能力と性格は関係があるんだって。リリウムはきっと、自分じゃなくて世界を変えたかったんだ」

 

「…………」

 

「リリウムは、この世界が嫌いなんだね。この世界が嫌いだから、世界に“竜”や“村人”の役を与えて、私とあなただけのハッピーエンドを目指した」

 

 沈黙。長い長い沈黙。轟く雷鳴と降り注ぐ石の雨音に包まれた静寂は、今までの二人の間になかったもの。これからの二人を表すもの。

 

「……何を、何を知った風に!!」

 

「私ね、学園都市に来て良かった。黒子に会えて、美琴に会えて───あなたに会えた。もし顔も覚えていない実の親が、もう少しだけ愛があったとして、もしあの時『孤児院(ランカスター)』に行かなくても良くなったとして、それでも私はもう一度あそこに行くよ。あなたに会うために」

 

 何かが違う形でやり直す機会があったとして、それは何の意味も持たないでしょう。だって私は、何回でも同じ選択をするのだから。

 

「私は、この世界が好き!リリウムに会えたこの世界に生きることが幸せだって思ってる!!もう一度があっても、私は今のまま

───天織有栖(アマリリス)で居たいんだ、宿里海未(リリウム)!!!!!!

 

「そう、そうですか。結局貴女も、私の姫ではなかったんですね」

 

「……っ!?」

 

「もういいです。構いません。誰にも私の孤独は理解できない」

 

 いつしか周囲の喧騒は止んでいた。残る“竜”は僅か二体。何時ぞやのように黒とオレンジの“竜”を、美琴と黒子が相手取る。

 

「私の親は、望んで私を『孤児院(ランカスター)』へと送ったんですよ。学園都市の暗部で何が行われているのか、それを薄々知りながら。いえ、あくまで噂程度のそれを信じて、望んで私が苦しむように」

 

「リリウム…っ!」

 

「私はあの孤児院が嫌い。この世界が大嫌い!……それでも、生きるためにあの童話を選んだんです。“御伽の姫”は、貴女じゃなくてもいい。だから───お前なんて消えてしまえ!!!!」

 

 それは悲痛な叫び。やっと出てきた、リリウムの本音。世界が嫌い。だから、童話で世界を塗り潰してしまいたい。それが、リリウムの本当。だけど───

 

「まだ、リリウムは嘘つきだ。私じゃなくてもいいなんて嘘。あなたには私じゃないと、私には、あなたじゃないとダメなんだ」

 

 拾い上げたティーカップの破片を喉に突き立てる。肌を破いて、肉に食い込んだ陶器の破片から伝う血が地面に滴って。

 

「───っ!何をしているのですか!?」

 

 そして、優しい手が強く握り止めた。

 

『ねぇ、アマリリス。わたしたち、ずっとずっと一緒です。わたしが守ってあげます。あなたを、幸せにしてあげますから』

 

『うん、約束だよっ、リリウム。リリウムとわたし───二人で幸せになろうね!』

 

 それは、幼い日の約束。未来も過去もない孤児院のなかでの、未来を誓った約束。

 

「アマリリスっ!」

 

 魔法の時間はもう終わり。『結末創造(ハッピーエンダー)』の効果は切れて、“竜”になった子たちが元に戻って行く。『未来想像(ハッピーエンダー)』も同じように切れて、私の首に刺さった傷が『零距離痛(ストレンジペイン)』によってリリウムへと広がり、流れた血が赤い染みとなって真っ白な襟を染め上げた。

 

そしてお姫様は騎士と共に、また旅に出ました。

 

 ですがお姫様はもう怖くありません。だって、お城にはとても素敵な竜の魔女が待っているのですから。

 

 私が、あなたがこの世界を好きでいられるように、ずっと私の帰る場所で居てね。好きだよ、リリウム……。家族と…して……」

 

「……ええ、好きですよアマリリス。  (家族)として」

*1
大脳生理学者

ある実験のために置き去り(チャイルドエラー)たちの教師をさせられており、本人は実験のことを知らなかった

幻想御手(レベルアッパー)』を作った人

*2
別に食蜂と黒子の仲は悪くないというか、食蜂は黒子を高く評価してる

が、食蜂と美琴は仲悪い

今回は美琴の不利益にならない範囲で一度だけお願いを聞くという条件で黒子にかかってた洗脳全てを解除してもらった

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