リニスとディーを拾ってから一週間。
実に充実のない一週間だったと言わざるを得ない。
朝起きる。
飯が出来ている。
食べる。
ジョギングに行く。
帰ると風呂が沸いている。
学校行く。
帰ると飯が出来ている。
食べる。
寝る。
俺なんもしてねえな。
まあ家事しろっつったのも俺なわけで。文句の一つも言えない。言う気もないが。
「フウル、ご飯だよ」
「……ん、ああ。今行く」
そして日曜なのだが。昼食が出来上がったようだ。
ふむ、飯食べたら図書館にでも行こうか。ちょうどストックが切れたことだし。
「図書館? ボクも行っていいかな?」
昼食。外出を伝えるとディーが言ってきた。
「別に構わんが……お前、本読めるのか?」
「む、ボクだって本くらいーー」
「日本語」
「……」
そう、残念ながらディーは地球人ではない。いや宇宙人でもないが。
地球人ではないなら必然的に地球語、ひいては日本語が読めるはずもない。
「では、フウルに教えてもらっては如何ですか?」
リニスがいい笑顔で提案してきた。
驚くことなかれ、リニスは人間に変身するのだ。
本来の姿は猫なので、拾った日は魔力不足で猫状態だったが。
休んで魔力が戻ったディーと改めて契約を果たし、魔力も潤滑になったので人間状態になり、家事の殆どを行っている。
ペットにして家政婦とは、ぬかしおる。
「俺は別に構わんが……」
「うん、そうしたい! 教えてフウル!」
「まあ、お前が覚えたいなら吝かではないよ」
そこでちょうど昼食も終え、出掛ける準備に入った。
「なんや大神くん、彼女いたんか?」
図書館へ侵入を果たしたと同時に、八神から言われた。
「あ?」
「か、彼女だなんて……」
ディーがウネウネクネクネしてやがる。
いや、お前男だし。彼女じゃないし。
「愛らしい彼女さんやなぁ」
「いや違う」
「え?」
「え?」
何故ディーまで驚く?
「コイツ男だぞ」
「……」
あぁ、ディーががっくしいっとる。いやだから、何故よ。
「……男?」
「いえす」
「……マン?」
「正確にはボーイ」
「……マジなん?」
「大マジ」
暫くフリーズしていた八神がようやく再始動する。
「こ、これで男の子やてぇ!? うっわ、頬とかモチモチやんか! こんなん卑怯や! 反則やんか!」
「落ち着け八神」
「これが落ち着いていられるかい! こんな理不尽あってはならん! 可愛すぎるやろ!」
可愛いやら愛らしいやら騒ぎ出した。喧しい狸だな。
そんなに騒ぐとこの図書館のガーディアン神こと司書さんが……あぁ、ほら、ハサミ飛んできた。
「司書さんごめんなさい、ほんますいません! ハサミ投げんといて!」
すんでのところで避けた。チッ、おしい。
「ぜぇ……ぜぇ……あ、危なかったわ……」
「落ち着いたか」
「あんなハサミやら飛んできたら落ち着かなあかんやろ……」
ご尤もで。
「で、コヤツ実は帰国子女と言う奴でな? 日本語話せるが読めないんだ」
「なるほどなぁ、だからこで日本語教えようゆうことか」
「おーるらいと」
棚に近付いて絵本やらを適当に取る。
「ふむ。これでいいか。ディー、おいで」
「はーい」
椅子に座ると、トコトコ近寄ってきて横にちょこんと座る。
「……なんやほんまに愛らしいなぁ」
八神のそんな呟きが聞こえたが気にしない。
「さて、これは児童書だ。わかるな? これで日本語を勉強していく」
「えーと……なんて読むの、これ?」
「『へいたいさんのうた』」
知る人ぞ知る、というものだったりする。内容は割愛するが。
「うーん……」
「あぁ、知らない文字を見て目を回すディーちゃん可愛いわぁ」
「八神うっせえ」
「酷ぅない?」
酷くない。
それから一時間ほどで平仮名はほぼ完璧に覚えてしまった。
クローン生体というのはすごいねぇ。
「ふむ、そろそろ帰るか」
「なんや、もう帰るん?」
「色々とやる事があるんでな」
嘘だが。
まあ最近はディーとリニスに魔法理論を学んでたりするし、暇というわけでもない。
魔法を扱えるが、感覚によるところが大き過ぎる。ムダが多くて効率が悪い。
「じゃあな、八神」
「ああ、うん。またな、大神くん。ディーちゃんもまたな」
「うん、ばいばい」
ディーのばいばい攻撃に八神が悶えているが、知ったことではない。
そうそうに帰路に着く。
「ん?」
「……魔力反応だね」
道中、あのジュエルシードとやらの魔力反応があった。
歪んだ魔力が範囲的に広がっている。
「どうする?」
「ふむ……」
手を出せ、厄介事だ。
手を引け、厄介事だ。
二つの考えがよぎる。
メリットとデメリットは?
メリット、ディーの関係者に会える。
デメリット、存在がバレる危険性。
どうせ喰える魔力ではないジュエルシード。
だが周囲の魔力なら?
当選者と思われる存在は確認されているだけで四。
内魔力内包は二。
両者観測される魔力量は予測S。
ーー喰うか。
『リニス』
『はい』
考えがまとまったところで、念話でリニスに呼びかける。
リニスは来ることを予想していたようで、特に慌てた様子もない。
『これより俺達はジュエルシード付近に行く。万一危険信号があったら、』
『心得ました』
『うむ。家は頼むぞ』
『気を付けて』
念話を切り、ディーを一目見てから反応がする方向へ向く。
「行くぞ」
〜司書さん
図書館の守護神。静寂と静粛を何よりも愛する女神さま。図書館内で騒ぎ出すとハサミやらナイフやらカッターやらが飛んでくる。
〜へいたいさんのうた
敵地で孤立状態となった日本兵の方々のお話。食べ物がなくて餓死してしまい、以来食べ物を粗末に扱う輩を成敗する。架空の児童書。
〜感覚派魔導師
魔力をこう動かせばこんな感じで魔法が発動するんです。実は理論に基づいた動き方してるんだけど、無意識でやってるため説明できない感覚派。
〜当選者特典
基本的には転生する世界に則った能力とか技術が支給される。悪運の悪さでオーバーテクノロジー的に別世界の能力とか独自の技術とか手に入れることもある。